プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
128 / 264
5年生 3学期 2月

隠れた名店

しおりを挟む
「ほう。この子の身分証ねぇ……?」

 め回すようにジロジロと僕を見る老人。
 この店の店主のようだ。

「大至急必要なのよ。お願い!」

 彩歌あやかに案内されて訪れたのは、人通りの少ない路地裏の雑貨屋。
 店内は物であふれ、いだ事のない、不思議な匂いが充満していた。

「彩歌ちゃんの頼みだ。断るわけにはいかんが、何せ急じゃからな。3日は待って貰わないと……」

「そんな……!」

 み、3日?! それはちょっと時間が掛かり過ぎだ。
 ……身分証を用意するのって、そんなに難しいものなのか?

「悪いが、ちょっと大きな先約があってな。そっちも随分ずいぶんせっつかれておる」

「そこを何とか……! お金は多めに支払うから!」

 食い下がる彩歌。でもさ、先約があるなら、仕方ないよ。
 そう言ってなだめようと、僕が彩歌の肩に手を置いた瞬間……

「爺さん! 居るかい?」

 入り口の扉が勢いよく開き、露出が多めの鎧を着た女性が入ってきた。
 それにしても大きな声だな。

「おお、お前か。待たせてすまんな。大体、難しい所は終わったぞ。弟子に残りの封印を解かせている所じゃ」

 申し訳なさそうに答える店主。

「順調なら良いんだ。無理言って悪りぃね!」

「いやなに。アレは大っぴらには扱えんからのう。なんとか期日は守れそうじゃが……お前さんら、すまんがちょっと待ってておくれ、すぐに戻るからの」

 店主は僕と彩歌にそう告げて、店の奥へと消えた。

「おっと、すまないな……あんたらが先客だったんじゃないのか?」

 こちらを見て、ちょっと気まずそうにする女性。この人も、何かヤバい仕事を頼んでいるのかな。
 だとしたら、お互いあまり関わり合わない方が良いだろう。

「……え! エーコ? あなた、帰って来てたの?!」

 突然、彩歌が叫んだ。なんだ、知り合いか?
 ……いや? なんか相手の女性は〝誰よアンタ〟って顔してるぞ。

「えっと、ごめんお嬢ちゃん。私あんたの事、知らないんだけど……?」

 人違いかな?
 あるある。僕なんか、デパ地下で父さんと間違えて、知らない人の腕を引っぱりながら、ソフトクリームを強請ねだったことがあるぞ。

「エーコ、私よ、彩歌よ!」

 彩歌の言葉に、目をパチクリさせる女性。直後に、悲鳴のような声で叫ぶ。

「……アヤ?! え、ちょっと! あんたどうしたの! なんで子ども?!」

 って、やっぱ知り合いかよ!
 あ、そうか、彩歌が弱体化されたのを知らなかったんだな。

「……悪魔に、ちょっとね」

 苦笑いに近い笑顔で返す彩歌。

「弱体魔法か?! 〝時間系〟って、最上級魔法だよな! あんた、よく生きて戻れたね!」

「うん、私もそう思うわ。あんな上級悪魔を相手にして、無事でいられたなんて奇跡ね」

 今の彩歌なら、あんな奴には絶対に負けないけどな。

「そういうエーコも、無事で良かったわ! まさか南の大砦おおとりでの向こうに行くなんて……あれからもう5年くらい?」

「ああ。大変な目にも遭ったけど、目当ての物も手に入れたし、かなり腕も上げたんだぞ!」

 そう言って、ちからこぶを作る。この人は〝魔道士〟って感じじゃないな。

「……あ、達也さん、この子、大川英子おおかわえいこ。私の幼馴染おさななじみで、小さい頃から、ずっと一緒の学校だったのよ」

 なるほど、という事は、このお姉さんは彩歌や僕と同い年か。

「つまり26さ……」

 ……なんで睨んでるんだ彩歌? ここには僕と友達しか居ないんだから、別にいいだろう。
 あ、いえ。なんでも無いです。

「はじめまして、大川さん。内海達也うつみたつやです」

「はじめまして、達也くん。私の事はエーコって呼んで! 私はアヤと違って体育会系でね。見ての通り、魔法剣士まほうけんしなんだ」

 いや、見ての通りって、分かんないんだけど。
 しかし魔法剣士なんて居るのか! カッコイイなあ。ファンタジー万歳!

