魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ

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12.テスト2

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あれから、クラウスはテストのための訓練をギルバートと共にしてきた。今まで一人きりの訓練だったが、2人になった。

ギルバートは相変わらずあまり表情を変えず、笑った顔は見たことがなかったが、心なしかクラウスとの訓練の時、柔らかい雰囲気になったような気がする。

ギルバートは、クラウスにたくさん魔法について教えてくれたが、クラウスは赤水晶による体力の消費を考えて魔法を使うため、ギルバートが教えてくれることの半分も出来なかった。しかし、ギルバートは気にせずクラウスのできる範囲まで訓練に付き合ってくれた。

彼が訓練しているのもクラウスは時々見ていた。ギルバートは見事な力を持っている。卒業したら騎士団に入るみたいだが、既に大人並みの能力を持っているんじゃないかと思った。

人知れず行っていた訓練にギルバートが参加するようになってから、やはり周りの生徒たちの目がきつくなった。こっそりしてる訓練なのに、なんでバレたんだ。クラウスに直接何かしてくる生徒は居なくなったものの、良からぬ噂や陰口は消えなかった。

最近ドキリとしたのは、生徒たちのある噂話だ。大きな声で、まるでクラウスに聞かせるように言っていたのは、どこかの地方で起きた事件の話。

「──の地方で、また襲撃事件があったらしいよ」
「あー、あれだろ?『黒髪黒目の男』が恐ろしい魔法で攻撃してきたってやつ。…禁忌魔法って噂だぜ」
「こっわ。しかもさ、その襲われた人達に共通点があるんだって。──みんな王宮関係者らしいよ」

黒髪黒目…俺以外に、黒髪黒目の人物がいるということか?

時々そんな噂を耳にすることが多くなった。だが、その中には、黒髪黒目の男がいた、とか、いやただの野党だった、とか曖昧なものも多く、皆が皆本気にしているようではなかった。

今ではすっかり友達になったリリーは、そんな噂は気にせず相変わらずいつも通りクラウスと接していた。





さて、そんな中、いよいよテストの日になった。

訓練の成果を試す時だ。
と意気込んでみたものの、リーマン時代から変わらないあがり症なため、クラウスは朝からガチガチだった。見かねたリリーが、ギリギリまでそばに居てくれたが、彼女も2年のテストに向かってしまった。

テストは全学年が行うらしい。すると、一歩先に3年生のテストを受けるギルバートが近づいてきて、ぽんっと背中に手を置いた。

「そう緊張するな。俺も見てる」

ギルバートがこんな声をかけてくるとは意外だった。
さらりと言ったギルバートは、朝日を受けてそのシルバーブロンドをキラキラさせており、周りの子が赤面している。
やはりギルバートが普段下級生に声をかけることはないようで、皆驚いた顔をしていた。

クラウスはギルバートに頷きかけると、1年のテスト場へ向かった。ノアがクラウスを見つけてぱっと寄ってくる。

「あ!クラウス、おはよ!…なんか顔色悪くない?寝てないの?」

え。そうかな?

「おはよう。そんな顔色やばい?ちゃんと寝てるんだけどなぁ」
「んー、無理しないことだよ!クラウスすぐ無理してるし。ね、そう言えば、僕シリルと対戦することになったんだ~」

ノアがつまらなさそうな顔をする。

「昔っから組まされること多くて、もう飽きたよ」
「しょうがないだろ。俺たち実力が一緒くらいなんだから」

そんな2人の対戦は、想像通り見事なものだった。そういえば2人が戦う姿は俺は見たことがなかったかも知れない。彼らはまさに阿吽の呼吸で、攻防がぴったり上手くいっている。きっと、昔からこうして魔法で遊んでいたのかもしれない。

1年生は次々とテストを受けていった。テストといっても、実技のこのテストは実力を知るためのもので、皆対戦を楽しんでいるみたいだ。

「では、次はクラウス。前に来なさい」

ついに俺の番になった。

クラウスの対戦相手のモーリス先生が目の前に立つ。周りは生徒たちが観戦しており、既にテストを終えた上級生もいるようでクラウスはまた一気に緊張してきた。

こんな皆見てたっけ?

「…見ろよ、例のアイツが今からテスト受けるみたいだぜ」
「ああ、黒髪黒目の。どんな魔法使うんだろ」

なるほど、俺が急に魔法が使えるようになったため、皆が注目しているのか…。やめてくれ。

「…クラウスくん。大丈夫じゃ。これは実力を測るテスト。君は君のできる範囲をやればよいだけじゃ」

その時、モーリス先生は、こっそりとクラウスに言った。
先生の灰色の目はいつも通り表情が読めないが、その目が少し心配そうに見えた。

その目を見て、クラウスはふと体の力を抜く。

そう、どうせ皆みたいに上級魔法は使えない。へぼい結果になっても、テストに落ちるとかの制度もないし、いつも通りの授業と同じだ。
今までも、俺は抜きん出た才能なんかなくて、こういう注目の的になってもいつも微妙な結果になっていた。でも、どんな結果になっても別に今まで生きて来れたんだし、そんな大層な事じゃない。

ま、そう思っても緊張はするけど。なぜか俺の番の時、こんな皆が集まってきちゃったけど、全員ジャガイモだと思えばいいんだ。

「では、始め!」

モーリス先生は、いつも通りの授業と同じように、簡単な魔法で攻撃してきて、それをクラウスが防御し、返すように攻撃をした。

きっと、高等部の生徒たちから見たら、子供の遊びみたいに見えただろう。
でも、今までクラウスが魔法を使うところを見たことがない生徒が多いためか、特に周りの群衆から何も言われることはなかった。

