第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

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第弐部-Ⅱ:つながる魔法

128.日向 はじめてを一緒に

「う、み、」
「違う、違う、湖だよ。海はな、もっと大きい、」

ちがうよ、ってしおうは言ったけど、僕はちがうがわからない。
だって、目の前全部水たまりで、うんとうんと向こうで水と空がくっついてる。すいへいせん。
図鑑で読んだよ。海は大きな水たまりで、すいへいせんがある。
なのに、ここは海じゃない。

ぽかんって、口を開いてみずうみを見ていたら、しおうは僕を抱っこしたまま、ゆっくり歩く。

「向こうに湧き水があるから、後で飲んでみような。塩辛かったら海。辛くなかったら、湖、」
「海は、塩味、」
「図鑑に書いてあった?」
「うん、」

そうか、って笑ってしおうは歩く。僕はずっとぽかんってしたまま、みずうみを見た。

しおうが、一緒にいろんなものを見ようなって、行った。
急にたくさんのものを見たら、僕は混乱するから、少しずつ増やしていこうって。

最初は離宮の中を探検した。
しおうが赤ちゃんの頃の服が小さくて可愛かったね。しおうが小さかったは想像ができないけど、すみれこさまは可愛かったって言うから、きっとそう。
しおうが描いた絵も見た。僕と同じくらい上手じゃないが分かって、僕は安心したよ。一緒。

朝の鍛錬も見学した。
しおうとはぎなととやと騎士団が一緒に、走ったり、剣をぶつけたり、魔力を制御したりする。
カンカンって、剣の音がするが怖くて固まったけど、しおうがぎゅうってしたら大丈夫になった。そしたら、だんだん僕もやりたいになって、はぎなが小さなもぎとうを僕に作ってくれた。
今は毎日、あずまと剣の練習もする。

料理長の仕事場も見た。ちゅうぼう。
僕が行ったら、料理長は喜んで、しょくざいをいっぱい見せた。
にんじんは細長い三角って、僕は初めて知った。とうもろこしは、バラバラじゃなくて、いっぱいくっ付いてる。料理長が一粒取って見せるまで、僕はとうもろこしだって分からなかった。じゃがいもは丸いも初めて。トマトは小さいのもあるけど、大きいのもある。ご飯で出る魚と、図鑑で見た魚が同じも、僕は初めてわかった。

知らないことだらけ。
分かるがうれしいし、うんとゆっくりなのに、時々熱が出て、みんなを心配にさせた。
でもみんな、良いんだよって言う。頑張ったあかしだから、休んで治して、またやればいいって。


今日も熱が出るかもしれないね。
だって、僕はみずうみが大きすぎて、ずっとびっくりしてる。


「口、開きっぱなしだな。顎が外れそうだ、」
「ぽかん、の顔、なった?」
「なってる。萩花みたいだよ、」


くくっ、ってしおうは笑って僕の額にちゅうってする。

「水際まで行ってみるか、」
「みずぎわ、」
「水が触れるくらい近くまで、ってこと。」
「触れる?」
「触れるよ。飲むのはダメだからな。それは後で、」
「わかった、」

固まっていた体が動き出して、しおうの手の中でぴょんって跳ねる。
しおうが抱っこしたまま、みずぎわまで行って、僕を下ろした。土と草の上。すぐそこに、水。

「水が、動いてる、」
「あれが波、」
「なみ、」

海には波がある。
じゃあ、やっぱり海だ、って言ったら、しおうは笑ってちがう、って言った。
大きなみずうみは、海みたいに波が立つって。でも海じゃないって。

僕が混乱し始めたら、しおうは僕の手を握って、今は考えるより感じてみな、って僕をみずぎわに連れてく。
僕が波に近づいたら、波は遠ざかる。何で、ってしおうを見たら、僕の足が急に冷たくなって、僕は跳びあがった。

