メリバ短編集Ⅰ

Enfance finie

文字の大きさ
6 / 14
第2話 【ミルククラウン】~王様の涙~

第2章 依頼

しおりを挟む
マスターのお願いは、頼む相手を間違えているとしか思えなかった。

「毎週土曜日、新宿のとある地下ホールで、裏カジノが行われているんです。そこに行って一儲けして来てもらいたいんです。」
突拍子もないマスターの申し出に、藤井は困惑の表情を浮かべた。

「大丈夫。絶対に損をしないからくりがあるんです。実は、私は、表では喫茶店のマスターをやっていますが、裏ではカジノを経営していましてね。」
「えっ、マスターが?」
「ええ。それで、運営する以上、全くお客様に利益を与えない訳にはいかない。かといって、無駄に勝たせては商売上がったりだ。どうせなら身内で利益を回そうというわけです。」

マスターの話は、要点が掴めないままだ。

「・・とはいえ、いつも同じ人物が勝っているとおかしいでしょう?そこで新たな勝ち役を捜していたのです。応じていただければ、それなりの報酬はお支払します。ただし、もしここであなたにお話したことが外部に漏れた場合は、藤井さん、命の保証はしませんよ。」

事情を聞いてしまった以上、藤井に断るという選択肢は残されていない。断った瞬間に殺されてしまうかもしれない。
なぜ、藤井に白羽の矢が立ったのかも判然としないままだったが、マスターは続けた。
「いいですか。あなたにベットしていただくゲームは、『王様の涙』、通称ミルククラウンというゲームです。」
藤井には、初めて聞く名前のゲームだ。
「このゲームは、一瞬の判断力が必要ですので、ルールを体得するまでひたすら練習していただきます。練習場所は、裏カジノが行われているホールの真向かいの古書店です。店主には話をつけてありますので、ひとまず、そこで練習して技術と精神力を磨いてください。」

藤井は、渡されたメモを頼りに古書店を目指した。
崩れかかった屋根に、本を売る気があるのか無いのか分からない老人が一人。
藤井はその老人に、マスターから預かったメモを渡すと、古書店の奥の階段を指差された。

どうやら、階段の下に隠し部屋があるらしい。
部屋は、三、四人が入れるかどうかの狭い造りだった。

隠し部屋に入ると、すでに先客がいた。
一見サラリーマン風の真面目そうな中年男性に、おおよそ来る場所を間違えたとしか思えない金髪ギャルが、険しい顔でトランプを台に並べていた。

「あの・・こんにちは。」
二人からの返事はない。
ギャルが無愛想な表情で藤井のことを一瞥し、空いた椅子に座るように顎で指示した。

ここへ座れってことか?
藤井は、促されるままに、椅子に座り、ゲームを見学した。

二人は、目にも止まらぬ速さで、カードを捌いていく。
藤井は、戦況を目で追うのがやっとで、二人が何をしているのかさっぱり分からなかった。

「ねぇ、あんた、参加しないの?」
見学していると、ギャルが急に話しかけてきた。

「は、はい・・」
藤井は、ルールも知らないゲームに参加させられる羽目となった。
「あんたからだよ。」
「え、ちょっと・・ルールが・・・」

「カードを揃えるんだよ。」
不意に後ろから話しかけられて、藤井は飛び上がった。
気づかない間に、古書店の主人が後ろに立っていた。
「あんた、ルール知らないんだろう。最初の何回かは、後ろから指示してあげるから。あとは、あんたの腕次第だ。」
「・・あ、ありがとうございます。」

かくして、藤井の猛特訓の日々が始まった。元来、覚えも悪く、ギャンブルのセンスもない藤井だったが、不思議と、この王様の涙は、体にすんなりと馴染んだ。

二週間の猛特訓の末、藤井はルールを完全に体得した。
そして、いよいよ、表舞台に出る時が来た。

勝ち役の取り分は十パーセントで、残りの賞金はマスターが指定した組織の銀行口座に入金する約束となっている。
藤井は、最初の掛け金と、裏カジノの入場時に必要なカードキーをマスターから受け取ると、緊張の面持ちで地下ホールへと向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...