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すべてのはじまり⑥
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「ねえ、ロレンツォ」
クレメンティーナが歩調をゆるめたため、二人は自然に肩を並べる形になった。
「あなたの従者や使用人たちはお国に帰ったと聞いたのだけれど、ひとりきりでは寂しいのではなくて? それにお付きがいなければいろいろと不便でしょう? ディ・ジョルダノはいい人だけど、何か困っていることはない?」
「いえ、まったく困っておりません。宰相閣下も奥様もとてもよくしてくださいますし」
とたんに背後から大げさな咳払いが聞こえてきて、ロレンツォは急いで「それにリカルドも」とつけ加えた。
「先ほどもいじめられていたわけではなく、私が騒いだだけです。婚約していると聞いて――」
「まあ」
クレメンティーナとマチルダが足を止めて笑いだし、後ろからまたリカルドの咳払いが何度も響いた。
(……楽しいな)
ロレンツォは自然と笑顔になっている自分に驚いた。
幼いながらもメリエーレの立場や、突然の遊学が意味していることはわかっていた。
自分は人質のようなものだ。だから敵国でこそないものの、ヴィチェランテでの日々は孤独で気が抜けないものになるだろうと覚悟していたのだ。
それなのに何不自由なく暮らし、王女や宰相の息子とこんなになごやかに過ごしているなんて――両親が知ったら、どんなに驚くだろう。
よかったと安心してくれるか、それとも情けないと嘆くだろうか?
「いけない。みんなを待たせてしまったわ」
クレメンティーナが少し足を速めたので、ロレンツォたちも後に続く。
すると庭園にいた少年たちが待ちかねたように集まってきた。
「みなさん、お待たせしてごめんなさい。今日は来てくださって、どうもありがとう」
クレメンティーナの声は特別だ。竪琴の音色のように澄んでいて、大声でも甲高くもないのに、よく響く。
「実は従者を探していて、あなた方の中から決めるつもりなのです。わたくしの侍女はこのマチルダが務めてくれているけれど、これからは剣術や乗馬のお稽古を一緒にしてくれる人が必要なの。お勉強や国内巡行の時にも、いつもそばにいてほしいと思っています」
クレメンティーナの説明は意外なものだった。その内容に怯んだのか、辺りがしんと静まりかえる。
みんな、従者として何をするかまではわからなかったのだろう。たとえば稽古とはいえ王女と、というより未来の女王と剣を交えて、何かあったらただではすまない。
そもそも王女なのに、どうして剣術など習うのか?
しかし――。
「かしこまりました!」
「どうぞお任せください、クレメンティ―ナ様!」
「どんなご用も承ります。何でもお申しつけください!」
間もなく、あちこちから元気な声が上がった。
いろいろ考え合わせれば、おそらくは失うものより得るものの方が大きいと判断したのだろう。何より、うっとりするほどかわいらしい王女のそばに常にいられるのだ。
「では」
クレメンティ―ナが周囲を見回して、にっこり微笑んだ。
「みんなで鬼ごっこをしましょう。わたくしをつかまえてちょうだい」
クレメンティーナが歩調をゆるめたため、二人は自然に肩を並べる形になった。
「あなたの従者や使用人たちはお国に帰ったと聞いたのだけれど、ひとりきりでは寂しいのではなくて? それにお付きがいなければいろいろと不便でしょう? ディ・ジョルダノはいい人だけど、何か困っていることはない?」
「いえ、まったく困っておりません。宰相閣下も奥様もとてもよくしてくださいますし」
とたんに背後から大げさな咳払いが聞こえてきて、ロレンツォは急いで「それにリカルドも」とつけ加えた。
「先ほどもいじめられていたわけではなく、私が騒いだだけです。婚約していると聞いて――」
「まあ」
クレメンティーナとマチルダが足を止めて笑いだし、後ろからまたリカルドの咳払いが何度も響いた。
(……楽しいな)
ロレンツォは自然と笑顔になっている自分に驚いた。
幼いながらもメリエーレの立場や、突然の遊学が意味していることはわかっていた。
自分は人質のようなものだ。だから敵国でこそないものの、ヴィチェランテでの日々は孤独で気が抜けないものになるだろうと覚悟していたのだ。
それなのに何不自由なく暮らし、王女や宰相の息子とこんなになごやかに過ごしているなんて――両親が知ったら、どんなに驚くだろう。
よかったと安心してくれるか、それとも情けないと嘆くだろうか?
「いけない。みんなを待たせてしまったわ」
クレメンティーナが少し足を速めたので、ロレンツォたちも後に続く。
すると庭園にいた少年たちが待ちかねたように集まってきた。
「みなさん、お待たせしてごめんなさい。今日は来てくださって、どうもありがとう」
クレメンティーナの声は特別だ。竪琴の音色のように澄んでいて、大声でも甲高くもないのに、よく響く。
「実は従者を探していて、あなた方の中から決めるつもりなのです。わたくしの侍女はこのマチルダが務めてくれているけれど、これからは剣術や乗馬のお稽古を一緒にしてくれる人が必要なの。お勉強や国内巡行の時にも、いつもそばにいてほしいと思っています」
クレメンティーナの説明は意外なものだった。その内容に怯んだのか、辺りがしんと静まりかえる。
みんな、従者として何をするかまではわからなかったのだろう。たとえば稽古とはいえ王女と、というより未来の女王と剣を交えて、何かあったらただではすまない。
そもそも王女なのに、どうして剣術など習うのか?
しかし――。
「かしこまりました!」
「どうぞお任せください、クレメンティ―ナ様!」
「どんなご用も承ります。何でもお申しつけください!」
間もなく、あちこちから元気な声が上がった。
いろいろ考え合わせれば、おそらくは失うものより得るものの方が大きいと判断したのだろう。何より、うっとりするほどかわいらしい王女のそばに常にいられるのだ。
「では」
クレメンティ―ナが周囲を見回して、にっこり微笑んだ。
「みんなで鬼ごっこをしましょう。わたくしをつかまえてちょうだい」
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