異世界でかけあがれ!!

れのひと

文字の大きさ
26 / 29

26

しおりを挟む
 「見つけた!」 と心の中で歓喜した。見た目だけで見たらあの髪の色はきっと間違いないだろう。手持ちのスキルを使用し確認もしてみたからあっている…はず。深呼吸をしてまず気持ちを落ち着けてから話しかけてみた。話しかけてからなんて切り出すか迷った挙句、先ほど見た少し変わった光景について聞いてみた。実はそれは本人かどうかははっきりと見てはいない。ただ、髪の毛の色が似ていただけ。まあ話のきっかけに使うだけだから間違っていようと構いはしない。

 少し話をしてみて自分自身にがっかりとする。対面してみて思ったほどの感情が沸き上がってこないのだ。あれほど恨んでいたのに、だ。すっかり幼くなり見た目も全く違う相手。本人だという確信が持てないのだから仕方がないとも思う。だから少しづつ近づいてい本人だという確信を求めよう。それがはっきりしたときにきっとその感情が戻ると信じて。というか戻ってくれないと困る。そうでなければこの世界へ来た意味がない。

 困ったことになった。たくさんいる人を順番に眺めていたらもう一人候補が現れた。こっちはさらに外見が違いすぎる。服装からして貴族だと思われるので慎重に進めなければならないだろう。それにまだ2人だけとも限らないし、どうせなら間違わないようにちゃんとここにいる人全部を確かめておきたい。あと、対象者と再び会える機会を作らなければ意味もなくなる。せめて学園に合格。まずはここから…あの2人は多分受かる。1人はすでに戦闘技能で好成績なのを確認済み。もう1人も先ほど魔法の腕を見せてもらった。あの分なら周りが微妙だから大丈夫だと思いたい。

 自分の番が回ってきた。さあ、どんな魔法を使おうか。





*****





 飛び交っている魔法をぼんやりと眺めていると、見知った人が的から離れた線の前に立った。さっきまで近くにいたジェシカだ。どうやら彼女の番がやって来たらしい。ほんの少し会話しただけだけど一応知り合い。どんな魔法を使うのかも興味がある。

 ジェシカが右手を前に出した。俺は魔法が発動されるのを待つ。そして驚いた。今まで見てきた中で一番威力がある魔法だったことに。それは雷属性の魔法だった。魔法は前に打ち出すものではなく指定の場所に落とすタイプのもので、的の上から雷が落ちバチバチと的全体に雷がまとうような威力だった。それに対し魔法の効力が切れた後の的は静かな物だった。何事もなかったかのように綺麗なまま。余程頑丈に出来ているみたいだね。それが気に入らなかったのか若干ジェシカが的を睨んでいるようにも見えた。きっと彼女は受かるに違いない。

 その後も試験は続いていく…的の数が少ないのもあるけど、安全性を考えたうえでの配置だろうから時間がかかるのも仕方がないと思う。だけどやっぱり自分が最後だとわかっているというのはこの待ち時間が長く感じるわけで…

「528。528番はいないのか!」
「え、はいっ」

 ぼんやりと飛んでいる魔法を眺めていたらなぜか俺の番号を呼ばれた。周りから注目されながら俺は呼ばれた方へと向かうと、試験が始まる前に説明をしていた男の人だった。

「使える魔法は?」
「えっ…と、火、水、風、土、氷、雷、光、闇…の攻撃魔法は使えます」
「なるほどな」

 …? なるほどってどういう意味だ。顎に手を当て何やら考え込んでいる。

「よし、複合魔法って言うのは知っているか?」
「知らないですね。名前からして複数の魔法を合わせた魔法ですか?」
「…しかも賢いときたか。ああそんな感じだ。お前が最後だから全部の的へ向けて何か一発複合魔法を試してみないか?」

 ちらりと的の方を見ると確かにもう誰も魔法をうっていなかった。というか表示されている番号が全部528…ってなにこれ?? 男の人の方に向き直るとニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。つまりこれは…

「失敗して試験に落ちるとかいやなんですけど…」
「問題ない。この結果は反映されない。ほらやってみろ」
「それならいいんですが」

 半ば無理やり的の前まで連れてこられた俺はその間にどんな魔法を使おうか考えていた。一番すぐに浮かんだのはやっぱりわかりやすいファイアートルネード。火と風を合わせた魔法だ。だけどそれはこんな建物の中で使うのは普通に危険。一気にこの室内の空気を消耗することになるので、気絶者が出てくるだろう。そういえば全部の的って言っていた。ということは風は外せないとして…うん、決めた!

「えーとそろそろうってみますね?」
「お、ちょっとまってくれ」

 そういうと男の人は声を張り上げてこんなことを言い出す。

「本日最後の受験者による初複合魔法チャレンジだ―! 失敗しても成功しても拍手を送ってやってくれっ」

 ほれ、と言いたげにこっちに視線を向ける男の人。というかすごい見られていて結構これは恥ずかしいのだけどっ

 軽く頬に熱を感じながら俺は的を見つめ使用したい魔法を思い浮かべる。5つの的に当てるために範囲を広げたくて選択した風と、俺が最初に覚えてたくさん練習した氷…この2つを合わせた魔法を。

「…ブリザード!」

 的周辺に冷気と氷の粒が荒れ狂う。範囲を指定しているとはいえこれは思ったよりも…寒い。今が暑い季節だからまだきっとましなんだろう。これが寒い季節だと自分まで凍ってしまいそうだ。次第に魔法が収まっていく…時間としては長く感じたけれども多分本当に短い時間だった。やっぱり慣れない魔法というのは思い通りにはいかないものだね。

 風がやむと的の一部が氷に覆われていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...