異世界でかけあがれ!!

れのひと

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 あの日俺はいつものように仕事をこなしていた。会社を出ていつものように営業を回り、時折かかってくる電話の対応をする。気分は少し落ち込み気味だった。お断りの連絡ってやつをうけたからな。

「ん? はい…こんな時間に電話とかめずらしいね」

 電話が鳴り画面を確認すると今現在お付き合いをしている女性からの連絡だった。丁度仕事のきりもついたので一度会社に戻ろうと思っていたところだったので、その前にかかってきた電話につい出てしまったのがいけなかったのかもしれない。

「…え? いや別れたいってどうして…」

 それは俺と別れたいという話だった。相手はこっちの話もろくに聞かず言いたいことだけを言って電話を切る。俺は何が起こっているのかわからず呆然とその場で立ち尽くしていた。ただじっと電話の画面を見つめ今の出来事を頭の中で繰り返し、理解しようと努めた。そんな時、

「そこを、どいてくれえええええ~~っ」

 どこかからか声が聞こえた。だけど俺は今目の前で起こっていることに頭がいっぱいですぐに動けなかった…すると次の瞬間、どんっ という衝撃とともに俺の体が前へと倒れこんでいった。痛みと熱さと転がっているナイフが目に入り状況を理解した。走り去っていく足音の方を見ると背格好から若い男だと言うことだけがわかった。

 気がつくと目の前に知らない人がいて川に落とされてフェンリル母さんとの出会い。フェンリル母さんにお世話になることになってから色々教えてもらったり、お互い協力しあい…

 …眩しい。視線を動かすとどこかの部屋のベッドに横になっていて、窓から差し込む光が俺の顔にあったていた。ゆっくりと体を起こすと隣に女の人が寝ているのが目に入った。

「ああ…そっか」

 昨日泣きながら叫んでそのままだったことを思い出す。どうしてロザリさんと一緒にベッドで寝ていたのかはわからないけど、3歳の子供である自分となら誰と一緒に寝ていたって問題はないので。どうやら夢を見ていたみたいだけど、どうも違和感を感じている。何かが違うと感じるのだけどそれが何なのかわからない。わからないのなら今考えても仕方がないのでまた気になった時にでも考えることにする。

「…クリーン」

 昨日あのまま寝てしまったみたいで掃除していなかったこの部屋をスキルで綺麗にする。これで後クラックさんが寝ている部屋を綺麗にしたら全部の部屋が終わるけど、起きているかわからないので後でそれを確認してから連れて行ってもらおうかな。

 部屋を出て階段を降り1階へと向かう。その途中夢のことを思い出してちょっと落ち込む。連続で運がなさすぎじゃないだろうかと思った。

「あ」
「起きたのか…」

 1階に降りるとトールさんがすでにいて俺が来たことに気がついて椅子から立ち上がった。

「はい、昨日は騒いですみませんでした」
「いや…っ 悪いのはこっちだ。色々と聞きすぎたと今では思っている。すまなかった」
「謝らないでください。俺も自分のことなのにわからないのがいけないんですから」
「そうじゃない! まだ3歳なんだろう?? わからなくて当たり前なんだ。だから僕が色々聞いたことだって本人であろうと理由がわからないこともある」

 なんだ…トールさんただのいい人じゃないか。自分のことをもうちょっとちゃんとはなしてみようか。どんな内容であろうと全部嘘だとは決めつけず、どうして俺がこんなことを言っているのか考えてくれそうだ。

「トールさん、実は俺…大人の記憶を持っているんです」





*****





 宿のお姉さんに惜しまれながら俺たちはこの先にある町へと向かう。クラックさん、ロザリさん、トールさんたちは冒険者という職業で、仕事として俺を助けにきたという話。だからその仕事を受けた町へと戻り報告をしなければならないんだそうだ。もちろんその報告をするためには俺自身を連れて行かなければならないので一緒に町へと向かっている。

 村から町までは3日かかるらしく村を出る前に少し食材を買った。何を買ったのか知らないが3人ともため息をついていた。どうしてなのかと聞いてみると、町につくまで食事が期待できないからということ。多分保存食とかで過ごすことになるのだろう。だけど俺は少し楽しみでもあった。バタバタしていてゆっくりとこの世界を楽しむ余裕が昨日はなかったからね。町までの移動で途中どうやって過ごすのかとか、やっぱり野宿なんだろうかと気になって仕方がない。今までも野宿のような生活だったんじゃないかといわれればもちろん間違いじゃないんだけど、こうやってあまりお互いのことがわかっていない相手と過ごすのも貴重な経験だと思うから。

「今日はここらで休むぞ~」

 どうやら今日野宿をする場所に到着したらしい。クラックさんの合図でみんな足を止めた。ところどころに岩場があるだけで特に目立つようなものがない平原。一つの岩場を背にした場所で休むらしい。

「子供、本当に水は大丈夫なんだな?」
「はい、俺が水は出せますので任せてください」

 俺たちは村を出る前に色々と話し合ってから来ている。俺の事情もかいつまんで3人には話してある。俺が色々スキルが使えるのはそういうものだと思ってもらえた。知識についてはよくわからないけど、わかるんだから仕方がないだろうとちょっとあきらめている感じ。これは俺の話だけでは証明できないからしかたがない。証拠がないのだ。俺が泣き叫んで口にしたフェンリル母さんについては困った顔をしていたね。とりあえず依頼主に聞いてみると言うことに。

「とりあえず食事にしよう」

 4人で岩場に座り焚火を囲んで食事をする。その雰囲気が少し楽しくて顔が緩んでしまう。一緒に食べたご飯はとてもおいしいと言えるものじゃなかったけど、心はほっこりとするものだった。

 そんなことを繰り返し俺たちは目的地である町、フロージスへと到着した。





*****





 おや? ちょっと休んでいる間に魔力がこの建築物からいなくなっているじゃないか…どこへ行った。とりあえずこの集落の周辺でも見てみよう。その場から飛び立ち空から魔力と視力も利用して探す。

 …いないな。これはちょっとやばいんじゃないか? 坊主が、じゃなくて俺が! あいつに怒られてしまうっ もちろん俺がちゃんと坊主についていなくともあいつにわかるわけはないんだが…まいったな。

 うーん、まずは向かってきた方向にもどるわけはないだろう…? この集落に入る時に向かってきたほうを眺める。道ってやつがあるな。そうか人間はあの道を使って主に移動しているんじゃないのか? となるとだ…集落から伸びている道はこれ以外は後2つ。つまりどっちかに向かったということになる。

 まずこっちは…そこまで遠くないところに魔力をたくさん感じることができるな。つまり似たような集落がある可能性があるってわけだ。だけどもう一方はちらほらと魔力が散っているのがわかるくらいか…

 よし、それならまずは集落がありそうなこっちからまずは向かってみよう。なーに俺の飛行速度ならすぐに集落につく。もしいなかったらもう一方の方へと戻ってくればいい。

 そうと決まれば早いうちに動いたほうがいい。暗くなってしまうと視力では探しにくくなってしまうからな。俺はすぐにその集落を目指して飛び立った。
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