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5年生 冬休み明け
マラソン大会 VS 雨男
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日曜日。今日は市内の小学生が集まって、マラソン大会だ。
会場の河川敷を目指して、大ちゃん、栗っちと一緒に歩いている。うちの小学校は開催地という事もあり、毎年、この大会には5・6年生が全員参加だ。
「見事に晴れたなー! 俺としては、たっちゃんの雨男効果に期待したんだけどな!」
確か4年生の時に、急に何かに目覚めた父さんの〝強権発動〟で、無理やりエントリーさせられた事があった。
しかし、大会当日と予備日、どちらも大雨が降って結局中止になり、家族や友人達からは〝達也は雨男〟というレッテルが貼られることとなってしまったんだ。
「えへへ。今日は良いお天気だねー! でも雨男って、楽しみな事とかが無くなちゃったりする人を言うんじゃない?」
「あー、たっちゃんの場合、去年はマラソン大会だけじゃなくて、春と秋の遠足やら、運動会やら、家族旅行やら、ありとあらゆるイベントで豪雨だったからだよな」
そう言えば、あの年は雨が多くて、楽しみだった行事が軒並み、中止か屋内に変更となってしまった。だから、4年生でエントリーしていた唯一の男子である僕だけ、雨男扱いされたんだった。
「でもさー、確かあの時ってユーリも参加申し込みしたよな。なんで僕だけ雨男にされるんだよ、まったく」
「ユーリは……イメージがもう晴女なんだよなー。きっと」
「本当だね。ユーリちゃんって、雨は降らせそうじゃないよね」
確かにそうだな。もしユーリが降らせるなら、熱湯だな。あとは、ミカン果汁とか?
「運営委員だっけユーリ。大変だなー」
ユーリは厳正なる〝あみだくじ〟で、大会の運営委員になってしまい、早朝から準備をしている。
彩歌と妹も、僕達より早く河川敷に行って、ユーリを手伝っているはずだ。
「転入早々あんな事があったのに、彩歌さん、ユーリを手伝いに行ったよ」
どうやら、すっかりマブダチらしい。誰にでも好かれてしまうのはユーリの不思議な所だ。
「そうだねー。あんな事があったのにねー! あんな……事……あ、あん……な……!」
栗っちが、ガクガクと震えだした。目には涙を溜めている。ヤバい、思い出しちゃ駄目だ!
「栗っち、大丈夫! もう終わったんだ、二人とも仲良しだよ!」
「なか……よ……し?」
「そうだよ。友達だ! もう安心だよ?」
「そ……そうだね、二人とも仲良しだよね!」
ふう。なんとか震えが治まった。栗っちはあの時、いったい何を見たんだろう。
「あ、お兄ちゃん。やっと来た! ちょっと手伝ってよ!」
河川敷の入り口に妹が居た。
「るりちゃん、僕も手伝うよ!」
栗っちが妹の持っている赤いロードコーンを受け取り、入り口に並べていく。今日はここから先へ、自動車は入れない。
「ちなみに、この赤いヤツは、三角コーンとか、パイロンとか、色んな呼び名があるよな」
大ちゃんも手伝いつつ、ウンチクを語る。相変わらず博識だ。
「お兄ちゃんは、なんで手伝わないのかな?」
いや、手伝ってるだろう。お前こそ、栗っちに抱きつくのをやめて仕事しろ。
「やー! たっちゃん! おはよー!」
「達也さん、おはよう!」
ユーリと彩歌もやって来た。ロードコーンにゴム製の重りを取り付け始める。
「あれ? 鏡華と日奈美は?」
いつも一緒に居る、あの2人の姿が無いな。
「鏡ちゃん、生徒会の方の用事で、学校とこっちと、行ったり来たりしててさー」
ああ。鏡華は生徒会の副会長だったな。日奈美もそっちの手伝いか。そりゃ大変だ。
「友里さん、この黄色と黒の棒はどうするの?」
「ああ、それはこの三角帽子に、こうして、こうっと」
両端に輪っかの付いた、黄色と黒のトラ柄の棒を、ロードコーン2本に取り付けて、バリケードのようにする。
「ああ、なるほどー! そうなるんだ!」
「やー! アヤちゃん、もしかしてこれ、初めて見たのー?」
2人とも、楽しそうに準備をしている。なんだかホッとしたな。
「ユーリさん、それじゃ向きが反対よ?」
「あはは! 失敗失敗!」
〝進入禁止〟と書いた張り紙をバリケードに貼り付けて、準備は完了した。
>>>
「……えー、であるからして、今日は怪我の無いよう頑張って下さい」
