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5年生 3学期 3月
約束された風景
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ここは〝落日と轟雷の塔〟の地下深くに広がる大迷宮。
……って、いくら何でも、巨大過ぎるだろう!
ブルー。ここに入ってどれくらい経ったんだ?
『だいたい、51時間だね』
マジかよ。もうそんなに? ずっと地下だから、時間の感覚が狂う狂う。
えっと……迷宮を進むこと、まる2日。さすがにそろそろ目的地に辿り着いても良いんじゃないか?
「はい、もう少しです。この下のフロアーですので」
持ってきた食料も、残り僅かだ。僕は食べなくて平気だけど、
いざとなればブルーに例の木の実を作ってもらうか。あとは……
「達也さん。狩りでもする?」
「……いや、魔物しか居ないこの場所で〝現地調達〟は、ちょっとハードル高いな」
「ふふ。好き嫌いなんて、子どもみたいね、達也さん」
ちょっと待ってよ……それを〝好き嫌い〟っていうなら、僕もう一生〝子ども〟でいいんだけど。
>>>
「つきました。私の目的地はここです」
ひどく狭い〝隠し部屋〟の中。目の前には、大きくて古びた鉄の箱が置いてある。
これが、織田さんの求めていた物なのか?
『主よ。城塞都市の地下、私の居城にも、この箱は置いてあります。中には用途のわからない石像が2対あるのみです』
箱を開けると、確かに石の像が入っていた。
どちらも人間の姿をしているが、頭部だけは、片方が狼、もう片方は山羊に似た形をしている。
……固定されていて取り出すことは出来ないようだ。
「内海さん、ちょっといいですか?」
織田さんは、鉄箱の蓋を閉めた。
……って、え? 閉めちゃうの?
「いえ、開ける前に、こうするんです。あ、皆さんも」
織田さんは、クルッと回れ右をし、箱に背を向けて立つ。僕たちも、その真似をした。
「いいですか? 何があっても、振り向かず、何も喋らないで下さい」
「何だよ織田っち。何が始まるんだ?」
「ねーねー? これって何のおまじない? 気味わりーんだけど」
「シッ! 喋らないで」
……ちょっと強めに言われて、全員ジッと突っ立っている。何だこの状況?
しばらくすると、何か聞こえてきた。
「メェェェエ!」
「ガウッ! ガウガウ!」
背後から、リアルな獣の声。
思わず声が出そうになるが、織田さんが僕たちを見て人差し指を口に当て、ニッと笑う。
おっと。喋っちゃダメなんだな。
背後からはバタバタという音が響き、獣の声が聞こえ続ける。
「グルルル……ガウッ!!」
「メェェエェェェ……」
……静かになった。何なんだ?
「もういいですよ。内海さん、箱の中を」
鉄箱をもう一度開けてみた。
「……っ?! 達也さん、これ……!」
「うっわ! どうなってるんだ?!」
箱の中には2対の像。ただ、山羊に似た方の像の、首から上が無くなっている。
……そして、箱の中は鮮血をぶち撒けたように真っ赤だ。
「こっちの像、口の周りだけ真っ赤だし! 怖ぇし!」
狼の口からは、狩りを終えた獣のように、赤い液体が滴り落ちている。
「内海さん、蓋を閉じないで下さいね。もとに戻ってしまいますから」
これがどうやったら元に戻るのか見てみたいけど……
悪趣味な仕掛けだなあ。
『主よ。この仕掛は、私も知りませんでした』
そうなのか? 魔王よりも詳しいって、どういう事だよ織田さん……
「これでよし……と。有難うございます。私の用事はこれで終了です」
織田さんは、像から滴り落ちている液体を小さな瓶に入れ、ホッとした表情を浮かべた。
「織田っちー、本当に何なの? ますますワケがわかんないし!」
辻村の言葉に、困った顔の織田さん。
「俺たち、仲間じゃねーか。教えてくれたっていいだろ!」
真剣な表情の遠藤。
「……知れば、命を掛ける事になるかもしれません。それでも良いのでしたら、無事に城塞都市に戻れた時にお話します」
それまでに、よく考えておいて下さい。そう言って、少しだけ微笑む織田さん。
