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目蓋が重たくうまく開かない。それでもゆっくりとその目を開き視界に入ってくる景色を映し出す。それと同時に今自分が置かれている状況を少しずつ理解していく。頬に感じるのは少しごわついた布の感触。ゆらゆらと揺れる俺の体がその布で擦れて若干痛い。だけど頬と体に感じるぬくもりは好ましくほっとした。
(ここは…?)
そっと目だけを動かし視界に入るものをとらえた。
(布…ちょっと汗臭い。後暗い?)
ぼんやりとしていてまだ目覚めない思考を無理やり動かし俺はやっと理解した。
(母さん…)
ジワリと目に涙が貯まってきた。母さんに拾われ子フェンリルやクロと過ごした日々を思い出す。このままずっと一緒に生きていくんだと思っていたんだ。だけど母さんは俺と別れることを選んだ。うん…俺だって大人だったころの記憶があるからわかるよ。このまま人の世界を知らないまま過ごすのはよくないことだって。だけどもう少し…もう少しだけ一緒にいたかったよ…
「よし、あとちょっとで森を抜けるわ!」
「最後まで油断しないでくれよ」
「わかってるっ」
「ちょっと声が大きいよ? まだこの子寝てるんだから静かにしてよね」
そういえばこの人たちは何なんだろうか? 今まで一度も人を見かけなかったのに急にやってきたんだよね。しかもどうやら俺を連れ帰るのが目的らしいし?
(あ…)
きらりと木々の間から光が差し込んできて俺の視界に入ってくる。薄暗い森の中と違って外はどうやら日が昇り始めたみたいだね。
「ん、起きたか坊主。もう少しで外だから我慢してくれよな」
眩しさに顔をあげたら後ろを歩く男が声をかけてきた。
「なんだまだ泣いているのか? もう大丈夫だから安心しろって」
顔が熱くなるのを感じて俺は顔を伏せた。感情のまま泣き叫んだことが今になって恥ずかしいと思えて。相変わらず俺が泣いていた理由は勘違いされたままだが今は訂正する気はおきない。そう、ただ大きな獣に小さな子供が怖くなり泣き叫んだだけ…そう思われていた方がましな気がするし、育ての親元から引き離されるのが嫌だっただなんて理由だとあまりにも子供っぽい。いやまだ俺子供だからいいんだけどね。なんとなく嫌なんだ。
「クラックあんまりからかうなよ」
「いやそんなつもりはなかったんだけどな…わるい」
「2人とも外が見えてきたわよ」
前を歩く女の人がそういうと俺も含めたみんなが前の方へと視線を向ける。森が切れてとても明るい世界がそこには見えていた。初めてかもしれないな…ここまで明るく照らされる世界を目にするのは。
あまりのまぶしさに目を細め、それでもそらすもんかとその先を見つめた。
「草原…」
「ああそうだ。森を抜けた先は草原がしばらく続いて、少し行ったところに小さな村がある。今日はひとまずそこで一休みしようか」
「賛成! もうくたくたよ~」
「ロザリは荷物少ないし僕よりましだろう?」
「何言ってんのよ荷物って言ったってあんただって…ああ、そういえば子供背負ってたっけ」
「あの、俺歩けます…」
俺はするりと背中から抜け出し地面へと降りた。そうだ、大人の足について行けるように脚力をあげておかないとね。
「いや、だけど子供の足だとまだ距離があるし…」
「脚力強化…これで問題ないよね?」
「「「…はぁ~!?」」」
うわっ こんな近くで大きな声を出されたら耳が痛いよ。両耳を塞ぎ3人の顔をそれぞれ見ると誰もが驚いた顔をしていた。
「問題ありありだな…」
「この年で…驚きですね」
「ねえちょっとこの子普通じゃないわよ?」
いつの間にか歩いていた足が止まっていて俺は3人から見下ろされていた。何がいけなかったんだろうか…迷惑かけないようにちゃんとスキル使っただけなのに。
「ひとまず村について一息ついてからにしないか?」
「…だな」
「ということらしいわよ。君…えーと名前は?」
「…名前?」
あれ…そういえば俺って名前あるのか? 生まれて割とすぐ捨てられたし、あるのだろうか?
