第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

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第壱部-Ⅱ:はじまりは確かに駒だった

6.日向 きれいな声

ここには、たくさんの人がやってくる。

「日向さん、いいお天気ですよ。風が気持ちいから、少し窓を開けておきましょうか」

綺麗なつま先の人、それから白い手の人。すみれこさま。でんか、って呼ぶ人もいる。
外が明るくなって、窓の外にいつもの黄色い鳥がくる頃と、暑くなってきてどこからか音楽が流れてくる頃、外が暗くなってほーほーの声が聞こえる頃にやってくる。
窓を開けたり、おてんきの話をしたり、何かを尋ねたりする。
いっぱい話すから、意味がわかるようになってきた。
ゆっくり話す声があったかくて、きれい。

「日向様、お掃除しますから、騒がしくなりますけど、ご容赦くださいね」

青と黒の間みたいな裾に白い布を被せて、ひらひらさせる人たち。みづちとそら、ゆりね、うつぎ、あといっぱい。
綺麗なつま先の人の後にやってきて、いろいろな音を立てるし、いっぱい話す。
音も声もいっぱいするから、あまり聞き取れなくて、意味はよくわからない。
でも時々歌を歌うのが、きれい。

「日向、ご飯だ。」

黒いつま先、それから紫色の目の人。しおうさま。しおうさんや、しおうってよぶ人もいる。
外が明るくなる頃と暗くなる頃、ご飯を持ってやってきて、扉の前の台に置く。
少しの間、扉を見ているのを感じるけど、あんまりしゃべらない。時々「なるほど」とか「ふうん」とか声がする。よくわからないけど、仕方ない。でもあの紫色の目はきれいなんだと思う。

他にも、いろんな人の声がする。
低い声、高い声、しゃがれた声。
みんな、きれいな声。

ご飯を食べても誰も怒らないし、扉の中から引っ張り出したりしない。
痛いこともしない。苦しいこともしない。
お腹が空くこともない。
きれいな声で、僕の名前を呼ぶ。

時々、扉の隙間から覗いてみた。
きれいな顔の人たち。
誰もいない時に、扉から出て、大きい扉に耳を当ててみたりもした。
きれいな声の人たち。

だから、ここはいいところかもしれない。

でも今は少し違う。

「日向、」

扉の隙間から、紫色の目の人が呼んでる。
ご飯を持ってきて、いつもなら台の上に置いていなくなるのに、今日はずっとそこにいる。

「日向、おいで。ご飯だ。」

おいで。
近くに来なさい、って意味の言葉。
痛いことをする時の言葉。そうじゃない時もある。
今は、どっちだろう。

「日向、」

きれいな声。
紫色の人は、痛いことをするかな。
でも、ご飯の匂いがする。
ご飯は食べてもいい?

仕方ない。

仕方ない。

ぎゅーって小さく引き寄せていた手を一本解いて、手を伸ばす。ギギギ、って腕から音がしそうだった。
扉に指先がくっついて、ちょっと待つ。
声はしないけど、扉の向こうで待ってる。
仕方ない。

片方の扉だけちょっと開いた。
黒いつま先が、離れたところに見えた。動かない。
扉をちょっとずつ開ける。つま先は動かない。
足を出す。頭を出す。体が半分扉の向こうへ出る。
もう一方の扉を開いて、外に出ようとしたところで、声がした。

「もういい、」

ぽんぽんと、2回、頭を叩かれて、びっくりした。
でも痛くない。

「偉かったな。」

えら、かった、な。
どういう意味だろう。
でも悪い意味じゃない気がした。
痛くもない。
あったかい。

「食べるか」

つま先が動いて、膝が見えた。暗い色なのに時々キラキラ光る。きれい。
それからご飯。おにぎりという名前。
ぐーっとお腹がなった。びっくりした。

「ははは!」

頭の上から、笑い声がしてもっとびっくりした。

「いや、悪い悪い。ほら食べろ。」

おにぎりが近づいてくる。
ご飯が食べれる。
きれいな声が、「大丈夫だから」という。

大丈夫かもしれない。
このきれいな声は、痛いことも苦しいこともしない人の声かもしれない。
ご飯を食べても怒らないかもしれない。

おにぎりを取った。口に入れた。

怒られなくて、もっと食べた。
一個食べたら、また頭を2回、ぽんぽんされた。

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