自由気ままに楽しみたい

れのひと

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4. ギルドへ

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 走る音を響かせながら裏から大きな鬼が追いかけてくる。なにこれ普通に怖いんだけど!! というか結界石ってのを置いてたのにこの状況ってことは効果のない相手ってことか?

「こんな森の浅いところにいるはずなんだけどね~」
「え、でも…」
「まあ見たとおりだね。多分ほら大きな穴あったでしょう? あそこのすぐ近くに結構な血の跡があったじゃない。たくさん血がながれたみたいだから匂いに引き寄せられたのかも」

 …つまりなんだ。これも俺のせいなのか。

「逃げ切れるんですか?」
「ちょっと微妙かな」
「2人で倒せたりはしないんですか?」
「私達のランクじゃ無理ね~ ハンターのやつらなら同じランクでもやれるんだろうけどね」
「カナさん、魔石を使った魔法の使い方教えてください。魔石あれば僕でも魔法使えるんでしょう?」
「え、そうだけど…どのサイズ?」
「これです」
「…ん-属性がだめね。これこの森で取れたやつでしょう?」

 ちょっと聞きなれない言葉が出てきたが今はそんなことを気にしている場合じゃないな。手が空いている俺が攻撃しようかと思ったけど魔法はだめか…自重しようかと思ったとたんにこれか、仕方ない。

「2人とも覚えてますか? 僕に害のあるものは近づけないこと」
「それがなに~」
「オーガも僕に近づけないので、2人とも僕に近づいて足を止めてください」
「本当に大丈夫なの!?」
「はい」

 ゆっくりと速度を落とし、2人は足を止めオーガの方に向き武器を構える。大丈夫だとと言ってもやっぱり武器は下ろせないものなんだね。

 オーガは俺たちの足が止まるのを見ると、同じく速度を緩めじっとこちらを見ながら近づいてくる。まるでどれから手を付けようかと選んでいるかのように視線を動かし3人の間を行ったり来たりしていた。
 どうやらやっぱり一番弱そうに見えるから俺に決めたらしく、大きな手で俺を掴もうと伸ばしてきた。

「「わっ」」

 その手は俺の1mほど手前で止まる。ふぅ…大丈夫だとわかっていてもこんな大きな奴が手を伸ばしてくると生きた心地がしないな。そして2人がやっていたようにまるで壁があるかのようにそこを叩きだした。

「本当に近づけないわね…」
「だけど、これでどうするの?」
「ん? 少しの間このままで」

 俺の言葉に2人は眉をひそめた。まあそりゃそうか。確かに危険はないけどこのままだと逃げることも出来ないのだから。だけど俺の攻撃はすでに終わっていた。相手が諦めずにそのままその場にいるのなら、もうじき落ちてくるやつが。一応前回より高さは低くしたのでそろそろ見えてくるはず…おっと音を遮断…はしない方がいいか。じゃあ耳ふさご。

「多分耳塞いだほうがいいよ」

 すぐさま俺は耳を塞いだ。その後2人が何か言ったみたいだけど聞こえないままそれは落ちてきた。耳を塞いでいるので大きな音には聞こえなったがある程度の音が響く。それと目の前で土が盛大に跳ね上がった。

 それほど高くなくてもやっぱりすごいね~

 驚いた2人の動きが固まる。そして跳ね上がった土が落ち着くとオーガが俺たちと距離を置いているのが目に入る。どうやら直撃はしなかったみたいだね。だけど無傷とはいかなかったみたいで、左腕が肘あたりから先が無くなっていた。そういえばPCの進入禁止を解除していないから元々直撃は出来ないのかもしれない。

「わっ なに!」
「意味が分からないんだけどっ」

 おっと…進入禁止を解除していないPCを手元に戻したから2人がPCにはじかれて押し出されてしまった。まあそのおかげで? さっきまで反応がなかった2人がしゃべりだした。すぐに進入禁止を解除する。

「そりゃっ」

 インベントリに戻し少しでもダメージを与えようとあまり高くないところからPCを落とす。もちろんそんなものは当たらず、オーガは軽々と避けて回る。左腕にダメージを受けたことを警戒してか受け止めようとはしないようだ。それなりに賢いってことかな。

「う~ん…当たらない」
「そんなゆっくりじゃ当たるものも当たらないわよ…」

 何度か繰り返していると2人がのそのそと俺の傍に戻って来た。まあ遅いのは仕方がない。ただ落としているだけだからその重量の分の落下速度、余程高いところから落とさないと速度も威力も上がるわけがないんだよね~ だけどその場合はさっきみたいに同じ場所にしばらくいてもらわないと無理。

