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5年生 3学期 3月
シゴセン
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城塞都市を出て、まる2日。
山を超え谷を渡り、様々な魔物に襲われては撃退しつつ、西へ西へと進む。
暗くなればテントを張り、その周囲に〝結界〟を張って寝る。
……僕以外は。
「ボウズ、お前、本当に寝なくて平気なんだな」
遠藤翔が、眠そうに言う。
「アンタ、ほんとに何者……」
と言いかけた辻村富美が、なにやら急にあわて始めた。
「あわわわ? ちがうし! いや全然ちがうし! マジ興味ないし!」
「うわっ! お、俺も何も聞いてないぜ? 徹夜で見張り、ご苦労さんだなーって!」
それを聞いた遠藤も、引きつった表情と声で言う。
「君たちは、無理について来なくていいんだぞ? だいたい〝断罪の丘〟は城塞都市の西北西だ。とっくに通り過ぎてるじゃないか」
この2人は、当初の目的地である〝断罪の丘〟へは向かわず、僕たちと〝西の大砦〟を目指している。
エーコが現れたから、シドロモドロになったんだな。
この2人は、僕の事を〝城塞都市のトップシークレット〟だと思い込んでいるので、色々と聞かれずに済んで助かる。
「いやいやいや! あの娘の事を聞かされたらさー! ジーンと来ちまってよ!」
「私らも手伝うし! お父さんに会わせてやりたいじゃん!」
……基本的に、優しい奴らなんだよな。
頭に浮かんだ事を、何も考えず口に出しちゃうだけで。
「ここから先、君たちは、自分で自分の身を守ることだけを考えたほうが良い。そろそろ〝死後線〟を超えるからな」
誤字じゃないぞ。魔界には〝子午線〟ならぬ〝死後線〟という物があるらしい。
城塞都市と大砦の、ちょうど中間地点。ここを超えると、探検者の生還率が桁違いに下がるという。
……つまり、ここから先は、死後の世界という訳か。
「おはようございます! いやー、内海さんが見張っていてくれるので、安心して眠れますよ!」
織田啓太郎さん。
彼は僕たちと同じく〝落日と轟雷の塔〟を目指している。
そして、その経由地が〝西の大砦〟だ。
「達也さん、おはよう!」
「おはようございます、皆さん」
彩歌と一緒にテントから出てきたのは、鈴木紗和さん。〝西の大砦〟は、彼女の目指す場所でもある。
「おはようございます」
……と、返した僕の声に、なんとなく違和感があるようで、変な間とともにツッコみが返って来た。
「お前、やっぱり風邪とかひいてないか? 声の感じ、変だぞ?」
「寝たほうがイイし! 見張りとか任せろし!」
バカップルが、そろって心配そうに言う。
……ホント、基本的に優しいんだよな。誤解してたよ、ゴメンな?
「ふふ。達也さん、そこまで声が出せるなんて、逆にスゴイわ」
事情を知っている彩歌はニコニコと笑っている。
それというのも、実は今、僕は声を……
『タツヤ。多数の生物だ。恐らく魔物だろう……囲まれたぞ』
おっと。朝まで待ってくれるなんて、律儀な魔物だな……まあ、偶然だろうけど。
「みんな、魔物が来る! 戦闘準備を!」
「……相変わらずスゴイ感知能力だな、達也くん」
「いえいえ。魔法で隠れているヤツとかは見つけられないので、あんまり当てにしないで? エーコさん」
僕は杖に〝接触弱体〟を掛けてから目一杯まで伸ばし、構えた。
……襲ってきたのは蜘蛛のような魔物。ご想像の通り、デカイ!
「うっわ、ちょっとイヤだ!」
「達也さん、あいつは〝蜘蛛〟と呼ばれているわ」
先日から遭遇する魔物達は、全部〝まんまだな!〟というネーミングだった。シマウマみたいな奴だけ〝縞〟だったから、ツッコミは〝そっちかよ!〟だったけど。
「アイツの糸は、なかなかの量と粘度よ? 一応気を付けてね」
「お? 待ってました! ファンタジー世界の蜘蛛はそうでなくちゃ。どれどれ……」
『タツヤ、蜘蛛はチョコレート味だと聞くぞ?』
食べねぇよ!
いや……でもなぜか、ファンタジー物って〝蜘蛛を食べて能力を奪う〟パターンが多いよな。ここは僕も、やっとかなきゃいけないのか?
『どうしてもと言うなら〝光合成〟で能力を奪えるが、キミの思考が蜘蛛寄りになる』
嫌過ぎだ! さっさと片付けて先に進むぞ!