「あはは、濡れたな、」

しおうにしがみ付いたら、僕を抱きしめてしおうは笑う。
足がびちゃびちゃに濡れて水が垂れた。

「しおう、いじわる、した、」
「ごめんって。日向に自分で感じてほしかったの。あー、泣くな。俺も濡れたから、一緒な、」

びっくりして、涙が出た。
心臓がばくばくして、しばらくしおうの肩でうーってうなったら、しおうはごめんって、背中をなでる。

涙がとまって、しおうの足を見たら、びちゃびちゃだった。
波が遠くなったり近くなったりして、しおうの足を何度も濡らす。

「な、一緒だろ、」

しおうは、ご機嫌だった。
僕は、びっくりしたのに。

「何、怒ったの?」
「怒ら、ない、」
「怒ってるだろ、ふくれっ面になって、可愛い、」
「可愛く、ない、」
「可愛いよ、何入ってんだ、この頬、」

僕の頬をしおうがつんつんするから、僕は怒った。
しおうのつんつんが嫌で、顔をそっぽ向けたら、ごめんごめんって、しおうは僕をぎゅうってする。

「何で、いじわる、する、」
「意地悪じゃないよ。びっくりするのも何でも、日向に自分で感じてほしいんだ、」
「怒ったのに、うれしいは、何で、」
「怒れるようになったんだなあ、って嬉しかった、」
「何で、」
「お前、嫌なことは怖くなるばかりで、怒れなくなってただろ。それができるようになった、」
「つんつんは、嫌、」
「うん、ごめん、」

つんつんの代わりに、しおうは僕の頬にちゅうってする。
僕は怒ったのに、しおうがうれしくて、ご機嫌で、やさしい顔をするから、ずっと怒るができなくなる。しおうはずるい。

「湖、嫌になったか?」
「…んーん、」
「じゃあ、もう一回。ちゃんと手をつないでるし、濡れる時は俺も一緒な、」

にかっ、ってしおうが笑ったら、太陽みたいにまぶしくなって、怒るは全部なくなった。

しおうが僕をおろして手をつなぐ。
今度は、波をじっと見て、波が寄ったら逃げた。
遠ざかったら、しおうと2人で追いかける。

へんなの。水なのに、生き物みたい。

繰り返したら、だんだんおもしろくなって、しおうと一緒に笑いながら逃げたり追いかけたりした。
途中で何回か失敗して、しおうと一緒に足が濡れる。それもおもしろくて、今度は近づいた波にに飛び込んでみた。
バシャン、って水がはねて、しおうがびっくりするがおもしろい。

そしたら、しおうもバシャンってやって、今度は僕が頭から全部ずぶぬれになる。しおうはちょっとびっくりして、ごめんって謝ったけど、僕はおかしくて、いっぱい笑った。

しおうがね、俺にもかけていいよ、って言うから、手ですくってしおうに水をかけたよ。
頭は届かないから屈んでって言ったら、しおうは屈んだ。
でも僕が頭を濡らそうとしたら、しおうは僕をつかまえて一緒に水の中にごろんって転がる。ちょうど波が来て、僕としおうは二人で波の中を転がった。

「辛くない、」
「あ、お前、口に入ったな、出せ、」
「飲まない、よ。でも塩味、ちがう、」
「東、水ちょうだい、」

あずまが持ってきた水で口をすすぐ。
みずうみの水は、そのまま飲んじゃダメだって。何が混じっているか分からないから、そのまま飲んだらお腹を壊す。飲む時は、沸かしてろかして、きれいにするんだよ、ってあずまが教えた。

「まだ泳ぎは教えてないって、言いましたよね、」
「うん、ごめん。調子乗った、」
「お風呂でも失敗するんですから、飲むに決まってるじゃないですか、」
「うん、ごめんって、」

しおうがあずまに怒られるがおもしろくて、僕はまた笑う。
あずまは、しおうがいるといつも静かだったのにね。最近、しおうといっぱい話すようになった。はぎなが忙しくて、あずまが護衛が増えたからかもしれない。

「いいね、」
「何が、」
「しおうとあずま、仲良し、」
「…お前の護衛は、だんだん俺に遠慮がなくなってきてるからな。まあ、俺に遠慮せずお前を守ってくれるから、頼りにしてる、」

