プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

魔界温泉

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 洞窟の奥、扉っぽい岩を開けると……そこには、恐ろしく広い空間が用意されていた。

「おおっ! すごいな! 本当に何なんだこの洞窟は!」

 隣からエコーの掛かった、エーコの声が聞こえる。
 いや、ダジャレとかじゃなくて。

『ブルー。なんで音の反響まで〝旅館の大浴場〟みたいになってるんだよ?』

『洞窟だからだろう?』

『いやいやいや! 岩肌じゃなくて、タイルに反響したような綺麗な音だよな?』

 自分って歌が上手いんじゃないか? と錯覚する、あの感じの反響具合だ。
 うわ、マジか。見上げると、男風呂と女風呂の仕切りも、わざわざ上の方に銭湯っぽい隙間スキマが作ってある。
 ……天然の洞窟を表現する気ゼロだな!

『タツヤ。日本人は、こういう空間で〝真の癒し〟を得るものだぞ?』

『いや、日本人は僕だけだから! 一番癒される必要のない僕向けに作ってどうするよ?』

 僕は特性上、無敵の上に、フルパワーにチャージされっぱなしだ。
 眠らなくても食べなくても、極端な話、全く風呂に入らなくても、病気にもならないし、お肌に何かしらの害が及ぶこともない。

『キミの体は、発汗や代謝もあるけど、自動でクリーンな状態に保たれている。キミが風呂に入るというのは、新品パリッパリのスーツを、クリーニング店に預けるようなものだ』

 ……それ、ちょっとだけマイナス効果だよな?

「わぁー! スゲーし! お湯の量もハンパねえー!」

「こんなお風呂、城塞都市にもないわね」

 隣から、辻村と彩歌の声が聞こえた。
 城塞都市どころか、日本にもなかなか無いよ、こんな風呂。
 だってほら、打たせ湯、ジャグジーも完備だし。
 ……ってマジか?! 何でこんな物まで作るんだよ!

「ブルー! これは本当に駄目だろ!」

 なんと、体や頭を洗うための、鏡の付いたシャワーまである!
 ……もしかして、わざとなのかブルー? わざとバラしていくスタイルなのか?!

『あちらの小部屋はサウナだ。好きに使ってくれて構わない』

『やり過ぎだよ!』

 ……完全に確信犯だな、こりゃ。僕に〝やり過ぎだよ!〟って言わせたいだけのヤツだ。

『タツヤ、違うぞ? この施設は〝キミは本当にアレだな〟と言いたいから用意したものだ』

『余計悪いわ! これから何が起こるんだよ?!』

 ってあれ? ちょっとワクワクしてきたぞ?
 これから僕は、何を見聞きして、ブルーに〝アレ〟だと言われるんだ?

『……タツヤ、キミは本当にアレだな』

『いや、今か! ガッカリだよ! ……いやもとい! 僕はアレじゃないぞ!』

 ……ん? なんかガッカリしてるという事は、やっぱ僕はアレなんじゃないか? っていうか、アレって何だよ!

「内海さん! スゴいですよ、湯加減も丁度いい!」

 織田さんが、湯船にかって言う。
 いや、スゴいのはアンタの体だから……何ですか、その筋肉。
 ……しかも傷跡きずあとだらけって。
 世紀末を戦い抜いてきた感じになってますけど?!

「ああ、いい湯だな! 我が生涯に悔いはないってか!」

 やめろ遠藤! セリフが世紀末スレスレで危ない!
 お前がニアミスしてどうするんだよ?!

「すごいです。お父さんを助けたら、ここに連れてきてあげたいな」

 鈴木さんの声だ……本当に良い子だな。

「無事だといいな。紗和さわちゃんのお父さん」

「そうですね。大砦おおとりでの情報は少ないですが、何年か前から連絡も途絶えて、何度か編成された救援部隊も帰って来ないという、絶望的な状況だと聞きます」

 そんなにマズい状況なのか、西の大砦は。
 ……無事を祈るしか無い。救出できれば、親子水入らずで温泉にゆっくり浸かるといい。
 こんな洞窟の温泉で良かったら、いくらでも用意するから……ブルーが。

『いやいや達也氏。これぐらいの年代の女の子は、もう父親とお風呂には入らないと思うよ?』

 ルナの声だ。なるほどね、確かにそうかもしれない。
 うちの妹も、僕と〝双子設定〟になってからは、父さんとは一緒に風呂に入ってないしな。
 ……ん? あれ? 〝これぐらいの年代〟?

