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第弍部ーⅤ:二人で歩く
186.日向 僕の夏休み
夏休みが始まった。
僕の初めての夏休み。
講義も演習もないから、代わりにひしょちに行ったり、いつもはできない遊びをやるんだよ、ってしおうが言う。
「とは言っても、日向はまだ外泊が出来ないからなあ、」
「がいはく、」
「いつもなら夏季休暇は、別荘か、羅郷(らごう)辺りに行って何週間も過ごすんだよ。けど、日向はまだ離宮じゃないと眠れないだろ、」
「学院で、寝たよ、」
「昼寝はな。夜は多分まだ無理だよ、」
「しおうの先祖に、会った時、寝た、」
「あれは数に入れるな。ほとんど気絶したようなもんだろ、」
裏庭に向かってる途中でしおうが言うから、できるよ、ってしおうを見る。けど、しおうは、何言ってんだ、って呆れた顔をした。僕はまだ、夜は隠れ家が側にないと眠れないよって。
そうだっけ。
鏡の中で真っ白に光ってる先祖に会ったのは、夜だった。
夜に出かけるのは初めてだったから覚えてるよ。船で島に行って、僕がしおうの婚約者って、先祖に教えた。その帰り道、水に浮かぶ煌玉(こうぎょく)を眺めてるうちに寝た気がしたけど。
それに、僕はもう随分長いこと、夜は隠れ家で寝てない。
「しおうがいても、ダメ?」
「怖いことがあると眠れなくなるだろ。せっかく旅行するなら、日向には目一杯楽しんでほしい、」
眠れなくなったら、僕はすぐに元気がなくなるからまだダメだって。
僕より、しおうの方が僕のことが分かるね。へんなの。
ちょっと悔しいけどうれしいもあって、僕はふくざつなきぶんだった。
そしたらしおうは、せっかくの夏休みなんだから楽しい顔しな、って僕の頬にちゅうをする。
「休暇中に外泊の練習日はするとして、夏休みは色んなことをしような、」
「ブランコ?」
「……本当に好きだな。今朝も畑の後、散々遊んだだろ、」
「まだ遊びたかった、のに、」
「ははっ、ブランコもすべり台もいくらでも遊んでいいけど、もっと特別なことを色々やるんだよ、」
「とくべつ、」
しおうは、顔をキラキラさせて、きゃんぷとか、とおのりの話をした。
外泊の練習もかねて、裏庭にテントを張ってキャンプをするんだって。学院がある間はあまり遠くに出かけられなかったけど、うんと遠くまで行って、僕が見たことがない海や山も見ようって言う。
とやの家に泊まってみるのもいいな、って笑った。
夏休みだけの特別だよ、ってしおうはうんとキラキラする。きれい。
でも僕は首を傾げた。
だって、もうとっくに特別。
夏休みになってから、僕は毎朝いぐもの畑をやってる。
にんじんの種をまいたり、伸びすぎた枝をちょんぎったり、きゅうりをもいだりしたよ。
畑の後は、あじろと虫取りをして、つかまえた生き物の研究もした。
頑張ったから、学習室の壁には、僕たちが見つけた虫の記録がいっぱい。もう少ししたら、もう一回もぐらの巣のちょうさもやろうって、あじろと決めた。
講義と演習がないから、しおうととやともいっぱい遊べる。
僕は初めて一人で仔馬に乗ったし、小さな弓を引いて矢も打った。とやが将棋を教えたから、最近は寝る前にしおうと二人で将棋もする。
休暇中はね、仕事はしないんだって。
だから、なかつのと魔法の研究はお休みになった。
僕は仕事がしたくて不満だったけど、最近はぎなが、僕の護衛の鍛錬をしさつする仕事をくれたよ。はぎなが指揮して護衛たちが訓練するのを見学したり、僕も一緒に避難訓練したりする。
もう、やることがいっぱい。
いっぱいすぎて、忙しくて、楽しくて、うんと幸せ。
僕はすぐに夏休みが大好きになって、ずっと夏休みならいいって思ったくらい。
だから、とっくに特別なんだけど。