「仕方ない逃げようか」
「この状態で逃げるともっとやばいわよっ」
「怪我追わせちゃったしね~」
「やばいの??」
「もう絶対に見逃してくれない!」

 なるほど…しつこく追いかけてくるってことか。それなら…

 俺は手元に戻したPCを再び進入禁止にしてインベントリへしまう。その時また2人がはじき出されてしまうが仕方がない。そしてオーガがこっちに向かいたいのを利用し。まずは背後へマットを落とす。そして左右にキーボードとPCデスクも落とし、俺が前に進むことでオーガを閉じ込めた。

「お姉さんたちはちょっと僕の裏の方へ行ってくれる?」

 2人は顔を見合わせよくわからないままだけど一応下がってくれた。そして俺は自分の手元にPCを出して足元に置くと2人の所へと向かった。

「一応閉じ込めたけど…しばらくこのまま放置しておけば、追いかけるの諦めてくれるかな?」
「わ…わからないわ、そんなこと試したこともないし」

 そりゃそうか。

「ん-じゃあこのままにしておいて倒せる人を連れてくればいいのかな?」
「放置よりはそのほうがいいかもしれないわ」

 そう言うことなら俺はここで待ってた方がいいよな。もう取り出したし隠す必要もないから堂々とマットで寝れるし。

「ここから町までは後どのくらい?」
「そうね…今から向かったら魔物も出るだろうから、明るくなり始めるころにはつけると思うわ」

 さっきまではオーガと一緒にいたから他の魔物は近づいてこなかったということらしい。まだ結構距離がありそうだ。

「じゃあもうちょっと明るくなってから呼びに行った方がいいんじゃない?」

 俺はそういうとオーガを囲んでいる一つのマットの上に移動し、体を横にした。うん、やっぱマットくらいはないと体が休まらないよね。

「だから僕ちょっと寝るね?」

 大丈夫だとわかっていても初めてまともに魔物の相手をするのは緊張したのか、体を横にしたとたんすぐに眠気がやってきた。2人が何か言っているみたいだけど、だんだんとそれも聞こえなく…おやすみなさい。










「おーい」

 なんだ? 妙に周りが騒がしい。ぼんやりとする頭を振りながら体を起こす。

「どうなってんだこりゃ?」
「よくこんなとこで寝れるわね…」

 知らない人が3人と知っている2人が俺のことを見ていた。

「…誰?」
「君が言ったんでしょうがっ 倒せる人を連れて来いって!」
「…ああ、うわっ」

 言われて思い出した俺は後ろを振り返る。オーガがこっちに向かって壁を叩いている動作に驚いた。そうだった、ひとまず閉じ込めたんだったっけ。空を見上げると日はもうかなり高くなっていた。どうやら2人はこの3人を連れてすぐ戻って来てくれたようだ。

「んで、倒すんだったらこの壁見たいのはどうすればいいんだ?」

 筋肉質なおっさんが触れない壁をコンコンと叩く。

「あ、どけますね。えーと…そっちのキーボード、あーその板みたいなやつの所を開けるんで、お願いします」
「おうっ」

 3人がキーボードのある方へと移動したのを確認すると俺はキーボードを自分の所へと呼び戻す。だけどオーガはいまだ俺に執着しているのか目の前の壁を叩いている。通れるところが出来たことに気がつきもしていない。だもんだから、さっきの筋肉質なおっさんがデカい剣を持って振り下ろすとオーガは血しぶきをあげて崩れ落ちた。

「ひぃ!?」

 お、驚いた…いきなり目の前が血で真っ赤になるとか心臓に悪いっ 変な声が出たじゃないか…

「ありゃあっさりだったな」
「私出番なかった」
「楽にすんでよかったんじゃ?」
「違いねぇ」

 3人は楽しそうに笑いあっていた。俺には理解できない状況だな。呼びに行ってくれた2人も苦笑いをしていた。

「で? 一体こいつは何なんだカナ」
「なんだと言われても私も聞きたいくらいなのよね~」

 オーガの処理が終わった後みんなで歩いて町へと向かっていると筋肉質のおっさんがそんなことを言い出した。もちろんPC達はちゃんとインベントリにしまってある。

「おい坊主俺はダンカン。お前の名前は?」
「名前も家もない」

 もう面倒なのでありのままにはっきりと答えてやった。するとおっさんことダンカンは肩眉を吊り上げ難しい表情になった。絶対面倒くさいって思ったなこいつ。

「おじさん強いね」
「おじ…っ こう見えても俺はまだ18だ!!」

 おう…タダの老け顔だったか。

「おいローズ魔物の処理は手伝ってやったが、こいつに関してはそっちのギルドで何とかしろよ」
「わかってるわよ…あー頭使うのは苦手なのよね」
「相変わらずそんなんでやっていけてんのかお前」
「やってるじゃない」
「そうみえんのだがね」

