31 / 209
第壱部-Ⅳ:しあわせの魔法
30.日向 ごめんなさい
わるいことしたら、ばちがあたるよ。
いたいめにあっても、しかたない。
わるいことしたんだから。
わるい子だから。
ぴーぴーの声がした気がした。
朝なのかもしれない。でもよくわからない。
朝はおきる時間。おはよう、っていう時間。
でも体が動かなかった。
「日向、開けていいか。少しでいい、顔を見せてほしい。」
扉の向こうから、しおうの声がする。
いつもより力がない声。心配の声。
昨日の夜もいた。夜をすぎてうんと暗くなっても、ずっとそこにいた。今もいる。
いいよ
声を出そうとしたけど、うまく出なくて、かわりに涙が出た。
「開けるぞ、」
聞こえた?
しおうはいつも僕の声が聞こえる。すごい。
扉が開いて、紫色の目が僕を見る。心配する目。きれい。
でも心配かけて、ごめんなさい。
声は出てないのに、しおうは聞こえたみたいに笑う。いいよ、って。
何でわかるの?
「顔色、マシになったな。良かった。」
うん、
「吐き気は?」
大丈夫、
「何か食べられるか?」
わからない
「ジュースくらいならいけるか?」
うん、
「中にいれてもいいか?ちゃんとストローもつけた。蓋もあるからこぼれないよ。」
うん、
「泣かなくていい、元気になるの、待ってるから」
うん、
僕の水色のコップを、しおうが隠れ家にいれて僕の手に握らせてくれる。
僕の名前が書いてある。みずちが書いた。うれしい。ありがと。
うれしくて、涙が出る。
「顔が見れてよかった。開けてくれてありがとな、」
紫色の目が細くなって、すごく優しい顔でしおうが笑った。
うん、って心の中で言ったら、しおうも「うん」って言う。
それから静かに扉を閉めてくれた。
隠れ家が暗くなって、僕一人になる。
ちょっと寂しい。抱っこしてほしい気もする。でも、今はここがいい。
すごいね、しおう。全部聞こえてた。
分かってくれた。
僕はずっと、頭とお腹がぐるぐるしている。
昨日は少しでも動くと目が回って、吐いてしまった。
今は吐かないけど、ぐるぐるは続いてる。
撫でられるのと、抱っこされるのが好きだったのに、全部ぐるぐるしちゃう。
魔力が枯れちゃったんだって、小栗が教えてくれた。
僕は最近、魔法の練習をしてる。
しおうと、とやと、はるみと、ゆりねと、うつぎと、すみれこさまと、おぐりと、たちいろと、ひぐさは魔法を使う。みずちとそらは使わない。僕が知ってるのは、これだけだけど、魔法が使える人はいっぱいいる。
僕も練習したら使えるんだって。だから練習してる。
でもおとといは失敗した。
お風呂から出て、うつぎに髪を乾かしてもらったとき、水と風の魔法がきれいだった。いいな、きれいだなって思って、一人でやってみた。
いつもは誰かと一緒に練習する。一人でやっちゃだめって、とやとたちいろとひぐさと約束したのに、守らなかった。
そしたらうまく行かなくて、変な風が吹いて、真っ暗になって気が付いたら、みんなが僕をしんぱいしてた。
それからずっと頭とお腹がぐるぐるしてる。
苦しくて、怖くて、いっぱい泣いた。みんなの声が聞こえるのに聞こえなくて、もっと怖くなった。
小栗がいいよって、言って、しおうが隠れ家に入れてくれたら、声が聞こえるようになって、ちょっとだけ怖くなくなった。
きれいがちょっとだけ出てきた。安心、っていう。
いっぱい眠れば大丈夫だよって、小栗が言った。
だから眠る。小栗はうそつかない。
でもかなしい。
みんなにしんぱいかけた。
とやとたちいろとひぐさの約束をやぶった。ごめんなさいって言ってない。
ご飯を食べなかった。
お返事もできない。
わるいことをいっぱいした。仕方ない。
怒るかな。
みんなは怒らない、大丈夫。
でもわるいこと、いっぱいした。怒るかな。
しおうは、待ってるって言ってくれた。大丈夫。
痛いことがなくて、怖いのも苦しいのもなくて、うれしいことや楽しいことがいっぱいあって、しあわせだったのに。
しあわせを、ぼくがこわした。
わるいこと。
元気になったら、ちゃんとごめんなさいって言う。
しおうは待ってるって言った。
本当に待ってる?