そんなに大変な事になるのか? ……あの赤い液体を何に使うんだろう。
「お、おう。約束だぜ?」
「織田っちはマブダチだからさ、ちょっと怖いけど……知らないままの方が嫌だし」
やっぱマブダチ認定されてたのか。そういえば〝織田っち〟って呼び方も違和感なくなったよな。
「さて、急ぎではありますが、私の用事は、予定より10日以上早く済みました。もしよろしければ、内海さんと藤島さんの要件もご一緒させて頂けますか……」
と言った後、織田さんはボリボリと頭を掻いて続ける。
「……といいますか、実のところ、帰り道もご一緒頂きたいというのが本音です」
白い歯を見せて笑う織田さん。この人は本当に悪意のない人だな。全部言っちゃうんだもん。
>>>
豪華な装飾の大きな扉の前。織田さんは今までで一番驚いた表情で言った。
「……玉座の間? なぜあなた達がここを知っているのですか?」
それはこちらのセリフだ。やっぱり織田さんは……
『主よ。〝魔王イブリース〟の封印はいつも型通りでお決まりの物です。私が解きましょう。ゴーレムをお貸し頂けますでしょうか』
そういうので、早速〝使役:土〟で用意する。
「……なんだよ、そのゴーレム! ずいぶん悪そうなデザインだなぁ!」
「パネぇ! 邪悪じゃね? 超怖いし!」
……そっか、別に魔王の姿にする必要なかったんだ。
『少し下がって頂けますでしょうか』
おっと了解。
全員が、扉から少し離れると、パズズは何やら呪文を唱え始めた。
「驚いた……! これは古代語? 内海さん、あのゴーレムは、なぜ自律行動する上に、失われた言語まで使うのですか?」
「織田さん。それを聞いたら、命を掛ける事になるかもしれないですよ?」
ニヤリと笑う僕を見て、後ずさり、少し強張った表情の織田さん。
「ふふ。達也さんも言うわね」
いや、だってさ。あれが本物の魔王だって知ったら、死ぬほど驚くだろ? 特に、織田さんは……
『衝撃が来ます。お気をつけて』
パズズがそう言うと、扉の前に魔法陣が現れた。
ひとつひとつの文字が、パラパラと剥がれ落ちていく。
「彩歌さん、障壁を」
と言う前に、彩歌は詠唱を始めていた。さすがだ。
「HuLex UmThel wAl iL」
先頭に立つ僕の〝背後〟に、大きめの障壁が現れた。
「ええー? 僕の分は?」
「達也さんは、どんな障壁より硬いでしょう?」
クスクスと笑う彩歌。そうなんだけどさ。なんか疎外感が……
「……まさか、ここにも魔王が?! 内海さん、藤島さん、この中に魔王が居るのですか?!」
〝ここにも〟……か。やっぱりね。
「織田さん安心して。この中には魔王は居ないから」
魔法陣に描かれた模様と、全ての文字が剥がれ落ちた。
……次の瞬間、激しい衝撃が襲って来る。
「うっお!!」
仰け反る遠藤。大丈夫だよ。彩歌の障壁は頑丈だから。
『主よ。体をお返しします』
『ああ。ありがとう、パズズ』
ゴーレムが土に還っていくのを横目に、僕は扉を開けた。
「うわ、広いな! 何も無いけど」
だだっ広い部屋の中央に台座があり、その上には小箱が置かれている。あの中に〝砂抜きされた砂時計〟が入っているのだろう。
「中はこうなっていたのですか……!」
この恐ろしく深くて広大な迷宮を自分の庭のように振る舞っていた織田さんが、珍しいものを見るような目で室内を見回している。
『私の根城にある玉座の間は、それなりの装飾がなされて、こことは少し趣が違います』
「そうだろうな。魔王との最終決戦がここまで殺風景だと、テンションが上がらないよ」
「達也さん、魔王との決戦って?」
「ああ、ゲームの話だよ。大体、最後の戦いは、魔王の玉座の間なんだよね」
魔王の就寝時を狙うとか、逆に面白そうだけどな。僕なら絶対そうするぞ?
……それじゃ、お宝をゲットしますかね。僕は部屋の中央にある小箱に目を移した。
「おお? 何だそれ! ちょっと見せてみろよ!」
「ちょ! 翔! 何するし! ……あ!」
僕の目には、勝手に箱を開けて、中の物を取り出した辻村と、その手から遠藤が奪い損ねて落下している最中の〝砂抜きされた砂時計〟が映っていた。
……って、いくら何でも、巨大過ぎるだろう!
