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第二章 火と土の魔女
SS-1 トルマの贈り物
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「うう、一緒に行きたい。でも、待ってるって約束したし」
土の魔女から一転、ただの幼い少女に戻ったトルマは悩んでいた。
リンジー達についてダナンという街に行くことに決めたのはいいが、やはりアイルについて行きたいという思いもあった。
だが、アイル達はこれから危険な旅に出るという。
既に魔法の力も失った自分では足手まといにしかならないというのは、ミュウからきつく言われたことでもあった。
「そうだ、ルビィちゃんに相談しよう」
こんな時はいつもお姉ちゃんとして自分の面倒を見てくれたルビィに相談するのが一番だと、早速ルビィの元へと走り出した。
「うーん、難しいなあ」
ルビィも悩んでしまった。
「こういう難しいことはリンジー姉ちゃんに聞けばいいじゃん!」
頭を使うことはリンジーに聞くに限ると覚えてしまったルビィは、トルマの手を引いてリンジーの元へ。
「なるほど、理屈の上ではダナンに行ったほうがいいとわかってはいるけれど、心はアイルさんと共に行きたい。わかる話です」
うんうんと深く頷くリンジー。トルマの思いには大いに共感できるところがあるようだ。
「ひとつ思いついたことがありますが、そのためにはマレーダーさんの協力が必要ですね。一緒に彼のところに行きましょう」
リンジーには何か案があるようで、二人の手を引いてマレーダーの部屋に向かう。
「えへへ、こうして歩いてるとお母さんみたい」
「おか……!」
トルマの何気ない一言に、若干落ち込んだ様子を見せたリンジーだったが、
「なるほど、そのまま母親代わりというのもありと言えばありですね」
などと、勝手に自己完結したようだった。
「なるほど、話はわかりましたが私が協力できる事とはなんでしょうか」
何やら色々と資料を広げて研究をまとめていた様子だったマレーダーは、眼鏡を上げながら三人を部屋に迎え入れた。
自分が受け継いだ魔女の力について、実験に余念がないらしい。
「トルマやルビィは既に普通の女の子ですから、アイルさん達についていくのは危険すぎます。ですがトルマは出来ればアイルさんについていきたい。そこで!」
リンジーは徐に立ち上がり、一度は閉めた扉を開く。
「いらっしゃい、八号」
部屋に入ってきたのは、ゴーレムの『ルビィちゃんぐれえと八号』であった。
「これは……八号を連れてきて一体どういう……まさか!」
頭の回転が早く、一を知れば十を知るようなマレーダーである。
リンジーが何を目論んでいるのか既に察したようだった。
「さすがはマレーダー大佐どの、最早何をすべきかわかったようですね」
にんまりと笑うリンジーだが、当のルビィとトルマは何もわかってないようであり、ぽかーんとしていた。
「なあなあ、八号を連れてきてどうするんだ」
ルビィはリンジーに答えをせがむ。トルマもうんうんと頷いている。
「この八号をトルマの代わりにアイルさん達に同行させるのです」
リンジーの答えにマレーダーは額を押さえて首を振る。
「まずは見た目をトルマそっくりに。出来れば色も付けたいですね、今のままでは人の住む街に入った時に目立ちすぎます。あとは簡単な会話も出来るようにしたほうがよいでしょう。私とマレーダーさんで会話のパターンを教え込めばかなりの会話に対応できるようになるでしょう。あとは簡単にローブでも着せておけば人間の少女のように見えるはずです」
ルビィとトルマは眼を輝かせた。
「すごい! そんなこと出来るのか!」
「あとは、この八号が見たものを記録しておけるようにすれば、後でアイルさん達が帰ってきた時にそれを見せてもらえばどんな旅だったのかわかるでしょう。どうせアイルさんは喋らないんですから、その代わりです。戦闘能力は既に折り紙つきですから、最高の用心棒にもなります」