「ロザリまた問題増やして…」
「いやだって名前ないと呼びにくいじゃないっ まさか自分の名前がわからないとは思わないでしょう?」
「よし…急ごう! 全部後だっ」
いやこれは笑うしかないわ。名前なんて必要なかったから全く気にしもしてなかっただなんて…
歩き出した3人を追いかけ俺もついていく。ちらりと一度だけ自分が育った森に視線を送ると空に数羽鳥が飛んでいるのが見えた。
(そういえばクロとはお別れ出来なかったな…)
ぶんぶんと頭を振りくるりと体の向きを変えまっすぐに前を見て俺は歩き出した。
*****
『どうやら何事もなく森を抜けたようだな』
俺は森の上を旋回しながら人間たちの行動を眺めていた。すると少しして足を止め何かをやっている。話…をしているようにも見えるがいかんせん距離があるので内容は全く聞こえてこない。何もこんなところで立ち止まって話などしなくてもと思わないでもないが、もしかすると大事なことを話し合っているのかもしれないしな。口を出せない以上黙って見ているしか出来ないってわけよ。
『お、ちょっと先に人間どもの集落があるな』
きっとこいつらは今からそこを目指すのだろう。先回りしておくか? いや…本当にそこへ向かうのかはっきりしていないしここは大人しく動き出すのが待つ方がいいだろう。それにしても中々動き出さねえ…
『ん? 坊主はここから歩くのか。まあ背負われているより早いしそれがいいわな』
よし…やっと動いてくれそうだ。それなら俺も少しだけ遅れて動きますかね~
森すれすれを飛んでいた俺は少しだけ高度を上げ森の上に飛び出した。すると坊主がこっちのほうを眺めていた。気のせいでなければ一瞬目があったきもする。だけど流石にこの距離で他にも飛んでいる鳥を区別できるとも思えねぇ。坊主は偶然こっちを見ただけさと自分に言い聞かせる。どうせなら合流したいところなんだが、あの人間たちの行動をもう少し見てからの方がいい。やべぇやつらだとわかったら容赦しねぇしな。
それにしても…こう…障害物が少ないというのも中々緊張するもんだね~ 飛びやすいと言えばそうなんだが。普段暗いところで過ごしていたから落ち着かないったらないね。
おっとどうやら集落についたみたいだな。木で出来た柵の先へと入っていくのが見えた。多分あそこから集落なんだろうね。柵の内側にはいろんな食いもんが植わっているし、ちらほらと建造物や他の人間も見える。よしよし、これでやっと俺も一休みできるってもんだ。
一つの建造物に3人の人間と坊主が入っていくのを確認した。きっと今日はそこで休むのだろう。んじゃ俺もその家のお向かいの建造物の上で一休みしますか。念のために魔力の動きだけは気にかけつつになるがいたしかたない。
(ここは…?)
そっと目だけを動かし視界に入るものをとらえた。
(布…ちょっと汗臭い。後暗い?)
ぼんやりとしていてまだ目覚めない思考を無理やり動かし俺はやっと理解した。
(母さん…)
ジワリと目に涙が貯まってきた。母さんに拾われ子フェンリルやクロと過ごした日々を思い出す。このままずっと一緒に生きていくんだと思っていたんだ。だけど母さんは俺と別れることを選んだ。うん…俺だって大人だったころの記憶があるからわかるよ。このまま人の世界を知らないまま過ごすのはよくないことだって。だけどもう少し…もう少しだけ一緒にいたかったよ…
「よし、あとちょっとで森を抜けるわ!」
「最後まで油断しないでくれよ」
「わかってるっ」
「ちょっと声が大きいよ? まだこの子寝てるんだから静かにしてよね」
そういえばこの人たちは何なんだろうか? 今まで一度も人を見かけなかったのに急にやってきたんだよね。しかもどうやら俺を連れ帰るのが目的らしいし?
