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第一章 元アラサー 公爵令嬢になる
1話 ここは乙女ゲームの世界です?
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ツタと花が絡みつく銀の縁取りの大きな鏡の前で私はつらつらと自分の姿を眺めている。うん、美幼女だ、どこからみても可愛らしく、将来の美しさを想像できる姿をしている。わたしの美貌に死角はない!
ただ不満はある。
「夏の青空のような瞳はいいとして・・・」
私は銀色の髪をつまみ上げる。
「この色は地味じゃないかな、金髪のほうがいけてた?それでも猫のようなちょっとつり上がり気味の瞳があるから多少は華やかな感じ?」
眼をまたたくと銀色のまつげが動き、その量と長さを主張している。これならまつげのエクステは必要ないわね、前世のささやかなまつげを思い出して私はそうつぶやいた。
いやいや、今大事なのはそこではない。寝て起きたらこの身体になっていたということなのだ。小さくなった手を眺め、どうしようかと思いながらベッドを被っている布をかき分け、外にでた私が部屋を見回すと、大きな鏡があった。そこで自分の容姿を確認。←今ここ。
さてどうしよう。悩んでいる私に声が聞こえた。
<伝言・・・5歳になりましたので記憶の封印を解除しました。約束どおり前世の善行の見返りとして与えられた新しい人生です。自由にお過ごしください>
えっ、これだけ・・・もう少し詳しく教えてくれてもいいのに。そして私の記憶だけれど、曖昧すぎる。家族も友達もいてそれなりに楽しく暮らしていたアラサーOL。それ以上分からない。暮らしていた日本の記憶はあっても私自身のものがぽっかり抜けている。前世のことを気にしないようにしたのかもしれないけれど、小さな親切大きなお世話という言葉を知らないのだろうか。ついでに恋人は?2,3人いたらしい、アラサーだったのだから、そのくらいはいただろう。でも最近はいなかった。はいはい、これでは未練は微塵ももてませんよね。だから余計なお世話だというのに・・・
いいもんね、今の私は美幼女。家もお金持ちっぽいし、恋人の1人や2人簡単にできるに違いない。いいだろう、人生の勝ち組になって、高笑いしてやる!
そうこうしている内にメイドさんが現れ、着替えさせられた私は朝食の間に連れて行かれた。お父様とお母様と称する人たちがにこにこと出迎えてくれる。
「おはよう、リエンヌ。よく眠れたかな」
「今日も可愛いわ、リエンヌ」
2人とは昨日1年ぶりに会った。お母様が体調を崩し、私は祖父母のところに1年もの間預けられていたからだ。だから私がまごついても何の問題もない。ついでに5歳児のせいか、2人の顔も薄っすらとしか覚えていなかった。神様?グッジョブ!これで何の憂いも無く過ごせる。いたれりつくせりだね。ついでに余所に預けられた子が多少大人びているのは自然なことだ。私がアラサーということも少し気をつければ隠せるだろう。
ぎごちなくもおだやかな朝食も終わり、私は2人の勧めもありお庭の散策をすることにした。お供はメイドのマリー。
「お嬢様、今日は奥様のお好きな中庭に行かれてみませんか」
私につばの大きな帽子をかぶせながらマリーが聞いてくる。濃い茶色の髪と黄緑の瞳の彼女はなかなか可愛い。でも若すぎない?
