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40.卒業パーティ3
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「あら。花を貰ったのね。ギルバート殿下でしょ?」
ギルバートと別れ皆のところに戻ると、リリーが胸元の花を見て少し面白そうな目をした。
「うん、よく分かったね。…あのさ、この花って何か意味があるのかい?さっきから色んな人が見てくるんだけど」
「え?意味を知らないまま受け取ったの?」
リリーが目を見開くと、フッと笑う。
「…相変わらず、殿下も苦労しているのね」
「ん?」
「いえ、何でも。その花を渡す行為は、この卒業パーティの伝統のようなものよ。卒業する時、お世話になった人や親愛のある人に渡したのが始まりで、今は──」
「えっ!うそ?!…クラウスの付けてるあの花、あの色、ギルバート殿下のじゃない?」
「まさか!そんなはずないじゃない。だって花を渡すって、『あなたのことが気になってます』って意味で、カップルを作る伝統でしょ?ギルバート殿下がクラウスに…?…み、見間違いよ!」
リリーの言葉が言い終わらないうちに、近くを通った人の声が耳に飛び込んでくる。
その瞬間、意味を理解してじわじわ顔に熱が集まるのを感じた。
「はは…、なんか、勘違いされちゃってるな。多分、親愛の証で渡してくれたんだろ?光栄なことだけど…ちょっと恥ずかしいな」
心の中は一瞬歓喜で満ちたが、慌ててそんなわけないと自制する。
ギルバートには想い人がいるんだ。あの娘がこの場にいないから、渡す人が俺になっただけだろう。間違っても、『あなたのことが気になってます』って意味じゃない。
…それでも、その相手を俺にしてくれたことが嬉しい。彼には、沢山の友人がいるのに、俺に渡してくれたのだ。
「…これは重症ね」
リリーが遠い目をした。
妙に会場がザワッとして周りを見ると、ギルバートが姿を見せたところだった。
「…え…。本当に胸元に花がないんだけど…?」
そばにいた女の子が唖然として呟く。
「誰…誰にあげたの…?!」
その子たちがハッとしたように俺の方を見たので、俺はビクッとした。
「…まさか、ね。違う人の青い花を貰ったのよ」
「…うん、きっとそう」
ふと視線を感じ、ギルバートが遠くからクラウスを見つめていることに気づいた。その真っ直ぐで力強い目を見て、俺は胸が熱くなった。
…ギルバートが恋愛的な意味でこの花をくれたわけじゃなくてもいいじゃないか。彼からの友愛の気持ちは本物だ。それが本当に嬉しい。
クラウスが微笑み返すと、なぜかギルバートが口元を押さえてそっぽを向いた。
ギルバートの花が無くなったことに会場の若い子たちが一様に動揺した後、一気に談笑する声は活気を帯びた。噂話の好きなみんなは目を輝かせてギルバートのいるはずのない恋人について話す。
しばらくすると、突然、楽団が奏でる音楽が軽快に響き出した。大広間の方が薄暗くなり、天井の煌びやかな照明魔石がロマンチックに光出す。
人々は、わくわくしたように大広間へ集まり始めた。
「な、何が始まるんだ?」
「ダンスだよ!恒例なんだ」
ノアはわくわくした様子だ。
ダンス?!またダンスか…。この世界の人はどんだけダンスが好きなんだ?『冬の舞踏会』では、ギルバートが手取り足取りリードしてくれたけど、今回はそれもできない。俺は果たして踊れるのだろうか…。
「クラウス大丈夫?なんだか顔が青いけど」
「いや…ダンスが不安でな」
「ああ!大丈夫だよ。形式ばってないし、踊らない人もいるし。ホラ、学生以外の大人たちは周りで談笑してる」
「私は踊らないつもりよ」
そう言ったリリーは、確かにダンスに興味がなさそうにしている。
「私と一緒に見てる?」
「ああ、そうさせてもらおうかな…」
俺は正直ホッとした。
「え~楽しいのに~。じゃ、僕らは踊ってくるね。シリル、いくよ!」
「ああ。今度こそコケるなよ」
