透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

183 幕間~とある魔族王子の奮闘・霊獣~

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「きゅいきゅいー♪」

 ラティたちと一緒に来たフェレット型の霊獣は、カイにベッタリだった。マキトたちからすれば、単なる微笑ましい光景に他ならないが、当のカイにしてみれば困惑以外の何物でもなかった。

「この子はカイさんのこと、木の実をくれた恩人だと認識しているのです」
「ふーん。ラティたちについてきたのも、カイさんに会えると思ったからかな?」
「かもしれないのです」

 ラティとマキトが和気あいあいと話している姿を見て、カイは助けてくれそうにもないと思った。
 否――そもそも周囲からすれば、助けるようなことでもないことは分かる。
 霊獣に懐かれているだけで危害は一切ない。ましてや普通ならあり得ないに等しいことなのだから、尚更と言えるだろう。
 それでも、この状況をどうすればいいのかが、正直カイには分からない。

「なんかカイさんと一緒にいたいって言ってるみたいだな」
「実際、そう言ってるのです」
「やっぱりか」

 マキトたちの会話を聞くまでもない。霊獣はカイにしっかりとしがみつき、離れようとしていない。カイが離そうと試みてみたが、ただ単に服が引っ張られるだけであった。

「カイさん。迷惑じゃなければ、連れて帰って面倒見てあげたらどう?」
「それがいいのです。その子もそれを望んでるのです」
「――きゅいっ♪」

 マキトとラティの言葉に、霊獣が即座に反応を示した。まるでそれが名案だと言わんばかりに。
 一方のカイは、どうしたもんかと思いながら、霊獣を見つめている。

「急に言われても困るが……まぁ妹も最近、似たようなことをしてきたからな」
「へぇー、妹さんがいるのですか?」

 採取してきた木の実を手に取りながら、何気なくラティが尋ねると――

「あぁ、恐らくこの世で一番素晴らしいと思われる妹がな!」

 カイの口調が変わった。ついでに言うと表情も――なにより目つきが変わった。

「そもそも我が妹は――」

 マキトやノーラ、そして魔物たちが呆気に取られる中、カイは熱弁する。妹がいかに可愛くて優秀で将来性溢れる存在であるかを。
 激しい身振り手振りをしながら語る姿は、完全に自分の世界に浸っていた。
 さっきまで見せていた厳しい態度は、一体どこへ行ってしまったのか――本気でそう尋ねたくなるほど、今の彼は完全に別人に見えていた。

「――ということから、我が妹の素晴らしさが際立っているワケだ」
「は、はぁ……」
「分かってくれたようでなによりだ。要するに我が妹は、常に未来を見据え――」

 マキトの返事は、明らかに分かっていない返事であったが、カイはそんなこと気にも留めずに語り続ける。
 その後も「はぁ」と「へぇ」と「なるほど」といった、三パターンの返事をマキトは繰り返していたが、やはりカイは気持ち良さそうに語るばかりだった。
 試しに相槌を打たずに黙って聞いていたら――本当になんともなく話が続いた。
 もはや完全に、目の前にいるマキトたちのことすら見えていない。
 彼の脳内に浮かぶ『妹』なる存在しか見えていないのだと、流石のマキトでも気づいてしまう。
 もっとも気づいたからといって、そこから何かを思うこともなかった。
 何故なら興味がないからだ。
 相手が勝手に語り出し、勝手にベラベラと喋り続けている変な人――マキトからすればその程度の認識でしかないのだ。
 ついでに言えば、ノーラやラティたちも似たような認識である。

「――とまぁこんなところだ。我が妹の素晴らしさを聞いてくれて感謝するぞ」

 熱く語り尽くしてスッキリしたのだろう。晴れやかな笑顔でカイはマキトたちに礼を言った。やはりマキトたちは、無表情で生返事をするだけだったが、当の本人はまるで気にも留めず、気持ち良さそうに笑うばかりであった。
 そして――

「そうそう。私はキミたちのことも、素晴らしいと思っているからな」

 カイは突如として、マキトとノーラに向けてそう言った。急にどうしたのと尋ねる前に、カイが言葉を続ける。

「キミたちには筋がある。それ故に、さっきの解体作業の特訓は、少しばかり早いペースで教えてしまったんだ。どこかしらでへこたれる予想はしていたんだが、まさかあそこまで付いてくるとは思わなかったよ」