ウチの校長先生の長い話が終わり、いよいよマラソン大会が始まる。他の学校の小学生達は、全員合わせてやっとウチの1クラス分ほどの人数だ。自由参加なのに、この寒い中よく走る気になるよな。
「よーし! それじゃ各自、ストレッチしとけよー」
谷口先生の号令で、準備体操を始めてしばらくすると、雨が降り出した。
「あー! たっちゃーん!」
「いやいや大ちゃん。僕、雨男じゃないからね?」
「あれ? 晴れてるのにおかしいね?」
栗っちが空を見上げて不思議そうに言う。
「天気雨だな。狐の嫁入りとも言うぜー」
あ、なんかそれは聞いた事あるな。
『達也さん、ちょっと変よ?』
彩歌の声だ。天気雨に驚いたのかな? あ、もしかして魔界には雨がないとか。
『ああ、彩歌さん、大丈夫。これは狐の嫁入り……』
『違うの。そうじゃなくて、私の特記事項に……』
『タツヤ、アヤカの〝病毒無効〟が発動した。この雨、普通じゃないぞ』
その瞬間、周囲でバタバタと人が倒れ始める。先生も生徒も、散歩中の犬と飼い主も。
「たっちゃん……すごく……眠い……」
栗っちも蹲った。すうすうと寝息を立てている。
「俺もダメだ。この匂い……多分……薬品……」
大ちゃんも、アキレス腱を伸ばしている体勢で、真横に倒れてしまった。
「ブルー! これ、どうなってるんだ?」
大ちゃんと栗っちを仰向けに寝かせながら叫ぶ。
『わからない。ただ命に別状はない。全員、眠っているみたいだね』
『達也さん、女子も皆、寝ちゃったわ』
グラウンドに立っているのは、僕と彩歌だけになってしまった。真冬に屋外だ。急いでなんとかしないと命に関わるぞ。
「何なんだこの雨! というか大ちゃん、薬品って言ってたな……」
不意に、今朝ユーリと彩歌が作ったバリケードを派手に突き破って、真っ黒なワゴン車が登場した。
「なんとなく、あの車から、黒スーツと怪人が出てきそうな気がするな……」
『タツヤ、私もそう思う。電車の時のように、人ではない何かが10と、犬か猫サイズの生物が1だ』
明らかに定員オーバーだろ、あの車。
『怪人!? もしかして黒スーツって戦闘員の皆さん?!』
なぜ〝皆さん〟って付けたんだ彩歌……やけに嬉しそうなのは気のせいか?
車は少し離れたところで停車した。
「ほらね、やっぱりそうだ」
車から黒スーツの男達がワラワラと出て来る。間違いなく〝ダーク・ソサイエティ〟だ。
会場の河川敷を目指して、大ちゃん、栗っちと一緒に歩いている。うちの小学校は開催地という事もあり、毎年、この大会には5・6年生が全員参加だ。
「見事に晴れたなー! 俺としては、たっちゃんの雨男効果に期待したんだけどな!」
確か4年生の時に、急に何かに目覚めた父さんの〝強権発動〟で、無理やりエントリーさせられた事があった。
しかし、大会当日と予備日、どちらも大雨が降って結局中止になり、家族や友人達からは〝達也は雨男〟というレッテルが貼られることとなってしまったんだ。
「えへへ。今日は良いお天気だねー! でも雨男って、楽しみな事とかが無くなちゃったりする人を言うんじゃない?」
「あー、たっちゃんの場合、去年はマラソン大会だけじゃなくて、春と秋の遠足やら、運動会やら、家族旅行やら、ありとあらゆるイベントで豪雨だったからだよな」
そう言えば、あの年は雨が多くて、楽しみだった行事が軒並み、中止か屋内に変更となってしまった。だから、4年生でエントリーしていた唯一の男子である僕だけ、雨男扱いされたんだった。
「でもさー、確かあの時ってユーリも参加申し込みしたよな。なんで僕だけ雨男にされるんだよ、まったく」
「ユーリは……イメージがもう晴女なんだよなー。きっと」
「本当だね。ユーリちゃんって、雨は降らせそうじゃないよね」
確かにそうだな。もしユーリが降らせるなら、熱湯だな。あとは、ミカン果汁とか?
「運営委員だっけユーリ。大変だなー」
ユーリは厳正なる〝あみだくじ〟で、大会の運営委員になってしまい、早朝から準備をしている。
彩歌と妹も、僕達より早く河川敷に行って、ユーリを手伝っているはずだ。
「転入早々あんな事があったのに、彩歌さん、ユーリを手伝いに行ったよ」
どうやら、すっかりマブダチらしい。誰にでも好かれてしまうのはユーリの不思議な所だ。
「そうだねー。あんな事があったのにねー! あんな……事……あ、あん……な……!」
栗っちが、ガクガクと震えだした。目には涙を溜めている。ヤバい、思い出しちゃ駄目だ!
