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第2話 【ミルククラウン】~王様の涙~
第1章 受け皿
しおりを挟む行きつけの喫茶店で、今日も悔しそうにコーヒーを啜る男がいた。
「マスター、俺は競馬やってもパチンコやっても麻雀やっても全部ダメだ。何か俺に向いているものはないかな。」
「そうですねぇ。例えば、あなたが今飲んでいらっしゃるコーヒーですが、何の為にカップの下にソーサーが付いていると思いますか?」
「なんでって、砂糖を置いたり、スプーンを置いたり・・それに、受け皿があった方がお洒落だからじゃないの?」
「そういう理由もあるでしょうが、本来、コーヒーはカップからソーサーに移して冷まして飲んでいたのです。今それをやったら周りから怪訝な顔で見られるでしょうし、カップでそのまま飲む習慣が広まりましたから、ソーサーも底の深いものは無くなり今のように底の浅いものが一般的になりました。」
「この皿に、そんな歴史があったとはねぇ。」
「当たり前のことも、視点を変えてみると全く違った世界が見えてくる。今の環境をがらっと変えてみるのも一つの手かもしれませんね。」
「ふーん、がらっとねぇ・・」
藤井浩二は、ありふれた男だ。
どこにでもいそうな中肉中背で、その日の食い扶持に困りながらもギャンブルを止めることができないどうしようもない男である。ギャンブルの才能はまったく無い。運も無ければ、度胸も無い。おまけに特技も無い。無い無い尽くしだ。
藤井は、喫茶店を出ると、マスターの言葉をヒントに、環境をがらっと変えて新たなことにチャレンジする自分の姿を想像してみようと努めたが、まったく想像ができなかった。
「俺には、結局何もないんだな・・・」
そして、明くる日も、いつもの喫茶店に足を向ける。
「マスター、結局俺には何も無いってことだけは分かったよ。このままゴミみたいに死んでいくのかな・・」
「そんなことおっしゃらないでくださいよ。藤井さん、ミルククラウンってご存じですか?」
「え?ミル・・ミルクなんだって?」
「ミルククラウンです。お皿の上に垂らした牛乳が、王冠状の雫になっている映像を見たことはありませんか?」
「あぁ、言われてみれば見たことある気がするよ。」
「ほんの一瞬の出来事なんですよ。牛乳が王冠の形に見えるのは。」、
「まぁそうだろうな。」
「美しく見えるのはほんの一瞬だけ・・藤井さん、そういう刹那的な生き方って憧れないですか?」
「俺は、一瞬だって輝いたことなんてないよ。これまでの人生何もいいことなんてなかったしな。」
その時、マスターは薄笑いを浮かべた。
その笑みには、一種哲学的な何かを感じ取ることができた。
床を眺めながら二言三言独り言をつぶやくと、マスターはおもむろに藤井の方に身を乗り出した。
「実は・・藤井さんに、折り入ってお願いがあるんです。」
「お願い?」
マスターの目はもう笑っていなかった。
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