 そう言われたマキトとノーラは、目をパチクリとさせた。そして二人は無言のまま顔を見合わせ、そして再びカイに視線を戻す。

「……ひょっとして、褒めてくれてる?」
「それ以外に何があるというんだ」

 戸惑いながら尋ねるマキトに、カイは苦笑する。そして彼は手を伸ばし、マキトの頭をグシャグシャと荒っぽく撫でた。

「精進を怠らないことだ。キミたちのこれからの成長に、期待しているよ」

 そしてカイは、手を放しながらニコッと笑う。それに対してマキトは、撫でられてずれかけたバンダナに手を伸ばしつつ――

「はいっ!」

 しっかりとした返事とともに、強く頷くのだった。


 ◇ ◇ ◇


 森の中で一夜を明かしたマキトたち。カイはパートナーのドラゴンに乗り、森から旅立とうとしていた。
 一匹の新しい仲間を連れて。

「カイさん、色々と教えてくれてありがとう」
「あぁ、こちらこそ。私も色々といい経験をさせてもらったよ」

 マキトとカイが強く握手を交わす。そしてマキトは、彼の肩から身を乗り出している存在に目を向けた。

「キューロンも、またいつか会おうな」
「きゅいっ」

 フェレット型の霊獣は、カイとともに行くことが決まった。カイがなんとなく名づけた名前は、いたく気に入った様子であり、もうすっかりその名前で自身を認識している状態である。
 そんなキューロンは、ラティたちとこの一晩で友達になった。
 故に少しばかり別れが寂しく思えてしまっていた。

「きゅいきゅい……」
「大丈夫なのです。きっとまた会えることを信じてるのです」
「キュウッ」
『ぼくたちはともだちだもんね!』
「――きゅいっ!」

 ラティたちの言葉にキューロンは励まされた。特に最後のフォレオの言葉が、大きく効いたようである。
 そしてキューロンを肩に乗せたカイは、颯爽とドラゴンに飛び乗った。

「じゃあな! またどこかで会おう!」

 そう力強く告げた瞬間、ばっさばっさと翼が大きく羽ばたき出す。大きな風圧とともにドラゴンの巨体がゆっくりと浮かび上がった。

「さようならー、カイさーん!」
「バイバイなのですー!」

 マキトとラティが、大きく手を振りながら声を上げる。ノーラやロップル、そしてフォレオも手を振りながら笑顔で見上げていた。
 やがてドラゴンが大空を飛び立ち、あっという間に姿が見えなくなる。
 咆哮が遠く聞こえたところで、マキトたちは手を静かに下ろした。

「行っちゃったな……」
「ん。行っちゃった」

 マキトとノーラが呟いた途端、ざあぁっと風に揺れる木の葉の音が鳴り響く。それがどうにも寂しさを感じさせてならない。

「ちょっと怖かったけど、凄くいい人だったよな」
「ん。ノーラたちのことを思って、あんなに厳しくしてくれた。感謝すべき」
「今度会ったら、改めてありがとうを言いたいのです」
『もっとつよくなったところをみせたいね』
「キュウ♪」

 しかしすぐに彼らは、いつもの明るい様子で気持ちを切り替える。カイとはきっとまた会える――そう信じているからだ。

「さーて、それじゃあ俺たちも、そろそろ神殿に帰ろうか」

 マキトの掛け声に皆が頷き、解体した素材をまとめた袋をそれぞれ持ち、森の神殿への道を歩き出す。

「この素材を見せたら、ユグさん驚いてくれるかな?」
「ん。きっと驚く」
「カイさんのこともちゃんと話したいのです」
「そうだな」
「キュウキュウ!」
『かえったらなんかたべたーい』
「はいはい、分かったよ」

 和気あいあいと喋りながら、マキトたちは森の中を歩いていく。
 カイが何故この森に訪れたのか、どうしてあんな誰も来ないような場所をうろついていたのか――それについて彼らが疑問を浮かべることは、終ぞなかった。

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