生きることに絶望した少年は地下深くで希望を見つけた

れのひと

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第3話 ありがとう

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 目が慣れてくるといろんなものが目に飛び込んできた。案内された集落はさっきまで歩いていた所と同じような壁に囲まれており、ただ通路よりひらけた場所と言うだけだった。上を見上げてみるが空は無く、ところどころにスゥの傍に浮いている明かりと同じようなものが浮いている。そのおかげでこの集落の中が見えているようだ。
 視線を下に戻すとあちらこちらに木と金属と布で出来た建物があった。作りはとても簡単なもので地面に穴を開けそこに木の柱を立てその柱と柱の間に金属で出来た板が貼ってあるものや、布と木を使用したテントのようなものも見られる。

 集落を眺めていると前のほうから走ってくる子供達が見えた。スゥと同じような服装をしている。金、緑、赤…色とりどりの髪の毛の色だ。この集落の人は色を染めるのが当たり前なんだろう。まあそれなら気にすることも無いな。

「姉ちゃん姉ちゃん! 一緒に遊ぼうよっ」
「ああ、ちょっとこの人を長老に紹介してくるから、その後でね?」

 この人…ああ僕のことか。その僕に気がついたのか子供達がこちらをチラリと見るとビクリと体を震わせ走っていってしまった。いいんだ…子供には元から好かれてはいない。この大きな図体が怖いのか大体見上げて逃げていってしまうのだ。

「ん~ごめんね。初めてみる人だから警戒してるみたい…まあ長老に紹介するからついてきて」

 ぐいぐいと僕の手を引っ張りスゥはその長老がいる場所へと連れて行こうとする。ついてきてと言うか…手繋いだままだからそのままついていくしかないのだけど、もちろん手を振りほどくことは簡単だ。でもこのぬくもりを手放すのが惜しくて自分からは離せないのだ。

 数軒建物を通り過ぎて奥のほうへと向かうと1つのテントの前に止まった。ここが目的地らしい。

「ちょっと説明してくるから待ってて」
「あ…」

 そう言うとスゥの手が離れていく。少し名残惜しくてぬくもりをなくした手を眺めてしまった。

 5分くらい立っただろうか、スゥが再び外へ顔を出してきた。分かれたときと変わらない笑顔を向けてくれるところを見ると、どうやら長老とやらには会うことが出来そうだ。名前からしてこの集落の偉い人ってことなんだろう。再び緊張から心臓の音が早くなってきた。

「入って」

 またスゥが手を引いてくれそのままテントの中へと僕は入ることになった。そしてその中にいた長老と僕はご対面だ。
 長老が座っている前に僕とスゥが並んで座る。

「スゥや…それが地上の人間なのか?」
「多分そうだと思います。ほら服装も全然違うし、何より耳が違いますよね」

 耳…?言われるまで全然見ていなかったけど、そういえばスゥも長老もここに来て初めてあった子供達も耳が少し尖っていた。

「ああ~…そうじゃったわいの。流石に500年ぶりにもなると目にしないと思い出せないわい」

 500年とか…どんな高齢なんだこの長老は。長生きな人でも100と少しくらいしか確認されていないと聞いたことがあるけど、それをかなり超えた年齢だ。それに見た目もそこまで年を取っている様には見えない。30代前半と言われても通じるくらい若い。
 ああそうか…死んでから500年たっているのかもしれないな。と言うことはやっぱりここは死後の世界に間違いはないのだろう。それなら納得だ、うんうん。

「ジゴックさん、何か長老に聞きたいことはないの?」

 はっそうだった…ここが死後の世界だろうとこうやって生活している人達もいるのだ。僕もここでどうしたら良いのか決めなければいけない。

「あの…行くとこなくて…」

 うん、だめだ。うまく説明出来ないや…これだけ言うのが精一杯。

「ふむ…まあそうじゃろうのう。地上の人がこんなところにいるくらいじゃ、帰るところもないのだろう」

 よかった…これだけでとりあえず帰れないことだけはわかってくれたみたいだ。少しだけ安心してほっと胸を撫で下ろす。

「じゃがこればかりは大樹様に伺わなければならないのぅ」
「あーじゃあ私が連れて行くよ。長老はみんなに伝えておいて?」
「たのめるかえ」
「もちろんっ」

 大樹様? 連れて行く? みんなに伝える?? よくわからないけどとんとんと話が進んでいっている…

「ということだから、来たばかりで悪いけどまた歩くわよ~」
「え、あ…っ」

 腕を引っ張られテントの外へと連れて行かれると、さらにこのテントの裏手から暗い通路へと僕と手を繋ぎながらスゥは歩き出した。

「あ、の…どこへ?」
「大樹様のところ!」

 よくわからないけど今から僕は大樹様という人のところへ連れて行かれるようだ。
 歩き出して5分もしないうちに前方に明るい場所が見えてきた。多分そこが目的地なのだろう。集落よりも明るいんじゃないだろうか。というかその場所は上に明かりが浮いていないのにとても明るい。まるで上から日が射しているみたいだ。

 明るくて開けた場所に出た。眩しさに目が慣れるまで少しだけ時間がかかる。やっと目を開けられるようになると僕の目には驚く光景が飛び込んできた。

「…っ」

 花畑…木々…そして中央にあるどれよりも大きな大木。その大木は見上げても葉が見えないほど身長が高い。僕とスゥの2人で手を繋ぎあい輪を作っても全然届かないくらいの太さ。というか何人いれば足りるのかわからないくらいだ。見上げた先はとても明るくて光りが差し込んでいた。この暗い中で唯一光りが差し込んでいた場所だ。もちろん探せばまだあるのかもだけど、今この明るさに僕は胸が温かくなるのを感じた。
 自然と涙が流れる。いろんなことが頭をめぐる。もちろんいやなことは沢山あった。でもそれが偏って訪れていただけですべてがいやなことではなかったのだ。ほんの少しだけどいいことだってあったじゃないか…今になって死んでしまったことを後悔し始めている自分がいた。

 僕が泣いている間スゥはただ黙って手を繋いでいてくれた。

「落ち着いた?」
「…あ」
「大丈夫、理由はわからないけどみんな初めて大樹様に会うと泣き出してしまうの。理由はそれぞれ。本人しか理解出来ないこと」

 そういうとスゥは繋いでいた手を離し僕と向き合った。すっと手を差し出し笑顔で僕を迎えてくれる。

「ようこそアンダーグラウンドへ」

 初めてスゥの顔をはっきりと見た気がする。思わず手を握り返してしまった…だって目の前にいる女の子はあの日「ありがとう」と言ってくれた人にどこか似ていたのだから…
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