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第弐部-Ⅳ:尼嶺
165.日向 壊れた輪っか
魔法塔で仕事をしてたら、しおうの気配がした。
お昼ご飯は一緒に食べる約束だから、もうすぐかな、って思ったら、しおうの気配はぐんぐん近づいてくる。
「日向!」
ばんっ、て扉が開いて、なあに、って聞いたと思ったら、僕はもうしおうの腕の中。
びっくりしてソファから転げ落ちそうになったけど、しおうがぎゅってしたから落ちなかった。代わりに僕はころんって転がって、ソファの上でしおうの下敷きになる。
「しお、何、」
「お前はすごいな、本当にすごい、」
「僕?」
何が、って聞こうとしたけど、しおうの手が震えてるのに気づいて忘れた。
僕を見る紫の目も、うるうるしてて泣くかもしれない。
何か怖いことがあったかな。しおうは挨拶が面倒だって言ってたから、嫌なことがあったかもしれない。また仕事が嫌で、泣きたくなったかもしれない。
だから、僕もしおうの背中を撫でてぎゅってした。
しおうはもっとぎゅってして、僕の頭も胸もお腹もぜんぶしおうの腕の中に入れる。
そしたらね、腕の中で、しおうの大好きの気配が、ザーザーって大雨みたいに降って来たよ。いつもは布団みたいにやわらかく包むのに、今日は大きな雨粒みたい。
その勢いが激しくて、あんまり強く降ってくるから、僕は溺れそうになった。
でも、僕より先に、しおうが溺れたかもしれない。
「大好きだ、」って耳のとこでしおうが言ったと思ったら、雨と一緒にちゅうが降ってきた。
僕は耳にちゅうをするのが苦手だからもぞもぞしたけど、頬にも頭にも額にも瞼にも鼻にもちゅうが降ってきて、すぐにぼんやりする。
何度も、名前を呼んだね。
ふわふわして、なあに、って聞いたら、しおうは煌玉(こうぎょく)みたいに紫色の目をキラキラさせて、僕を見た。うるうるしてるから、とろけた飴玉みたい。泣きそうなのに、嬉しそうで、幸せそうで、きれい。
うっとり見てたら、ぐんぐん近づいて、口にしおうの口がくっつく。
ちゅうするの?学院だけど、いいの?ってびっくりしてたら、しおうは僕の口の中をなめた。
なめられたところがびりびりして、そこから体中にしおうの大好きの雨がざーざー降ってくる。あっと言う間にお腹がいっぱい。もう入らないよ、って思うのに、しおうはどんどん熱くなって、欲張りになって、もっともっと僕を大好きになった。
だから、気持ちよくてふわふわして、もっと欲しくなる。
でも、しおうはぐいって、引っ張られて急にいなくなった。
「……殿下、学院ですよ、」
いやだ、もっと、ってしおうを捕まえようとしたけど、僕はひょいって持ち上げられて、いつの間にかあずまに抱っこされてる。
しおうの横にはぎなの顔が見えて、ちょっと怖い顔をしてた。
そうだ、学院だった。学院でちゅうはしない約束。
「あーあ、もうぐにゃぐにゃじゃないですか。せっかく仕事を頑張っていたのに、何してくれるんです、」
「これから仮説を検証しようという大事なところでしたのに、」
「…………悪い、」
あずまがごしごしって僕の口を拭く。
ごめんね、って言ったら、悪いのは殿下です、ってあずまはしおうを睨んだ。
なかつのは、もうこれ以上は無理ですね、って言って仕事の間中覗いてた箱を閉じる。僕は仕事中で、これからはぎなと一緒になかつのの仮説をやろうとしてたんだっけ。なのに、できなかった。ごめんね。
しおうはまだ泣きそうな幸せそうな顔で僕を見てたんだけど、叱られて僕が仕事中だったって気づいたみたい。
だんだんしぼんでいった。
「いきなり駆けだしたと思ったら、お前は…!」
「ひ、ひ、ひ、ひー様…、殿下…、」
扉のところでは、とやがはあはあ、って肩で息をしてしおうに怒ってた。珍しいね、とや。
あじろは、えびすに抱っこされてて、何でか顔が真っ赤。しろともいた。
いつの間にか、部屋の中に人がいっぱいいて、呆れたり、真っ赤になったり、しおうを睨んだりしてる。
挨拶は終わり?