 言いあっているところを見るとこの2人は結構仲良さそうだな。そんな微笑ましい? 状況を眺めていると裏から視線を感じた。後からやってきた3人のうちの1人の女の人だ。

「?」
「君面白いね。不思議な道具…」

 彼女は杖を持っていることから魔法を使うタイプのようだ。黒っぽい服装と水色の髪の毛がちょっと魔女っぽい。

「後でじっくりと見せてよ」
「…やだ」

 ちょっとこのお姉さん怖いんだけど! 目つきと手つきがどう考えても普通じゃない。壊れないのはわかっているけどこの人に触らせたらだめなきがするっ

「おいリズ! 怖がられてんぞ、その辺にしとけ」
「残念」

 そんなふうに雑談をしながら歩いて空が赤く染まって日が落ちる前には町へとたどり着いた。そういえばもう1人いた人は一緒に歩いていなかったけどどこへ行ったのかと思ってたら、俺たちよりも先に進んで魔物を処理していたようだった。ゲームで言うところの斥候ってやつかね? 

 町に入るとダンカンたちと別れた。名残惜しそうにリズと呼ばれていた人が何度か振り返っていたが俺は気がつかないふりをした。あれは関わったらいけないタイプに違いない。

「私達はこっちよ」

 ローズさんとカナさんに連れられて俺は1つの建物の前で足を止めた。どうやらここがこの2人が言っていたギルドらしい。屋根の近くにくっついている看板にはロール状の紙を広げた絵とペンがかかれている。

 後をついて中に入ると、元の世界より作りは綺麗じゃないがまるで役所のような場所だった。カウンターのとこに人がいてその前に人がいない場所があったので、そこへと俺たちは向かう。

「この調査の報告をしたい」
「どちらにされますか?」
「上級案件で」
「かしこまりました。こちらを持って3階へお願いします」

 ポーチから取り出した紙をカウンターに置いてローズが会話を進めている。何をしているのかはよく見えないが、その紙にカウンターの中の人が何かしてからローズに再び渡した。どうやら3階へ向かうらしい。

 俺たちは階段を3階まであがる。エレベーターとかはないようだ。まあ3階くらいならなくてもいいんだが。

「報告に来ました」

 1つの扉の前で止まるとローズが扉をノックした。少しすると扉が勝手に開く。2人が入っていくのでそれに俺もついていく。そういえば俺なんでここについてきたんだったっけ…ついて来いって言われたから来たけど、何のために連れてこられたのかも実は知らないことに今更ながら気がついた。まあいいかマウスはポケットに入っている。完全に逃げることは出来ないが、誰も俺を捕まえることは出来ないんだし。ただ、あまり制限されると金が増やせなくて買い物が出来なくなるから詰むが。

 部屋の中にはソファーとテーブルのセットが一式、それとお偉いさんが使いそうな机と椅子、壁側にはいくつもの引き出しが付いた棚があった。俺は右側にローズさん、左側にカナさんという状態で今ソファーに座っている。てっきりこの部屋に報告相手がいるから来たんだと思ったんだけどそうじゃないらしい。

「待たせたかな?」

 部屋の中へひょろっとしたおっさんが入ってきた。どうやらこの人が報告相手らしい。

「ん、彼は??」
「今回の報告の一部です」
「では早速報告をしてもらおうか」

 おっさんはそういうとテーブルの上に1枚の紙を置いた。ローズさんとカナさんの2人は首に下げていたらしいペンダントを取り外すとそれを紙の上へと乗せた。茶色い革ひもの先に黒い石がついているペンダントは紙に置いたときからだんだんと色が薄くなっていき、最後には無色透明へと変わる。俺はその光景が気になってずっと眺めていた。すると、石が透明になったと同じくらいに紙の上へと文字が現れた。ファンタジーな世界は色んな事がおきて中々面白いものだと思うね。

 ペンダントをおっさんが回収した後、そこに残された紙を手に取り眺め始める。文字が出ていたからそれを読んでいるんだろう。話の流れからするとあれが報告書ってことになるんだろうし。