「それでいいけれど。ねえマリーっていくつ、とても若くみえるんだけど」
「はい、私は12歳です」
特に嫌がりもせずに彼女は答えてくれたけれど、12歳、小学生の年の子がなんで働いているの。お祖父様のところにはこんなに若い子はいなかったけれど。
私のびっくりした顔を見たマリーは教えてくれた。
「私は男爵家の3女なので今年から働き始めています。貴族の娘が上級貴族の家に働きに出るのはこのくらいの年齢からなのです。王宮勤めだと15歳ぐらいからでしょうか。下級貴族の3女や4女は働きに出るものも多いのです。それに庶民だと7歳ぐらいから働いていますよ」
そ、そうか中世ぽいね。
「それに私はお嬢様と年が近いということでお側つきになりましたけれど、後のものはベテランを選んでおりますので、ご安心ください」
「そうなの。わたくしはマリーが側にいてくれて嬉しいから、これからもよろしくね」
いやいや、そういうわけか。私はこの世界の常識が判らない、子供だしね。まあいいや、マリー、君を頼りにしている。
こうして私は毎日お庭を散歩したり、挿絵のある本を読んだり(リュシエンヌ5歳児なのに字が読めるのね)お菓子を食べたりして過ごしお嬢様生活を堪能していた・・・が。
その後私には家庭教師がつけられ、残念なことに優雅な生活は短期間で終わりを告げることになった。
でも模範的なお嬢様をやっているかといえば、そんなことはない。王都のタウンハウスとは思えないほど広い庭で時々走り回ったり、ありの行列を眺めたりしてよく遊んでいる。自慢ではないが前世ではそこそこの学校でそこそこの成績をとっていた私である(よくは覚えていないが一夜漬けとか山掛けとの言葉になじみがあるので、私が優等生でないことには確信がある)ほどほどという言葉を大事にしたい。それにストレスの発散もしたい。十年ぶりぐらいの机の前での勉強はつらい。何時間も椅子に座っているのは無理と私の身体が不満を言ったのだ。それにしてもPCの前だと何時間でも平気なのに、先生の前で勉強するとすぐに動きたくなるのは何故なんだろう。
そういうわけで、子供っぽいとの色眼鏡で見られるようになった私は元アラサーだとばれることもなく、安心してのんびりと暮らしていた。
だがしかし、駄菓子菓子・・・世の中そう上手くいかないのがお約束のようで。記憶が戻ってしばらくしたころに私は1つのテンプレを思いだしてしまった。あれです、そう悪役令嬢転生。
よくあることだけれど、前世OLだった私はいくつかの乙女ゲームをたしなんでいた。だから現在の私、リュシエンヌ・フォン・ローヴェリアの身分を知ったときにこれって悪役令嬢あるあるじゃないとか思ってしまったのだ。
だって、悪役令嬢は公爵か侯爵令嬢できつめの美人・・・なんか似ている。ついでに婚約者は王子様か公爵令息・・・こっちもわたしの身分では可能性が大。
もちろん私の妄想ということも考えられるけれど、もし乙女ゲームの世界だったらと考えると。ついため息がこぼれるのは仕方がないと思う。
私は子供用のお一人様ソファーにぽすんと座り窓の外を眺めた。生垣に囲まれた小学校の運動場ほどの広さの中庭にはチューリップとプリムラが今を盛りと咲き誇っている。公爵家に相応しい眺め・・・そう、私は公爵家のご令嬢、あーあ、別に公爵でなくても良かったのに。テンプレ悪役令嬢になりそうにない伯爵とか子爵でも充分にお金持ちだし、私は満足したのに。男爵?それは別の意味で怖いけれど・・・でも可愛い小動物系になれそうに無い私にヒロインは無理だから、そちらの心配をするのは図々しいわよね。
とにかくそういうわけで私の快適ライフにはそこはかとなく影がさしている。
ただ不満はある。
「夏の青空のような瞳はいいとして・・・」
私は銀色の髪をつまみ上げる。
「この色は地味じゃないかな、金髪のほうがいけてた?それでも猫のようなちょっとつり上がり気味の瞳があるから多少は華やかな感じ?」
眼をまたたくと銀色のまつげが動き、その量と長さを主張している。これならまつげのエクステは必要ないわね、前世のささやかなまつげを思い出して私はそうつぶやいた。
いやいや、今大事なのはそこではない。寝て起きたらこの身体になっていたということなのだ。小さくなった手を眺め、どうしようかと思いながらベッドを被っている布をかき分け、外にでた私が部屋を見回すと、大きな鏡があった。そこで自分の容姿を確認。←今ここ。
さてどうしよう。悩んでいる私に声が聞こえた。
<伝言・・・5歳になりましたので記憶の封印を解除しました。約束どおり前世の善行の見返りとして与えられた新しい人生です。自由にお過ごしください>
えっ、これだけ・・・もう少し詳しく教えてくれてもいいのに。そして私の記憶だけれど、曖昧すぎる。家族も友達もいてそれなりに楽しく暮らしていたアラサーOL。それ以上分からない。暮らしていた日本の記憶はあっても私自身のものがぽっかり抜けている。前世のことを気にしないようにしたのかもしれないけれど、小さな親切大きなお世話という言葉を知らないのだろうか。ついでに恋人は?2,3人いたらしい、アラサーだったのだから、そのくらいはいただろう。でも最近はいなかった。はいはい、これでは未練は微塵ももてませんよね。だから余計なお世話だというのに・・・
いいもんね、今の私は美幼女。家もお金持ちっぽいし、恋人の1人や2人簡単にできるに違いない。いいだろう、人生の勝ち組になって、高笑いしてやる!