>>>
さらに半日ほど西に進むと、道沿いに、高さ2メートルぐらいの石碑が置かれていた。
「石碑に文字が書かれているな……なんて書いてあるんだろう?」
「〝ひきかえせ、おまえのいのち、ひとつだけ〟よ?」
よく見ると、確かに日本語だ。これって道路沿いにある、交通安全川柳みたいなヤツか!
「達筆なだけかよ! なんで日本語なんだよ!」
「公用語が日本語だからよ? 達也さん」
そうなんだけどさ。折角のファンタジー感が台無しなんだよな。
ここ数日使っているテントにも〝男性用〟とか〝女性用〟とか書いてあるし……!
『ほう? 同じテントで寝たいと言うのか。タツヤは本当にアレだな』
『僕はアレじゃないし! あと、寝ないし! テント使わないし!』
「なにやってるし! さっさと行くし!」
……なんかタイミングよく、辻村と口調が合ってしまって語呂が良くなったし! やめろし!
「おいおい、緊張感がないな……ここからだぞ?」
エーコがあきれたように言う。ああ、そうか。この石碑が〝死後線〟の目印か……
「うお! ここがそうなのか?!」
若干、後退りする遠藤。
そして織田さんも険しい表情だ。
ここから先は、さらに過酷な状況が休む間もなく襲い来る、魔界の深部。全員の緊張が高まる。……僕は死なないけど、誰も死なせないために、気を引き締めていこう。
「という事は大砦までやっと半分か。広いな、魔界!」
『タツヤ、そろそろ大きな休憩を取っても良いかもしれない。この先の、ちょうど日が暮れそうな地点に、洞窟風の地下室を作っておくよ?』
『さすがブルー! 本当に気が利くなあ!』
洞窟風という事は、偶然見つけたっぽくすれば、怪しまれず安全に休憩できるな。なんて快適な冒険なんだ。
『ええっ?! もしかしてそこには……!』
『もちろん、天然の温泉を装った浴場も作る予定だよ、アヤカ』
『すごいすごい! ブルーありがとう!!』
ピョンと跳ねて喜ぶ彩歌。直後に、みんなの視線に気づいて、準備運動に見せかけて誤魔化す。
『さ、さあ! 気合を入れて行くわよー!』
たまに天然だよな、彩歌。そこがまた、かわいいんだけど。
山を超え谷を渡り、様々な魔物に襲われては撃退しつつ、西へ西へと進む。
暗くなればテントを張り、その周囲に〝結界〟を張って寝る。
……僕以外は。
「ボウズ、お前、本当に寝なくて平気なんだな」
遠藤翔が、眠そうに言う。
「アンタ、ほんとに何者……」
と言いかけた辻村富美が、なにやら急にあわて始めた。
「あわわわ? ちがうし! いや全然ちがうし! マジ興味ないし!」
「うわっ! お、俺も何も聞いてないぜ? 徹夜で見張り、ご苦労さんだなーって!」
それを聞いた遠藤も、引きつった表情と声で言う。
「君たちは、無理について来なくていいんだぞ? だいたい〝断罪の丘〟は城塞都市の西北西だ。とっくに通り過ぎてるじゃないか」
この2人は、当初の目的地である〝断罪の丘〟へは向かわず、僕たちと〝西の大砦〟を目指している。
エーコが現れたから、シドロモドロになったんだな。
この2人は、僕の事を〝城塞都市のトップシークレット〟だと思い込んでいるので、色々と聞かれずに済んで助かる。
「いやいやいや! あの娘の事を聞かされたらさー! ジーンと来ちまってよ!」
「私らも手伝うし! お父さんに会わせてやりたいじゃん!」
……基本的に、優しい奴らなんだよな。
頭に浮かんだ事を、何も考えず口に出しちゃうだけで。
「ここから先、君たちは、自分で自分の身を守ることだけを考えたほうが良い。そろそろ〝死後線〟を超えるからな」
誤字じゃないぞ。魔界には〝子午線〟ならぬ〝死後線〟という物があるらしい。
城塞都市と大砦の、ちょうど中間地点。ここを超えると、探検者の生還率が桁違いに下がるという。
……つまり、ここから先は、死後の世界という訳か。
「おはようございます! いやー、内海さんが見張っていてくれるので、安心して眠れますよ!」
織田啓太郎さん。
彼は僕たちと同じく〝落日と轟雷の塔〟を目指している。
そして、その経由地が〝西の大砦〟だ。
「達也さん、おはよう!」
「おはようございます、皆さん」
彩歌と一緒にテントから出てきたのは、鈴木紗和さん。〝西の大砦〟は、彼女の目指す場所でもある。
「おはようございます」
……と、返した僕の声に、なんとなく違和感があるようで、変な間とともにツッコみが返って来た。
「お前、やっぱり風邪とかひいてないか? 声の感じ、変だぞ?」
「寝たほうがイイし! 見張りとか任せろし!」
バカップルが、そろって心配そうに言う。
……ホント、基本的に優しいんだよな。誤解してたよ、ゴメンな?