「そ、それは前回の話でしょ!僕も成長してるから!」
そんなことを仲良く言い合いながら、ノアとシリルは照明がゆらゆら煌めく中に歩み去っていった。
…改めて思うけど、ノアとシリルっていつも一緒だよな。ダンスの相手には特に決まりはないようだが、カップルで踊っている者が多いから、ノアとシリルもお互い特別な存在なんだろうな、というのは流石のクラウスでも分かってきた。何より、ノアのあの天使のような笑みは、シリルに向けられる時が多い。そんなノアを、シリルが穏やかに微笑んで見ていることはよくあった。
ノア達と離れてしまうが、少しの間なら大丈夫だろう。何より、ダンスの時間となった大広間は扉が閉まり、警備が外にいて外部からの侵入を確実に防いでいた。
リリーと共に、ほのかに輝く照明の下楽しそうに踊る皆を眺める。会場の明るさは近づけばギリギリ顔が分かる程度で、誰がどこにいるか探すのは大変だ。でもその分、人の目を気に踊れる雰囲気だった。
…ギルバートも誰かと踊っているのだろうか。
さっきから気になってずっと目で探してしまう。あのスラリとした気品ある王子が踊る姿は、さぞ美しいだろう。今度こそ、第三者として踊る姿を見れるのでは、と思いながらも、彼が相手に選んだパートナーがいるかもしれないと思うと、胸にズキリと痛みが走った。
そんなふうに会場を見渡していると、ふと、ある人物がふらふらと視界を横切ったのに気づいた。それだけなら、この薄暗い中誰かも分からず、気に止めなかっただろう。
しかし、クラウスにはその人物に見覚えがあった。在学生のローブを頭から被り、おぼつかない足取りの小柄な青年。その姿は、今朝寮の前でぶつかったダリルと酷似していた。そう思ってじっと見ていると、フードの隙間から少し顔が見えて確信する。
相変わらず、正気のない顔をしていて、どこか顔色も悪い。大丈夫なのだろうか?
声をかけた方がいいか迷っていると、ダリルは警備の人のそばを通り、大広間から出て行ってしまった。具合が悪そうだから、新鮮な空気を吸いにいったのかもしれない。…戻らなかったら、様子を見に行こう。
ギルバートと別れ皆のところに戻ると、リリーが胸元の花を見て少し面白そうな目をした。
「うん、よく分かったね。…あのさ、この花って何か意味があるのかい?さっきから色んな人が見てくるんだけど」
「え?意味を知らないまま受け取ったの?」
リリーが目を見開くと、フッと笑う。
「…相変わらず、殿下も苦労しているのね」
「ん?」
「いえ、何でも。その花を渡す行為は、この卒業パーティの伝統のようなものよ。卒業する時、お世話になった人や親愛のある人に渡したのが始まりで、今は──」
「えっ!うそ?!…クラウスの付けてるあの花、あの色、ギルバート殿下のじゃない?」
「まさか!そんなはずないじゃない。だって花を渡すって、『あなたのことが気になってます』って意味で、カップルを作る伝統でしょ?ギルバート殿下がクラウスに…?…み、見間違いよ!」
リリーの言葉が言い終わらないうちに、近くを通った人の声が耳に飛び込んでくる。
その瞬間、意味を理解してじわじわ顔に熱が集まるのを感じた。
「はは…、なんか、勘違いされちゃってるな。多分、親愛の証で渡してくれたんだろ?光栄なことだけど…ちょっと恥ずかしいな」
心の中は一瞬歓喜で満ちたが、慌ててそんなわけないと自制する。
ギルバートには想い人がいるんだ。あの娘がこの場にいないから、渡す人が俺になっただけだろう。間違っても、『あなたのことが気になってます』って意味じゃない。
…それでも、その相手を俺にしてくれたことが嬉しい。彼には、沢山の友人がいるのに、俺に渡してくれたのだ。
「…これは重症ね」
リリーが遠い目をした。
妙に会場がザワッとして周りを見ると、ギルバートが姿を見せたところだった。
「…え…。本当に胸元に花がないんだけど…?」
そばにいた女の子が唖然として呟く。
「誰…誰にあげたの…?!」
その子たちがハッとしたように俺の方を見たので、俺はビクッとした。
