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再会の東京
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思わず視線を落とした時、田島先輩が立ち上がる気配がした。
「大丈夫、桐島さん? ちょっと顔色が悪いみたいだけど」
「い、いえ、大丈夫です」
「いや、もしかしたら貧血かもしれないよ。ここに座って、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
心配そうで優しげな声。だけどそれが私をいっそう怯えさせ、同時に苛立たせる。
あの時も同じだった。ふだんの田島先輩は乱暴でもないし、声を荒らげたりもせず、悪い人ではなかったかもしれない。だが、こちらの気持ちは置いてきぼりのまま、自分の思いどおりにことを運ぼうとした。
あれから何年もたったし、私はいろいろな意味で成長したと思っていた。だからこんなふうに取り乱したりするはずないのに。
「さあ、桐島さん」
田島先輩がゆっくり近づいてくる。
「そういえば昔のことだけど……君は少し誤解をしていると思うんだ。せっかくだから、今日はよく話し合ってみないか?」
「わ、私――」
鼓動は信じられないくらい速くなり、かすかに耳鳴りさえしてきた。
今さらそんなことはしたくない。仕事でなければ、彼と話などしたくない。そもそも同じ空間にさえいたくないのだ。
それなのに、硬直したように全身が動かない。
「桐島さ――」
その時、バタンと音がして、田島先輩の猫なで声が唐突に途切れた。
「な、何だ、あんた?」
明らかに狼狽した様子に、私は慌てて顔を上げる。見えたのは、信じられない光景だった。
「おい、手を離せよ!」
私の方へ伸ばされている田島先輩の右腕が、しっかりとつかまれている。彼の背後に立っていたのは――。
「……どうして?」
そこにいたのは林太郎さんだった。
「おい、いったい何のつもり――」
田島先輩は声を荒らげて振り返ったが、すぐに黙り込んだ。
無理もないと思う。
林太郎さんは彼より背が高いし、もともとけっこうな強面だ。 しかも今は硬い表情で、エグゼクティブ然とした上質なスーツを着こなしている。
きっと田島先輩は「いったい何者だ?」と思い悩んでいるのだろう。
「失礼」
林太郎さんが手を離し、軽く頭を下げた。
「だが、頼むから亜美さんに近づかないでもらいたい。あんたを怖がっているから」
「大丈夫、桐島さん? ちょっと顔色が悪いみたいだけど」
「い、いえ、大丈夫です」
「いや、もしかしたら貧血かもしれないよ。ここに座って、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
心配そうで優しげな声。だけどそれが私をいっそう怯えさせ、同時に苛立たせる。
あの時も同じだった。ふだんの田島先輩は乱暴でもないし、声を荒らげたりもせず、悪い人ではなかったかもしれない。だが、こちらの気持ちは置いてきぼりのまま、自分の思いどおりにことを運ぼうとした。
あれから何年もたったし、私はいろいろな意味で成長したと思っていた。だからこんなふうに取り乱したりするはずないのに。
「さあ、桐島さん」
田島先輩がゆっくり近づいてくる。
「そういえば昔のことだけど……君は少し誤解をしていると思うんだ。せっかくだから、今日はよく話し合ってみないか?」
「わ、私――」
鼓動は信じられないくらい速くなり、かすかに耳鳴りさえしてきた。
今さらそんなことはしたくない。仕事でなければ、彼と話などしたくない。そもそも同じ空間にさえいたくないのだ。
それなのに、硬直したように全身が動かない。
「桐島さ――」
その時、バタンと音がして、田島先輩の猫なで声が唐突に途切れた。
「な、何だ、あんた?」
明らかに狼狽した様子に、私は慌てて顔を上げる。見えたのは、信じられない光景だった。
「おい、手を離せよ!」
私の方へ伸ばされている田島先輩の右腕が、しっかりとつかまれている。彼の背後に立っていたのは――。
「……どうして?」
そこにいたのは林太郎さんだった。
「おい、いったい何のつもり――」
田島先輩は声を荒らげて振り返ったが、すぐに黙り込んだ。
無理もないと思う。
林太郎さんは彼より背が高いし、もともとけっこうな強面だ。 しかも今は硬い表情で、エグゼクティブ然とした上質なスーツを着こなしている。
きっと田島先輩は「いったい何者だ?」と思い悩んでいるのだろう。
「失礼」
林太郎さんが手を離し、軽く頭を下げた。
「だが、頼むから亜美さんに近づかないでもらいたい。あんたを怖がっているから」
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