(あ…)
きらりと木々の間から光が差し込んできて俺の視界に入ってくる。薄暗い森の中と違って外はどうやら日が昇り始めたみたいだね。
「ん、起きたか坊主。もう少しで外だから我慢してくれよな」
眩しさに顔をあげたら後ろを歩く男が声をかけてきた。
「なんだまだ泣いているのか? もう大丈夫だから安心しろって」
顔が熱くなるのを感じて俺は顔を伏せた。感情のまま泣き叫んだことが今になって恥ずかしいと思えて。相変わらず俺が泣いていた理由は勘違いされたままだが今は訂正する気はおきない。そう、ただ大きな獣に小さな子供が怖くなり泣き叫んだだけ…そう思われていた方がましな気がするし、育ての親元から引き離されるのが嫌だっただなんて理由だとあまりにも子供っぽい。いやまだ俺子供だからいいんだけどね。なんとなく嫌なんだ。
「クラックあんまりからかうなよ」
「いやそんなつもりはなかったんだけどな…わるい」
「2人とも外が見えてきたわよ」
前を歩く女の人がそういうと俺も含めたみんなが前の方へと視線を向ける。森が切れてとても明るい世界がそこには見えていた。初めてかもしれないな…ここまで明るく照らされる世界を目にするのは。
あまりのまぶしさに目を細め、それでもそらすもんかとその先を見つめた。
「草原…」
「ああそうだ。森を抜けた先は草原がしばらく続いて、少し行ったところに小さな村がある。今日はひとまずそこで一休みしようか」
「賛成! もうくたくたよ~」
「ロザリは荷物少ないし僕よりましだろう?」
「何言ってんのよ荷物って言ったってあんただって…ああ、そういえば子供背負ってたっけ」
「あの、俺歩けます…」
俺はするりと背中から抜け出し地面へと降りた。そうだ、大人の足について行けるように脚力をあげておかないとね。
「いや、だけど子供の足だとまだ距離があるし…」
「脚力強化…これで問題ないよね?」
「「「…はぁ~!?」」」
うわっ こんな近くで大きな声を出されたら耳が痛いよ。両耳を塞ぎ3人の顔をそれぞれ見ると誰もが驚いた顔をしていた。
「問題ありありだな…」
「この年で…驚きですね」
「ねえちょっとこの子普通じゃないわよ?」
いつの間にか歩いていた足が止まっていて俺は3人から見下ろされていた。何がいけなかったんだろうか…迷惑かけないようにちゃんとスキル使っただけなのに。
「ひとまず村について一息ついてからにしないか?」
「…だな」
「ということらしいわよ。君…えーと名前は?」
「…名前?」
あれ…そういえば俺って名前あるのか? 生まれて割とすぐ捨てられたし、あるのだろうか?
「ロザリまた問題増やして…」
「いやだって名前ないと呼びにくいじゃないっ まさか自分の名前がわからないとは思わないでしょう?」
「よし…急ごう! 全部後だっ」
いやこれは笑うしかないわ。名前なんて必要なかったから全く気にしもしてなかっただなんて…
歩き出した3人を追いかけ俺もついていく。ちらりと一度だけ自分が育った森に視線を送ると空に数羽鳥が飛んでいるのが見えた。
(そういえばクロとはお別れ出来なかったな…)
ぶんぶんと頭を振りくるりと体の向きを変えまっすぐに前を見て俺は歩き出した。
*****
『どうやら何事もなく森を抜けたようだな』
俺は森の上を旋回しながら人間たちの行動を眺めていた。すると少しして足を止め何かをやっている。話…をしているようにも見えるがいかんせん距離があるので内容は全く聞こえてこない。何もこんなところで立ち止まって話などしなくてもと思わないでもないが、もしかすると大事なことを話し合っているのかもしれないしな。口を出せない以上黙って見ているしか出来ないってわけよ。
『お、ちょっと先に人間どもの集落があるな』
きっとこいつらは今からそこを目指すのだろう。先回りしておくか? いや…本当にそこへ向かうのかはっきりしていないしここは大人しく動き出すのが待つ方がいいだろう。それにしても中々動き出さねえ…
『ん? 坊主はここから歩くのか。まあ背負われているより早いしそれがいいわな』
よし…やっと動いてくれそうだ。それなら俺も少しだけ遅れて動きますかね~
森すれすれを飛んでいた俺は少しだけ高度を上げ森の上に飛び出した。すると坊主がこっちのほうを眺めていた。気のせいでなければ一瞬目があったきもする。だけど流石にこの距離で他にも飛んでいる鳥を区別できるとも思えねぇ。坊主は偶然こっちを見ただけさと自分に言い聞かせる。どうせなら合流したいところなんだが、あの人間たちの行動をもう少し見てからの方がいい。やべぇやつらだとわかったら容赦しねぇしな。
それにしても…こう…障害物が少ないというのも中々緊張するもんだね~ 飛びやすいと言えばそうなんだが。普段暗いところで過ごしていたから落ち着かないったらないね。
おっとどうやら集落についたみたいだな。木で出来た柵の先へと入っていくのが見えた。多分あそこから集落なんだろうね。柵の内側にはいろんな食いもんが植わっているし、ちらほらと建造物や他の人間も見える。よしよし、これでやっと俺も一休みできるってもんだ。
一つの建造物に3人の人間と坊主が入っていくのを確認した。きっと今日はそこで休むのだろう。んじゃ俺もその家のお向かいの建造物の上で一休みしますか。念のために魔力の動きだけは気にかけつつになるがいたしかたない。
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