仕事も終わり?
「……お昼ご飯?」
みんないるから、そうかな、って思ったんだけど。
言ったら、みんなの目が丸くなって、呆れてた目も、しおうを睨んでた目も、急に優しくなって笑い出す。
「何だ、腹が減ったのか、」
しぼんでたしおうも、僕を見てふわふわ笑った。
それから、ごめん、って言って、やっぱりいいな、って言って、ご飯にしようか、って僕の頭を撫でる。
僕はぼんやりそれを眺めて、よく分からないけど、何だかふわふわしてた。
みずちがお昼ご飯を持ってきた時も、僕はまだぐにゃぐにゃ。
だから、僕の口にご飯を入れるはしおうの役目にした。
お昼はサンドイッチだったから、僕は本当は自分で口にいっぱいつめこみたかったのにね。そう言ったら、しおうは、ごめんなあ、って言いながら小さくちぎったパンを僕の口に入れる。
ご飯の間は、挨拶の話を聞いたよ。
あじろは、学院長にも教授たちにも上手に挨拶できたんだって。みんなあじろを歓迎して、あじろが学院で勉強するのを喜んだって。
あじろは、また顔を真っ赤にしてたけど、嬉しそうだった。
しおうがあじろの歓迎を、成功にしたね。
僕が挨拶したら、きっとまた失敗する。せっかくみんなが真剣な顔をするのに、僕はダメにして、ぐだぐだにするから、しおうがやって良かった。悔しいけど。
僕もいつか、しおうが挨拶するみたいにりっぱにやる。
そう思って、しおうをじっと見上げてたら、しおうは、何だ、って笑ってまたちゅうをした。とやが、しおう、って怒って、はぎなも、殿下、って叱る。あじろは、真っ赤になって口をぱくぱくして面白かった。ぽかん、の顔も好きだけど、ぱくぱくもいい。
ふわふわして、幸せだった。
しおうがいて、とやがいて、あじろがいる。
しおうがちゅうをしたら、みんな怒ったり叱ったり困ったりするけど、今日は何だかいつもより優しいね。きれい。
なのに、何で。
僕は急にお腹がそわそわし出して、しおうが口に入れたパンが食べられなくなる。
「日向、どうした?」
びっくりしたしおうが、僕の頭を撫でて、顔を覗いた。
震えてる、って言うから手を見たら、震えてる。その手をしおうの左手がぎゅって握ったら、僕のお腹の奥からそわそわが一気に溢れてきて、汗が出た。
「しおう、輪っか、」
「あ?あ、そうか、ごめん、指輪な、」
しおうの左手に金色の輪っかがない。
薬指にいつもついてて、しおうが頭を撫でるたびにキラキラ光るが、僕は好きだったのに。
「すごいよな。こんなに綺麗に割れるなんて思いもしなかった。それくらい、日向の魔法が俺を強く守ってくれたって証拠だ、」
ごそごそってして、しおうは嬉しそうに笑いながら、僕の前に拳を出した。ぱって、拳が開いたら、金色の輪っかが半分に割れて、しおうの手のひらに転がっている。
僕とおそろいの輪っか。
番いの約束の輪っか。
なのに、半分に割れて、ばらばらになった。
「おそろい、壊れた、」
「え、わ、何で泣くんだ。ごめん、違うんだって、日向、」
しおうが焦って何か言うけど、もう体中そわそわでいっぱいになって、体がガタガタ震える。壊れた輪っかと一緒に、僕の中でも何かがばらばらになった。
「僕の、おそろい、印、なのに、」
しおうが僕の番って印。
一生僕と一緒って印。
だけど、なくなった。
「番い、やめる?もう、いらない?」
「違う、日向!違うから、ちゃんと聞いて!」
「聞かない、やだ、僕の、もうない。壊れた、しおうが、約束、いらない、」
「日向!」
くるって体が回って、しおうが僕の頬をつかまえて、紫色の目で見る。
聞け、って大きな声で言われて体が跳ねた。そわそわがまた増えたけど、僕を見るしおうの目は怯えるみたいに揺れてて、僕を心配してる。ずっと、大好きの雨も降ってた。
「俺が日向のことを大好きだって、日向はわかるはずだろ、」
「わか、る、」
「いらないから壊したんじゃない。加護の魔法に耐えきれなかっただけだ。日向が俺に加護をくれただろ。その魔法が俺を守ったんだよ、」
「僕の、せい、」
「違うって、日向、」
ザーザーザーザー雨が降る。しおうの大好きの雨。
僕は全身雨に濡れて溺れそうなのに、輪っかがない。
しおうはいらなくならないってわかるのに、いるの輪っかがなくて、混乱した。
「だいじょぶ、いらない、」
「いらなくないんだって。ごめん、指輪はまた作ろう。ちゃんとお揃いにするから、」
おそろい?