ブルー。ここに入ってどれくらい経ったんだ?
『だいたい、51時間だね』
マジかよ。もうそんなに? ずっと地下だから、時間の感覚が狂う狂う。
えっと……迷宮を進むこと、まる2日。さすがにそろそろ目的地に辿り着いても良いんじゃないか?
「はい、もう少しです。この下のフロアーですので」
持ってきた食料も、残り僅かだ。僕は食べなくて平気だけど、
いざとなればブルーに例の木の実を作ってもらうか。あとは……
「達也さん。狩りでもする?」
「……いや、魔物しか居ないこの場所で〝現地調達〟は、ちょっとハードル高いな」
「ふふ。好き嫌いなんて、子どもみたいね、達也さん」
ちょっと待ってよ……それを〝好き嫌い〟っていうなら、僕もう一生〝子ども〟でいいんだけど。
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「つきました。私の目的地はここです」
ひどく狭い〝隠し部屋〟の中。目の前には、大きくて古びた鉄の箱が置いてある。
これが、織田さんの求めていた物なのか?
『主よ。城塞都市の地下、私の居城にも、この箱は置いてあります。中には用途のわからない石像が2対あるのみです』
箱を開けると、確かに石の像が入っていた。
どちらも人間の姿をしているが、頭部だけは、片方が狼、もう片方は山羊に似た形をしている。
……固定されていて取り出すことは出来ないようだ。
「内海さん、ちょっといいですか?」
織田さんは、鉄箱の蓋を閉めた。
……って、え? 閉めちゃうの?
「いえ、開ける前に、こうするんです。あ、皆さんも」
織田さんは、クルッと回れ右をし、箱に背を向けて立つ。僕たちも、その真似をした。
「いいですか? 何があっても、振り向かず、何も喋らないで下さい」
「何だよ織田っち。何が始まるんだ?」
「ねーねー? これって何のおまじない? 気味わりーんだけど」
「シッ! 喋らないで」
……ちょっと強めに言われて、全員ジッと突っ立っている。何だこの状況?
しばらくすると、何か聞こえてきた。
「メェェェエ!」
「ガウッ! ガウガウ!」
背後から、リアルな獣の声。
思わず声が出そうになるが、織田さんが僕たちを見て人差し指を口に当て、ニッと笑う。
おっと。喋っちゃダメなんだな。
背後からはバタバタという音が響き、獣の声が聞こえ続ける。
「グルルル……ガウッ!!」
「メェェエェェェ……」
……静かになった。何なんだ?
「もういいですよ。内海さん、箱の中を」
鉄箱をもう一度開けてみた。
「……っ?! 達也さん、これ……!」
「うっわ! どうなってるんだ?!」
箱の中には2対の像。ただ、山羊に似た方の像の、首から上が無くなっている。
……そして、箱の中は鮮血をぶち撒けたように真っ赤だ。
「こっちの像、口の周りだけ真っ赤だし! 怖ぇし!」
狼の口からは、狩りを終えた獣のように、赤い液体が滴り落ちている。
「内海さん、蓋を閉じないで下さいね。もとに戻ってしまいますから」
これがどうやったら元に戻るのか見てみたいけど……
悪趣味な仕掛けだなあ。
『主よ。この仕掛は、私も知りませんでした』
そうなのか? 魔王よりも詳しいって、どういう事だよ織田さん……
「これでよし……と。有難うございます。私の用事はこれで終了です」
織田さんは、像から滴り落ちている液体を小さな瓶に入れ、ホッとした表情を浮かべた。
「織田っちー、本当に何なの? ますますワケがわかんないし!」
辻村の言葉に、困った顔の織田さん。
「俺たち、仲間じゃねーか。教えてくれたっていいだろ!」
真剣な表情の遠藤。
「……知れば、命を掛ける事になるかもしれません。それでも良いのでしたら、無事に城塞都市に戻れた時にお話します」
それまでに、よく考えておいて下さい。そう言って、少しだけ微笑む織田さん。
そんなに大変な事になるのか? ……あの赤い液体を何に使うんだろう。
「お、おう。約束だぜ?」
