第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

文字の大きさ
149 / 209
第弐部-Ⅲ:自覚

147.日向 二つ目の自覚

毎日毎日、同じ夢を見た。

草の上をしおうと2人で歩いてる。
しおうが僕の手を引っ張って、早く帰ろうなって、連れてく夢。
とことこ二人で歩いて、遠くに離宮が見えた。

でもいつも帰れるのはそこまで。
僕は急に手が震えて力がなくなる。
するりって、しおうの手から僕の手が落ちたら、しおうがつかみ直すけど、僕はつかめなかった。

そしたら魔法が、おいで、って僕の手をつかむ。

しおうの手がつかめないのに、魔法と僕の手はのりみたいにくっついて離れなかった。
どんどん魔法が僕を引っ張って、しおうを離れる。しおうはやっぱり何度もつかみ直そうとするけど、僕の手はするする落ちた。

行きたくないのに。
しおうと、離宮に帰るのに。
魔法がきらきら光るのが見えたら、そっちもいいかも、って思った。

そしたら、足元が崩れて、後は真っ逆さま。
あーって、悲鳴を上げたかったのに、声もでないで真っ暗になった。






しおうがね、僕はしおうのものだから、ずっとここにいるんだよって言ったよ。
だけど、僕はいつも自分でしおうの手を離す。
しおうが一生懸命つかまえるのに、離すはいつも僕。




だから、わかばが好きはときめく、って言った時、地面がぐらぐらする気がした。
僕はしおうが好きなはずなのに、好きじゃないかもしれない。
しおうを好きじゃない僕は、きっとまたしおうの手を離して、どこかに行くよ。
僕はしおうのなのに、しおうがいなかったら、もう何にもないのに。



だから、ときめきたかった。



もえぎがくれた本で、さあらはあると王子にときめいたね。
でも王子は最初、さあらにときめくがわからなかった。
でもいっぱいときめかせるうちに、ときめくができるようになって、さあらを大好きになったね。
2人は結ばれてハッピーエンド。
ずっと一緒。
生涯、一緒。


僕は王子と同じ。
だから王子をやりたかった。



「きゃー、日向様、おはようございます!」
「御機嫌好う、日向様、」
「朝からお目にかかれた!今日は良い日になります。ありがとう、日向様!」


学院のあっちこちでみんながキラキラしてた。
僕を呼ぶ声がすると、ぼんやりしててもちょっとずつ目が覚めて、みんなのキラキラが見える。

手を振ったら、きゃーって言ってキラキラしたね。
廊下ですれちがった学生が僕を見るから、じーって見たら、頬が赤くなったり、目がとろんってなったりして、やっぱりキラキラした。
授業で近くに座った学生に、おはよう、って言った時も。帰りの馬車から、バイバイ、って言った時も。みんなキラキラして、きれいだった。

キラキラする時、みんなはときめくんだって、しおうが教えたね。


「あいつら、何て目で俺の日向を見てるんだ、」
「……しおう、しっと、」
「嫉妬だらけだよ。ああ、ほら、向こうの窓から双眼鏡でこっちを覗いてる変態までいる、」


そうがんきょうに僕が手を振ったら、しおうは、振るな、ってうんと嫉妬した。
僕がみんなをときめかせるも、みんなが僕にときめくも、しおうは嫉妬する。
最初は我慢してたけど、だんだん我慢できなくなって、何回か本当に学生に怒ったりもした。


ごめんね。

でも、僕はときめくが何か、ちょっとずつわかってきたよ。



ときめくは、キラキラする瞬間。
うんと好きなものに出会って、ドキドキしたり、うれしくなったり、わくわくしたり、幸せになったりする瞬間。

さなえは、植物が好きで、うんとときめくから、演習の時はいつもキラキラしてる。僕が学習帳を見て、なあに、って聞いたら、顔中キラキラさせていっぱいしゃべった。
わかばは、魚。もえぎも同じかな、って思ったら、もえぎは魚を取る道具にキラキラする。
りくは色んなものにキラキラするから、まだわかんない。

魔法にキラキラ、時計にキラキラ、誰かにキラキラ、帝国史にキラキラ、本にキラキラ、歌にキラキラ、数字にキラキラ、星にキラキラ。

学院を見たら、あちこちで色んなキラキラが光ってたよ。


「……あはっ、」


キラキラを見てたら、急にいろんなことを思い出して、声が出た。
しおうはびっくりして嫉妬がいっぱいになったけど、僕はキラキラの中に、色んな思い出が見えて、じっと見る。


おにぎりが、おいしかったよ。


初めて食べた白いおにぎり。
怖かったのにうんとおいしくて、ばくばく食べたのを僕は覚えてる。
僕はまだ、おいしいもうれしいも、よく分からなかったけど、あの時ちゃんと胸がどきどきしてたよ。


おにぎりに、僕はときめいてた。



しおうにトマトをあげた時も、きっとそう。

僕はお腹がいっぱいになったし、トマトが好きじゃなかったから、しおうが食べるかな、って思った。
僕があげたら、しおうは口を開けて、ぱくって食べたね。
やっぱり僕は、ときめくが分からなかったけど、胸がドキドキして、うんとキラキラしたよ。


窓の外のあおじも。
うつぎの魔法も。
しおうがくれたあおじのブローチも。
あじろと見つけたもぐらも。
はじめてのご招待も。


僕は全部ときめいてた。
ちゃんと覚えてる。



「日向、」


しおうの声がする。
見たら、いつもお昼を食べる部屋の入口にしおうがいて、僕を見てた。

しおう、僕ときめくがわかったよ。
ときめくができないって思ったけど、僕はいっぱいときめいてた。

うれしかったり、ふわふわしたり、幸せだったり、体がぴょんってはねたり。
離宮に来てから、毎日毎日キラキラした。


「……しっと、終わり?」
「終わんないよ、」


早くしおうに教えたいな、って思ったけど、しおうが泣きそうな顔で僕を見るから、しおうをなぐさめたい。
ごめんね、しおう。
僕がときめくの練習をしたら、しおうは嫉妬がいっぱいになって大変だった。
しおうがさびしくて、寝る前にぎゅうってしながら泣くを僕は知ってる。


でも、もう僕はときめくがわかったから、練習はおしまいだよ。
しおうが嫉妬するもおしまい。



だけど、どうしよう。
僕は今、うんとふわふわして、ふしぎな気分。
しおうに、もう嫉妬しなくて大丈夫って言いたいのに、うまく言葉が見つからない。

その間に、しおうの眉がうんと下がって、紫色の目がウルウルするのを見たら、もっとどきどきして、足がふわふわした。
うきあしだつ、って言うってすみれこさまが教えたね。


泣かないで、しおう。


そう思うけど、僕は、しおうが僕のために泣くが、いつもうれしかった。
しおうの涙はいつも僕をとかしたよ。怖くても不安でも、しおうの涙がきれいで、見ているとだんだん安心が僕の中に広がるのが分かって、胸のところが温かくなった。


とくとくとくとく。
僕の心臓の音がする。
ちょっと早くなるけど、怖い時とちがう。

おにぎりがおいしい時と似てるけど、ちょっとちがう。


もっとキラキラして、もっとドキドキする。

しおうの顔が見たい。
しおうをぎゅうってして、安心にしたい。
とろとろにして、うんと可愛いしおうに、僕がしたい。


僕は、それがときめく、ってもう知ってる。




「……僕、ときめいた、かも、しれない、」




感想 49

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中