第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

文字の大きさ
152 / 209
第弐部-Ⅲ:自覚

150.日向 しおうの印

また出た。
白くて苦いきたないやつ。

目が覚めてあれを見た時、僕は絶望した。
ベッドの上に座るのに、ずっとずっと深いとこに落ちる気がして、嫌になる。

僕がいなくなればいいのに。
どこかに行けばいいのに。
全部なくなって、消えればいいのに。
そしたら魔法が、行こうか、って言う。


でも、僕はしおうといたかった。


体はいらないけど、心はずっとしおうがいい。
心と体がバラバラになればいいのに、って思ったけどならない。
だから、体を使ってしおうを起こした。

起きたらしおうは、僕をぎゅうってして「偉かったな、」って笑う。

「……何が、」
「どこにも行かないで、ちゃんと俺を起こしただろう。偉いよ、」
「……しおう、の、」
「うん、俺のだな、」

しばらくぎゅうってしたら、 しおうは僕の頭にちゅうをして、鈴を鳴らした。
すぐにうつぎが来て、僕をお風呂に連れてく。


お風呂の椅子に座って、うつぎがボタンを外したら、また落ちる感じがした。
お風呂に来たら、いつもそう。
僕はお風呂のタイルを通り抜けて、一階の床も抜けて、地面も抜けて、うんと暗い真っ暗なところに行こうとする。


おぐりが、僕は身体像が壊れちゃったんだって、言った。


おぐりにも、しおうにも、うつぎにもみんな、自分の中に「自分の体はこうだ、」って像があるんだって。
「僕の体はこうだ、」は、僕の一部になって「僕はこうだ、」になるって教えた。
普段は自分でも気づかないけど、心か魂の深いところにあって、生きるためにすごく大事なんだって。

でも僕の中の「僕の体はこうだ、」は壊れた。
白いののせい。

身体像と本当の体がかいりしたら、僕は僕の体が、僕のじゃなくなる。
そしたら、僕は僕じゃなくなって、全部いらなくなった。
どこかに行きたいのも、落ちるのも、僕が全部いらなくなったから。


「日向様、」


うつぎがうんと優しく呼ぶのに、遠くなるのもそのせい。
お風呂はいつもそう。
湯気でうつぎの顔がぼんやりするみたいに、音も声も全部ぼんやりした。

でも、今日のうつぎはちょっとちがう。


「何ですか、これ、」


急に声が大きくなって、僕の体はびっくりした。
びっくりしたら、ぼんやりしてたうつぎの顔がちゃんと見えるようになる。

そしたら、うつぎがすごく怖い顔になって、怒ってた。


「うつぎ、」
「…殿下ですか、」
「なあに、」
「殿下以外にこういう無体を働く方はおられませんけど、」
「しおう?」
「随分賑やかだと思ったら…!」


うつぎの顔が赤くなったり、青くなったり、白くなったり、ころころ変わる。
うつぎはいつも静かで、笑うも怒るも少ないから、またびっくり。

僕がびっくりしてる間に、うつぎは僕を脱がせて洗って、あっという間にタオルでぐるぐる巻きにした。
あんまり早いから、僕は何がなんだかわからなくて、うつぎの手の中でころころ転がるだけ。
わーって、頭の中で声をあげている内に、うつぎに抱っこされてしおうのとこに連れてかれた。


「何だ、早いな、」


着替えてる途中のしおうと、手伝ってたやまとが、うつぎと僕を見て目をまん丸にする。

「どういうことでしょう、殿下、」
「え、何、」
「日向様のお体に、何をされました、」
「え、は、……あ、」

今度は、しおうの顔が赤くなったり、青くなったり、白くなったりする番。
ちょっと遅れて、やまとも顔色が変わる。何で?

「え…、殿下、まさか、」
「いやいやいやいや!待て、弥間戸(やまと)。流石に最後まではしてない!」
「当たり前ですよ。正式な婚約も済んでいないのにそんなことになれば、国際問題です!」
「流石に俺も理解してるって…。と言うか、口付けを強請ってきたのは日向の方だよ、」
「まだお分かりにならないんだから、それを諌めるのも、殿下のお役目でしょう、」
「一応、止めたんだって!ちょっと調子に乗ったのは悪かったけど…、」

「…ちょっとと言う量じゃありませんでしたけど、」

うつぎははーって、大きくため息を吐いて、僕をしおうに渡す。
なあに、ってしおうを見たら、 しおうはぐるぐる巻きのタオルをずらして首のとこを覗いた。
そしたらどんどん真っ赤になって、僕をぎゅうってする。


「…大分、調子に乗りました、ごめん、」


耳まで真っ赤で、可愛かった。
僕の大好きなしおう。
胸がドキドキして、嬉しくなる。
ぼんやりがなくなって、目が覚めた。

「しおう、可愛い、」
「日向様、今はダメです。日向様も叱られてください、」
「僕も?」
「まだお分かりにならないかも知れませんけど、一度きちんとお話ししておく必要があります、」

うつぎが、お座りなさい、って言ったら、 しおうは真っ赤な顔のままベッドに座る。
僕はぐるぐる巻きで動けなかったから、しおうに抱っこされたまま。

ちゅうはいいけど、つつしみをもちなさい、ってうつぎは言った。
体に触るのは、二人がちゃんとわかって、いいよ、って二人ともりょうしょうした時だけだよ、ってやまとも言う。僕が、いいよ、って言ってもしおうが、いいよ、って言わなかったら我慢するんだよ、って叱られた。
それから、しおうと僕は皇子と王子だから、まぐわうは順序が大事なんだって。

