プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
156 / 264
5年生 3学期 3月

シゴセン

しおりを挟む
 城塞都市を出て、まる2日。
 山を超え谷を渡り、様々な魔物に襲われては撃退しつつ、西へ西へと進む。
 暗くなればテントを張り、その周囲に〝結界〟を張って寝る。
 ……僕以外は。

「ボウズ、お前、本当に寝なくて平気なんだな」

 遠藤翔えんどうかけるが、眠そうに言う。

「アンタ、ほんとに何者……」

 と言いかけた辻村富美つじむらふみが、なにやら急にあわて始めた。

「あわわわ? ちがうし! いや全然ちがうし! マジ興味ないし!」

「うわっ! お、俺も何も聞いてないぜ? 徹夜で見張り、ご苦労さんだなーって!」

 それを聞いた遠藤も、引きつった表情と声で言う。

「君たちは、無理について来なくていいんだぞ? だいたい〝断罪の丘〟は城塞都市の西北西せいほくせいだ。とっくに通り過ぎてるじゃないか」

 この2人は、当初の目的地である〝断罪の丘〟へは向かわず、僕たちと〝西の大砦おおとりで〟を目指している。
 エーコが現れたから、シドロモドロになったんだな。
 この2人は、僕の事を〝城塞都市のトップシークレット〟だと思い込んでいるので、色々と聞かれずに済んで助かる。

「いやいやいや! あのの事を聞かされたらさー! ジーンと来ちまってよ!」

あっしらも手伝うし! お父さんに会わせてやりたいじゃん!」

 ……基本的に、優しい奴らなんだよな。
 頭に浮かんだ事を、何も考えず口に出しちゃうだけで。

「ここから先、君たちは、自分で自分の身を守ることだけを考えたほうが良い。そろそろ〝死後線しごせん〟を超えるからな」

 誤字じゃないぞ。魔界には〝子午線しごせん〟ならぬ〝死後線しごせん〟という物があるらしい。
 城塞都市と大砦の、ちょうど中間地点。ここを超えると、探検者の生還率が桁違いに下がるという。
 ……つまり、ここから先は、死後の世界という訳か。

「おはようございます! いやー、内海さんが見張っていてくれるので、安心して眠れますよ!」

 織田啓太郎おだけいたろうさん。
 彼は僕たちと同じく〝落日らくじつ轟雷ごうらいの塔〟を目指している。
 そして、その経由地が〝西の大砦〟だ。

「達也さん、おはよう!」

「おはようございます、皆さん」

 彩歌あやかと一緒にテントから出てきたのは、鈴木紗和すずきさわさん。〝西の大砦〟は、彼女の目指す場所でもある。

「おはようございます」

 ……と、返した僕の声に、なんとなく違和感があるようで、変な間とともにツッコみが返って来た。

「お前、やっぱり風邪とかひいてないか? 声の感じ、変だぞ?」

「寝たほうがイイし! 見張りとか任せろし!」

 バカップルが、そろって心配そうに言う。
 ……ホント、基本的に優しいんだよな。誤解してたよ、ゴメンな?

「ふふ。達也さん、そこまで声が出せるなんて、逆にスゴイわ」

 事情を知っている彩歌はニコニコと笑っている。
 それというのも、実は今、僕は声を……

『タツヤ。多数の生物だ。恐らく魔物だろう……囲まれたぞ』

 おっと。朝まで待ってくれるなんて、律儀な魔物だな……まあ、偶然だろうけど。

「みんな、魔物が来る! 戦闘準備を!」

「……相変わらずスゴイ感知能力だな、達也くん」

「いえいえ。魔法で隠れているヤツとかは見つけられないので、あんまり当てにしないで? エーコさん」

 僕は杖に〝接触弱体〟を掛けてから目一杯まで伸ばし、構えた。
 ……襲ってきたのは蜘蛛クモのような魔物。ご想像の通り、デカイ!

「うっわ、ちょっとイヤだ!」

「達也さん、あいつは〝蜘蛛クモ〟と呼ばれているわ」

 先日から遭遇する魔物達は、全部〝まんまだな!〟というネーミングだった。シマウマみたいな奴だけ〝しま〟だったから、ツッコミは〝そっちかよ!〟だったけど。

「アイツの糸は、なかなかの量と粘度よ? 一応気を付けてね」

「お? 待ってました! ファンタジー世界の蜘蛛クモはそうでなくちゃ。どれどれ……」

『タツヤ、蜘蛛クモはチョコレート味だと聞くぞ?』

 食べねぇよ!
 いや……でもなぜか、ファンタジー物って〝蜘蛛クモを食べて能力を奪う〟パターンが多いよな。ここは僕も、やっとかなきゃいけないのか?

『どうしてもと言うなら〝光合成〟で能力を奪えるが、キミの思考が蜘蛛クモ寄りになる』

 イヤ過ぎだ! さっさと片付けて先に進むぞ!





 >>>





 さらに半日ほど西に進むと、道沿いに、高さ2メートルぐらいの石碑が置かれていた。

「石碑に文字が書かれているな……なんて書いてあるんだろう?」

「〝ひきかえせ、おまえのいのち、ひとつだけ〟よ?」

 よく見ると、確かに日本語だ。これって道路沿いにある、交通安全川柳こうつうあんぜんせんりゅうみたいなヤツか!

達筆たっぴつなだけかよ! なんで日本語なんだよ!」

「公用語が日本語だからよ? 達也さん」

 そうなんだけどさ。折角のファンタジー感が台無しなんだよな。
 ここ数日使っているテントにも〝男性用〟とか〝女性用〟とか書いてあるし……!

『ほう? 同じテントで寝たいと言うのか。タツヤは本当にアレだな』

『僕はアレじゃないし! あと、寝ないし! テント使わないし!』

「なにやってるし! さっさと行くし!」

 ……なんかタイミングよく、辻村と口調が合ってしまって語呂が良くなったし! やめろし!

「おいおい、緊張感がないな……ここからだぞ?」

 エーコがあきれたように言う。ああ、そうか。この石碑が〝死後線〟の目印か……

「うお! ここがそうなのか?!」

 若干、後退りする遠藤。
 そして織田さんも険しい表情だ。
 ここから先は、さらに過酷な状況が休む間もなく襲い来る、魔界の深部。全員の緊張が高まる。……僕は死なないけど、誰も死なせないために、気を引き締めていこう。

「という事は大砦までやっと半分か。広いな、魔界!」

『タツヤ、そろそろ大きな休憩を取っても良いかもしれない。この先の、ちょうど日が暮れそうな地点に、洞窟風の地下室を作っておくよ?』

『さすがブルー! 本当に気が利くなあ!』

 洞窟風という事は、偶然見つけたっぽくすれば、怪しまれず安全に休憩できるな。なんて快適な冒険なんだ。

『ええっ?! もしかしてそこには……!』

『もちろん、天然の温泉を装った浴場も作る予定だよ、アヤカ』

『すごいすごい! ブルーありがとう!!』

 ピョンと跳ねて喜ぶ彩歌。直後に、みんなの視線に気づいて、準備運動に見せかけて誤魔化す。

『さ、さあ! 気合を入れて行くわよー!』

 たまに天然だよな、彩歌。そこがまた、かわいいんだけど。

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...