テストは順調に終わりを迎えようとしていた。大体5分くらい対戦して、終わるのだ。

クラウスは、モーリス先生の攻撃魔法を一つ一つちゃんと防いでいた。クラウスの攻撃も、訓練した通り、的確に当たる。
全て、訓練の通りうまくいっていた。

モーリス先生が風魔法の小さな突風をクラウスに出した。
さらりとクラウスがかわす。

──と、その時、クラウスはかわしきれずに何かに足を取られてよろけた。

ん?
今、確かに俺は魔法を防いだはずだ。

また、攻撃が来て防いだその直後、クラウスの足を何かが絡めとる。流石にバランスを保てず、クラウスは地面につんのめってこけた。

ぶは。

群集の中で誰かが笑った。
それは小波のように広がり、クスクスと笑う声がそこかしこで聞こえる。

な、なんでだ。
先生の攻撃を確かに防いでるはずなのに、なぜ当たるんだ?

クラウスはそう考えながらも立ち上がると、また先生との攻防を始める。
モーリス先生は、今まで順調だったクラウスが調子を崩しているのを見て、不思議そうな顔をしている。

バチンッ。

まただ。

先生の火の玉の攻撃を避けた瞬間、クラウスの四肢に電撃のような痺れが走る。結構痛くて、クラウスは膝をついた。

おかしい。先生の攻撃は火魔法のはずなのに、なぜ風魔法の電撃が?

ッ!

その時、ものすごい殺気めいたものが背後から迫ってきた。いや、殺気と思ったのは、強力な魔法の攻撃による空気の振動だったかもしれない。

こんな魔法を受けたことのないクラウスは、なす術もなく迫り来る空気の刃のような形をした魔法をただ見ていることしかできなかった。

「ックラウスくん、危ない!」
「クラウス!!」

2人の声が同時に聞こえた。

モーリス先生が叫んでこっちに走ってくるのと、ギルバートが放った風魔法がクラウスに迫り来る魔法を弾き飛ばしたのは同時だった。

「──誰だ!テスト中の妨害行為は禁止のはずだ!」

ギルバートが訓練場の中心に駆け寄ってきて、クラウスの背を支える。鋭い目で、周りの生徒たちを睨んだ。
はっとその場の全員が息をつめる。そのくらい、ギルバートからの威圧が凄かった。美形が怒ると怖い。

「ワシも妨害行為をした者がいることは分かっておる。どこで魔力が出ていたか、ワシには分かるでな」

モーリス先生がぐっと生徒たちを見回し、ある一角にいる生徒たちに目をとめると、彼らの前に歩いて行った。

「──君たちじゃな?」

そこにいた複数の生徒たちは、真っ青になっていた。

「いや、ただちょっと揶揄うつもりで…さ、最後のあんな攻撃魔法は出してないですっ」
「その真偽については後で話を聞く。しかし、君たちがした行為は立派なテスト妨害行為、処罰の対象じゃ。一歩間違えば、クラウスくんに大怪我を負わせるところだったのじゃぞ!」

モーリス先生の厳しい言葉に、生徒たちはもう反論せず縮こまっていた。

「──これにてテストは中止とする!まだ受けていない者は、この後、個別に先生とのみ行うから残れ。終わった生徒たちは速やかに解散すること!──君たちはここに居なさい」

他の先生が大きな声で言った。

「──大丈夫だったか?少し治癒魔法をかけよう」

ギルバートが、クラウスの背を支えたまま、優しい声で聞いてくる。

「あ、ありがとうございます…」
「いや…俺はああいう卑怯なことが嫌いなんだ」

ギルバートは、言い淀む。

「…君が危ないと思ったら、咄嗟に動いていた。無事でよかった」

ギルバートの手から流れる治癒魔法が温かい。
クラウスは、くたりとギルバートの手にへたり込んでしまった。

…赤水晶の力を使い過ぎた…。

あの最後の殺意のある攻撃魔法を防ごうと思って、無意識に力を使い過ぎてしまったらしい。
終わってみると、ものすごい疲労で今にも気絶しそうだ。

「…っおい、クラウス?」

ギルバートの焦った声が聞こえるが、クラウスはもう意識を保っていられず目を瞑った。







ガチャリ。

壮年の男は、部屋に入ってきたもう1人の人物を振り返った。
入ってきたのは、ハットを被った男だ。

「ああ、ちょうど今テストが終わりましたよ」
「そうですか。…で、どうでした?」
「──そうですねぇ。彼は、本当に魔力が少ないようです。ええ、見たことがないほどに。普通は、もうちょっとあの攻撃魔法をしたら咄嗟に防ぐと思うんですよ。でも、彼は防げないようでした。代わりに、他の生徒が攻撃を軽々弾き飛ばしましたがね──あの、期待の王子が」
「ああ!彼ですか。彼が守るとは、意外ですね。…もしかして、いつの間にか仲良くなっていたんでしょうか。くく、そうすると、面白いですがねぇ」
「ははは、そうですな!──まぁ、一つ言えるのは、彼は力を隠しているわけではないようだ。本当に、考えられないほど、魔力が少ないのでしょう」
「…そう、そうですか…それはそれで、本当に"あの方"のようで…私は興奮しますよ。これからどうなるかを想像して」
「…彼は、使えますよ。とってもね」

男2人は、ニヤリと笑い合った。



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