もういらないって、言わないで待ってる?
いたいめにあっても、しかたない。
わるいことしたんだから。
わるい子だから。
ぴーぴーの声がした気がした。
朝なのかもしれない。でもよくわからない。
朝はおきる時間。おはよう、っていう時間。
でも体が動かなかった。
「日向、開けていいか。少しでいい、顔を見せてほしい。」
扉の向こうから、しおうの声がする。
いつもより力がない声。心配の声。
昨日の夜もいた。夜をすぎてうんと暗くなっても、ずっとそこにいた。今もいる。
いいよ
声を出そうとしたけど、うまく出なくて、かわりに涙が出た。
「開けるぞ、」
聞こえた?
しおうはいつも僕の声が聞こえる。すごい。
扉が開いて、紫色の目が僕を見る。心配する目。きれい。
でも心配かけて、ごめんなさい。
声は出てないのに、しおうは聞こえたみたいに笑う。いいよ、って。
何でわかるの?
「顔色、マシになったな。良かった。」
うん、
「吐き気は?」
大丈夫、
「何か食べられるか?」
わからない
「ジュースくらいならいけるか?」
うん、
「中にいれてもいいか?ちゃんとストローもつけた。蓋もあるからこぼれないよ。」
うん、
「泣かなくていい、元気になるの、待ってるから」
うん、
僕の水色のコップを、しおうが隠れ家にいれて僕の手に握らせてくれる。
僕の名前が書いてある。みずちが書いた。うれしい。ありがと。
うれしくて、涙が出る。
「顔が見れてよかった。開けてくれてありがとな、」
紫色の目が細くなって、すごく優しい顔でしおうが笑った。
うん、って心の中で言ったら、しおうも「うん」って言う。
それから静かに扉を閉めてくれた。
隠れ家が暗くなって、僕一人になる。
ちょっと寂しい。抱っこしてほしい気もする。でも、今はここがいい。
すごいね、しおう。全部聞こえてた。
分かってくれた。
僕はずっと、頭とお腹がぐるぐるしている。
昨日は少しでも動くと目が回って、吐いてしまった。
今は吐かないけど、ぐるぐるは続いてる。
撫でられるのと、抱っこされるのが好きだったのに、全部ぐるぐるしちゃう。
魔力が枯れちゃったんだって、小栗が教えてくれた。
僕は最近、魔法の練習をしてる。
しおうと、とやと、はるみと、ゆりねと、うつぎと、すみれこさまと、おぐりと、たちいろと、ひぐさは魔法を使う。みずちとそらは使わない。僕が知ってるのは、これだけだけど、魔法が使える人はいっぱいいる。
僕も練習したら使えるんだって。だから練習してる。
でもおとといは失敗した。
お風呂から出て、うつぎに髪を乾かしてもらったとき、水と風の魔法がきれいだった。いいな、きれいだなって思って、一人でやってみた。
いつもは誰かと一緒に練習する。一人でやっちゃだめって、とやとたちいろとひぐさと約束したのに、守らなかった。
そしたらうまく行かなくて、変な風が吹いて、真っ暗になって気が付いたら、みんなが僕をしんぱいしてた。
それからずっと頭とお腹がぐるぐるしてる。
苦しくて、怖くて、いっぱい泣いた。みんなの声が聞こえるのに聞こえなくて、もっと怖くなった。
小栗がいいよって、言って、しおうが隠れ家に入れてくれたら、声が聞こえるようになって、ちょっとだけ怖くなくなった。
きれいがちょっとだけ出てきた。安心、っていう。
いっぱい眠れば大丈夫だよって、小栗が言った。
だから眠る。小栗はうそつかない。
でもかなしい。
みんなにしんぱいかけた。
とやとたちいろとひぐさの約束をやぶった。ごめんなさいって言ってない。
ご飯を食べなかった。
お返事もできない。
わるいことをいっぱいした。仕方ない。
怒るかな。
みんなは怒らない、大丈夫。
でもわるいこと、いっぱいした。怒るかな。
しおうは、待ってるって言ってくれた。大丈夫。
痛いことがなくて、怖いのも苦しいのもなくて、うれしいことや楽しいことがいっぱいあって、しあわせだったのに。
しあわせを、ぼくがこわした。
わるいこと。
元気になったら、ちゃんとごめんなさいって言う。
しおうは待ってるって言った。
本当に待ってる?
もういらないって、言わないで待ってる?
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中