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5年生 冬休み
ドライブ
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人混みをかき分けて、国道方面に進む。
……とにかく、急いでいる。電車やタクシーでは、絶対に間に合わない!
「大ちゃんさ、アレ、出来る? 映画なんかで、配線を直結して、車のエンジンを無理矢理かけるやつ」
リュックからのコードをベルトに繋ごうとしている大ちゃんに聞いてみる。
「ああ、車種にもよるけど、大体は、できると思うぜー」
さすが大ちゃん。
でも、慣れてそうな感じが、ちょっと怖いぞ。
「人命が掛かってるし緊急事態だ。悪いけど、車を拝借しよう」
傷をつけたり壊したりしたら、お金で解決する。全部、旧札でだけど。
「そういう事なら、これだな。証拠は極力、残さないようにしようぜ」
大ちゃんが、リュックサックの小さいポケットから、人数分の軍手を出して僕と栗っちに渡した。
……本当に慣れてるな、こりゃ。
『タツヤ、ここはどうだろう。建物の中にも、人は居ない』
ブルーが、国道沿いに、まだお正月休みっぽい会社をみつけた。〝アサギ・ニット〟か……聞いたことあるな。
駐車場に停めてある、白い軽自動車に駆け寄る。
防犯カメラとかも無さそうだ。
「これ、借りよう。栗っち、内側から鍵開けて」
「うん、ちょっと待って……えい!」
栗っちが念動力で鍵を外し、運転席のドアを開けると、大ちゃんがハンドルの〝付け根〟辺りを指差す。
「ここ、引剥して。あと……ハンドルロックも掛かっちゃうから、こっちも」
結局、この時点で壊しちゃうんだ。
弁償確定じゃん。
大ちゃんの指示どおり、ベリベリとプラスチックのカバーを剥がしまくる。
「で、オートマだから、シフトロックのワイヤーも……オッケ。あとはマイナスドライバーで回せば」
あっという間にエンジンが掛かった。
へー! 直結してバチバチ火花が散るとか、やらないんだ。
「運転は、経験者の僕に任せて!」
「たっちゃんすごい! さすが26歳!」
「〝もと26歳〟だよ? 一応、同い年だからね?」
なんとなく〝お前だけオッサンだ〟と宣言された気分になる。
『タツヤ、ドンマイ』
よけいに切なくなるから、やめてくれ、ブルー。
僕は運転席に座る。
さて、ここからの問題点は3つ。
1、視界が悪い上に、アクセルペダルが遠い。
2、おまわりさんに見つかったらアウト。
3、僕はペーパードライバーだ。
「栗っち、ユーリたちがどうなってるか見える?」
「えっと……まだ、神社でお参りしてるみたい。ワゴン車は、神社の前の駐車場に居るよ」
大ちゃんが助手席に、栗っちは後部座席に座り、3人ともシートベルトを締めた。
足を伸ばして、アクセルやブレーキを操作する。
視界が悪いが、大ちゃんに指示をしてもらいつつ、国道へ出られた。この調子なら、問題点1は何とかなりそうだ。
「ブルー、栗っちの〝確率操作〟って、効果はどんなもんだろう」
『そうだね。警察官に出会ったり、赤信号で止まったりする確率は、40~50%〝減〟ぐらいじゃないかな』
ちなみに栗っちは、この〝確率操作〟と〝精神感応〟で、ジャンケンの無敗記録を更新中だ。問題点2は、なんとか栗っちに頑張ってもらいたい。
「たっちゃん、あんまり車、運転したこと無いだろ?」
若干、恐る恐る運転する僕に、大ちゃんが気付いたようだ。
「やっぱりわかる? もう、かれこれ2年ほど乗ってないんだ」
その、2年前に借りたレンタカーのドアミラーを電柱に引っ掛けて、粉々にしてしまった事は、内緒にしておこう。
「たっちゃん……?!」
僕の心の声が聞こえちゃったか。
バックミラー越しに、栗っちの不安そうな顔がチラチラ見える。
大丈夫、事故っても僕と栗っちは死なない。
……いけない、大ちゃんがヤバイな。
「大ちゃん、念のため、変身しといてくれない?」
「ああ、そっか、事故ったら俺だけ死んじゃうなー。了解」
たぶん必要ないであろう変身ポーズをとり、ベルトの赤い部分を押し込む。
