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第二章 火と土の魔女

2-14 協力依頼と約束

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 ミュウの機嫌は最高潮に悪い。

 その小さな膝の上には更に小柄な土の魔女トルマがにこにこして座っている。

 火の魔女ルビィが『キューコーをなんとかってやつがしたい!』と言い出して、それを受けたジメイが別室を用意して、今この部屋にいるのはミュウとトルマ、そして向かいに座った火の魔女ルビィの三人だけである。

「なんで、この地域の人間と仲良くしてるんですか?」

 ミュウは早速の疑問をルビィにぶつける。

「え? だって、別に皆殺しにしてこいなんて言われてないし、支配するっていうのがよくわからないけど、ここで一番偉いジメイのじっちゃんと仲良くしとけばいいでしょ? それに! この街の人たち面白いことしてるし、あたしの魔法とトルマの魔法を合わせたらもっと面白くなったし!」

 ルビィは子供のように目を輝かせている。

「ミュウこそ、こんなとこまで来ていいのか? ええと、なんていうとこだか忘れたけどあっちのほうはミュウが任されたんだろ?」

 あっち、とまるでダナンとは違う方角を指さしているルビィ。

 ミュウはじっとそんなルビィを閉じた目で見つめている。

 赤い右の瞳は彼女の魔力特性が表に出たもの。
 そして、左の青い瞳こそが、かつてはミュウの左目にあったはずの瞳である。

「私のほうは順調だから大丈夫よ。今日一緒に来た人たちも私が支配下に置いた人間たちだから。それより魔眼をもらったのね」

 ミュウは答えながら聞く。
 色はわからないが、かつて自分が所持していた瞳の魔力を感知し間違えるはずもない。

「ん? ああこれ? そうそう、あたしもトルマも頭悪いからさー。もし、敵対するものが近づいて来る時にいち早く気付けるようにってヘレンがくれたんだー。だからミュウ達が山に入ったのもすぐにわかったんだよ。あとあの野盗みたいな悪いやつが出たって聞いてもすぐに場所がわかるしさ!」

「そう……」

 ミュウは溜息を吐く。

 それは『これで益々、ルビィを殺さなければいけなくなった』という溜息である。

 ルビィは自分がもらった魔眼が元々はミュウの持ち物であったことなど知らない。出会った時には既にミュウは盲目であったし、なぜ眼が見えないのかをミュウも教えたことはなかったから。

「ミュウお姉ちゃん、あのね、トルマは、ルビィお姉ちゃんと一緒に、お人形を作ってるの」

 ミュウの膝の上に座るトルマが、嬉しそうに語る。

 ルビィもミュウも既に少なくとも六十年以上は生きているはずだが、身体もあまり成長していないし精神的にも子供のままのようだった。

 これは人間でも同じことだが、ただ年齢を重ねれば大人になれるというわけではない。もちろん身体は年と共に成長していくが精神はそうはいかない。

 子供の時には、親や周囲の大人から『大人になるとはこういうことだ』と教育を受け、また周囲の大人の振る舞いを見て育ち、『何歳になったからこう』という決まりの中で日々成長していく。

 だから周囲に誰がいるのか、どんな環境で育ったかで個々人の精神の成長具合や善悪の判断などは著しく変わってくる。

 ルビィもトルマも孤児である。

 周囲の大人と言えば、ヘレンとダイアであり、その二人は魔法の研究やら魔物の研究やらに打ち込む日々だったし、ミュウはそもそも他の者には無関心だったためにルビィとトルマの精神教育など考えずに遊び相手を努めるばかりだった。

 ミュウはといえば、ヘレンに出会う前に既に数十年もの間、故郷の村で多くの大人たちと過ごしていたために一通りの教育は受けている。
 もちろん閉鎖的な村社会で受けた教育であるために、セルアンデ王国を初めて訪れた時はそれでもカルチャーショックを受けたものである。