「栗っち、大丈夫! もう終わったんだ、二人とも仲良しだよ!」
「なか……よ……し?」
「そうだよ。友達だ! もう安心だよ?」
「そ……そうだね、二人とも仲良しだよね!」
ふう。なんとか震えが治まった。栗っちはあの時、いったい何を見たんだろう。
「あ、お兄ちゃん。やっと来た! ちょっと手伝ってよ!」
河川敷の入り口に妹が居た。
「るりちゃん、僕も手伝うよ!」
栗っちが妹の持っている赤いロードコーンを受け取り、入り口に並べていく。今日はここから先へ、自動車は入れない。
「ちなみに、この赤いヤツは、三角コーンとか、パイロンとか、色んな呼び名があるよな」
大ちゃんも手伝いつつ、ウンチクを語る。相変わらず博識だ。
「お兄ちゃんは、なんで手伝わないのかな?」
いや、手伝ってるだろう。お前こそ、栗っちに抱きつくのをやめて仕事しろ。
「やー! たっちゃん! おはよー!」
「達也さん、おはよう!」
ユーリと彩歌もやって来た。ロードコーンにゴム製の重りを取り付け始める。
「あれ? 鏡華と日奈美は?」
いつも一緒に居る、あの2人の姿が無いな。
「鏡ちゃん、生徒会の方の用事で、学校とこっちと、行ったり来たりしててさー」
ああ。鏡華は生徒会の副会長だったな。日奈美もそっちの手伝いか。そりゃ大変だ。
「友里さん、この黄色と黒の棒はどうするの?」
「ああ、それはこの三角帽子に、こうして、こうっと」
両端に輪っかの付いた、黄色と黒のトラ柄の棒を、ロードコーン2本に取り付けて、バリケードのようにする。
「ああ、なるほどー! そうなるんだ!」
「やー! アヤちゃん、もしかしてこれ、初めて見たのー?」
2人とも、楽しそうに準備をしている。なんだかホッとしたな。
「ユーリさん、それじゃ向きが反対よ?」
「あはは! 失敗失敗!」
〝進入禁止〟と書いた張り紙をバリケードに貼り付けて、準備は完了した。
>>>
「……えー、であるからして、今日は怪我の無いよう頑張って下さい」
ウチの校長先生の長い話が終わり、いよいよマラソン大会が始まる。他の学校の小学生達は、全員合わせてやっとウチの1クラス分ほどの人数だ。自由参加なのに、この寒い中よく走る気になるよな。
「よーし! それじゃ各自、ストレッチしとけよー」
谷口先生の号令で、準備体操を始めてしばらくすると、雨が降り出した。
「あー! たっちゃーん!」
「いやいや大ちゃん。僕、雨男じゃないからね?」
「あれ? 晴れてるのにおかしいね?」
栗っちが空を見上げて不思議そうに言う。
「天気雨だな。狐の嫁入りとも言うぜー」
あ、なんかそれは聞いた事あるな。
『達也さん、ちょっと変よ?』
彩歌の声だ。天気雨に驚いたのかな? あ、もしかして魔界には雨がないとか。
『ああ、彩歌さん、大丈夫。これは狐の嫁入り……』
『違うの。そうじゃなくて、私の特記事項に……』
『タツヤ、アヤカの〝病毒無効〟が発動した。この雨、普通じゃないぞ』
その瞬間、周囲でバタバタと人が倒れ始める。先生も生徒も、散歩中の犬と飼い主も。
「たっちゃん……すごく……眠い……」
栗っちも蹲った。すうすうと寝息を立てている。
「俺もダメだ。この匂い……多分……薬品……」
大ちゃんも、アキレス腱を伸ばしている体勢で、真横に倒れてしまった。
「ブルー! これ、どうなってるんだ?」
大ちゃんと栗っちを仰向けに寝かせながら叫ぶ。
『わからない。ただ命に別状はない。全員、眠っているみたいだね』
『達也さん、女子も皆、寝ちゃったわ』
グラウンドに立っているのは、僕と彩歌だけになってしまった。真冬に屋外だ。急いでなんとかしないと命に関わるぞ。
「何なんだこの雨! というか大ちゃん、薬品って言ってたな……」
不意に、今朝ユーリと彩歌が作ったバリケードを派手に突き破って、真っ黒なワゴン車が登場した。
「なんとなく、あの車から、黒スーツと怪人が出てきそうな気がするな……」
『タツヤ、私もそう思う。電車の時のように、人ではない何かが10と、犬か猫サイズの生物が1だ』
明らかに定員オーバーだろ、あの車。
『怪人!? もしかして黒スーツって戦闘員の皆さん?!』
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