異世界でかけあがれ!!

れのひと

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 その顔はとても悲しそうな表情だった。今にも泣きそうなのを我慢しているような感じ。それにしても絵と何の権利かしらないけど交換ってどういうこと? だってあの絵はこの女の人の子供の絵だって話じゃないか。

「ふぅ…お茶が冷めちまったね。ちょっと入れなおしてくるよ」
「いいよこれで。俺もそろそろ帰るし」
「そうかい?」

 俺は冷めているお茶を飲み干し、椅子から降りる。

「じゃあ帰るね」
「ああ、よかったらまた来ておくれ」
「気が向いたらね」

 この家の外へと出ると外で待っていたクロが俺の肩へととまる。

「クロ、今ここから出ていった人追える?」
『ああ~? また面倒ごとかなんかか…あっちだな』

 クロが示したのは町の北の方だった。この町は北へ行くほど裕福な家が多くなっている。もちろん必ずではないが。まあ北の方の土地が金額的に高いってこと。

「母さんか…」
『なんかいったか?』
「なんでもないよ。それより追いかけよう」

 俺とクロは北へ向かって歩き出した。





*****





 くそ…くそっ 一体いつになったら認めてもらえるんだ! 俺はちゃんとやれているっ 現に母さんが引退してかから店の方はずっと俺が管理しているんだ!! 

「ふぅ…」

 一度歩いていた足を止め気持ちを落ち着ける。そして手に持っている絵に目を向けた。どことなくぎこちない笑顔を向けている子供…5歳くらいだろうか。そういえばさっき母さんの家に子供がいたな。母さんの中で子供といったらあの年で止まっているってことなのか? そう思うと落ち着いたはずの感情が再び沸き上がり腹が立ってきた。

「こんな物…っ」
「ちょっとあんた何してんだ!! これビア婆さんの所に飾られていた絵だろう?」

 気に入らなかった絵を叩きつけようとしたら見知らぬ男に腕を掴まれた。しかも母さんの知り合いっぽい。

「…だとしてあんたに何の関係が?」
「あーまあ…言うほどの関係じゃないんだが、たまーにあそこの婆さんが俺に仕事をよこしてくるんだよ。だからその絵も見たことあってな。多分大事な物だと思うんだ」
「あいつは俺の母親だ! だからこれをどうしようと俺の勝手だろう!?」

 男の腕を振りほどき再び絵を地面に叩きつけようとする。

「おっと! …セーフ」

 俺の手から離れた絵は地面に到達する前にその場から姿を消した。

「「!?」」
「交渉材料なのにずいぶんと酷い扱いだな」
「な、お前はさっき母さんといた子供じゃないか! 絵はどこやったっ」
「…交渉に使わないのならいらないでしょう?」
「なっ」

 くそうっ なんなんだこの生意気な子供は! しかも不吉な鳥を連れていやがるしっ

「なあさっきの絵、ビア婆さんのなんだ返してやってくれないか?」
「あれ、あんたは…」

 しかも俺を無視して2人で会話始めやがった! 絵は奪われて壊せねぇし、権利は手に入らない。ほんと腹の立つ…っ

「一発殴られておけ~~!!」
「…っ よっと…あ、つい」

 な…何が…





*****





 北へ向かって男を追いかけると思ったよりもまだ近くにいたようで、立ち止まって他の人と話をしていた。流石に会話は聞こえてこないがあまりいい雰囲気には見えない。絵を返してもらいたいので2人の会話が終わるのを待っていると、突然男は手に持っていた絵を叩きつけようと振りかぶる。

「なっ 脚力強化!! …跳躍っ」

 スキルを使用し一気に男との距離を詰め叩きつけられる寸前に絵を回収し、即座に収納した。ちょっと危なかったけど無事絵を確保できたので胸をなでおろす。

『なんだなんだ~? いきなりこれはないわ~ 巻き込まれるところだったぞ』

 クロが肩にとまっていたのを忘れいきなり飛び出したもんだからクロがちょっと不機嫌になってしまった。悪いと思いつつも今話しかけるわけにもいかないので軽く視線で謝っておく。

 さて、男に向き直りちょっと一言文句を言っておこうか。

「交渉材料なのにずいぶんと酷い扱いだな」
「な、お前はさっき母さんといた子供じゃないか! 絵はどこやったっ」
「…交渉に使わないのならいらないでしょう?」
「なっ」

 本当に意味が分からない…壊してしまったら交渉も出来ないというのに。

「なあさっきの絵、ビア婆さんのなんだ返してやってくれないか?」
「あれ、あんたは…」

 そういえばもう一人ここにいたな。なんかどこかで見たことがある顔だ。そうだ、この間あの女の人の家で一緒に掃除をした人じゃないか? なんでこっちの男と話をしていたんだろう。

「一発殴られておけ~~!!」

 少しばかり視線をそらしていたら突然男が襲い掛かってきた。

「…っ よっと…あ、つい」

 なので思わず半分反射でそれを躱し、腕をつかむとそのまま地面へと叩きつけてしまったのだ。近場の魔物より遅い動きだったしね。痛いのは嫌だからしかたない、うん。

「あー…えーと、この人をビア婆さん? のとこに連れて行きたいんで手伝ってください。流石に俺じゃ運べないんで」
「この人ビア婆さんの子供らしいけど本当か?」
「ん- さあ? とりあえずさっきこの人はビア婆さんに向って母さん、とは呼んでいましたけど」
「…わかった」

 さて、よくわからないことばかりだったけどひとまずこの人のことはビア婆さんに任せればいいだろう。息子らしいし。ちょっと巻き込んでしまったこの人には申し訳ないとも思うがもう少し付き合ってもらおう。
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