「……変身!」
無駄にまばゆい光に包まれて、大ちゃんは変身した。
「無敵超人! ダイ・サーク!!」
そうだよね。一応それは言っとかないと。
「わあ! やっぱり近くで見るとスゴイ! かっこいいねえ!!!」
栗っちが満面の笑みで嬉しそうに拍手して騒いでいる。
大ちゃんもまんざらでも無さそうだ。
「大ちゃん。ベルトのオーバーヒートの件は未解決?」
「……」
「大ちゃん?」
「……」
「ダイ・サーク?」
「何だね少年?」
やっぱりか。完全になり切るパターンの人だったんだ大ちゃんって。ちょっと面白いな。
「オーバーヒートの件は大丈夫?」
「うむ。先日は安全装置ごと焼き切れて気絶してしまったが、今回は過熱すると、自動的に制御基盤を排出して変身が解けるように改造してある」
なるほど。
あれ? それは〝気絶しない〟ってだけじゃ……
「アラームが鳴り始めたら、ピンチなので私は逃げるぞ?」
やっぱりオーバーヒートはするのね。アラームを聞き逃さないようにしないと。
……いやそれより。変身すると、一人称が〝私〟になるんだ大ちゃん。
「ダイ・サークさん! 武器はどんなのがあるの? 空は飛べるの?」
完全に〝ヒーローショーで僕と握手〟状態の栗っち。気持ちはわかるんだけど。
「武装は、ダイ・サークキャノン、ダイ・サークブレード、ダイ・サークミサイル等がある。飛行用のパーツは、現在開発中だ」
空も飛べるようになるんだ。ちょっとワクワクしてきた。
あり? もしかして僕も、自然とテンションあがってる?
『タツヤ、ワクワク中すまないが……見えているか。警察の車両だ』
「ええ? どこ?!」
「前方からこちらに近づいて来る。あと14秒ですれ違う」
マズイ! 対向したりしたら、子供二人と小っちゃいヒーローが乗ってるのは、さすがに気づかれるぞ!
「どうした? 少年」
ダイ・サークには、ブルーの声は聞こえていない。
「前からパトカーが来るみたい。どうしよう」
「とにかくスピードを落として。自然な運転で、左に曲がるしかない」
ナイスアドバイス!
パトカーが近づいてくる。次の曲がり角がラストチャンスだ。
「ああ! その道、通行止めだ!」
工事中の表示と、バリケードが見えた。もう駄目だ……
「あ、たっちゃん、大丈夫かも」
栗っちがそう言った途端、パトカーが回転灯を点けてサイレンを鳴らし始めた。
「そこのバイク、左に寄せて停まりなさい」
パトカーは、ヘルメット無しで走っているバイクを、僕達の車とすれ違った辺りで停車させた。こちらには気づいていない。
「うわああああ! 危なかった!」
ちょっと素に戻っているぞ、大ちゃん。
「いやー、今のはさすがに寿命が縮んだ!」
『タツヤ。それは無い』
知ってるよ。そんな気分ってだけだ。
「えへへ。ちょっと〝確率操作〟の感じがわかってきたよ」
「すごい! 栗っちえらい!!」
使いこなせたら、無敵の能力だよな実際。そういえば、信号にもほとんど引っかかっていない。僕は再び、スピードを上げる。
「よし急ごう! 栗っち、今どんな感じ?」
「えっとね、今、小さいおじさんが、ワゴン車から出てきて、ユーリちゃん達に話しかけてる」
「……ピンチだな。栗っち、そのまま見続けられる?」
「ちょっと疲れるけど、がんばる!」
『立派だ。がんばれ! ガズヤ!』
「ありがとう、ブルーさん! あ、ユーリちゃんたち、小さいおじさんを無視して、駅の方に歩いていく」
「おお! 良かった。栗っちのアドバイスが効いてるな」
「なんだ。心配して損したぜ! ……あ、じゃない。何事も無くて、私もひと安心だ」
キャラ作り、大変だな、ダイ・サーク。
「あ、あああ! 危ない! ああああ!!」
急に大きな声で慌てだす栗っち。
「栗っち! 何?! どうしたの!?」
「あ……だめだ……あああ……」
「カズヤ少年! 落ち着け! ちゃんと説明するんだ!」
大ちゃんの あ、違った。ダイ・サークの声に、栗っちが半ベソで答える。
「三人とも、おじさんに変なスプレーをかけられて、そのあと、何かの機械でバチバチってされて……」
催涙スプレーとスタンガン……!!