だって、おそろいの指輪は壊れた。
離宮のみんなが、僕としおうが番いって認めた印。
学院のみんなに、しおうは僕のだよ、って見せる印ももうない。
僕としおうの約束も、もうない。
僕は、しおうといない。
「ちがう、番いの輪っか、これだけ、」
新しい輪っかは、約束の輪っかじゃない。
僕の番の輪っかじゃない。
そう思ったら、もう目の前の輪っかが悲しくて怖くて、僕はわんわん泣いた。
「ひな、指輪を直そう。ちゃんと元通りに直るから、」
「ひ、ひー様、絶対何とかします。大丈夫ですから。だから、泣き止んでくださいぃ、」
とやが、ちゃんと直るよ、って言った。離宮の職人は、指輪も直せるくらいすごいって知ってるだろう、って。
あじろは、直らなかったら、羅郷(らごう)から一番の職人を呼ぶから必ず直す、って約束した。羅郷は金属の職人がたくさんいて、世界一の腕前だって。
とやは嘘をつかないから、直るかも知れない。
でも金色の輪っかは硬いから、直らない気がする。
あじろは約束を守ったから、また守ってくれるかも知れない。
でも、僕としおうの約束は?壊れた約束も直る?
直ると直らない。
いるといらない。
大好きと壊れた輪っか。
全部ぐちゃぐちゃになって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。しおうがぬぐう側から涙が溢れて、しおうの手はびちゃびちゃ。泣きすぎて、食べたはずのサンドイッチは全部出た。
「だいじょぶ、直らない。しおは好きが、でも、いらない、」
しおうが喉の奥で悲鳴を上げながら、何度も、ごめん、って言う。
とやとあじろが、大丈夫って、何回も繰り返す。
だから頭の中で、ごめんと、大丈夫を繰り返したけど、分からないまま、全部真っ暗になった。
お昼ご飯は一緒に食べる約束だから、もうすぐかな、って思ったら、しおうの気配はぐんぐん近づいてくる。
「日向!」
ばんっ、て扉が開いて、なあに、って聞いたと思ったら、僕はもうしおうの腕の中。
びっくりしてソファから転げ落ちそうになったけど、しおうがぎゅってしたから落ちなかった。代わりに僕はころんって転がって、ソファの上でしおうの下敷きになる。
「しお、何、」
「お前はすごいな、本当にすごい、」
「僕?」
何が、って聞こうとしたけど、しおうの手が震えてるのに気づいて忘れた。
僕を見る紫の目も、うるうるしてて泣くかもしれない。
何か怖いことがあったかな。しおうは挨拶が面倒だって言ってたから、嫌なことがあったかもしれない。また仕事が嫌で、泣きたくなったかもしれない。
だから、僕もしおうの背中を撫でてぎゅってした。
しおうはもっとぎゅってして、僕の頭も胸もお腹もぜんぶしおうの腕の中に入れる。
そしたらね、腕の中で、しおうの大好きの気配が、ザーザーって大雨みたいに降って来たよ。いつもは布団みたいにやわらかく包むのに、今日は大きな雨粒みたい。
その勢いが激しくて、あんまり強く降ってくるから、僕は溺れそうになった。
でも、僕より先に、しおうが溺れたかもしれない。
「大好きだ、」って耳のとこでしおうが言ったと思ったら、雨と一緒にちゅうが降ってきた。
僕は耳にちゅうをするのが苦手だからもぞもぞしたけど、頬にも頭にも額にも瞼にも鼻にもちゅうが降ってきて、すぐにぼんやりする。
何度も、名前を呼んだね。
ふわふわして、なあに、って聞いたら、しおうは煌玉(こうぎょく)みたいに紫色の目をキラキラさせて、僕を見た。うるうるしてるから、とろけた飴玉みたい。泣きそうなのに、嬉しそうで、幸せそうで、きれい。
うっとり見てたら、ぐんぐん近づいて、口にしおうの口がくっつく。
ちゅうするの?学院だけど、いいの?ってびっくりしてたら、しおうは僕の口の中をなめた。
なめられたところがびりびりして、そこから体中にしおうの大好きの雨がざーざー降ってくる。あっと言う間にお腹がいっぱい。もう入らないよ、って思うのに、しおうはどんどん熱くなって、欲張りになって、もっともっと僕を大好きになった。