前は嫉妬したのにね、って言ったら、今もするよ、ってしおうは笑う。
また水の中にごろんってして、波の中を転がった。今度は飲まない。

「これが、湖。わかった?」
「海とは、ちがう?」
「そ、海はまた今度連れてく。もっと大きくて、もっと違う発見があるから覚えてな。水の感触も、匂いも、味も、音も全然違うから、」

僕が目をまん丸にしたら、しおうはまたにかって笑う。

「違うんだよ。図鑑の中じゃ分からないだろ、」
「うん、」
「湖の水はどうだった?」
「水、ふつうの水。いっぱいある、水」
「はは、味も普通?」
「うん、」
「音は?」
「静かだけど、時々、ちゃぷちゃぷする。波はさーって、おもしろい、」
「匂いは分かった?」
「お風呂、の水と、ちがうね、いろんな、匂い。木も土もあるから?」
「風呂と違うか、」
「うん、ちがう、」

ははは、ってしおうは笑う。
水に濡れたからかな、キラキラ光って、笑顔がうんときれいに見えた。
僕が湖に来たが、しおうはこんなにうれしい。

それが何だか、とてもうれしくなって、しおうにぎゅうってした。

「やっぱり、しおうが、いい、」
「うん?」
「しおうがいるが、いちばん、安心、」
「そうか、」

しばらく二人で波の中を転がった。
僕は何回かみずうみを飲んで、あずまに怒られる。でも、僕があずまも濡らしたらあずまも飲んだから、おあいこだなって、しおうは笑った。

結局、護衛はかんべの仕事になって、あずまは僕と遊んだよ。
僕の仲間になって、しおうをいっぱいびしょ濡れにした。

とやが、いつまで遊んでるんだ、って迎えにきたら、しおうはとやを仲間にしたけど、あずまの顔に水をかけるよりとやがびしょ濡れになる方が早かった。

「だから、草相手に無謀なんだって、」
「一つくらい勝ちたいだろ、日向の中で東の株が上がり続けてるのが、悔しい、」
「わかるけども、」

しおうととやは、あずまに負けるが悔しい。年下だもんね。でも、あずまはうんと強いよ。僕をおんぶしたまま、ひょいひょい2人のかける水を避けるくらい。しおうととやは何回も頭から水をかぶったのにね。
僕はあずまの背中でかけ声をして、いっぱい応援した。

で、僕とあずまの勝ち。しおうととやは降参。



「温かくなったとはいえ、まだ春ですよ。何でそんなにびしょ濡れにしますか、」
「すまん、調子乗った、」


小屋に戻ったら、みずちとうつぎに叱られる。
遊んでる間はあんなに楽しかったのに、小屋に戻る途中で、僕は寒くなってぶるぶる震えた。すぐにうつぎが僕を抱っこしてお風呂に連れてく。体を洗うよりも温まるのが先です、って僕をあっという間に湯船に入れた。

「…唇が紫色です。それが治るまでは、温まりますよ、」
「ぅん、」
「水遊びは、初めてでしたね、」
「ぅん、」
「楽しかったですか、」
「ぅん、」
「…なら、泣かなくて良いんですよ。凍えてしまったけれど、日向様はちゃんと水遊びができました。」
「ぅん、」

ぶるぶる震えるが治まるまで、涙が流れた。

色んな涙。
僕だけ凍えるが悔しいもあったし、またできなかったが怖いもあった。
でも楽しくて、初めてが嬉しいもあって、幸せで、全部僕を泣かせる。

体がぽかぽかになってお風呂を出たら、しおうが僕の髪を乾かすをやった。いつもはうつぎがやるのに、今日はしおう。

「寒かったな。気づいてやれないで、ごめん、」
「ごめんは、言わない。楽しかった、のに、」
「ん、そうだな、」

しおうは僕の髪にちゅうってして、魔法で風を作った。
温かい風。しおうみたい。僕を包んで、安心にする。

魔法がきらきらするがきれいだった。
いつか僕もできるになりたいけど、今はしおうの魔法を見ていたい。

ぼんやりきらきらを見ていたら、体がぽかぽかして、お腹がふわふわして、幸せがいっぱいで、僕はいつの間にか寝た。


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