第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

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第弐部-Ⅲ:自覚

140.日向 ご招待

「ほ、本日は、お招き、いただきまして、」

離宮の玄関で、さなえがきょうしゅくした。
わかばと、もえぎと、りくも一緒。
4人についてきた三つ葉の従者もきょうしゅくして、かちこちになってた。

「そんな畏まらなくていいよ。友人の家に招かれただけだ、」
「無理だろ。どこだと思ってんだ。宮殿だぞ、」
「俺の家だろ、」
「ダメだ、こいつ。……ひな、紫鷹はバカだから、ひなが迎えてやって、」

しおうは大丈夫だよって、言ったけど、さなえもわかばももえぎもりくも大丈夫にならない。
多分、とやが当ってるが、僕はわかる。離宮はしおうとすみれこさまの宮殿で、皇子と皇帝妃だから、離宮に来る人は緊張するが当たり前。

だから、さなえに歩いて、手をつないだ。

「………こっち、」
「ひぃ、」

さなえは鳥の鳴き声みたいな悲鳴をあげたけど、僕が手を引っぱって歩いたら、ちょっとずつきょうしゅくが小さくなる。

「……これが、玄関。あっちに、しおうとすみれこさまの執務室がある。」
「へ、へえ、」
「……1階は、仕事の部屋が、いっぱい。」
「こ、これが、外交の要と言われる離宮ですか、」

さなえが難しいことを言って、感心した。
わかばともえぎは、離宮の壁が綺麗だねって、目をキラキラする。
りくは、ポカンって大きく口を開けて、わぁ、って声を上げた。

4人の声を聞いていたら、ぼんやりしていた世界が、ちょっとずつはっきりする。

お腹がふわふわして、さなえとつないだ手が、うんと温かくなった。わかばともえぎがキラキラするのと一緒に、僕も周りがキラキラして、離宮がうんと綺麗な場所に見えてくる。りくが、わあ、って言うたび、体が浮きそうになった。

「あらあら、日向さんは、嬉しそうね、」

中庭が見える部屋に案内したら、待ってたすみれこさまが言う。
さなえとわかばともえぎとりくは、またきょうしゅくした。

「………僕、うれしい?」
「ええ、嬉しそうに見えますよ。足が浮き足だっているでしょう?」
「………うき、あし、」
「そのうち、またぴょんぴょん跳ねてくれそうね、」

ふふふ、ってすみれこさまはうれしそうに笑って、いらっしゃい、ってみんなに言う。

「うちの子たちがお世話になっています。今日はどうぞゆっくりしていらしてね、」

みんなはいっぱいきょうしゅくして緊張したから、僕はまたさなえの手を引っ張って、教えた。

「………さなえはこっち、」
「あ、ありがとうございます、」

さなえが椅子に座ったら、わかばともえぎの手を引っ張って、椅子に座らせる。そのあと、りくの手を引っ張って座らせたら、僕はしおうが座ったとこによじ登った。
さなえはポカンって、びっくりしたけど、わかばともえぎは、にこにこして僕を見る。りくはどうかな、って見たら、視線が合ってにこって笑った。

ふしぎ。
いつもは学院にいる学生が離宮にいる。

しおうが友達は、家に招待して一緒に食事をしたり、遊んだりするんだよ、って教えた。
僕はさなえと、わかばと、もえぎと、りくの友達になったから、招待しなきゃいけないな、って。

僕は、みんなの友達だから。


「三つ葉の領地は山間の自然が豊かな場所だと聞いた。稲苗が植物に詳しいのは、そのためか?」
「え、っと。はい、あの、昔から山で遊んでいたのもありますが、うちはその山が多いせいで、農作物を育てるのには向かないので…、山の恵みを利用するのと、土地にあった作物を研究するつもりで、」
「それで、生態学か、」

はい、って言ったさなえは、まだ緊張しているけど、さっきよりいい。
山の話をしたら、キラキラするが、ふしぎだった。

「三つ葉は林業が有名だものね。あと果物。日向さんは、三つ葉の林檎が好物なんですよ、」
「え、え、本当ですか?」
「………りんごは、三つ葉の?」
「ええ、他の地域の林檎を出したこともあるけど、三つ葉の林檎が1番よく食べてくれると、料理長が言っていましたよ、」
「へえ、日向は林檎の違いがわかるのか、」

しおうがびっくりした顔で僕を見る。僕もびっくりした。
おやつはりんごを食べるけど、僕はいつもおいしい。そう言ったら、最近のりんごは全て三つ葉なんですよ、ってすみれこさまが教えた。