 見た目が成長しないのはミュウも同じであるが、ミュウの理由と他の魔女達の理由は微妙に違う。
 ただ、魔女となってその長い寿命をヘレンによって与えられた時から代謝の速度は非常に遅くなり、それが身体の成長を阻害しているのだろうとは予想がつく。

 ルビィなどは、そのために子供扱いされるのを非常に嫌うため、そこはミュウも気をつけている。

「お人形? この家の入り口にあったやつかしら? 凄いわね」

「うん!」

 トルマは嬉しそうに笑う。

 トルマの無邪気に自分を慕う心が、無防備に流れ込んでくる。
 その度にミュウの心は苦しくなる。

「いま、じっちゃんと一緒にもっとすごいやつを作ってるんだ! それでさ、せっかくここまで来てくれたんだから、ちょっと手伝いをお願いしたいなー、なんて」

 ルビィもその話に乗ってきつつも、どうやらミュウ達にお願いしたいことがあるらしく、机に身を乗り出してくる。

「手伝い?」

「そ。あんときさー、でっかい兄ちゃんがあたしのゴーレムを倒したじゃん! だからあの兄ちゃんに手伝ってほしいんだ!」

「アイルさんに……ですか」

 ミュウは思案顔になった。


──────────────────

 ミュウ達とは別に、客間でジメイと一緒に残ったアイル達は北の地で魔女ダイアによって引き起こされた事件と、その後にダナンを襲った西の魔物の話をジメイに聞かせていた。

「なるほどな、北の地ではそんなことが」

 ジメイも白い眉をしかめて、マレーダーの話に聞き入っている。

「私達の街、ダナンも西の森の魔女の眷属によって放たれた魔物にかなりの被害を受けました。傭兵ギルドの傭兵達とダナンの正規兵達によって事なきを得ましたが、各地での魔女の脅威は看過できません。そして、先日この地域に派遣されたセルアンデの調査隊が何者かに襲われ、逃げ帰った兵が『魔物に襲われた』と報告したために我々が派遣されて来たのです」

 リンジーも今はインテリ受付嬢モードで話に参加している。

「魔物? この山にはそんなものはいないはずだが……」

「例えば、あのゴーレムに襲われて魔物だと勘違いしたんじゃないかな?」

 ジメイの答えにエルも自分の予測を述べる。

「いや、自動人形を山に放ったという話も聞かないが。一応は魔女様に聞いてみないとわからんがな」

「まさかとは思いますが、あの野盗達に襲われて……野盗如きに遅れを取ったことを隠すために魔物と報告をしたとか」

 マレーダーが可能性の一つを述べる。

「ああ……それはありえないとは言い切れないのが今のセルアンデ軍の現状だね。だとしたら僕らは、というよりも王と宰相はそんな偽情報に踊らされたってことになるね。本当にそうだとしたら、なんとも情けないことだよ」

 エルはマレーダーの予想が外れていてくれることを祈るばかり。

「でも実際に魔女はいたわけですし、無駄でもなかったですね。その、魔女との取り引きという内容を伺っても?」

「ああ、本当はまだ王国には知られたくないがな。こうして調査隊が来てしまった以上はバレるのも時間の問題か。ほれ、あの自動人形に使われている素材。あれは魔女様達の協力があって出来たもんなのじゃ」

 リンジーの質問にジメイが答える。

「鍛冶に必要なのは、良質の鉱石とよい炎。そういうことじゃ。ある日、フラッとこの街に来たあの子達が儂らの鍛冶作業に興味を持ってな。それ以来、あの二人と一緒に研究開発を重ねることで誕生したのがこの金属、魔女様由来の金属ということで儂らは『魔鉱』と名付けた」

 そういって一つのインゴットを一同の前にゴトリと置いた。

 話せないので一切会話に加わっていなかったアイルが一気に食いつく。

「なんじゃお主、これに興味があるか」

 そう言われてアイルはミュウが作った防具の設計図を見せる。

「これはお主の左腕用の防具か、にしてもこの肩の部分はなんじゃ?」

「ああ、それは。先程の女の子、ミュウちゃんは移動する時にアイルさんの左肩に座って移動することが多いんです。ですので、防具を新調するならば肩の部分に自分が座る椅子を付けたい、と」