そうこうしている内にメイドさんが現れ、着替えさせられた私は朝食の間に連れて行かれた。お父様とお母様と称する人たちがにこにこと出迎えてくれる。
「おはよう、リエンヌ。よく眠れたかな」
「今日も可愛いわ、リエンヌ」
2人とは昨日1年ぶりに会った。お母様が体調を崩し、私は祖父母のところに1年もの間預けられていたからだ。だから私がまごついても何の問題もない。ついでに5歳児のせいか、2人の顔も薄っすらとしか覚えていなかった。神様?グッジョブ!これで何の憂いも無く過ごせる。いたれりつくせりだね。ついでに余所に預けられた子が多少大人びているのは自然なことだ。私がアラサーということも少し気をつければ隠せるだろう。
ぎごちなくもおだやかな朝食も終わり、私は2人の勧めもありお庭の散策をすることにした。お供はメイドのマリー。
「お嬢様、今日は奥様のお好きな中庭に行かれてみませんか」
私につばの大きな帽子をかぶせながらマリーが聞いてくる。濃い茶色の髪と黄緑の瞳の彼女はなかなか可愛い。でも若すぎない?
「それでいいけれど。ねえマリーっていくつ、とても若くみえるんだけど」
「はい、私は12歳です」
特に嫌がりもせずに彼女は答えてくれたけれど、12歳、小学生の年の子がなんで働いているの。お祖父様のところにはこんなに若い子はいなかったけれど。
私のびっくりした顔を見たマリーは教えてくれた。
「私は男爵家の3女なので今年から働き始めています。貴族の娘が上級貴族の家に働きに出るのはこのくらいの年齢からなのです。王宮勤めだと15歳ぐらいからでしょうか。下級貴族の3女や4女は働きに出るものも多いのです。それに庶民だと7歳ぐらいから働いていますよ」
そ、そうか中世ぽいね。
「それに私はお嬢様と年が近いということでお側つきになりましたけれど、後のものはベテランを選んでおりますので、ご安心ください」
「そうなの。わたくしはマリーが側にいてくれて嬉しいから、これからもよろしくね」
いやいや、そういうわけか。私はこの世界の常識が判らない、子供だしね。まあいいや、マリー、君を頼りにしている。
こうして私は毎日お庭を散歩したり、挿絵のある本を読んだり(リュシエンヌ5歳児なのに字が読めるのね)お菓子を食べたりして過ごしお嬢様生活を堪能していた・・・が。
その後私には家庭教師がつけられ、残念なことに優雅な生活は短期間で終わりを告げることになった。
でも模範的なお嬢様をやっているかといえば、そんなことはない。王都のタウンハウスとは思えないほど広い庭で時々走り回ったり、ありの行列を眺めたりしてよく遊んでいる。自慢ではないが前世ではそこそこの学校でそこそこの成績をとっていた私である(よくは覚えていないが一夜漬けとか山掛けとの言葉になじみがあるので、私が優等生でないことには確信がある)ほどほどという言葉を大事にしたい。それにストレスの発散もしたい。十年ぶりぐらいの机の前での勉強はつらい。何時間も椅子に座っているのは無理と私の身体が不満を言ったのだ。それにしてもPCの前だと何時間でも平気なのに、先生の前で勉強するとすぐに動きたくなるのは何故なんだろう。
そういうわけで、子供っぽいとの色眼鏡で見られるようになった私は元アラサーだとばれることもなく、安心してのんびりと暮らしていた。
だがしかし、駄菓子菓子・・・世の中そう上手くいかないのがお約束のようで。記憶が戻ってしばらくしたころに私は1つのテンプレを思いだしてしまった。あれです、そう悪役令嬢転生。
よくあることだけれど、前世OLだった私はいくつかの乙女ゲームをたしなんでいた。だから現在の私、リュシエンヌ・フォン・ローヴェリアの身分を知ったときにこれって悪役令嬢あるあるじゃないとか思ってしまったのだ。
だって、悪役令嬢は公爵か侯爵令嬢できつめの美人・・・なんか似ている。ついでに婚約者は王子様か公爵令息・・・こっちもわたしの身分では可能性が大。
もちろん私の妄想ということも考えられるけれど、もし乙女ゲームの世界だったらと考えると。ついため息がこぼれるのは仕方がないと思う。
私は子供用のお一人様ソファーにぽすんと座り窓の外を眺めた。生垣に囲まれた小学校の運動場ほどの広さの中庭にはチューリップとプリムラが今を盛りと咲き誇っている。公爵家に相応しい眺め・・・そう、私は公爵家のご令嬢、あーあ、別に公爵でなくても良かったのに。テンプレ悪役令嬢になりそうにない伯爵とか子爵でも充分にお金持ちだし、私は満足したのに。男爵?それは別の意味で怖いけれど・・・でも可愛い小動物系になれそうに無い私にヒロインは無理だから、そちらの心配をするのは図々しいわよね。
とにかくそういうわけで私の快適ライフにはそこはかとなく影がさしている。
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