「織田っちはマブダチだからさ、ちょっと怖いけど……知らないままの方が嫌だし」
やっぱマブダチ認定されてたのか。そういえば〝織田っち〟って呼び方も違和感なくなったよな。
「さて、急ぎではありますが、私の用事は、予定より10日以上早く済みました。もしよろしければ、内海さんと藤島さんの要件もご一緒させて頂けますか……」
と言った後、織田さんはボリボリと頭を掻いて続ける。
「……といいますか、実のところ、帰り道もご一緒頂きたいというのが本音です」
白い歯を見せて笑う織田さん。この人は本当に悪意のない人だな。全部言っちゃうんだもん。
>>>
豪華な装飾の大きな扉の前。織田さんは今までで一番驚いた表情で言った。
「……玉座の間? なぜあなた達がここを知っているのですか?」
それはこちらのセリフだ。やっぱり織田さんは……
『主よ。〝魔王イブリース〟の封印はいつも型通りでお決まりの物です。私が解きましょう。ゴーレムをお貸し頂けますでしょうか』
そういうので、早速〝使役:土〟で用意する。
「……なんだよ、そのゴーレム! ずいぶん悪そうなデザインだなぁ!」
「パネぇ! 邪悪じゃね? 超怖いし!」
……そっか、別に魔王の姿にする必要なかったんだ。
『少し下がって頂けますでしょうか』
おっと了解。
全員が、扉から少し離れると、パズズは何やら呪文を唱え始めた。
「驚いた……! これは古代語? 内海さん、あのゴーレムは、なぜ自律行動する上に、失われた言語まで使うのですか?」
「織田さん。それを聞いたら、命を掛ける事になるかもしれないですよ?」
ニヤリと笑う僕を見て、後ずさり、少し強張った表情の織田さん。
「ふふ。達也さんも言うわね」
いや、だってさ。あれが本物の魔王だって知ったら、死ぬほど驚くだろ? 特に、織田さんは……
『衝撃が来ます。お気をつけて』
パズズがそう言うと、扉の前に魔法陣が現れた。
ひとつひとつの文字が、パラパラと剥がれ落ちていく。
「彩歌さん、障壁を」
と言う前に、彩歌は詠唱を始めていた。さすがだ。
「HuLex UmThel wAl iL」
先頭に立つ僕の〝背後〟に、大きめの障壁が現れた。
「ええー? 僕の分は?」
「達也さんは、どんな障壁より硬いでしょう?」
クスクスと笑う彩歌。そうなんだけどさ。なんか疎外感が……
「……まさか、ここにも魔王が?! 内海さん、藤島さん、この中に魔王が居るのですか?!」
〝ここにも〟……か。やっぱりね。
「織田さん安心して。この中には魔王は居ないから」
魔法陣に描かれた模様と、全ての文字が剥がれ落ちた。
……次の瞬間、激しい衝撃が襲って来る。
「うっお!!」
仰け反る遠藤。大丈夫だよ。彩歌の障壁は頑丈だから。
『主よ。体をお返しします』
『ああ。ありがとう、パズズ』
ゴーレムが土に還っていくのを横目に、僕は扉を開けた。
「うわ、広いな! 何も無いけど」
だだっ広い部屋の中央に台座があり、その上には小箱が置かれている。あの中に〝砂抜きされた砂時計〟が入っているのだろう。
「中はこうなっていたのですか……!」
この恐ろしく深くて広大な迷宮を自分の庭のように振る舞っていた織田さんが、珍しいものを見るような目で室内を見回している。
『私の根城にある玉座の間は、それなりの装飾がなされて、こことは少し趣が違います』
「そうだろうな。魔王との最終決戦がここまで殺風景だと、テンションが上がらないよ」
「達也さん、魔王との決戦って?」
「ああ、ゲームの話だよ。大体、最後の戦いは、魔王の玉座の間なんだよね」
魔王の就寝時を狙うとか、逆に面白そうだけどな。僕なら絶対そうするぞ?
……それじゃ、お宝をゲットしますかね。僕は部屋の中央にある小箱に目を移した。
「おお? 何だそれ! ちょっと見せてみろよ!」
「ちょ! 翔! 何するし! ……あ!」
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