 アイルの代わりにリンジーが説明する。

「まあ、この程度のものならばこの街の鍛冶師ならば誰も作れようて、ここに来る途中で誰にも相談しなかったのか?」

「それが、実はここに来る前に火の魔女と土の魔女の二人が急拵えで作ったゴーレム……あなたのいう自動人形ですが、それと戦った際にアイルさんがそれまで着けていた防具が溶けてしまったんです。それで、あの像を見た時から次に防具を作る時はその新しい金属で作りたいと思っているようでして」

 今度はマレーダーがアイルの想いを代弁してくれた。
 アイルは本当に周囲の皆に感謝したい思いだった。敢えて言えば椅子の所はどうでもよかったのだが、まあ椅子が無事に付けられたらミュウも喜ぶかも知れないと思い、特に不満は表明しなかった。

「なんと! 人の身で自動人形を倒したのか!」

 ジメイは驚いて思わず立ち上がってしまう。

「まあ、この人は色々と規格外だね。僕にはとても真似できないよ」

 エルが両手を上げて茶化す。

「ううむむ、非常に興味深いがしかし……」

 再び椅子に座ったジメイは唸りだす。


「そこで、そんなアイルさんに火の魔女ルビィからお願いがあるそうです」

 客間の扉が開いて入ってきたのは、誰あろう、ミュウと魔女二人だった。

「そそ、お兄さん。あたしのゴーレム実験に協力してよー! 作ったゴーレムがどのぐらい強いか試したいんだけど、人間じゃ無理だしゴーレム同士戦わせてもいまいちしっくりこないし。お兄さんと戦わせたら、色々参考になって、もっと強いのが作れると思うんだよねっ!」

「ルビィ様、実はその男が魔鉱で防具を作りたいと申しておりましてな、ルビィ様の実験に協力することを条件に引き受けるのはどうでしょうかな?」

 ジメイの申し出を聞いたルビィはプーッと吹き出した。

「なんだよじっちゃん! いつもみたいに『ルビィ』って呼び捨てにすればいいのに。それにその口の聞き方、おかしいって」

 そのままルビィは床に転がってゲラゲラと笑い始めた。

「いや、その、お客人の前だから魔女の威厳とかな」

 そんな二人のやり取りを見て、一行は『魔女を呼び捨てなんだ……』と思ったとかなんとか。

 賑やかなやり取りが行われる中、我慢できないと立ち上がった人物が一人。

「その役目、私が引き受けましょう」


 平素は城塞都市ダナンのインテリ受付嬢にしてアイドル的存在。

 金色に輝く嫋やかなセミロングの髪にスラリとした細身のスタイル。切れ長の目は怜悧な己の性格が表に出たものか。

 だが、ひとたび純白の格闘服に身を包み、最早象徴とも言える真紅の籠手を装着すれば、魔女の眷属にも引けを取らない戦う事務員。

 恋のためにただ強さを追求し続ける格闘娘、リンジー嬢その人であった。

 さらなる強さの追求のためにアイルについてきたというのに、強敵とは出会えず、あろうことか魔女でさえ地元住民と仲良くしているという事実に彼女の不満はいまにも爆発寸前だった。

 そこで出てきた新型ゴーレムとの模擬戦闘というまたとないチャンスを、みすみすアイルに譲ることは出来なかった。

「ええー。お姉ちゃんが強いんだったらいいけど、どうなの?」

 アイルに協力を依頼する気満々だったルビィは口を尖らせてリンジーの強さへの疑念を表明する。

「強いか、ですって? お嬢ちゃん、強いか弱いかは見た目では判断できないものなのですよ? 少なくともあなたがゴーレム化したあの野盗の親分よりは遥かに強いですよ。何ならアイルさんが倒したゴーレムと同等の物を用意してもらってもいいのですけれど」