だから、気持ちよくてふわふわして、もっと欲しくなる。
でも、しおうはぐいって、引っ張られて急にいなくなった。
「……殿下、学院ですよ、」
いやだ、もっと、ってしおうを捕まえようとしたけど、僕はひょいって持ち上げられて、いつの間にかあずまに抱っこされてる。
しおうの横にはぎなの顔が見えて、ちょっと怖い顔をしてた。
そうだ、学院だった。学院でちゅうはしない約束。
「あーあ、もうぐにゃぐにゃじゃないですか。せっかく仕事を頑張っていたのに、何してくれるんです、」
「これから仮説を検証しようという大事なところでしたのに、」
「…………悪い、」
あずまがごしごしって僕の口を拭く。
ごめんね、って言ったら、悪いのは殿下です、ってあずまはしおうを睨んだ。
なかつのは、もうこれ以上は無理ですね、って言って仕事の間中覗いてた箱を閉じる。僕は仕事中で、これからはぎなと一緒になかつのの仮説をやろうとしてたんだっけ。なのに、できなかった。ごめんね。
しおうはまだ泣きそうな幸せそうな顔で僕を見てたんだけど、叱られて僕が仕事中だったって気づいたみたい。
だんだんしぼんでいった。
「いきなり駆けだしたと思ったら、お前は…!」
「ひ、ひ、ひ、ひー様…、殿下…、」
扉のところでは、とやがはあはあ、って肩で息をしてしおうに怒ってた。珍しいね、とや。
あじろは、えびすに抱っこされてて、何でか顔が真っ赤。しろともいた。
いつの間にか、部屋の中に人がいっぱいいて、呆れたり、真っ赤になったり、しおうを睨んだりしてる。
挨拶は終わり?
仕事も終わり?
「……お昼ご飯?」
みんないるから、そうかな、って思ったんだけど。
言ったら、みんなの目が丸くなって、呆れてた目も、しおうを睨んでた目も、急に優しくなって笑い出す。
「何だ、腹が減ったのか、」
しぼんでたしおうも、僕を見てふわふわ笑った。
それから、ごめん、って言って、やっぱりいいな、って言って、ご飯にしようか、って僕の頭を撫でる。
僕はぼんやりそれを眺めて、よく分からないけど、何だかふわふわしてた。
みずちがお昼ご飯を持ってきた時も、僕はまだぐにゃぐにゃ。
だから、僕の口にご飯を入れるはしおうの役目にした。
お昼はサンドイッチだったから、僕は本当は自分で口にいっぱいつめこみたかったのにね。そう言ったら、しおうは、ごめんなあ、って言いながら小さくちぎったパンを僕の口に入れる。
ご飯の間は、挨拶の話を聞いたよ。
あじろは、学院長にも教授たちにも上手に挨拶できたんだって。みんなあじろを歓迎して、あじろが学院で勉強するのを喜んだって。
あじろは、また顔を真っ赤にしてたけど、嬉しそうだった。
しおうがあじろの歓迎を、成功にしたね。
僕が挨拶したら、きっとまた失敗する。せっかくみんなが真剣な顔をするのに、僕はダメにして、ぐだぐだにするから、しおうがやって良かった。悔しいけど。
僕もいつか、しおうが挨拶するみたいにりっぱにやる。
そう思って、しおうをじっと見上げてたら、しおうは、何だ、って笑ってまたちゅうをした。とやが、しおう、って怒って、はぎなも、殿下、って叱る。あじろは、真っ赤になって口をぱくぱくして面白かった。ぽかん、の顔も好きだけど、ぱくぱくもいい。
ふわふわして、幸せだった。
しおうがいて、とやがいて、あじろがいる。
しおうがちゅうをしたら、みんな怒ったり叱ったり困ったりするけど、今日は何だかいつもより優しいね。きれい。
なのに、何で。
僕は急にお腹がそわそわし出して、しおうが口に入れたパンが食べられなくなる。
「日向、どうした?」
びっくりしたしおうが、僕の頭を撫でて、顔を覗いた。
震えてる、って言うから手を見たら、震えてる。その手をしおうの左手がぎゅって握ったら、僕のお腹の奥からそわそわが一気に溢れてきて、汗が出た。
