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最後の選択
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パチパチと火がはぜる音がして、アマーリアは小さく身じろぎをした。
寝台は硬く、うっすら開けた目に映った天井は丸太を組み合わせたもので、まったく見覚えがなかった。
小屋の中だろうか?
どうやら眠っていたようだが、どうしてこんなところにいるのだろう?
(あっ!)
腹部に鈍い痛みが走り、アマーリアは唐突にすべてを思い出した。
王家に世継が誕生したため、命の危険にさらされていること。愛しいリナルドが敵に仕える守護騎士で、双頭の獅子の刺青を入れていたこと。そして、その彼と契ってしまったこと。
追いつめられたアマーリアは自決しようとしたはずだったが――。
瞳だけを動かして音がする方を見ると、粗末な暖炉で火が燃えていた。こちらに背を向け、その前に立っているのはリナルドだ。
今は九月で、夜でも火をたく必要などない。
しかも彼はなぜか上半身裸だった。その腕の中にいる時は気づかなかったが、広い背中にはいくつも傷痕がある。
「アマーリア様、先ほどは失礼いたしました」
音など立てていないはずなのに、リナルドは背を向けたまま低い声で詫びた。
「ですが、どうかご安心ください。あなたを陛下には渡さない。内通者が密告しても今まで逃れてきたように、これからも必ずお守りいたします」
その言葉に、アマーリアは思わず身を起こす。
「あ、あなたは王の守護騎士なのでしょう? もしも裏切れば、家族にも累が及ぶのではなくて?」
「家族はおりません。同じく守護騎士だった兄は、俺と戦って命を落としました。腕が立つ人で、俺もこの傷を負いましたが」
「兄君と……戦った?」
リナルドはアマーリアの処遇を巡って兄と対立し、ガルディニの前で剣を合わせたという。
「兄はあなたを即刻捕らえるべきだと主張したが、俺は反対した。その勝負に勝ったことで、陛下もアマーリア様を泳がせ、俺に見張らせることに同意されたのです」
「だったら、なぜわたくしを引き渡さないのです?」
「お慕いしているからです。湯治場でお見かけした時からずっと」
ふいにアマーリアは、リナルドが鉄の火かき棒を握っていることに気がついた。ずっと炙られていたのか、先端がすっかり赤くなっている。
「リナルド、まさか――」
次の瞬間、リナルドは上体を曲げ、その腹部に焼けた火かき棒を押し当てた。
「くぅっ」
苦悶の呻きと皮膚が焼ける臭い。
アマーリアは寝台から飛び下り、リナルドに駆け寄った。
「やめて!」
しかしリナルドはアマーリアを振り払うと、なおも恐ろしい行為を続けた。
「リナルド!」
彼が火かき棒を投げ捨てたのは、さらに数秒してからだった。
早く火傷を冷やさなければ、たいへんなことになる。アマーリアは懸命に周囲を見回した。
ところが苦痛に顔を歪めながらも、リナルドは右手を差し出してきた。
「アマーリア様、俺はもはや王の守護騎士ではありません。ただの……ひとりの男だ」
忌まわしい刺青は自分の手で葬った――緑の瞳は誇らしげに、そう訴えていた。
「この命に代えても、必ずあなたをお守りします」
「リナルド」
アマーリアは震えながら、恐ろしい、けれどもそれ以上に恋しくてならない男の手を取った。
* * *
数日後、国王ガルディニのもとに、北の国境で警備兵が襲われ、若い男女が隣国に逃げたという報告があった。
以後、レマルフィ王国ではアマーリアとリナルドの姿は見られていない。(了)
寝台は硬く、うっすら開けた目に映った天井は丸太を組み合わせたもので、まったく見覚えがなかった。
小屋の中だろうか?
どうやら眠っていたようだが、どうしてこんなところにいるのだろう?
(あっ!)
腹部に鈍い痛みが走り、アマーリアは唐突にすべてを思い出した。
王家に世継が誕生したため、命の危険にさらされていること。愛しいリナルドが敵に仕える守護騎士で、双頭の獅子の刺青を入れていたこと。そして、その彼と契ってしまったこと。
追いつめられたアマーリアは自決しようとしたはずだったが――。
瞳だけを動かして音がする方を見ると、粗末な暖炉で火が燃えていた。こちらに背を向け、その前に立っているのはリナルドだ。
今は九月で、夜でも火をたく必要などない。
しかも彼はなぜか上半身裸だった。その腕の中にいる時は気づかなかったが、広い背中にはいくつも傷痕がある。
「アマーリア様、先ほどは失礼いたしました」
音など立てていないはずなのに、リナルドは背を向けたまま低い声で詫びた。
「ですが、どうかご安心ください。あなたを陛下には渡さない。内通者が密告しても今まで逃れてきたように、これからも必ずお守りいたします」
その言葉に、アマーリアは思わず身を起こす。
「あ、あなたは王の守護騎士なのでしょう? もしも裏切れば、家族にも累が及ぶのではなくて?」
「家族はおりません。同じく守護騎士だった兄は、俺と戦って命を落としました。腕が立つ人で、俺もこの傷を負いましたが」
「兄君と……戦った?」
リナルドはアマーリアの処遇を巡って兄と対立し、ガルディニの前で剣を合わせたという。
「兄はあなたを即刻捕らえるべきだと主張したが、俺は反対した。その勝負に勝ったことで、陛下もアマーリア様を泳がせ、俺に見張らせることに同意されたのです」
「だったら、なぜわたくしを引き渡さないのです?」
「お慕いしているからです。湯治場でお見かけした時からずっと」
ふいにアマーリアは、リナルドが鉄の火かき棒を握っていることに気がついた。ずっと炙られていたのか、先端がすっかり赤くなっている。
「リナルド、まさか――」
次の瞬間、リナルドは上体を曲げ、その腹部に焼けた火かき棒を押し当てた。
「くぅっ」
苦悶の呻きと皮膚が焼ける臭い。
アマーリアは寝台から飛び下り、リナルドに駆け寄った。
「やめて!」
しかしリナルドはアマーリアを振り払うと、なおも恐ろしい行為を続けた。
「リナルド!」
彼が火かき棒を投げ捨てたのは、さらに数秒してからだった。
早く火傷を冷やさなければ、たいへんなことになる。アマーリアは懸命に周囲を見回した。
ところが苦痛に顔を歪めながらも、リナルドは右手を差し出してきた。
「アマーリア様、俺はもはや王の守護騎士ではありません。ただの……ひとりの男だ」
忌まわしい刺青は自分の手で葬った――緑の瞳は誇らしげに、そう訴えていた。
「この命に代えても、必ずあなたをお守りします」
「リナルド」
アマーリアは震えながら、恐ろしい、けれどもそれ以上に恋しくてならない男の手を取った。
* * *
数日後、国王ガルディニのもとに、北の国境で警備兵が襲われ、若い男女が隣国に逃げたという報告があった。
以後、レマルフィ王国ではアマーリアとリナルドの姿は見られていない。(了)
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