「すごいすごい! そうかー、八号はそんなにすごいやつだったのかー!」
ルビィはすっかり興奮気味だし、トルマも眼を輝かせている。
「凄くするのは、あなた達の力を受け継いだマレーダーさんですけどね」
「いや、ちょっと待ってください。そんな簡単にいま言われたようなことが出来るわけ……出発まで二日しかないんですよ」
「大丈夫です。マレーダーさんなら出来ます。可愛いトルマの願いを叶えてあげてください」
必死に抵抗するもリンジーの冷たく容赦のない口撃にたじろぐマレーダー。
そこに、
「先生、むずかしい?」
トルマの必殺の無自覚上目遣い攻撃である。
男マレーダー三十二歳、独身。ダナンの政務と軍事、そして魔法の研究に明け暮れていたせいで、小さな子供と接する機会など皆無であった。
「が、頑張りますよ」
「ありがとう! 先生!」
こうして、とんでもないことを引き受けてしまったマレーダー。
その後、二人がゴーレムを作る時にどのように魔法を使っていたかヒアリングするも『なんとなく』『こんな風にって念じるの』という有難いアドバイスをいただき、彼は二日間徹夜することになる。
そして、ダナンに向かう一行が出発する予定の日の早朝。
「で、出来ました……」
今にも倒れそうにふらふらしているマレーダーの眼前には、トルマそっくりの姿をしたゴーレムが鎮座していた。
二人から受け継いだ魔法知識のおかげで、元々八号にかけられていた魔法がどんなものかを解析することは出来たので、それを一度ハイム文字に書き写し、外皮に色を付ける方法や言語能力を持たせる方法を研究して実験。
時にはモデルとしてトルマに来てもらい、どんな会話が出来るようにするかでリンジー嬢にも手伝ってもらい、途中でアイルとミュウに適当な理由をつけて部屋に来てもらって(主にミュウの)声のパターンをハイム文字化したり、この二日間は彼の人生の中でも最も過酷で密度の濃い二日間となった。
後年、彼は『この無茶なオーダーのおかげでゴーレムの仕組みを理解して、ハイム文字を駆使して作成する技術の足がかりとなった』と語っている。
それはともかく、完成した新しいゴーレムを三人にお披露目する。
「すごい! 先生すごい!」
ルビィが飛び上がって感動を表している。
「ありがと! 先生!」
トルマは思わずマレーダーに抱きつく。
「まさか本当に作ってしまうとは。ところで戦闘能力は落ちていませんよね? 試したいところですが、今からではその時間もありませんね」
半分冗談だったのに、という態度のリンジー。
「トルマそっくりになったから、ルビィちゃんぐれえとじゃおかしいよな。なんか新しい名前つけようぜ」
ルビィが提案する。
「そうですね、出発までにいい名前をみんなで考えましょう」
「それは……三人にお任せします……私は出発まで少し……休ませて」
言葉の途中で、マレーダーは長椅子にパッタリと倒れてそのまま寝てしまった。
「先生、ありがとう」
トルマは小声でマレーダーの寝顔に感謝した。
──────────────────
「これは……」
一行の見送りに来たミュウは絶句した。
「私はアイルお兄ちゃんと一緒に行けないから、代わりにこの子を連れて行って」
そう言ってトルマは自分そっくりのゴーレムを連れてきた。
アイルも眼を瞠る。
「ほら、ご挨拶」
ルビィが指示をすると、ゴーレムはそのまま自力でアイル達の前に歩いてきて、器用に礼をした。
「今後、お世話になります。よろしくお願いします」
「しゃ、喋った……」
またもやミュウは絶句し、アイルはさらに眼を見開いた。
「話し方は、私とマレーダーさんが仕込んだので、こんな口調ですが声はトルマの声を基本にしました」
事もなげに言うリンジーに対して、二人とも言葉もなかった。
「もちろん戦闘能力は先日お見せした通りですし、着色しただけですので防御力も落ちていません。多分。残念ながら記録機能までは搭載できませんでしたが、是非ともトルマの代わりに連れて行ってあげてください」