「ふぅ…」

 読み終わった紙をテーブルに戻したおっさんの視線はその紙を眺めたままだった。そのまま何か考えているみたいだ。

「えーと、落ちてきたものは不明、落下時の痕跡以外の跡はなし。だが、すぐ傍に謎の血痕と意味不明なことをする名前と家がない少年…ね。ああ、オーガ討伐の報酬はダンカンたちへね」
「はい」
「ああそれと壊れた分の結界石の代金は今回の仕事の報酬から引かせてもらうね」
「想定外だったんですけど、だめですか…」
「うん、だめ」
「わかりました」
「よし、報告はおわりね。帰っていいよ」

 あれ? 俺のことはもういいのか?? それなら早速まずは泊まる場所…いや違うなお金を作らないと宿には止まれないから……

「ああ、君は帰っちゃだめだよ」

 すっかりこれからのことを考えていた俺は腕を掴まれ転びかける。

「本人から色々話を聞かないとね?」

 にこやかに話しかけてくるおっさんは逆に怖かった。おっさんの笑顔とか誰得だよとも俺は思ったが、有無を言わさむ圧があるというか…さあ、全部げろっちまいなと言っているかのようにも見える。そのせいもあって俺は言わんでもいいことまで洗いざらいぶちまけてしまった。もしかするとそういった何かスキル的な物を持っている相手だったのかもしれない。というかこの人に逆らえる人は誰もいないんじゃないだろうか。

 このおっさん、名前はニコルといいい、この探索者ギルドのギルド長だそうだ。そうここは探索者ギルド。よくラノベとかで出てくる冒険者ギルドではないようだ。調査をメインとして活動をしているらしい。ダンカンたちがいるのがハンターギルド。他にもいくつかギルドがあるという話だが今回はそれ以上教えてもらえなかった。というかなんでこんな話をしているかというと…

「じゃあこちらを敵対者や魔物と想定して防御をおこなってみて」

 場所は変って地下訓練所。日々ここでギルドの人たちが訓練を行っている場所。一応一緒に活動をする相手以外に手の内は見せないようにという配慮からいくつかの部屋に分かれている。ここもそのうちの一つだ。

「わかりました」

 ギルド長のニコルさんがどうやら俺の防御力テストを行うらしい。というかどうせお金を稼ぐのなら、俺の力を最大限生かせるのはここのギルドしかないんじゃないかということで、このギルドで必要としている必ず生きて帰ること、そのために必要な防御を今から確認されるのだ。そう自己防衛が一番必要な能力というわけだ。

「う~ん…すごいねこれは。一体どうなっているんだろうね~」

 そんな風に和やかに話をしながらもニコルさんは次々と色んな武器や動きで俺に向かって来ている。俺が弱いのはわかっているが、この人強すぎなんじゃないだろうか…はっきり言って音がするからわかるだけで動きは全く見えない。

「うん、問題ないね。しいてあげるとすれば…名前がすぐに欲しいくらいだ。ほら、ギルドに登録するのにも名前が無い状態じゃできないからさ」
「名前…じゃあトールで」

 いや、目の前のおっさんが俺と比べて背が高いな~か思ったわけじゃないよ!? それにどちらかというとお前はトールじゃなくてスモールだろうがとかそんな突っ込みもいらない。ただ何となく浮かんだだけ。必死に考えるほど名前って出てこないもんなんだなと思った。

「トールね。じゃあそれで登録しておくから。あーあと今日はもう時間も遅いし、ギルドの宿舎利用していいから明日からよろしくね」

 それは助かった。遅い時間からじゃ宿に泊まる金も用意出来ないし、最悪その辺にマット敷いて寝るところだったわ。翌朝子供が路上で寝ててなぜか見えない壁に囲まれているっていう噂を回避できた。

「ありがとうございます」

 お礼を言って部屋を後にすると教えてもらった場所へと向かう。指定された部屋の扉をそっと開けると、ベッドが1つとちょっとした収納棚があるだけだった。しかも扉に鍵はついていない…まあこのベッドもあまりきれいに見えないし、この上にマットを出して寝ればいいか。

 マットを敷いてPC達もセットする。すっかりこの光景になじんでしまったな。全部並んでいると落ち着くというかなんというか。安心感が違う?

「そうだ何か食べよう」

 落ち着いたらまだ夕食を済ませていないことに気がついた。まあ食べると言ってもロールパンと栄養バランス食品くらいしかないが。お金を稼げるようになったらこの世界の食事を食べよう。毎回通販で購入して保管しておくとスペースを使うからな。うまいといいな~ まずかったら…仕方がないから通販に頼ろう。やっぱり食事は大事で、おいしく食べられる最低ラインは確保したい。

 明日は仕事もだけど町も案内してもらいたいな。後あるのなら風呂に入りたい。食事を終えた後そんなことを考えながら横になってぼんやりしていたらだんだんと目蓋が重くなっていった。
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