 子供扱いされることを何よりも嫌うルビィは『お嬢ちゃん』の一言に不機嫌さを隠そうともせずに、ぷーっと頬を膨らませた。

「いいよ、そこまで言うならやってみなよ! ただし綺麗なお姉ちゃんが火傷したら大変だから爆発の仕掛けはしないでおいてあげるよ!」

 斯くして、火の魔女ルビィによるリンジー嬢の試験が開始される運びとなった。

 もし、リンジー嬢がゴーレムに負けた場合は要望通りアイルが新型ゴーレムの相手をすること、リンジー嬢の勝敗に関わらず、アイル達一行の各装備を魔鉱製で作ることなどを盛り込んだ契約書を作成する。

 契約書の作成はリンジー嬢の十八番である。

「ではそういうことで、アイルさんもサインを」

 リンジーににっこり顔で促され「サインしたくない時は『いやだ』と言ってくださいね」などと言われてしまえばアイルも溜息しか出ない。
 もともと念願の魔鉱による防具を作成してもらえるとなれば否やは無いのだが、リンジーは少し前までは自分が断れないのを助けてくれる側にいたはずなんだがな、などと思ってしまうのも仕方ない。


 とりあえず話はまとまったかというところで、もう一人立ち上がった人物がいる。


 平素は城塞都市ダナンにおいて、事務の一切を取り仕切る存在。

 そのトレードマークの眼鏡は、毎日大量の書類と睨めっこし続けた故の視力低下が原因か。

 だが、一度その指先に光を灯らせ、宙空にハイム文字を刻めば、敵対するものは全て地獄の業火に焼かれて灰となる。

 人呼んでじしょう『爆炎の魔術師』ことマレーダー大佐である。

「火の魔女たるルビィ様にお願いがあります」

 こちらはまた馬鹿に丁寧にルビィを持ち上げだした。

「お? このルビィ様にお願い? いいよ、言ってみな」

 先程リンジーに子供扱いされた後なので、余計にこの「魔女様」扱いはお気に召したようである。

「私に炎の魔法の手ほどきをお願いします」

 そのままマレーダーは床に正座し、腰を折って頭を床につけた。
 両の手はその頭の前に添えられ床についている。

「ええ? 魔法の手ほどき? そうかー、ついにあたしにも弟子が出来るかー」

 満更でもなさそうなルビィである。

「んじゃ、そこの姉ちゃんがあたしのゴーレムとやり合ってる間、あんたにはあたしの魔法の奥義を伝授してやるよ! 覚悟しておけよ!」

 無い胸を張って偉そうにふんぞり返るルビィを見て、トルマはくすくすと笑っていた。

「魔女の魔法なんて伝授できるものでもないと思うんですけどねえ」

 そんなミュウのため息混じりの呟きは、誰にも聞こえなかったようだ。



 模擬戦は明日ということで、今日の所はそのまま長の家に泊めてもらうこととなる一行。


 その夜、特に疲れてもいないアイルはそっと屋敷を出て外に出る。

 今夜も満点の星空が広がっている。

 培養カプセルで無理に詰め込まれた知識の上でしか知らない、既に滅んでしまった一族の故郷の星は、あの中にあるのだろうか。
 そんな、柄にもないことを考えていると、

「眠れんのかな」

 屋敷から出てきたのはジメイだった。

「儂ら年寄りは元々眠りが浅いでな。お主が出ていった気配で目が覚めてしもうたんじゃよ」

 そういうジメイにアイルは頭を下げる。

「なあに、別に謝ることでもないが、少しジジイの話に付き合ってもらおうかの」

「……」

 アイルが話せないことを知っていて話に付き合えというのだ、何か話しておきたいことがあるのだろう。
 この老人が別に答えなど求めていない話があるとすれば……。

「あの子達がここに来たのはもう二ヶ月以上も前の話じゃな。それまではもっと南の砂漠地帯の向こうにある遺跡にいたそうじゃ」

 そう、やはり魔女達の話だ。

「昼間話したことは全て本当じゃ。あの子達は儂らの鍛冶場に興味を持ってここにそのまま居座ったのじゃ。無論『この街はあたしたちが支配した』などと言っておるが、実質何も支配者のようなことはしておらん。住民にも何一つ危害を加えぬしな。ただ、問題があってな」

