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28.舞踏会〈ギルバート視点〉
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〈ギルバート視点〉
クラウスが冬季休暇中1人で寮で過ごすと聞いて、俺はすぐ彼を『冬の舞踏会』に誘うことに決めた。
元々、彼をいつか王宮に招待したかったから、俺の行動は素早かった。色んな許可を取って、彼のために使われていない離宮の部屋も用意した。
クラウスは王宮という場所に戸惑いつつも使用人全員に非常に丁寧な姿勢で、お付きのメイドたちはすっかり彼のことを気に入っていた。王宮は珍しいのか、萎縮しながらも一々新鮮に色んなものに驚いていたのは可愛かった。
…そして、ついに舞踏会の日。会場に現れたクラウスは俺の選んだ衣装に身を包んでいて、その凛とした姿に思わず見惚れた。彼は自身のことを地味とか平凡だというが、その顔もスタイルも俺のタイプだ。…誰かをタイプだと思ったのも、初めてだが。この国では派手な顔が多い中、クラウスはさっぱりとした顔立ちで年齢より若く見える。笑うとふにゃりと下がり眉になるのがいい。…そのちょっとお人好しそうで温和な雰囲気に惹かれる人間は多いと思う。だから、油断ならんのだ。彼を狙う輩も実は多い。前、『収穫祭』で男どもに絡まれているのを発見してから、俺の警戒心に拍車がかかった。
それから、舞踏会の間中、俺は内心これまでにないほど浮かれていたと思う。それに…その日のクラウスは変だったのだ。良い意味で。酒にでも酔ったのかと思うほど無防備にふわふわ笑っており、口を開けば可愛いことを言う。……なんだ?俺は試されているのか?
…しかし、そんな可愛い人に好意的なことを言われて嬉しくならない男はいない。俺も、彼の前では心が解けるのを止められず、頬が緩むのを感じた。きっと、そう思った時には俺は笑っていただろう。こんなに俺の表情筋が動いたのはいつぶりだろうか。湧き出る想いと共に彼を見つめると、彼は顔を赤くしてしまった。
…いつまでも見ていたい。そんなどこか甘い空間を破ってきたのは、兄さんだった。仕方なく言われた通り騎士団長の御令嬢に挨拶に向かうが、頭の中はさっきのクラウスで一杯だった。気になるのは、兄さんとクラウスが何を話していたかだ。…少し、クラウスの表情が陰っていたのはどうしてだろう。
そして俺は、クラウスをダンスに誘った。
皆に、クラウスは自分にとって特別な存在だということを知らせたかったからだ。そもそも、舞踏会に誘ったのもそれが理由。俺が自分でダンスのパートナーを選んだのは初めてだ。つまり、それは”彼に気がある”ということを意味している。その時の周囲の驚き様はすごかった。
──そう、ここまでくれば、流石に自分の気持ちには気づいている。
…俺は彼に惹かれている。多分、最初から。
ただ、恋をしたことがなかったので、なかなかこの先に一歩踏み出せずにいる。
…彼は、俺のことを全て知って、それでも受け入れてくれるのだろうか?
…皆が知らない、美しいばかりでない、自分の暗い感情や醜い部分も。
それに、まだ、何かが心の奥底に引っかかるのだ。俺はクラウスのことを、知っているようで何も知らない。
彼の周りにいる者のことが、どうしても気になる。
──クラウスの支援者である、ブラッド伯爵のことだ。
ブラッド伯爵は、『黒い集団』事件において要注意人物だと捉えている。俺はここ最近ずっと事件について調べているが、どうも彼の行動は不審な点が多い。彼以外にも、何者かがこの事件の背景に繋がりを持って潜んでいるように思えてならない。それは、学園にも、貴族内にも、さらに宮廷内にもいるかも知れない。
そんな中、クラウスがブラッド伯爵と関係を持っているのは、言いようもない不安を俺に与えた。『黒い集団』事件で不審な動きのあるブラッド伯爵の近くにいる、『黒髪黒目』であるクラウス。…一連の事件の中で1番、不安なことだ。
──…でも、クラウスのことは疑っていない。
彼を見ていたら、分かる。
もちろん、彼にも不思議なことは少なからずある。彼の出生は?なぜ、記憶喪失に?…その、この世界で唯一の容姿は?