「あああ……いま、町田さんが、車に乗せられた……連れて行かれちゃうよ!」
……とにかく、急いでいる。電車やタクシーでは、絶対に間に合わない!
「大ちゃんさ、アレ、出来る? 映画なんかで、配線を直結して、車のエンジンを無理矢理かけるやつ」
リュックからのコードをベルトに繋ごうとしている大ちゃんに聞いてみる。
「ああ、車種にもよるけど、大体は、できると思うぜー」
さすが大ちゃん。
でも、慣れてそうな感じが、ちょっと怖いぞ。
「人命が掛かってるし緊急事態だ。悪いけど、車を拝借しよう」
傷をつけたり壊したりしたら、お金で解決する。全部、旧札でだけど。
「そういう事なら、これだな。証拠は極力、残さないようにしようぜ」
大ちゃんが、リュックサックの小さいポケットから、人数分の軍手を出して僕と栗っちに渡した。
……本当に慣れてるな、こりゃ。
『タツヤ、ここはどうだろう。建物の中にも、人は居ない』
ブルーが、国道沿いに、まだお正月休みっぽい会社をみつけた。〝アサギ・ニット〟か……聞いたことあるな。
駐車場に停めてある、白い軽自動車に駆け寄る。
防犯カメラとかも無さそうだ。
「これ、借りよう。栗っち、内側から鍵開けて」
「うん、ちょっと待って……えい!」
栗っちが念動力で鍵を外し、運転席のドアを開けると、大ちゃんがハンドルの〝付け根〟辺りを指差す。
「ここ、引剥して。あと……ハンドルロックも掛かっちゃうから、こっちも」
結局、この時点で壊しちゃうんだ。
弁償確定じゃん。
大ちゃんの指示どおり、ベリベリとプラスチックのカバーを剥がしまくる。
「で、オートマだから、シフトロックのワイヤーも……オッケ。あとはマイナスドライバーで回せば」
あっという間にエンジンが掛かった。
へー! 直結してバチバチ火花が散るとか、やらないんだ。
「運転は、経験者の僕に任せて!」
「たっちゃんすごい! さすが26歳!」
「〝もと26歳〟だよ? 一応、同い年だからね?」
なんとなく〝お前だけオッサンだ〟と宣言された気分になる。
『タツヤ、ドンマイ』
よけいに切なくなるから、やめてくれ、ブルー。
僕は運転席に座る。
さて、ここからの問題点は3つ。
1、視界が悪い上に、アクセルペダルが遠い。
2、おまわりさんに見つかったらアウト。
3、僕はペーパードライバーだ。
「栗っち、ユーリたちがどうなってるか見える?」
「えっと……まだ、神社でお参りしてるみたい。ワゴン車は、神社の前の駐車場に居るよ」
大ちゃんが助手席に、栗っちは後部座席に座り、3人ともシートベルトを締めた。
足を伸ばして、アクセルやブレーキを操作する。
視界が悪いが、大ちゃんに指示をしてもらいつつ、国道へ出られた。この調子なら、問題点1は何とかなりそうだ。
「ブルー、栗っちの〝確率操作〟って、効果はどんなもんだろう」
『そうだね。警察官に出会ったり、赤信号で止まったりする確率は、40~50%〝減〟ぐらいじゃないかな』
ちなみに栗っちは、この〝確率操作〟と〝精神感応〟で、ジャンケンの無敗記録を更新中だ。問題点2は、なんとか栗っちに頑張ってもらいたい。
「たっちゃん、あんまり車、運転したこと無いだろ?」
若干、恐る恐る運転する僕に、大ちゃんが気付いたようだ。
「やっぱりわかる? もう、かれこれ2年ほど乗ってないんだ」
その、2年前に借りたレンタカーのドアミラーを電柱に引っ掛けて、粉々にしてしまった事は、内緒にしておこう。
「たっちゃん……?!」
僕の心の声が聞こえちゃったか。
バックミラー越しに、栗っちの不安そうな顔がチラチラ見える。
大丈夫、事故っても僕と栗っちは死なない。
……いけない、大ちゃんがヤバイな。
「大ちゃん、念のため、変身しといてくれない?」
「ああ、そっか、事故ったら俺だけ死んじゃうなー。了解」
たぶん必要ないであろう変身ポーズをとり、ベルトの赤い部分を押し込む。
「……変身!」
無駄にまばゆい光に包まれて、大ちゃんは変身した。
「無敵超人! ダイ・サーク!!」
そうだよね。一応それは言っとかないと。