 そこでジメイは一旦言葉を切った。
 じっとアイルの碧眼を見ている。

「あの子達はもう何十年も生きていると言っておったが、それは本当なのかの?」

 なるほど、見た目が子供のような本人たちが何十年も生きてきたと言ったところで、精神的にも幼い子供のままの二人を見ても、すぐには信じられないだろう。

 だがアイルは深く頷いた。

 それを見たジメイは落胆する。

「儂があの子達と共に暮らすようになったのは、もちろんその魔法によって新たな金属を精製することが出来たというのも大きいが……。儂には子供がおらなくてのう。無邪気なあの子達が本当の娘か孫のように感じているんじゃよ」

 アイルはただ黙ってジメイを見つめて聞いている。

「じゃが、儂ももうすぐ八十になる。そしていまこの街では水面下で儂の後継者争いが行われているんじゃ。二つの派閥に分かれてな」

 それを言った途端に深い溜息を吐くジメイ。

「それが未だに職人達に魔鉱の精製技術を教えていない理由じゃ。もっとも、あの子達が作った人形を勝手に街に飾ってしまったために、その存在自体は既に知れ渡ってしまったがな。つまりいま、両派は如何に魔女の寵愛を得ることが出来るかで魔鉱の利権を握ることが出来ると、それさえ握ればこの街の長になれると躍起になっておるんじゃ」

 ジメイの言葉に怒りと力が籠もる。

「あの子達が普通の人間よりもずっと長生きするというのなら尚更じゃ。このままここにいては神のように扱われ、その実、魔鉱を精製するための道具のような扱いを受けてしまう。儂はそんなあの子達の未来は嫌なんじゃ。なあ、どうかあの子達の面倒をみてやってくれんか」

 意外な申し出に驚きの表情を出してしまうアイル。

「あんたと一緒にいたあの女の子、あの子はルビィ達とは旧知の仲なのであろう。ということはつまりそういうことじゃて。伊達に長くは生きとらんわい、それぐらいはすぐにわかる。ならば、あの子達の事を任せられる。そう思ったのよ」

 そのミュウはあの二人を亡き者にしようとしている。それを伝えていいものかどうか。アイルは必死に頭を巡らせる。
 このままでは面倒を見るどころか、二人の未来をそのまま永遠に奪おうとしているのだ。

 その時ふと、一つの記憶が甦った。

 それならば何とかなるかも知れない、と思い至った時、アイルはジメイの手を取り、深く頷いた。

「おお、頼まれてくれるか。これで安心じゃ。そうと決まれば、究極の自動人形の完成まで楽しくあの子達と過ごさせてもらうとするわい」

 肩の荷が下りたとジメイは立ち上がり、そのまま屋敷へと戻っていった。

 代わりにずっしりと重い荷物を載せられる形となったアイルはまた一人夜空を見上げる。

 民を苦しめる魔女を討つのがエレノアとの約束、ならば民を苦しめていない魔女はどうすれば?

 ましてやその二人の魔女の将来まで託されたとあっては、重い気持ちに鳴らざるを得なかった。

「また厄介な約束を一つ増やしちゃいましたねえ」

 どこに隠れていたのか、ミュウがアイルの横にフワリと座った。

「で、何を思いついたんでしょうか」

 アイルは先程思いついた、というよりも思い出したことをもう一度思い浮かべる。

「なるほど……。もしそれが出来るなら私としても願ったり叶ったりですが、二人が了承しますかね?」

 その時は、その時で考えるというアイル。

「アイルさんらしくていいですね。それでいってみましょう」

 ミュウもアイルの案に乗っかることにしたようだ。

 アイルが、これが上手く行けばミュウにあのような悲しい笑顔をさせずに済むだろうと考えた所で

「余計なお世話です」

 と怒られたのだった。
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