『ルナ? ……お前いま、どこに居るんだ?』

『彩歌の帽子の中だけど?』

『彩歌さん、とんがり帽子のまま風呂に入ってるのか?!』

 いやいや違う。そこじゃない! いや、そこもだけど!

『待ておい! ルナ! なんでそっちに居るんだよ!!』

 お前、ずっと〝僕〟って言ってるよな! 男だよな!

『僕は〝魔界の軸石〟だよ? 彩歌の能力そのものだ。性別とかは関係無いよ? ……デヘヘ』

『こいつ! デヘヘって言った! こら! デヘヘって何だよ! やめろ、こっちに来い!』

『もう、うるさいなあ。それじゃさ、僕の〝視界〟を送ってあげるよ。ほら』

 え? 何? 視界を送るって、お前そんな事出来るのか?!
 ……うっわ! なんかいつもの〝詳細表示〟の時みたいに、小窓が目の前に浮かんで?!

『マジで? え! いや待て! ちょっと待てルナ!』

 ……脳内に開いた小窓は真っ黒だ。あれ? 何だこれ?

『へへへー! 引っかかったー! 言ったじゃんか。僕は彩歌の帽子の中だよ? 見えるわけ無いよね』

『くそ、騙された! マジで焦ったじゃないか! お前、あとで覚えてろよ?!』

『へへーん! 騙される方が悪いんですー! 達也氏は本当にアレなんだからー!』

 あのウサギ、マジで許さん! 僕はアレじゃないからな!
 ……え? ……あれ?

「スゴいわ、シャンプーまであるなんて!」

 僕の脳内に表示されたのは、鏡に写った彩歌。なるほど、洗髪のために帽子を取ったんだな。
 ……っておいおいおい、駄目だ! 全部見えちゃってるから!
 ああっ! あられもない! あられもなくもなくもない! 生まれたままの姿か! いや、生まれたままの姿だ! 何を言ってるんだ僕は!

「おい、アヤ! 帽子は昔からなので突っ込まなかったけど、何だその黄色くて丸いのは?」

 マジで? エーコにもルナが見えるってどういう……あ、そうか。精霊グアレティンと契約したから?

「エーコ、この子が見えるの? この子はルナ。あとで詳しく紹介するわ」

 ああっ! そっち見ちゃ駄目だ彩歌!
 エーコとか、その向こうに……全員が、横並びで居るし!
 ……っていうか、おまえ目が良いな、ルナ! 一番向こうにいる鈴木さんまでカンペキだ!
 いや、カンペキって何だ? とにかく全部見える! しかも脳内表示だから目を閉じても見えてしまう!

『はじめまして! ルナです。よろしくね!』

 〝僕は〟ルナって言わないのかよ。お前、そういう所だぞ?
 ……いやそんな事より、早く視界の送信を切ってくれ! さすがにマズいだろ!

『ハッ! しまった!』

 というルナの言葉の後に、ルナの〝視界ウインドウ〟は閉じられた。

「……? ルナ〝しまった〟って何?」

『え、ううん? なんでもないよ。こっちの話』

「ふうん? あ、そうそう、エーコ、こっちのボトルはリンスって言って、髪が……」

 ふう。良かった……秘密は守られたか。
 さすがにルナも、彩歌にバレるとヤバいだろうからな。

『タツヤ、キミは本当にアレだな』

『お前がいたか! 不可抗力だよ! むしろ被害者だ!』

 いや。被害者というか……まあ、その……いやいや。ね?

『タツヤ、キミは本当に……』

『僕はアレじゃないから! っていうか、アレって何だよ!!』

 
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