私が義姉の婚約者を奪った理由。

桃の木

文字の大きさ
1 / 1

1.人生最悪の日。

しおりを挟む
「クリスティナ、今日をもって君との婚約は破棄させてもらおう。そして新たに、僕はミリアーナと婚約を結ぶつもりだ。君が反対したとしても無駄だよ、何故なら当主である伯爵から既に許可を得ているのだからな」

「お姉様、ごめんなさい。でもお姉様にハーマン様はお任せできないわ」

 目立つ赤い髪を持つルードリッヒ伯爵家のハーマン様は、意地悪く同じ色の目を歪めて高らかに宣言した。そしてその隣に立つ私は彼の腕に自分の手を絡ませて、申し訳なさそうに微笑む。

「どう、してなの............」


 前妻譲りの美しいブロンドと形の良い青い瞳を持った義姉——クリスティナは、驚きと絶望に顔を歪ませて呟く。その時、義姉の視線が婚約者ではなく、私に向けられていることに酷く胸が痛んだ。

「そんなこと、愛しているからに決まっていますわ」

  声が震えそうになるのをグッと堪え、義姉の婚約者を誘惑した意地の悪い娘を演じると、義姉の顔が一層苦しげに歪んだ。

 しかし今更やめるわけにはいかない。

 私は男の腕を軽く引くと、その無防備になっている彼の胸に擦りついて見せた。
 まるで甘えるような恋人の仕草に彼は満足気な顔をした後、嘲笑うような嫌な笑みを哀れな婚約者に向けた。

「もうわかるだろう、クリスティナ。僕は君を愛しちゃいないし、いつも一人で問題を解決してしまう強くて賢い君なら、別に僕がいなくなっても困らないだろう」

「そんな、私はただ......」

「ただ、なんだよ。容量も成績も僕よりいい君のことだ、どうせ偶々だと笑いながらも僕のことを見下していたのだろう!」

 劣等感に塗れたハーマン様の被害妄想に、クリスティナ姉様は何も答えない。

「ハーマン様、もうお話は済みましたでしょう」

「あ、あぁ......」

 もう飽きたわという顔でハーマン様の服を軽く引っ張り、話を切り上げさせる。
 これ以上続けたところで、誰も幸せにはならない。


 私達はクリスティナ姉様を残して、部屋を出た。
 
 
「ああ、ミリアーナ。これでやっと君と正式な婚約者になれる」

「本当に、人生最高の日ですわ」

 それはそれは嬉しそうに笑うハーマン様に、顔が歪みそうになるのをなんとか堪えて微笑む。

「ミリアーナ」

「はい?」

 何を思ったのかハーマン様が顔を近づけてくる。
 その目に黒髪を肩から垂らした、青い瞳を持つ女が映っているという事実に軽く吐き気がした。


「ごめんなさい。今日はもう疲れてしまいましたから、部屋に戻らせていただきますわ」


 不自然に思われないようにできるだけ自然に距離を取ると、私はそう言って微笑んだ。

「そうか、では今日はもう帰るとしよう」

「ええ、お気をつけて」


 若干残念そうな顔をして去っていく彼の背中を見ながら、私は笑みを消した。



 ————ああ本当に、今日は人生最悪の日だ。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

姉が私の振りして婚約者に会ってたので、罠に嵌めました。

coco
恋愛
姉は私の振りをして、婚約者を奪うつもりらしい。 以前から、私の婚約者とデートを繰り返していた姉。 今まで色んな物をあなたに奪われた…もう我慢の限界だわ! 私は姉を罠に嵌め、陥れることにした。 闇から立ち上がった私の、復讐劇が始まる─。

正妻の座を奪い取った公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹のソフィアは姉から婚約者を奪うことに成功した。もう一つのサイドストーリー。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...