一緒に見送りに来たエルも苦笑するしかなかった。
「ははは、これは心強い旅の仲間が出来たじゃないか。よかったね」
「ええ……」
「ああ……」
まだ困惑気味の二人に、トルマが心配そうになる。
「迷惑だった? この子いらない?」
アイルは慌ててトルマを抱き上げると、にっこりと笑ってみせた。
「いや」
そう言って、頭を撫でる。
「マレーダーさんは?」
製作者であるマレーダーの姿が見えないのでミュウが尋ねる。
「これを作るのに、二日ほど徹夜をしたようですので、眠ったまま馬車に放り込んであります。おかげでかなりゴーレムの研究が進んだようです」
それを聞いては三人共苦笑するしかなかった。
「新しい名前もつけたんだ!」
そこへルビィが元気よく叫ぶ。
「じゃじゃーん! その名も『らぶりぃトルマちゃん八号』だ!」
「じゃあ八号で」
「うん」
前の長い名前も覚えていない二人だったので、最後の八号が変わっていないことを知ってそのまま八号でいいということにした。
「なんだよぅ、せっかく可愛い名前考えたのに」
拗ねるルビィ。
「ルビィ、トルマ。とっても可愛い名前です。ですが、私達がこのゴーレムをトルマと呼んでしまったら本物のトルマに失礼でしょう? だから八号と呼ぶのです。それぐらいトルマを大事に思っているということです。このゴーレムがルビィという名前でも私達は八号と呼びます。それはルビィを大切に思っているからです」
ミュウは二人の前に腰をかがめて、にっこりと笑ってそう言い聞かせた。
「なんだよ、へへ。まあ、それならいいけどさあ」
「えへへ、ありがと。ミュウお姉ちゃん」
アイルとエル、それにリンジーは上手く子供を丸め込むミュウの話術に舌を巻きつつ、ツッコまないことにした。
「じゃあね! お兄ちゃん、お姉ちゃん。早くダナンに帰ってきてね!」
「早く帰ってこないと、二人とも立派なレディになっちゃうからな!」
元気よく馬車に乗る二人とリンジーを見送りつつ、アイル達と一緒に器用に手を振る八号を見て、三人はもう一度苦笑した。
土の魔女から一転、ただの幼い少女に戻ったトルマは悩んでいた。
リンジー達についてダナンという街に行くことに決めたのはいいが、やはりアイルについて行きたいという思いもあった。
だが、アイル達はこれから危険な旅に出るという。
既に魔法の力も失った自分では足手まといにしかならないというのは、ミュウからきつく言われたことでもあった。
「そうだ、ルビィちゃんに相談しよう」
こんな時はいつもお姉ちゃんとして自分の面倒を見てくれたルビィに相談するのが一番だと、早速ルビィの元へと走り出した。
「うーん、難しいなあ」
ルビィも悩んでしまった。
「こういう難しいことはリンジー姉ちゃんに聞けばいいじゃん!」
頭を使うことはリンジーに聞くに限ると覚えてしまったルビィは、トルマの手を引いてリンジーの元へ。
「なるほど、理屈の上ではダナンに行ったほうがいいとわかってはいるけれど、心はアイルさんと共に行きたい。わかる話です」
うんうんと深く頷くリンジー。トルマの思いには大いに共感できるところがあるようだ。
「ひとつ思いついたことがありますが、そのためにはマレーダーさんの協力が必要ですね。一緒に彼のところに行きましょう」
リンジーには何か案があるようで、二人の手を引いてマレーダーの部屋に向かう。
「えへへ、こうして歩いてるとお母さんみたい」
「おか……!」
トルマの何気ない一言に、若干落ち込んだ様子を見せたリンジーだったが、
「なるほど、そのまま母親代わりというのもありと言えばありですね」
などと、勝手に自己完結したようだった。
「なるほど、話はわかりましたが私が協力できる事とはなんでしょうか」
何やら色々と資料を広げて研究をまとめていた様子だったマレーダーは、眼鏡を上げながら三人を部屋に迎え入れた。
自分が受け継いだ魔女の力について、実験に余念がないらしい。