「ふふ。達也さん、そこまで声が出せるなんて、逆にスゴイわ」
事情を知っている彩歌はニコニコと笑っている。
それというのも、実は今、僕は声を……
『タツヤ。多数の生物だ。恐らく魔物だろう……囲まれたぞ』
おっと。朝まで待ってくれるなんて、律儀な魔物だな……まあ、偶然だろうけど。
「みんな、魔物が来る! 戦闘準備を!」
「……相変わらずスゴイ感知能力だな、達也くん」
「いえいえ。魔法で隠れているヤツとかは見つけられないので、あんまり当てにしないで? エーコさん」
僕は杖に〝接触弱体〟を掛けてから目一杯まで伸ばし、構えた。
……襲ってきたのは蜘蛛のような魔物。ご想像の通り、デカイ!
「うっわ、ちょっとイヤだ!」
「達也さん、あいつは〝蜘蛛〟と呼ばれているわ」
先日から遭遇する魔物達は、全部〝まんまだな!〟というネーミングだった。シマウマみたいな奴だけ〝縞〟だったから、ツッコミは〝そっちかよ!〟だったけど。
「アイツの糸は、なかなかの量と粘度よ? 一応気を付けてね」
「お? 待ってました! ファンタジー世界の蜘蛛はそうでなくちゃ。どれどれ……」
『タツヤ、蜘蛛はチョコレート味だと聞くぞ?』
食べねぇよ!
いや……でもなぜか、ファンタジー物って〝蜘蛛を食べて能力を奪う〟パターンが多いよな。ここは僕も、やっとかなきゃいけないのか?
『どうしてもと言うなら〝光合成〟で能力を奪えるが、キミの思考が蜘蛛寄りになる』
嫌過ぎだ! さっさと片付けて先に進むぞ!
>>>
さらに半日ほど西に進むと、道沿いに、高さ2メートルぐらいの石碑が置かれていた。
「石碑に文字が書かれているな……なんて書いてあるんだろう?」
「〝ひきかえせ、おまえのいのち、ひとつだけ〟よ?」
よく見ると、確かに日本語だ。これって道路沿いにある、交通安全川柳みたいなヤツか!
「達筆なだけかよ! なんで日本語なんだよ!」
「公用語が日本語だからよ? 達也さん」
そうなんだけどさ。折角のファンタジー感が台無しなんだよな。
ここ数日使っているテントにも〝男性用〟とか〝女性用〟とか書いてあるし……!
『ほう? 同じテントで寝たいと言うのか。タツヤは本当にアレだな』
『僕はアレじゃないし! あと、寝ないし! テント使わないし!』
「なにやってるし! さっさと行くし!」
……なんかタイミングよく、辻村と口調が合ってしまって語呂が良くなったし! やめろし!
「おいおい、緊張感がないな……ここからだぞ?」
エーコがあきれたように言う。ああ、そうか。この石碑が〝死後線〟の目印か……
「うお! ここがそうなのか?!」
若干、後退りする遠藤。
そして織田さんも険しい表情だ。
ここから先は、さらに過酷な状況が休む間もなく襲い来る、魔界の深部。全員の緊張が高まる。……僕は死なないけど、誰も死なせないために、気を引き締めていこう。
「という事は大砦までやっと半分か。広いな、魔界!」
『タツヤ、そろそろ大きな休憩を取っても良いかもしれない。この先の、ちょうど日が暮れそうな地点に、洞窟風の地下室を作っておくよ?』
『さすがブルー! 本当に気が利くなあ!』
洞窟風という事は、偶然見つけたっぽくすれば、怪しまれず安全に休憩できるな。なんて快適な冒険なんだ。
『ええっ?! もしかしてそこには……!』
『もちろん、天然の温泉を装った浴場も作る予定だよ、アヤカ』
『すごいすごい! ブルーありがとう!!』
ピョンと跳ねて喜ぶ彩歌。直後に、みんなの視線に気づいて、準備運動に見せかけて誤魔化す。
『さ、さあ! 気合を入れて行くわよー!』
たまに天然だよな、彩歌。そこがまた、かわいいんだけど。
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