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桃色の花
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坂上花梨はどこにでもいる平凡な女子中学生である。少し低めの背に規定通りの丈のセーラー服を着、校則通り肩につかない程度のまっすぐな黒い髪の毛を垂らしている。顔は下の上と自己判断をしているが、実際は目がクリっとしていて鼻は低めだが中々可愛らしい顔立ちをしていた。
そんな花梨が学校からの帰り道、いつもなら下を向いていて気が付かないところをたまたま上を見上げたことによって初めて知った事実が目の前にあった。
「…花?」
いつも通る通学路、視界にたまに入る程度の塀の向こうにある木…その木に花が咲いていたのだ。桜よりは濃ゆい桃色で梅の花よりは薄い桃色をした少し平な花だ。実際梅の花の色の濃さは様々なのだがそもそも花梨は花に詳しくはなく、木に咲く花の種類すら桜と梅くらいしか頭に浮かばなかったくらい知識に乏しい。そんな花梨が見慣れない花を目にしたのだ。多少なりとも興味を惹かれるのは当然だろう。そこまで花が好きなわけではないのだが春の暖かな陽気が花梨の心をざわつかせるのだった。
なんの花だろうと気になった花梨はしばらくじっとその花を眺めていた。たまに風に揺れ木の葉と花が擦れて鳴る音が心地よく暖かな空気も手伝い瞼が下がり始める。ふらりと体が傾き始めたころ花梨の耳に一つの声が届いた。
「眠いの?」
突然の声に驚いた花梨はぱちりと目を開けキョロキョロとあたりを見まわす。自分の周りをくるりと一周見てみたが、少し遠くのほうに歩いている人がいるくらいで声の主だと思われる人が見当たらない。すると上のほうからクスクスと笑う声が聞こえてきた。ばっと花梨は顔を上げるとさっきまで眺めていた木の枝に一人の男の子が幹に捕まって立っていた。
少し幼い顔立ち、目を覆うくらい長い黒い髪の毛…今時祭りなどがないと着ないと思われる浴衣を少し崩して着ている、そんな男の子が木の上からこちらを見下ろしている。話しかけてきたのも笑い声もどちらもこの男の子のものだと思った花梨は、木の上に向かって声を投げかけた。
「そんなところで何を…?」
それほど高い位置ではないとはいえ花梨自身の視線より高い位置にいる男の子に、花梨は出来るだけ優しく話しかける。必要以上な大きな声や怒鳴り声などで驚かせてしまうと危ないと思ったからだ。もし落ちてしまったら怪我をしてしまうかもしれない…打ち所が悪かったら死んでしまうかもしれないのだ。内心びくびくと怯えつつも花梨は会話を続けるのだった。
「何って…見たまま?」
男の子は首を傾げ見たまま木に登っていると答えた。その動きに若干落ちやしないかとびくつきながらも花梨も返事を返そうとした。
「それより立ったまま寝ているの危ないよ?」
花梨の言葉は男の子に遮られ言葉に詰まってしまった。。カッと体が熱を帯びたように熱くなってきてそれが顔に到達したことに花梨は気が付いた。ウトウトとしていたところを見られていたことに恥ずかしさを覚えたからだ。
「か、帰る!」
絞り出すようにそれだけ告げると花梨は家に向かって走り出すのだった。後ろからはクスクスと笑う男の子の声が聞こえていたが恥ずかしくて走り続けた。そんな声が聞こえなくなったあたりで一度花梨は振り返り木の上に視線を向けると、そこにはすでに男の子の姿はなくなっていて、まるで春の陽気が見せた幻のようだなと思いながら花梨は再び家へと足を向けるのだった。
そんな花梨が学校からの帰り道、いつもなら下を向いていて気が付かないところをたまたま上を見上げたことによって初めて知った事実が目の前にあった。
「…花?」
いつも通る通学路、視界にたまに入る程度の塀の向こうにある木…その木に花が咲いていたのだ。桜よりは濃ゆい桃色で梅の花よりは薄い桃色をした少し平な花だ。実際梅の花の色の濃さは様々なのだがそもそも花梨は花に詳しくはなく、木に咲く花の種類すら桜と梅くらいしか頭に浮かばなかったくらい知識に乏しい。そんな花梨が見慣れない花を目にしたのだ。多少なりとも興味を惹かれるのは当然だろう。そこまで花が好きなわけではないのだが春の暖かな陽気が花梨の心をざわつかせるのだった。
なんの花だろうと気になった花梨はしばらくじっとその花を眺めていた。たまに風に揺れ木の葉と花が擦れて鳴る音が心地よく暖かな空気も手伝い瞼が下がり始める。ふらりと体が傾き始めたころ花梨の耳に一つの声が届いた。
「眠いの?」
突然の声に驚いた花梨はぱちりと目を開けキョロキョロとあたりを見まわす。自分の周りをくるりと一周見てみたが、少し遠くのほうに歩いている人がいるくらいで声の主だと思われる人が見当たらない。すると上のほうからクスクスと笑う声が聞こえてきた。ばっと花梨は顔を上げるとさっきまで眺めていた木の枝に一人の男の子が幹に捕まって立っていた。
少し幼い顔立ち、目を覆うくらい長い黒い髪の毛…今時祭りなどがないと着ないと思われる浴衣を少し崩して着ている、そんな男の子が木の上からこちらを見下ろしている。話しかけてきたのも笑い声もどちらもこの男の子のものだと思った花梨は、木の上に向かって声を投げかけた。
「そんなところで何を…?」
それほど高い位置ではないとはいえ花梨自身の視線より高い位置にいる男の子に、花梨は出来るだけ優しく話しかける。必要以上な大きな声や怒鳴り声などで驚かせてしまうと危ないと思ったからだ。もし落ちてしまったら怪我をしてしまうかもしれない…打ち所が悪かったら死んでしまうかもしれないのだ。内心びくびくと怯えつつも花梨は会話を続けるのだった。
「何って…見たまま?」
男の子は首を傾げ見たまま木に登っていると答えた。その動きに若干落ちやしないかとびくつきながらも花梨も返事を返そうとした。
「それより立ったまま寝ているの危ないよ?」
花梨の言葉は男の子に遮られ言葉に詰まってしまった。。カッと体が熱を帯びたように熱くなってきてそれが顔に到達したことに花梨は気が付いた。ウトウトとしていたところを見られていたことに恥ずかしさを覚えたからだ。
「か、帰る!」
絞り出すようにそれだけ告げると花梨は家に向かって走り出すのだった。後ろからはクスクスと笑う男の子の声が聞こえていたが恥ずかしくて走り続けた。そんな声が聞こえなくなったあたりで一度花梨は振り返り木の上に視線を向けると、そこにはすでに男の子の姿はなくなっていて、まるで春の陽気が見せた幻のようだなと思いながら花梨は再び家へと足を向けるのだった。
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