22 / 209
第壱部-Ⅲ:ぼくのきれいな人たち
21.日向 はじめてわかったこと
「日向様、おはようございます。」
隠れ家の扉の向こうで、うつぎの声がして、目が覚めた。朝だ。
前はぴーぴーの声がする前に起きたのに、最近はいっぱい寝ちゃう。もううつぎがいる。
うつぎの声は、いつも静か。
コップの水がゆらゆらしてるのをじっと待ってると、動かなくなってしーんってなる。でもちょっと動いてるの。あんな感じ。ふしぎな感じ。きれい。
みずちやそらみたいに、ぴょんぴょんする声もきれいだし、ゆりねのふわふわした声もきれいだけど、うつぎの静かな声もきれい。
隠れ家の扉を開けたら、膝をついたうつぎがいる。
手を伸ばすと、「失礼しますね」と、ぼくを引っ張り出す。痛くない。あったかい。やさしい。
もうずっと、痛いのも、怖いのも、苦しいのもなくていい。きれい。
「うつぎ」
「はい、宇継でございますよ。何でしょう。」
「おはよう」
「ええ、おはようございます。」
うつぎが笑う。きれい。
おはようは、起きたら言う言葉。きまり。
でも、ちがう時もある。朝は起きた時じゃなくても、おはよう、って言う。
今は朝。
だけど、朝じゃなくても、起きたときは、おはよう、って言う。
何でかわからない。きまりだって。仕方ない。
「失礼しますね」ってまた言う。
これを言ったら、手を引っ張ったり、抱っこしたりする。でも痛くない。必ず言うから、びっくりしない。
今度は抱っこだった。抱っこして僕を椅子に座らせて、お湯を持ってきて顔をふく。
それから、朝ごはんを持ってきた。
あれ、朝ごはん?と思ってうつぎをみたら、ちょっと困った顔をした。
ぼくも困った。
いつもはしおうの膝に座る。
しおうと一緒にご飯を食べる。
でもいないね。
しおうが、ひなた、おいで、ごはんだ、っていわない。
仕方ない。
ご飯は、パンとスープとサラダ。
赤い実が入ってる。
いつもはしおうが食べる。
でもいないね。
仕方ない。
スプーンでスープを食べる。
いつもはしおうが、それつかいな、っていう。
半分食べたら、いいよ、っていってたけど、いわなくなった。
かわりに、ぜんぶがんばろうな、っていう。
ぜんぶスプーンで食べたら、えらいな、っていう。
でもいないね。
ご飯を食べている間、しおうはしょっちゅう、ぼくのお腹をぎゅってする。
でもいないね。
仕方ない。
仕方ない。
仕方ない。
「日向様?どうされました?」
うつぎの声が静かじゃなくなった。でもこれは、怒ってるんじゃない。わかるよ。
びっくりした顔でぼくを見てた。
目がまん丸。みずちみたい。
「うつぎ、どうしたの?」
「日向様が、泣いておられるので驚いております。何か嫌なことがありましたか?」
「ないているので、おどろいて、いやな、ありましたか?」
「そうですよ、日向様。目から涙が流れていらっしゃるでしょう?わかりますか?」
「めから、なみだ」
うつぎがぼくの頬を撫でた。あったかい、つめたい。
本当だ、びっくりした。
涙がでてた。
すみれこさまと、はるみと、みずちと、そらと、おぐりは涙が出た。みずちはしょっちゅう。
しおうも涙が出た。
「しおう、」
いないね。
仕方ないね。
「ああ…、紫鷹様が居られなくて寂しかったんですね?」
「しおうさまが、おられない、さびしい?」
「日向様は、紫鷹様がいるのといないのと、どちらがいいですか?」
「いるのがいい」
「そうですね、それが寂しいです。」
「いるのがいいは、さびしい?」
「はい、だから涙が出たんです。寂しかったんですね。」
さびしい。
しおうがいないとさびしい。
だから涙が出る。
「ごはんは、しおうとたべる。」
うつぎが不思議な顔をした。笑いながら困った顔。
やさしい顔。きれい。
「紫鷹様はおられませんけれど、ご飯は食べましょう。」
「しおう、いないけど、たべる。」
「ええ、偉いですね。」
「しかたない」
しおうがいなくても、ご飯は食べないといけない。
きっとこれもきまり。
仕方ない。
「しかた、ない。」
仕方ない。
「ああ、日向様」
うつぎが、手を握った。あったかいけど足りない。
ずっと仕方ない。
痛いのも、こわいのも、苦しいのもないのに、ずっと仕方ない。
うーって、声が出た。
しゃべれなくなって、うつぎが抱っこした。失礼しますって、言わなかったからびっくりしたけど、やっと全部あったかくなった。
いっぱい涙が出た。
しおうがいないのは、さびしい。
だから、涙が出る。
はじめてわかった。