「トルマやルビィは既に普通の女の子ですから、アイルさん達についていくのは危険すぎます。ですがトルマは出来ればアイルさんについていきたい。そこで!」
リンジーは徐に立ち上がり、一度は閉めた扉を開く。
「いらっしゃい、八号」
部屋に入ってきたのは、ゴーレムの『ルビィちゃんぐれえと八号』であった。
「これは……八号を連れてきて一体どういう……まさか!」
頭の回転が早く、一を知れば十を知るようなマレーダーである。
リンジーが何を目論んでいるのか既に察したようだった。
「さすがはマレーダー大佐どの、最早何をすべきかわかったようですね」
にんまりと笑うリンジーだが、当のルビィとトルマは何もわかってないようであり、ぽかーんとしていた。
「なあなあ、八号を連れてきてどうするんだ」
ルビィはリンジーに答えをせがむ。トルマもうんうんと頷いている。
「この八号をトルマの代わりにアイルさん達に同行させるのです」
リンジーの答えにマレーダーは額を押さえて首を振る。
「まずは見た目をトルマそっくりに。出来れば色も付けたいですね、今のままでは人の住む街に入った時に目立ちすぎます。あとは簡単な会話も出来るようにしたほうがよいでしょう。私とマレーダーさんで会話のパターンを教え込めばかなりの会話に対応できるようになるでしょう。あとは簡単にローブでも着せておけば人間の少女のように見えるはずです」
ルビィとトルマは眼を輝かせた。
「すごい! そんなこと出来るのか!」
「あとは、この八号が見たものを記録しておけるようにすれば、後でアイルさん達が帰ってきた時にそれを見せてもらえばどんな旅だったのかわかるでしょう。どうせアイルさんは喋らないんですから、その代わりです。戦闘能力は既に折り紙つきですから、最高の用心棒にもなります」
「すごいすごい! そうかー、八号はそんなにすごいやつだったのかー!」
ルビィはすっかり興奮気味だし、トルマも眼を輝かせている。
「凄くするのは、あなた達の力を受け継いだマレーダーさんですけどね」
「いや、ちょっと待ってください。そんな簡単にいま言われたようなことが出来るわけ……出発まで二日しかないんですよ」
「大丈夫です。マレーダーさんなら出来ます。可愛いトルマの願いを叶えてあげてください」
必死に抵抗するもリンジーの冷たく容赦のない口撃にたじろぐマレーダー。
そこに、
「先生、むずかしい?」
トルマの必殺の無自覚上目遣い攻撃である。
男マレーダー三十二歳、独身。ダナンの政務と軍事、そして魔法の研究に明け暮れていたせいで、小さな子供と接する機会など皆無であった。
「が、頑張りますよ」
「ありがとう! 先生!」
こうして、とんでもないことを引き受けてしまったマレーダー。
その後、二人がゴーレムを作る時にどのように魔法を使っていたかヒアリングするも『なんとなく』『こんな風にって念じるの』という有難いアドバイスをいただき、彼は二日間徹夜することになる。
そして、ダナンに向かう一行が出発する予定の日の早朝。
「で、出来ました……」
今にも倒れそうにふらふらしているマレーダーの眼前には、トルマそっくりの姿をしたゴーレムが鎮座していた。
二人から受け継いだ魔法知識のおかげで、元々八号にかけられていた魔法がどんなものかを解析することは出来たので、それを一度ハイム文字に書き写し、外皮に色を付ける方法や言語能力を持たせる方法を研究して実験。
時にはモデルとしてトルマに来てもらい、どんな会話が出来るようにするかでリンジー嬢にも手伝ってもらい、途中でアイルとミュウに適当な理由をつけて部屋に来てもらって(主にミュウの)声のパターンをハイム文字化したり、この二日間は彼の人生の中でも最も過酷で密度の濃い二日間となった。
後年、彼は『この無茶なオーダーのおかげでゴーレムの仕組みを理解して、ハイム文字を駆使して作成する技術の足がかりとなった』と語っている。
それはともかく、完成した新しいゴーレムを三人にお披露目する。
「すごい! 先生すごい!」
ルビィが飛び上がって感動を表している。
「ありがと! 先生!」
トルマは思わずマレーダーに抱きつく。
「まさか本当に作ってしまうとは。ところで戦闘能力は落ちていませんよね? 試したいところですが、今からではその時間もありませんね」
半分冗談だったのに、という態度のリンジー。
「トルマそっくりになったから、ルビィちゃんぐれえとじゃおかしいよな。なんか新しい名前つけようぜ」
ルビィが提案する。
「そうですね、出発までにいい名前をみんなで考えましょう」
「それは……三人にお任せします……私は出発まで少し……休ませて」
言葉の途中で、マレーダーは長椅子にパッタリと倒れてそのまま寝てしまった。
「先生、ありがとう」
トルマは小声でマレーダーの寝顔に感謝した。
──────────────────
「これは……」
一行の見送りに来たミュウは絶句した。
「私はアイルお兄ちゃんと一緒に行けないから、代わりにこの子を連れて行って」
そう言ってトルマは自分そっくりのゴーレムを連れてきた。
アイルも眼を瞠る。
「ほら、ご挨拶」
ルビィが指示をすると、ゴーレムはそのまま自力でアイル達の前に歩いてきて、器用に礼をした。
「今後、お世話になります。よろしくお願いします」
「しゃ、喋った……」
またもやミュウは絶句し、アイルはさらに眼を見開いた。
「話し方は、私とマレーダーさんが仕込んだので、こんな口調ですが声はトルマの声を基本にしました」
事もなげに言うリンジーに対して、二人とも言葉もなかった。
「もちろん戦闘能力は先日お見せした通りですし、着色しただけですので防御力も落ちていません。多分。残念ながら記録機能までは搭載できませんでしたが、是非ともトルマの代わりに連れて行ってあげてください」
一緒に見送りに来たエルも苦笑するしかなかった。
「ははは、これは心強い旅の仲間が出来たじゃないか。よかったね」
「ええ……」
「ああ……」
まだ困惑気味の二人に、トルマが心配そうになる。
「迷惑だった? この子いらない?」
アイルは慌ててトルマを抱き上げると、にっこりと笑ってみせた。
「いや」
そう言って、頭を撫でる。
「マレーダーさんは?」
製作者であるマレーダーの姿が見えないのでミュウが尋ねる。
「これを作るのに、二日ほど徹夜をしたようですので、眠ったまま馬車に放り込んであります。おかげでかなりゴーレムの研究が進んだようです」
それを聞いては三人共苦笑するしかなかった。
「新しい名前もつけたんだ!」
そこへルビィが元気よく叫ぶ。
「じゃじゃーん! その名も『らぶりぃトルマちゃん八号』だ!」
「じゃあ八号で」
「うん」
前の長い名前も覚えていない二人だったので、最後の八号が変わっていないことを知ってそのまま八号でいいということにした。
「なんだよぅ、せっかく可愛い名前考えたのに」
拗ねるルビィ。
「ルビィ、トルマ。とっても可愛い名前です。ですが、私達がこのゴーレムをトルマと呼んでしまったら本物のトルマに失礼でしょう? だから八号と呼ぶのです。それぐらいトルマを大事に思っているということです。このゴーレムがルビィという名前でも私達は八号と呼びます。それはルビィを大切に思っているからです」
ミュウは二人の前に腰をかがめて、にっこりと笑ってそう言い聞かせた。
「なんだよ、へへ。まあ、それならいいけどさあ」
「えへへ、ありがと。ミュウお姉ちゃん」
アイルとエル、それにリンジーは上手く子供を丸め込むミュウの話術に舌を巻きつつ、ツッコまないことにした。
「じゃあね! お兄ちゃん、お姉ちゃん。早くダナンに帰ってきてね!」
「早く帰ってこないと、二人とも立派なレディになっちゃうからな!」
元気よく馬車に乗る二人とリンジーを見送りつつ、アイル達と一緒に器用に手を振る八号を見て、三人はもう一度苦笑した。
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