「しおう、輪っか、」
「あ?あ、そうか、ごめん、指輪な、」
しおうの左手に金色の輪っかがない。
薬指にいつもついてて、しおうが頭を撫でるたびにキラキラ光るが、僕は好きだったのに。
「すごいよな。こんなに綺麗に割れるなんて思いもしなかった。それくらい、日向の魔法が俺を強く守ってくれたって証拠だ、」
ごそごそってして、しおうは嬉しそうに笑いながら、僕の前に拳を出した。ぱって、拳が開いたら、金色の輪っかが半分に割れて、しおうの手のひらに転がっている。
僕とおそろいの輪っか。
番いの約束の輪っか。
なのに、半分に割れて、ばらばらになった。
「おそろい、壊れた、」
「え、わ、何で泣くんだ。ごめん、違うんだって、日向、」
しおうが焦って何か言うけど、もう体中そわそわでいっぱいになって、体がガタガタ震える。壊れた輪っかと一緒に、僕の中でも何かがばらばらになった。
「僕の、おそろい、印、なのに、」
しおうが僕の番って印。
一生僕と一緒って印。
だけど、なくなった。
「番い、やめる?もう、いらない?」
「違う、日向!違うから、ちゃんと聞いて!」
「聞かない、やだ、僕の、もうない。壊れた、しおうが、約束、いらない、」
「日向!」
くるって体が回って、しおうが僕の頬をつかまえて、紫色の目で見る。
聞け、って大きな声で言われて体が跳ねた。そわそわがまた増えたけど、僕を見るしおうの目は怯えるみたいに揺れてて、僕を心配してる。ずっと、大好きの雨も降ってた。
「俺が日向のことを大好きだって、日向はわかるはずだろ、」
「わか、る、」
「いらないから壊したんじゃない。加護の魔法に耐えきれなかっただけだ。日向が俺に加護をくれただろ。その魔法が俺を守ったんだよ、」
「僕の、せい、」
「違うって、日向、」
ザーザーザーザー雨が降る。しおうの大好きの雨。
僕は全身雨に濡れて溺れそうなのに、輪っかがない。
しおうはいらなくならないってわかるのに、いるの輪っかがなくて、混乱した。
「だいじょぶ、いらない、」
「いらなくないんだって。ごめん、指輪はまた作ろう。ちゃんとお揃いにするから、」
おそろい?
だって、おそろいの指輪は壊れた。
離宮のみんなが、僕としおうが番いって認めた印。
学院のみんなに、しおうは僕のだよ、って見せる印ももうない。
僕としおうの約束も、もうない。
僕は、しおうといない。
「ちがう、番いの輪っか、これだけ、」
新しい輪っかは、約束の輪っかじゃない。
僕の番の輪っかじゃない。
そう思ったら、もう目の前の輪っかが悲しくて怖くて、僕はわんわん泣いた。
「ひな、指輪を直そう。ちゃんと元通りに直るから、」
「ひ、ひー様、絶対何とかします。大丈夫ですから。だから、泣き止んでくださいぃ、」
とやが、ちゃんと直るよ、って言った。離宮の職人は、指輪も直せるくらいすごいって知ってるだろう、って。
あじろは、直らなかったら、羅郷(らごう)から一番の職人を呼ぶから必ず直す、って約束した。羅郷は金属の職人がたくさんいて、世界一の腕前だって。
とやは嘘をつかないから、直るかも知れない。
でも金色の輪っかは硬いから、直らない気がする。
あじろは約束を守ったから、また守ってくれるかも知れない。
でも、僕としおうの約束は?壊れた約束も直る?
直ると直らない。
いるといらない。
大好きと壊れた輪っか。
全部ぐちゃぐちゃになって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。しおうがぬぐう側から涙が溢れて、しおうの手はびちゃびちゃ。泣きすぎて、食べたはずのサンドイッチは全部出た。
「だいじょぶ、直らない。しおは好きが、でも、いらない、」
しおうが喉の奥で悲鳴を上げながら、何度も、ごめん、って言う。
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