「わあ! やっぱり近くで見るとスゴイ! かっこいいねえ!!!」
栗っちが満面の笑みで嬉しそうに拍手して騒いでいる。
大ちゃんもまんざらでも無さそうだ。
「大ちゃん。ベルトのオーバーヒートの件は未解決?」
「……」
「大ちゃん?」
「……」
「ダイ・サーク?」
「何だね少年?」
やっぱりか。完全になり切るパターンの人だったんだ大ちゃんって。ちょっと面白いな。
「オーバーヒートの件は大丈夫?」
「うむ。先日は安全装置ごと焼き切れて気絶してしまったが、今回は過熱すると、自動的に制御基盤を排出して変身が解けるように改造してある」
なるほど。
あれ? それは〝気絶しない〟ってだけじゃ……
「アラームが鳴り始めたら、ピンチなので私は逃げるぞ?」
やっぱりオーバーヒートはするのね。アラームを聞き逃さないようにしないと。
……いやそれより。変身すると、一人称が〝私〟になるんだ大ちゃん。
「ダイ・サークさん! 武器はどんなのがあるの? 空は飛べるの?」
完全に〝ヒーローショーで僕と握手〟状態の栗っち。気持ちはわかるんだけど。
「武装は、ダイ・サークキャノン、ダイ・サークブレード、ダイ・サークミサイル等がある。飛行用のパーツは、現在開発中だ」
空も飛べるようになるんだ。ちょっとワクワクしてきた。
あり? もしかして僕も、自然とテンションあがってる?
『タツヤ、ワクワク中すまないが……見えているか。警察の車両だ』
「ええ? どこ?!」
「前方からこちらに近づいて来る。あと14秒ですれ違う」
マズイ! 対向したりしたら、子供二人と小っちゃいヒーローが乗ってるのは、さすがに気づかれるぞ!
「どうした? 少年」
ダイ・サークには、ブルーの声は聞こえていない。
「前からパトカーが来るみたい。どうしよう」
「とにかくスピードを落として。自然な運転で、左に曲がるしかない」
ナイスアドバイス!
パトカーが近づいてくる。次の曲がり角がラストチャンスだ。
「ああ! その道、通行止めだ!」
工事中の表示と、バリケードが見えた。もう駄目だ……
「あ、たっちゃん、大丈夫かも」
栗っちがそう言った途端、パトカーが回転灯を点けてサイレンを鳴らし始めた。
「そこのバイク、左に寄せて停まりなさい」
パトカーは、ヘルメット無しで走っているバイクを、僕達の車とすれ違った辺りで停車させた。こちらには気づいていない。
「うわああああ! 危なかった!」
ちょっと素に戻っているぞ、大ちゃん。
「いやー、今のはさすがに寿命が縮んだ!」
『タツヤ。それは無い』
知ってるよ。そんな気分ってだけだ。
「えへへ。ちょっと〝確率操作〟の感じがわかってきたよ」
「すごい! 栗っちえらい!!」
使いこなせたら、無敵の能力だよな実際。そういえば、信号にもほとんど引っかかっていない。僕は再び、スピードを上げる。
「よし急ごう! 栗っち、今どんな感じ?」
「えっとね、今、小さいおじさんが、ワゴン車から出てきて、ユーリちゃん達に話しかけてる」
「……ピンチだな。栗っち、そのまま見続けられる?」
「ちょっと疲れるけど、がんばる!」
『立派だ。がんばれ! ガズヤ!』
「ありがとう、ブルーさん! あ、ユーリちゃんたち、小さいおじさんを無視して、駅の方に歩いていく」
「おお! 良かった。栗っちのアドバイスが効いてるな」
「なんだ。心配して損したぜ! ……あ、じゃない。何事も無くて、私もひと安心だ」
キャラ作り、大変だな、ダイ・サーク。
「あ、あああ! 危ない! ああああ!!」
急に大きな声で慌てだす栗っち。
「栗っち! 何?! どうしたの!?」
「あ……だめだ……あああ……」
「カズヤ少年! 落ち着け! ちゃんと説明するんだ!」
大ちゃんの あ、違った。ダイ・サークの声に、栗っちが半ベソで答える。
「三人とも、おじさんに変なスプレーをかけられて、そのあと、何かの機械でバチバチってされて……」
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