123 / 252
第四章 本当の親子
123 時代遅れの名家
しおりを挟む「そういえば俺、一つ気になってたんだけどさ……」
じゃれ合いが落ち着いたところで、マキトが切り出した。
「そもそもどうして、赤ん坊のアリシアを捨てることになっちまったんだ? セアラさんが自分で捨てといて後悔してるってのも、よく分かんないし」
「だ、だから! それは私の本意じゃなかったのよ!」
マキトが言い終わるや否や、セアラが血相を変えて叫び出した。
「何も知らないくせに、勝手なことを――」
「お母さん!!」
捲し立てるセアラをメイベルが一喝して止める。ちなみにマキトは、魔物たちとともに呆気にとられた表情で固まっていた。
「マキト君は何も知らないからこそ、本当のことが知りたくて聞いただけだよ。みっともないことは止めて」
「メイベル……」
セアラは呆然としながら娘を見るが、メイベルは即座に母親から視線を逸らし、マキトのほうに体ごと向き直り、深々と頭を下げる。
「ゴメンなさいマキト君。母が醜い八つ当たりをしてしまいました。どうかここは私に免じて、許してもらえないかな?」
「えっ? あぁ、いや、俺は別に……ちょっとビックリしただけだから」
まさかここまでしっかり謝られるとは思わず、マキトは別の意味で尻込みする。これには流石のノーラも予想外だったのか、目を軽く見開いていた。
「すごい……メイベルがまるで貴族のおじょーさまみたい」
「まぁ、似たようなモノだからね。これでもそれなりに教育されてるんだよ」
顔を上げながら苦笑するメイベル。数秒前まで見せていた表情は消え失せ、いつもの雰囲気に戻っていた。
そして話を仕切り直すべく、コホンと一つ咳ばらいをする。
「アリシアが生まれてすぐに家から追放された件ですが……ここからは私が話していきたいと思います。母から全て聞いてますので」
「ありがとう、メイベルさん」
ユグラシアがニッコリと微笑んだ。彼女もアリシアが捨てられた経緯は、大いに気になっていたのだ。それを知る絶好のチャンスを、逃す手はない。
マキトたちもこぞって興味津々な表情で注目してきており、それに対してメイベルは小さな笑みを浮かべた。
「原因を一言で言い表すならば……『時代遅れの名家』と言うべきでしょうか」
メイベルとセアラの実家は、魔導師の名家であった。貴族でこそないが、それに準ずる立場を持ち、貴族社会にもその名が知られているほどであった。
その家は、世界有数の魔導師を代々に渡って輩出してきた。
故に生まれてくる子供は、大きな魔力と魔導師の才能を持っていることが、絶対条件だとされるのは、至って自然なことであった。
そのどちらかでも当てはまらない場合は、即刻その子供は処分される。
それもまた、数十年前から続く、その家のしきたりであった。
残酷としか思えない考えも、全ては誇り高き魔力を汚さないため。そして魔導師としての優秀な血を絶やさないためとされていたが――それもあくまで昔の話。
現代においては、もはやしきたりは意味を成していないも同然であった。
ここ数十年で魔法具の開発も劇的に進み、たとえ魔導師でなくとも、魔法関係の道で名を馳せる者も決して少なくない。
しかしながらメイベルの実家は、未だ魔導師にこだわり続けている。
それで成功を続けてしまったが故に変えられない。誰も気にしなかったとしても自分たちのプライドが許せない。そんな『時代遅れ』を辿る、典型的な古き家柄でしかないのだった。
特にメイベルの祖父――先代当主であるウォーレスがその筆頭であった。
「凄まじい魔力を持っているのに、肝心の魔導師の適性を持たない子が生まれたと知らされた時、おじい様は凄まじく失望したらしいよ。ようやく生まれてきて、この体たらくか――ってね」
肩をすくめるメイベルに、マキトは顔をしかめる。
「また酷い言い方してくるもんだな」
「言ったでしょ? 時代遅れの名家だって。昔の当たり前を、今でもさも当然のように持ち込んでくるみたいなね」
「へぇー」
呟くように相槌を打ちながら、マキトはクッキーを一枚咥える。
「それで、その生まれてきた子ってのがアリシアだったんだ?」
「うん。もっともその時点では名前も与えられず、すぐに追放が決定したの」
その時点では、まだ生まれたばかりである。故に事実上の始末――いわゆる死を与える以外の何物でもない。
惨いことこの上ないやり方も、数十年前は珍しくなかったのだ。
もっともそれはあくまで昔の話であり、今ではご法度とすら言われるほどだ。それをウォーレスは、当たり前のように実行したのである。
「自分たちの手を汚さないよう転送魔法を使って、人里離れた遠いどこかに座標を設定して飛ばした――そこから先は知ったこっちゃないって感じでね」
「でも、アリシアは助かったんだよな?」