叱られる間、しおうは真っ赤になりすぎて汗がいっぱい出た。


「へ、平気か、日向、」


真っ赤な顔のまま、しおうが心配になったは、体の話だから?
どこかに行きたいも、落ちるもずっとあるけど、大丈夫。
しおうの顔が可愛くて僕はずっとしおうを見たかったし、しおうがぎゅうってするから安心した。しおうがいたら、大丈夫。

「僕、まぐわう?」
「ひっ、」
「日向様…、そう言うことを仰るのも良くありません、」

うつぎとやまとは、ちゅうもまぐわうも話したのに僕はダメが、混乱した。
分からない、って言ったらうつぎは少し困った顔になったけど、真剣な顔で教える。

「情交は、日向様と殿下お二人だけの大事な秘密です、」
「ひみつ、」
「ええ、ですから他の者の前で詳らかに話して良いものではないんですよ。分かりますか?」
「ひみつは、ないしょの約束、」
「ええ、そうです。私は大人ですから、日向様が分からずに良くないことをされたり、お話しされた時には、いけないとお伝えするために口にします。でも本来は殿下とお二人だけで大切にされるものです、」
「分かった、」

ひみつ。
しおうと僕のひみつが、何だかふわふわした。
いいね、ってしおうを見たら真っ赤だけど優しい顔で僕の頭をなでる。


「うつぎが、怒ったは、何?」
「……俺が調子に乗ったからだよ、」
「ちょうし、」
「…………なあ、これ説明しないとダメ?拷問なんだけど、」
「遠回しな言い方ではお分かりにならないと思いますが、」
「そうなんだけどさあ、」

しおうの眉が下がって、泣きそうになる。
そう言えば、やまともしおうは赤ちゃんになる時があるって言ったね。すみれこさまとやまとに赤ちゃんになるしおうが、僕は好き。

しおうの可愛い顔をじっと見てたら、しおうはへにゃへにゃになって僕を見た後、額に口づけをした。
それから、ぐるぐる巻きのタオルを引っ張って教える。

「…日向に俺の印をつけたの。こういうのは、正式に婚約が済むまでは我慢するつもりだったのに、口づけを許されたら嬉しくで無理だった。ごめん、」
「しるし、」

しおうは、見たくなかったら見なくていいよ、って言った。
僕はお風呂も着替えも、体を見るが嫌だったから。
でも見たよ。


胸のところに赤い印がいっこ、にこ、さんこ、よんこ。
見えないけど、首のとこにもあるって、しおうが言う。


しおうが、ごめんな、って言って、うつぎが何か叱った気がする。やまとも。
でも僕は全部聞こえなくて、ずっと印を見てた。



印。
しおうがつけた。
赤い印。
しおうの印。


印からポカポカが広がって、体中がふわふわになる。
ドキドキするから、ときめくかもしれない。
落ちる、がどんどん小さくなる。
魔法は何回も、おいで、って言うけど聞こえなくなってきた。
どこかに行きたいが、わからなくなる。

びっくり。


「いる、に、なった、みたい」
「日向?」


赤い印を見たまま言ったら、しおうが驚く。
顔を上げたら、まん丸になった紫色が僕を見てた。
しおう、僕のしおう。

「しおうの、印。いる、になった。僕は、いらなかった、のに。しおうが、印、したら、いるに、なった!」
「何の話、」
「しおう、ぎゅうってしたい、」
「え、あ、はい、」

ぎゅうってしたいのに、僕はタオルでぐるぐる巻きだから動けない。
代わりにしおうがぎゅうってして、僕を包む。
しおうが印をつけた僕の体。

「え…っと。俺の印があるのが、いいってこと?」
「うん、」
「印があれば、日向は自分の体を大事にできる?」
「うん、」
「………マジか、」

ぎゅうって、しおうの腕が強くなって、胸のポカポカも体のふわふわも、うんとうんとたくさんになった。

すごいね、しおう。
しおうはいつも、僕を、いるにする。
白いのがある体は、いらないけど。
しおうの印がある体は、いるになったよ。

「うつぎ、」
「…はい、」
「印、しおうがくれた。僕、いるになった。印が、僕は、いる、」
「……そうですか、」
「怒らない?」
「…………………善処します。よろしくないと判断した時には、お叱りいたしますが、」
「わかった、」


うつぎは少し怖い顔をした後、驚いた顔をして、いつもの静かな顔になる。
僕を心配して怒ったのに、ごめんね。

「印、さわりたい、」
「……日向、悪いけど今は我慢して。俺の心臓がはち切れそう、」
「がまん、」

手を胸に伸ばしたいのに、タオルがぐるぐる巻き。
ぐるぐる巻きの僕をぎゅうってしたまま、しおうはまたどんどん真っ赤になって、うんと可愛くなった。


「しおう、」
「……何、」
「僕、いる。しおうの、だから、いる、」
「うん、俺も要るよ。……要るけど、ちょっと黙ってくれ。色々まずいから、」
「わかった、」


しおうの腕の中で、しおうが落ち着くを待った。

その間、僕は落ちると、どこかに行きたいを探したけど、よくわからない。
魔法は、おいで、って何度も言うから、あるのかもしれないけど、わからないくらい、うんと遠くにいなくなった。
代わりに僕の中に、ふわふわと、いると、ほしい、がいっぱい。


しおうが落ちついて、僕を離したら、鏡で僕の体を見た。



赤い印がいっぱい。
しおうの印。
しおうがつけた。


僕を、いる、にした。

感想 49

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中