魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ

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14.夏合宿2

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ギャーッ!!

その時、遠くで誰かの悲鳴が聞こえた。

はっと3人は顔を見合わせると、咄嗟にその方角へ走り出す。

「今の何?!誰か襲われた?」
「分からない!」

濃霧に包まれた森をひたすら走る。
その時、前方から突然、1人の人物が霧から飛び込んできた。
よく見ると、怪我を負っている1年の学生のようだ。

「──た、助けて…襲われた!」

顔面を蒼白にしてガタガタ震えている。

「襲われたって…誰に?」

ノアとシリルが駆け寄り、軽い治癒魔法を施す。1年の中で高度な治癒魔法を使えるのは、今のところノアとシリルだけだ。他の学生は無事なのか…?

「く、黒いフードの集団に襲われてっ…!そ、そいつらが仕掛けてきた魔法、変なんだ!同じチームのダリルが突然頭が痛いって言って、マシューに襲い掛かって…アイツらが何か魔法をダリルにかけたんだ。だから、錯乱したようになって…あれは…まるで禁忌魔法の『支配』みたいだった…」

支配、と聞いてノアとシリルがピクリとする。『支配』とは禁忌魔法の一種で、人を操る魔法だ。

「『支配』なんて…禁忌魔法だぞ…一体誰が──」
「──アイツらだ…最近、この辺りの町を襲ったっていう、『黒髪黒目の男』がいる集団だよっ!アイツらだっ!お前、何か知ってるんだろ?!クラウス!」

怪我をした生徒がクラウスを睨みつける。
突然名指しされたクラウスはビクッとした。

「っえ、いや、俺は何もしらな…」
「嘘つけ!今まで合宿でこんなことなかったのに、お前が来てから、襲われるなんて変だろ?!」
「待て!待てって」

シリルが今にもクラウスに掴みかかりそうな生徒を宥める。

「今は言い争ってる場合じゃないだろ?君のチームの子の所へ、早く案内してくれ!怪我しているなら早く処置しないと!」

シリルの言葉に、皆は再び濃霧の中を進み出す。

クラウスは、心臓が早鐘のように鳴るのを感じた。さっき言われた言葉が頭をぐるぐる回る。

──俺がいたから、例の集団が襲ってきたのか…?俺が…いたから…

「こっちで合ってるのか?!」

さっきよりも霧が濃い。本当にこれは自然に発生しているのか疑問だ。おかしな点が多すぎる。

「あ、合ってるはず…!ぎゃっ」

あまりの視界の悪さに、先頭を行く生徒が足を取られて地面の窪みに落ちたらしい。
彼を助けようと一歩先に行っていたシリルとノアが駆け寄っていくのが見え、クラウスは一歩遅れた。

しかし、シリルとノアの後ろ姿はすぐに濃く漂う濃霧に消えて行ってしまった。

「ッなぁ、待ってくれ!」

クラウスは濁った白い視界の中、必死で追いつこうとするが、まるで自分だけ違う空間に来てしまったかのように、周りはシンと静まり返り、進んでいるのか止まっているのかすら分からなくなる。

このままではまずいんじゃ?

…い、一旦落ち着け。

クラウスはドクドクする心臓を抑えた。

魔法で小さな光を手元に灯す。
それを掲げながら、クラウスは再びゆっくり歩き始めた。

1人になった途端、急に森が怖く感じた。周りはどんどん暗くなっていく。もしかしたら、とっくに日は暮れているのかも知れない。

先生が張ったという光の境界線も見えない。
もう、自分がどこを歩いているのかすら、分からなかった。

そうして、随分時間が経った。クラウスがもう脚が限界だと感じ出した頃──

──クラウスは目の前に現れた光景に立ちすくんだ。

空き地のようになっているそこには、霧の奥に微かに、倒れた生徒たちを囲むように数人の黒い人影が立っているのが見える。
彼らに立ち向かうように、誰かが立っているのが見えた。

シリルとノアだ!赤髪のマシューもいる。

…しかし、先生の姿はないようだった。

シリルやノアを筆頭に立っている生徒たちは、黒い集団に魔法で応戦していた。

バチ!バチ!

と薄暗い中、魔法が放つ光だけが空気を飛び交っている。

「ッ……」

…クラウスは、動けなかった。

早く助けに行かなくては。生徒たちだけで、彼らに勝てるとは思えない。今も、シリルたちが懸命に戦っている…。

それなのに、クラウスは初めて本気の戦闘を目にして、恐怖で足が地面に張り付いたかのように動かなかった。
ガクガクと膝が笑う。情けなくて涙が出そうだ。

…しっかりしろ。俺だけが大人なんだぞ。

しかし、次の瞬間、クラウスはきびすを返すと、再び森の中に駆け戻った。

それを、空き地の方から1人が見つめていた。









〈ノア視点〉

ッ痛…

ノアは飛んできた攻撃魔法をすんでのところで弾き飛ばした。それでも、掠った炎の攻撃の威力は凄まじい。

黒いフードを目深に被った集団が、ノアたちを取り囲んで次の攻撃を仕掛けようとしている。

「ッ、先生たちはどこにいるんだ…」

隣のシリルも限界そうだ。

僕も、魔力が底をつくかも…。

少し前、マシューたちのチームに合流した直後、黒いフードの集団が現れて攻撃を仕掛けてきた。
奴らは強く、流石のシリルや僕も全力で応戦しなければならない状況だ。

先生は……。それに、途中ではぐれてしまったクラウス。彼は無事かな…。

しかし、妙なんだ。

こんな子供相手なら、奴らは本気を出せば殺せるだろう。なにせ禁忌魔法も使ってくるのだ。禁忌魔法には命に関わるものも多く、僕たちなんて太刀打ちできない。
しかし、奴らは僕らの体力と魔力を削ってくるだけで、それ以上はしてこない。──まるで、何かを待っているかのような。

その時。

ノアの目の端に、暗闇の中で人影が動くのが見えた。

…クラウス……?

暗くても、ノアには分かった。

クラウス!来てくれた!

──しかし、次の瞬間、クラウスはくるりと背を向け、再び暗闇の中に走っていってしまった。

え…。

ノアはショックで動きを止める。じわじわと絶望が心を埋めていった。

なんで…。どうして助けてくれないの?

──黒髪黒目の男が、最近各地で禁忌魔法を使って人を襲っている。

周りが噂していたその言葉が頭をかすめた。

…そんなはずない。あれは、クラウスを陥れようと誰かが噂を流してるだけなんだ…。僕が見てきたクラウスは…全然噂とは違う人物だった。だから、僕も初めてシリル以外の人に、心を開きたいと思っていたのに。

…ねぇ、クラウス…君は噂の人じゃないんだよね?



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