「そうだね。見つけてくれた冒険者夫婦の人たちには、感謝してもしきれないよ」
尋ねてきたマキトに、アリシアが小さな笑みを浮かべる。ちなみに彼女は今、マキトの隣に座ってフォレオを抱きしめていた。
自分の壮絶な過去に胸が締め付けられるような気持ちに駆られるが、それをフォレオの温もりが癒してくれている。
どうやらフォレオもそれを悟っているらしく、大人しく抱かれたままだった。
「それでその後に、メイベルが生まれてきたってことだよね?」
クッキーを頬張るフォレオの頭を撫でながら、アリシアが尋ねる。
「そーゆーことになるかな。私は魔力も魔導師の適性にも恵まれたから、おじい様も凄く喜んでいたって言ってたよ」
嬉しいけどあまり嬉しくも思えない――そんな複雑そうな笑みを浮かべつつ、メイベルは肩をすくめる。
「お母さんはおじい様の子供の中で、一番の才能も能力も持っていたからね。だからこそ跡継ぎも、姉である伯母様を選ばなかったらしいし。要はそれだけお母さんから生まれてくる子供に、おじい様は期待してたってことなんだよ」
「でも、最初に生まれてきたアリシアは……」
チラリと視線を向けるマキトに、メイベルは小さく頷いた。
「もし私も同じような生まれ方をしていたら、きっと私だけじゃなく、お母さんも処罰の対象になっていたかもね」
「え、そこまでか?」
「おじい様ならそれぐらいのことはすると思うよ? まさに最高の結果であり、首の皮一枚繋がったとも言える感じかな」
メイベルは苦笑しながら肩をすくめる。
「今はお母さんが当主の座を受け継いでるけど、親戚からは『野心がない!』ってイマイチな反応なのよね。野心だけなら伯母様のほうが圧倒的に上だし」
「メ、メイベル……そこまで言わなくても」
「何よぉ、事実じゃないのさ」
セアラがやんわりと制しようとしてくるが、メイベルは止まらない。
「おじい様も言ってたよ? ディアドリー伯母様にもう少し才能があれば、間違いなく跡取りは妹のセアラではなくアイツだった、ってね」
「なるほど。まぁ、よくある話とも言えそうね」
ユグラシアが仲裁も込めて話に入った。それ自体はアリシアも納得であり、確かにねぇと言わんばかりに頷いている。
「ねぇ、メイベル。そのディアドリーさんって、今でも当主の座を狙い続けているとか言ってなかったっけ?」
「そうだよ。まさに野心の塊ってヤツだね」
アリシアの問いに頷きつつ、メイベルは小さなため息をつく。
次期当主として幼い頃から英才教育を受けてきた彼女も、ディアドリーからねちねちと嫌がらせめいた説教を聞いてきたのだった。
たまに開かれる家の集まりでも、次期当主相手に先輩として指導するという名目であれこれ難癖付けてくるのが恒例となっていて、メイベルからしてみればうんざりしている以外の何物でもなかった。
「……姉さんのしていることは、単なる癇癪に過ぎないわ」
セアラが膝の上に置いた手をギュッと握り締める。
「お父様も周りも、跡取りはメイベルであることを殆ど決定事項としている。今更何をしようが、それが覆ることはないもの」
「だからと言って放っておくのもねぇ。被害を受けてるのは私なんだし」
しかしメイベルは、それを周りに訴えても意味がないことは知っていた。次期当主としてそれぐらいなんとかしろ――そう言われるのがオチだからだ。
「ん。アリシアのことはいいの?」
ここでずっと黙っていたノーラが、口を開いた。
「アリシアがその家に帰れば、跡継ぎの話とかが色々とややこしくなりそう」
「――あぁ、うん。確かにそれも懸念されてたんだけどね」
まさかノーラがそれを指摘してくるとは思わなかった――それが戸惑いとなって表れつつ、メイベルが苦笑する。
「結論から言っちゃえば、別に問題はないって感じよ」
確かにアリシアという存在が出てきて、一時は家中が騒然とした。十六年前に死んだと思われた子が生きていたのだから無理もない。
しかし相変わらず魔導師の適性が一切なく、なおかつアリシア自身が本家に対して恨みを抱いていないと分かった瞬間、誰も苦い顔をしなくなったという。
要するに名家の顔に泥を塗らず、跡取り問題さえ拗れなければ、認識しようが受け入れようが好きにしてくれというのが周りの考えなのだ。むしろ森の賢者ユグラシアと繋がりがある人物ということで、丁重に出迎えてあげなさいと言う者も出てくるほどであった。
そこまで話し終えたところで、メイベルが深いため息をつく。
「なんてゆーか……全く現金にも程があるってもんよ」
「ホントにね。恨みがない以前に、そもそも興味がないだけだっていうのに……」
頬杖をつきながらそう言い放つアリシア。そんな彼女に対して、セアラは悲しそうな表情を浮かべるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる