ラジメカ~スキル0ですがメカニック見習いはじめました~

もるまさ

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第三話 聞くは一時の恥って言うけど

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「さっさとしろよ! 時間ねぇんだぞ!」

 秋月さんは怒鳴りながら近寄ってきた。その怒声に呼応するかのように、灰色の猛獣はさらに興奮し吠え続けた。

「こらうるさい!」

 秋月さんに一喝された猛獣は、舌をペロリと出すとその場に座り静かになった。

「アッシュ、こいつはウチの従業員だから吠えたらダメだぞ」

 アッシュと呼ばれた猛獣は、フンと鼻を鳴らした。まだ警戒しながら僕を睨みつけるその目は「吠エナケレバイインデスヨネ?」と、言ってるような気がした。
 頭をなでられたアッシュは「次ハココヲナデテ―」と言わんばかりに即座にお腹を見せ転がった。

「おい、降りて来いよ」
「は、はい。怖い番犬ですね……」
「そうか? こんなに人懐っこいぞ?」

 積載車の荷台にしがみついていた僕にそう言いながら秋月さんはしゃがんでアッシュのお腹をなでていた。見た所、雑種の中型犬のようだ。
 事務所の建物裏には丈夫な金属製のドアがあった。このドアがタイムレコーダーの置かれた廊下へとつながっているらしい。面接のときに社長が言っていた裏口ドアとはこれのことだろう。そしてそのドアの脇には、アッシュの犬小屋が置いてあった。
 アッシュは秋月さんに撫でてもらうと、満足したのかそそくさと自分の小屋に戻ってしまった。
 自転車を適当な場所に止め工場内に戻った僕は、秋月さんから車のリモコンキーを受け取った。

「そこにあるウチの代車二台のキーな。駐車場の邪魔にならない隅のほうにでも適当に出しといて」

 そう言いながら事務所とは反対側にある駐車スペースを指さしていた。ふと見ると、リモコンキーは二台分がキーリングで纏めてあった。
 おそらく、僕に工場内にある軽自動車二台を動かせということだろうと思うのだが、躊躇していた。

「なんだよ? さっさとやれよ?」
「あのですね……実は……、車の免許まだ持ってないんです……。運転してもいいんでしょうか?」

 そう、実は僕は車の免許を持っていない。正確に言えば取得している最中で、今現在も教習所に通っているのだ。一応履歴書の資格欄は原付免許しか書いていなかったし、社長には口頭でも伝えておいたのだが、秋月さんは初耳だったようだ。大きな目をさらに見開いてこちらを見ている。

「はぁ~っ!?」

 大きく息を吸い込んでからそう声を上げると、一瞬黙り込んだ後、事務所のほうへ走って行ってしまった。

 勢いよく事務所のドアが開けられる音が響く。
 そして、僕が免許を持っていないことを社長に報告している秋月さんの声も。

「あいつ、地雷どころか地雷としても機能しなさそうなんだけど!」

 地雷だとか不発弾だとか、なんかそんな感じで言われているのが聞こえてきた。と言うか、この短い時間で秋月さんにとって僕は地雷のようなものと認識されてしまったようだった……。

 しばらくして工場内に戻ってきた秋月さんは、やや諦めたような表情をしているように見えた。

「しょうがない。とりあえず、掃き掃除、な。それくらいはできるだろ」
「は、はい」

 掃除用具のしまってある場所を教えてもらい、ひとまず床掃除から始める。
 その間、秋月さんはお客さんの車を運び入れ、二柱にちゅうリフトと呼ばれる機械で車を持ち上げ、慣れた手つきでタイヤを取り外していく。圧縮空気で作動する、インパクトレンチのホイールナットを緩める作動音が工場内に響く。
 しばらくすると僕は事務所から顔を出した社長に呼ばれた。業者が補充用の部品を持ってきたらしく、段ボールに入った部品を受け取った。

「秋月さん、荷物が届いたんですが……」
「ええっ!? あ~、そこの棚に並べておいて!」

 作業中の秋月さんに聞くと、少しイライラした様子で返事があった。
 ダンボールの中にはそれぞれが同じデザインの小箱に収められた部品が十個ほど入っていた。指さされた棚の中段にも同じパッケージデザインの小箱がいくつも並べてあった。

「ここに全部並べればいいのか……」

 段ボールから取り出してみると、小箱の大きさにいくつか種類があるようだった。確認しようかと思ったが、ホイールハウスに頭を突っ込んで忙しそうに作業している秋月さんに聞くのも気が引けたので、小箱の大きさだけそろえて棚に並べることにした。
 並べ終えて床掃除を再開させ、しばらく経ってからのことだ。秋月さんが僕を呼んだ。

「お前これ、エレメントの品番がバラバラじゃねぇか!」

 先ほど棚に並べた部品は、エレメントと呼ばれるものだったようだ。どうも、というかやはり大きさだけで揃えたのはまずかったようだ。パッケージには品番ラベルが貼られていて、それを基準に並べなければならなかったのだ。

「勘弁しろよー!」
「す、すみません!」

 朝から何度も謝っているような気がした。
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