隠れ家の扉の向こうで、うつぎの声がして、目が覚めた。朝だ。
前はぴーぴーの声がする前に起きたのに、最近はいっぱい寝ちゃう。もううつぎがいる。
うつぎの声は、いつも静か。
コップの水がゆらゆらしてるのをじっと待ってると、動かなくなってしーんってなる。でもちょっと動いてるの。あんな感じ。ふしぎな感じ。きれい。
みずちやそらみたいに、ぴょんぴょんする声もきれいだし、ゆりねのふわふわした声もきれいだけど、うつぎの静かな声もきれい。
隠れ家の扉を開けたら、膝をついたうつぎがいる。
手を伸ばすと、「失礼しますね」と、ぼくを引っ張り出す。痛くない。あったかい。やさしい。
もうずっと、痛いのも、怖いのも、苦しいのもなくていい。きれい。
「うつぎ」
「はい、宇継でございますよ。何でしょう。」
「おはよう」
「ええ、おはようございます。」
うつぎが笑う。きれい。
おはようは、起きたら言う言葉。きまり。
でも、ちがう時もある。朝は起きた時じゃなくても、おはよう、って言う。
今は朝。
だけど、朝じゃなくても、起きたときは、おはよう、って言う。
何でかわからない。きまりだって。仕方ない。
「失礼しますね」ってまた言う。
これを言ったら、手を引っ張ったり、抱っこしたりする。でも痛くない。必ず言うから、びっくりしない。
今度は抱っこだった。抱っこして僕を椅子に座らせて、お湯を持ってきて顔をふく。
それから、朝ごはんを持ってきた。
あれ、朝ごはん?と思ってうつぎをみたら、ちょっと困った顔をした。
ぼくも困った。
いつもはしおうの膝に座る。
しおうと一緒にご飯を食べる。
でもいないね。
しおうが、ひなた、おいで、ごはんだ、っていわない。
仕方ない。
ご飯は、パンとスープとサラダ。
赤い実が入ってる。
いつもはしおうが食べる。
でもいないね。
仕方ない。
スプーンでスープを食べる。
いつもはしおうが、それつかいな、っていう。
半分食べたら、いいよ、っていってたけど、いわなくなった。
かわりに、ぜんぶがんばろうな、っていう。
ぜんぶスプーンで食べたら、えらいな、っていう。
でもいないね。
ご飯を食べている間、しおうはしょっちゅう、ぼくのお腹をぎゅってする。
でもいないね。
仕方ない。
仕方ない。
仕方ない。
「日向様?どうされました?」
うつぎの声が静かじゃなくなった。でもこれは、怒ってるんじゃない。わかるよ。
びっくりした顔でぼくを見てた。
目がまん丸。みずちみたい。
「うつぎ、どうしたの?」
「日向様が、泣いておられるので驚いております。何か嫌なことがありましたか?」
「ないているので、おどろいて、いやな、ありましたか?」
「そうですよ、日向様。目から涙が流れていらっしゃるでしょう?わかりますか?」
「めから、なみだ」
うつぎがぼくの頬を撫でた。あったかい、つめたい。
本当だ、びっくりした。
涙がでてた。
すみれこさまと、はるみと、みずちと、そらと、おぐりは涙が出た。みずちはしょっちゅう。
しおうも涙が出た。
「しおう、」
いないね。
仕方ないね。
「ああ…、紫鷹様が居られなくて寂しかったんですね?」
「しおうさまが、おられない、さびしい?」
「日向様は、紫鷹様がいるのといないのと、どちらがいいですか?」
「いるのがいい」
「そうですね、それが寂しいです。」
「いるのがいいは、さびしい?」
「はい、だから涙が出たんです。寂しかったんですね。」
さびしい。
しおうがいないとさびしい。
だから涙が出る。
「ごはんは、しおうとたべる。」
うつぎが不思議な顔をした。笑いながら困った顔。
やさしい顔。きれい。
「紫鷹様はおられませんけれど、ご飯は食べましょう。」
「しおう、いないけど、たべる。」
「ええ、偉いですね。」
「しかたない」
しおうがいなくても、ご飯は食べないといけない。
きっとこれもきまり。
仕方ない。
「しかた、ない。」
仕方ない。
「ああ、日向様」
うつぎが、手を握った。あったかいけど足りない。
ずっと仕方ない。
痛いのも、こわいのも、苦しいのもないのに、ずっと仕方ない。
うーって、声が出た。
しゃべれなくなって、うつぎが抱っこした。失礼しますって、言わなかったからびっくりしたけど、やっと全部あったかくなった。
いっぱい涙が出た。
しおうがいないのは、さびしい。
だから、涙が出る。
はじめてわかった。
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中