「…まさか、ね。違う人の青い花を貰ったのよ」
「…うん、きっとそう」
ふと視線を感じ、ギルバートが遠くからクラウスを見つめていることに気づいた。その真っ直ぐで力強い目を見て、俺は胸が熱くなった。
…ギルバートが恋愛的な意味でこの花をくれたわけじゃなくてもいいじゃないか。彼からの友愛の気持ちは本物だ。それが本当に嬉しい。
クラウスが微笑み返すと、なぜかギルバートが口元を押さえてそっぽを向いた。
ギルバートの花が無くなったことに会場の若い子たちが一様に動揺した後、一気に談笑する声は活気を帯びた。噂話の好きなみんなは目を輝かせてギルバートのいるはずのない恋人について話す。
しばらくすると、突然、楽団が奏でる音楽が軽快に響き出した。大広間の方が薄暗くなり、天井の煌びやかな照明魔石がロマンチックに光出す。
人々は、わくわくしたように大広間へ集まり始めた。
「な、何が始まるんだ?」
「ダンスだよ!恒例なんだ」
ノアはわくわくした様子だ。
ダンス?!またダンスか…。この世界の人はどんだけダンスが好きなんだ?『冬の舞踏会』では、ギルバートが手取り足取りリードしてくれたけど、今回はそれもできない。俺は果たして踊れるのだろうか…。
「クラウス大丈夫?なんだか顔が青いけど」
「いや…ダンスが不安でな」
「ああ!大丈夫だよ。形式ばってないし、踊らない人もいるし。ホラ、学生以外の大人たちは周りで談笑してる」
「私は踊らないつもりよ」
そう言ったリリーは、確かにダンスに興味がなさそうにしている。
「私と一緒に見てる?」
「ああ、そうさせてもらおうかな…」
俺は正直ホッとした。
「え~楽しいのに~。じゃ、僕らは踊ってくるね。シリル、いくよ!」
「ああ。今度こそコケるなよ」
「そ、それは前回の話でしょ!僕も成長してるから!」
そんなことを仲良く言い合いながら、ノアとシリルは照明がゆらゆら煌めく中に歩み去っていった。
…改めて思うけど、ノアとシリルっていつも一緒だよな。ダンスの相手には特に決まりはないようだが、カップルで踊っている者が多いから、ノアとシリルもお互い特別な存在なんだろうな、というのは流石のクラウスでも分かってきた。何より、ノアのあの天使のような笑みは、シリルに向けられる時が多い。そんなノアを、シリルが穏やかに微笑んで見ていることはよくあった。
ノア達と離れてしまうが、少しの間なら大丈夫だろう。何より、ダンスの時間となった大広間は扉が閉まり、警備が外にいて外部からの侵入を確実に防いでいた。
リリーと共に、ほのかに輝く照明の下楽しそうに踊る皆を眺める。会場の明るさは近づけばギリギリ顔が分かる程度で、誰がどこにいるか探すのは大変だ。でもその分、人の目を気に踊れる雰囲気だった。
…ギルバートも誰かと踊っているのだろうか。
さっきから気になってずっと目で探してしまう。あのスラリとした気品ある王子が踊る姿は、さぞ美しいだろう。今度こそ、第三者として踊る姿を見れるのでは、と思いながらも、彼が相手に選んだパートナーがいるかもしれないと思うと、胸にズキリと痛みが走った。
そんなふうに会場を見渡していると、ふと、ある人物がふらふらと視界を横切ったのに気づいた。それだけなら、この薄暗い中誰かも分からず、気に止めなかっただろう。
しかし、クラウスにはその人物に見覚えがあった。在学生のローブを頭から被り、おぼつかない足取りの小柄な青年。その姿は、今朝寮の前でぶつかったダリルと酷似していた。そう思ってじっと見ていると、フードの隙間から少し顔が見えて確信する。
相変わらず、正気のない顔をしていて、どこか顔色も悪い。大丈夫なのだろうか?
声をかけた方がいいか迷っていると、ダリルは警備の人のそばを通り、大広間から出て行ってしまった。具合が悪そうだから、新鮮な空気を吸いにいったのかもしれない。…戻らなかったら、様子を見に行こう。
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