「……っていうか、ボーイフレンド? アヤも隅に置けないなぁ!」

「え? あ、その……」

 からかうような口調のエーコの言葉に、上手く返せずに顔が赤くなる彩歌。
 ……途端とたんあわて出すエーコ。

「ええ? 何? ホントにそういう子?!」

 そりゃ、26歳の幼馴染が、小学生の彼氏を連れてたら驚くよな。
 まあ、小学生なのは見た目だけだけど。

「あう……達也さん、ブルー、ごめんなさい。この子は絶対に、敵ではないし、他言もしないから、ちゃんと説明させて! 誤解されたままは困る……」

 真っ赤な顔のまま、必死で手を合わせる彩歌。
 わかるよ。ショタコン認定されるかどうかの瀬戸際だ。

『私は構わないよ。アヤカを信じよう』

「もちろん、僕もOKだ。彩歌さんの親友には、偽り無くきちんと紹介して欲しいもんな」

「ふたりとも、ありがとう! ……えっと、エーコ、これから話す事は、絶対誰にも言わないで欲しいの……」

 ブルーと僕の許可をもらって、満面の笑みを浮かべた後、エーコに説明を始める彩歌。

「なになに? どうしたんだ、改まって……」

「えっと、順番に話すから落ち着いて聞いてね。達也さんは、15年後の未来から、〝アガルタ〟を……地球を救うために、やって来たの」

「えっと、僕は26歳から11歳に、記憶を残したまま巻き戻ったんだ。だからこう見えて、キミ達とは同い年だ」

 エーコは、いぶかしげな表情を浮かべる。まあ、突飛とっぴ過ぎる話だから仕方ないけど……

「で、達也さんは、地球と同じ強さを持っていて、不老不死なのよ。それに凄く強いの。実は、私を弱体化した悪魔も、達也さんがやっつけたのよ」

 さらに表情を強ばらせるエーコ。……これは信じてもらえていないな。たぶん。

「私その時、悪魔に心臓を潰されたんだけど、地球の化身、〝ブルー〟の欠片を使って……」

「ちょっと待った! ストップ! ……アヤ、大丈夫? それって本気で言ってるのか?」

 ほら、やっぱ突飛とっぴすぎるんだって……

「もちろん正気よ……え? まさかエーコ、私の言う事、疑ってるの?」

 疑うも何も、信じられる要素が欠け過ぎているからなあ……

「アヤが、そんな嘘をつくとは思えないけどな。もしかして、幻術とか催眠術とかで、おかしな事になってるんじゃないかと思ってね」

 不敵な笑みを浮かべて、僕の方を見るエーコ。

「達也くん……? あなた彩歌に、何かしたんじゃないか?」

 え? そっか、こっちに来たか。彩歌は信頼されてるんだな。

「エーコさん。突拍子もない話で、信じてもらえないかもしれないけど、本当なんだ」

「エーコ、私は正常よ。置かれている状況はちょっと異常かもしれないけど……」

「アヤ、不老不死とか、地球がどうこうとか、そんなはずが無いだろ?」

 そうだな。いくらここが魔界で、エーコがビキニアーマーでも、さすがに〝不老不死〟は無いよな。この分だと、もしかしたら……

「……その子、本当に人間? 悪魔が化けているとかじゃないよな?」

 あちゃー! やっぱり疑われた!
 さてどうしよう……僕が悪魔でない証拠か。そう考えると、ちょっと難しいよな。悪魔とか魔法がアリなら、大体どんな疑い方でも出来てしまう。

「エーコ! お願い、信じて! 私と達也さんは……」

 と彩歌が言い掛けた時、突然、ドーン! という大きな音がして、店の奥から、生暖かい風が流れて来た。

「何だ? 何が起こったんだ?!」

 たまに、大ちゃんの部屋からも、似たような音が聞こえて来る事があるけど、まさかこの奥で、発明品が爆発したとかじゃないよな。

「おいおい、まさか……?! マズいぞ!」

 青ざめるエーコ。なにか心当たりがあるのか?

「エーコ、今のが何か、知ってるの?」

「あの音……まず間違いなく、私の依頼絡みだ。まさか爺さんが、しくじるとは思わなかった」

 エーコは強張こわばった表情で続ける。

「私はこの店に、精霊の入った宝玉を預けていたんだ。正しく開放して、契約するために」

「ちょっとエーコ! 城塞都市に精霊や魔物を持ち込んだら!」

「参った。爺さん、封印を解くの、失敗したんだろうな……バレたら速攻、地下牢行きだ」

 ボリボリと頭を掻くエーコ。
 え? ちょっと待って! それってもしかして僕たちも?!

 
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...