クラウスとは、友達になって自分でも驚くほど親しくなった。…今まで他人に心を開けなかった俺が、だ。たくさんお互いのことも話したが、クラウスは、自分自身の過去については話してくれなかった。一度も。
…でも、俺は彼を信じている。
…何か、話したくないだけか…それか、そうだ、記憶喪失なんだからな。
──俺は、もう信じた者に裏切られたくない。
…………クラウスだけは、大丈夫だ。
クラウスが冬季休暇中1人で寮で過ごすと聞いて、俺はすぐ彼を『冬の舞踏会』に誘うことに決めた。
元々、彼をいつか王宮に招待したかったから、俺の行動は素早かった。色んな許可を取って、彼のために使われていない離宮の部屋も用意した。
クラウスは王宮という場所に戸惑いつつも使用人全員に非常に丁寧な姿勢で、お付きのメイドたちはすっかり彼のことを気に入っていた。王宮は珍しいのか、萎縮しながらも一々新鮮に色んなものに驚いていたのは可愛かった。
…そして、ついに舞踏会の日。会場に現れたクラウスは俺の選んだ衣装に身を包んでいて、その凛とした姿に思わず見惚れた。彼は自身のことを地味とか平凡だというが、その顔もスタイルも俺のタイプだ。…誰かをタイプだと思ったのも、初めてだが。この国では派手な顔が多い中、クラウスはさっぱりとした顔立ちで年齢より若く見える。笑うとふにゃりと下がり眉になるのがいい。…そのちょっとお人好しそうで温和な雰囲気に惹かれる人間は多いと思う。だから、油断ならんのだ。彼を狙う輩も実は多い。前、『収穫祭』で男どもに絡まれているのを発見してから、俺の警戒心に拍車がかかった。
それから、舞踏会の間中、俺は内心これまでにないほど浮かれていたと思う。それに…その日のクラウスは変だったのだ。良い意味で。酒にでも酔ったのかと思うほど無防備にふわふわ笑っており、口を開けば可愛いことを言う。……なんだ?俺は試されているのか?
…しかし、そんな可愛い人に好意的なことを言われて嬉しくならない男はいない。俺も、彼の前では心が解けるのを止められず、頬が緩むのを感じた。きっと、そう思った時には俺は笑っていただろう。こんなに俺の表情筋が動いたのはいつぶりだろうか。湧き出る想いと共に彼を見つめると、彼は顔を赤くしてしまった。
…いつまでも見ていたい。そんなどこか甘い空間を破ってきたのは、兄さんだった。仕方なく言われた通り騎士団長の御令嬢に挨拶に向かうが、頭の中はさっきのクラウスで一杯だった。気になるのは、兄さんとクラウスが何を話していたかだ。…少し、クラウスの表情が陰っていたのはどうしてだろう。
そして俺は、クラウスをダンスに誘った。
皆に、クラウスは自分にとって特別な存在だということを知らせたかったからだ。そもそも、舞踏会に誘ったのもそれが理由。俺が自分でダンスのパートナーを選んだのは初めてだ。つまり、それは”彼に気がある”ということを意味している。その時の周囲の驚き様はすごかった。
──そう、ここまでくれば、流石に自分の気持ちには気づいている。
…俺は彼に惹かれている。多分、最初から。
ただ、恋をしたことがなかったので、なかなかこの先に一歩踏み出せずにいる。
…彼は、俺のことを全て知って、それでも受け入れてくれるのだろうか?
…皆が知らない、美しいばかりでない、自分の暗い感情や醜い部分も。
それに、まだ、何かが心の奥底に引っかかるのだ。俺はクラウスのことを、知っているようで何も知らない。
彼の周りにいる者のことが、どうしても気になる。
──クラウスの支援者である、ブラッド伯爵のことだ。
ブラッド伯爵は、『黒い集団』事件において要注意人物だと捉えている。俺はここ最近ずっと事件について調べているが、どうも彼の行動は不審な点が多い。彼以外にも、何者かがこの事件の背景に繋がりを持って潜んでいるように思えてならない。それは、学園にも、貴族内にも、さらに宮廷内にもいるかも知れない。
そんな中、クラウスがブラッド伯爵と関係を持っているのは、言いようもない不安を俺に与えた。『黒い集団』事件で不審な動きのあるブラッド伯爵の近くにいる、『黒髪黒目』であるクラウス。…一連の事件の中で1番、不安なことだ。
──…でも、クラウスのことは疑っていない。
彼を見ていたら、分かる。
もちろん、彼にも不思議なことは少なからずある。彼の出生は?なぜ、記憶喪失に?…その、この世界で唯一の容姿は?
クラウスとは、友達になって自分でも驚くほど親しくなった。…今まで他人に心を開けなかった俺が、だ。たくさんお互いのことも話したが、クラウスは、自分自身の過去については話してくれなかった。一度も。
…でも、俺は彼を信じている。
…何か、話したくないだけか…それか、そうだ、記憶喪失なんだからな。
──俺は、もう信じた者に裏切られたくない。
…………クラウスだけは、大丈夫だ。
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