「父に伝えます。無名だったものを改良して特産物にまでしたのは父なので、泣いて喜びますよ、」

さなえもちょっと泣いてるみたいでびっくりした。

「……りんごは、さなえの父が、作る?」
「作るのは農家だが、三つ葉の当主は農家と一緒に、どうしたらおいしい林檎ができるか考えたんだよ。それで、どうしたらそれをみんなに知ってもらえて、たくさん届けられるか、一生懸命やったんだろな、」
「……父、えらい、ね、」

ありがとうございますぅ、ってさなえは本当に泣いた。

ご飯が来て、みんなの前にお皿がいっぱい並んだら、すみれこさまが、これはわかばともえぎのとこの魚だよ、とか、あれはりくのとこの醤油を使っているんだよ、とか教える。

「……魚は、わかばと、もえぎが、とる?」
「ええ。小さい頃から、祖父の船に乗って海に出ております。」
「沖合から、沿岸、遠洋まで何でもお任せくださいな、」
「すごいな。遠洋って、一年くらい帰ってこないんじゃないの?」
「ええ、藤夜様。学院に入学する前に1年、兄と萌葱と船に乗せてもらって、鰹を追いました!」

えんよう、は船で遠くの海まで行って魚をつかまえることだよって、とやが教える。
わかばともえぎは、船が嵐にあった時の話をした。船より大きな波が来て、船の中でごろごろ転がったって。あんまりひどいから2人の兄上は、いっぱい酔ってひさんだったんだよって、笑った。
僕が船に乗ったことがない、って言ったら、目を目一杯キラキラさせて、ぜひいらしてください、って言う。

「まだ帝都には出ていない珍しい魚もたくさんいますから、」
「今年の誕生日には、2人の船を作ってもらう予定なんです!」
「それは、ぜひ遊びに行かないといけないな、日向、」

しおうを見たら、楽しそうだった。
僕のお腹をなでて、何が釣れるかな、ってうきうきする。

わかばともえぎの魚はおいしかった。
あじは、前にも食べたけど、前よりうんとおいしい。
僕がいっぱい食べたら、 しおうはもっと楽しくなって僕のお腹をたくさんなでた。

りくのとこは醤油が有名なんだって。
さなえのとこと、わかばともえぎのとこの間に挟まって、川がいっぱいあるから、水がきれい。平らな土地が多いから、麦や豆やお米をいっぱい作るんだよって、教える。

「日向は、味噌が少し苦手なんだよ。だから、離宮の食事は醤油か塩が多いな、」
「………僕、みそ、きらい?」
「食べるけどな。あまり好きじゃないだろ。」
「………みそ、しる、」
「味噌汁は好きだよ。でも煮物や味噌漬けみたいに濃いのは苦手だろ、」

びっくりして、ポカンって口を開いたら、何だその顔、ってしおうは笑う。
僕は、何でも食べるって、思ったのに、ちがった。 しおうは知ってたのに、僕は知らない。

「………なんで、言わない、」
「何でって、言うほどのことじゃないだろ。他にも食べられるものはたくさんあるし、苦手なものがあっても良いんだよ。」
「………僕より、しおうが、わかる、」
「分かるよ。俺の日向だもん、」
「………くやしい、」

そうか、悔しいか、ってしおうはニコニコ笑って、僕をぎゅうってした。
頭にちゅうも降ってきたから、とやが叱る。

さなえはもうぽかんってしなくて、へええ、って驚きながら顔を赤くした。あじろみたい。わかばともえぎは、きゃっきゃって可愛い声を立てて、2人で顔を見合わせる。りくはどうだろ、って見たら、また視線が合って、今度はにかって笑った。

「ごめんなさいね。紫鷹さんはいつもこんな感じで、」
「いつもですか、」
「いいですね。目が潤います、」
「眼福です、」
「殿下って…へえ、へええええ、」

もう誰もきょうしゅくしてなくて、いっぱい笑い声がした。
すみれこさまが、僕としおうの話をしたら、わかばともえぎはうんうんって頷いて聞きたがる。りくは、とやと楽しそうに何か話してた。さなえは僕が山のことを聞いたら、また目をきらきらさせて、山で見つけたふしぎな植物の話をした。

「楽しいな、日向、」

たくさん並んだお皿のご飯を全部食べたら、僕のお腹はふくれた。ちょっと苦しくてしおうのお腹にもたれたら、しおうは僕のお腹をなでて言う。
紫色の目が、キラキラしてて綺麗だった。

しおうの目が1番キラキラするは、僕。


「………たの、しい、」
「うん、」

俺も楽しいよ、ってしおうの目がうんとキラキラした。

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