そう言ったら、しおうは、ははは、って笑って僕をぎゅうってした。
「そうか、日向は幸せか、」
「うん、」
「でも序の口だよ。日向が無理って音を上げるくらい楽しいことをやるんだから、覚悟してな、」
「もっと、とくべつ?」
「そ。今の特別が、当たり前になるくらい、」
にかって、しおうが笑う。
ちょうど裏庭に出たから、太陽の光がしおうを照らして、太陽の神様になったみたいにきれいだった。
音を上げるくらいの特別がどんなのか僕はわからないけど、しおうはとっくに僕の夏休みを特別にしてるから、きっと本当にもっと特別にする。
今より特別。
ブランコや畑や虫取りや将棋より、もっと。
そう思ったら、お腹の中がふわふわになって、ワクワクした。
それでね、今日も特別。
裏庭に行くから、ブランコで遊ぶかな、って思ったけど違う。
あじろととやの声が聞こえて見たら、裏庭の端っこに穴ぼこ。
穴ぼこの中に木の箱が入ってて、水がちゃぷちゃぷ揺れてた。
「お風呂、」
「プールな。あの中に入って遊ぶの。水着来ただろ。濡れてもいいやつ、」
「みずぎ、」
そういえば、そらが言ってた。
今日のは濡れても重くならないから、いっぱい遊べるよって。
半分のズボンとぴったりの長袖を着るから、暑いのに何でって思ったけど、みずぎっていう特別な服だって。
「僕だけ、ちがう、」
しおうも、とやも、あじろも半分のズボンだけで、後は何も着ないのに、僕だけ長袖。
何で、って聞いたら、僕は皮膚が弱いのと、体温調節がへただからだって。
湖に入った時、僕だけ凍えただろ、ってしおうは言う。
「あとな、お前の体を晒すのは色々と支障があるの。昨日も印をつけたろ、」
「そうだった、」
「見せていいのは俺だけだからな。絶対脱ぐなよ、」
「わかった、」
印は見せない約束。仕方ない。
僕はやぱりちょっと不満だったけど、後から来たはぎなとあずまとかんべが、僕と同じ長袖の水着を着てたから、いいことにした。おそろい。
プールは冷たくて、最初はびっくりしたよ。
しおうが僕を抱っこしてプールに入ったけど、あんまりびっくりして、しおうの肩に登って頭にしがみついたくらい。
みんなが笑って大丈夫だよって言うからゆっくり入ったら、最初は冷たくてぷるぷる震えたけど、だんだん平気になった。
平気になったら、後は特別楽しい時間。
水の中が歩くのが難しいって、僕は初めてわかった。
だから、魚は泳ぐ。人間も練習したら泳げるようになるんだよ、ってとやがお手本を見せた。すいすいって、歩くよりうんと早く進んでいくから僕はびっくり。
見てたらできる気がして僕もやってみたけど、ばちゃばちゃやってる間に僕のお腹はプールの底にくっついてた。
「何で、そんな上手に沈むかな!」
「ぶはっ、僕、なまこになった!魚、じゃなくて、なまこ!」
「溺れた、って言うんだよ、それは、」
僕を引き上げたしおうは真っ青。
まだ早かったか、とか言うけど、僕が楽しくて笑ってたらため息つきながら僕をおんぶして、離れるなよ、って言う。
それから、僕は、しおうと魚になった。
ざぶんって水の中に入ったら、急に音が小さくなって静かになる。
あじろの声もとやの声も、分厚い壁の向こうに行ったみたいに小さくなって、水の中でしおうと僕の二人だけ。
最初は何にも見えなかったけど、慣れてきたら、プールの底がゆらゆら揺れてるのが見えて、ぼんやりみとれた。
何だろう。
ゆらゆら、キラキラ動くから、何か生き物がいるのかなって思ったけど、何回も見るうちに、水のゆらゆらと太陽のキラキラだって、僕はわかったよ。
「もっかい、」
「気に入った?」
「うん、」
ざばあ、ってあがったら、しおうはお風呂上りみたいな頭でにこにこ笑う。きれい。
僕がおねだりしたら、しおうは何回も僕をおぶったまま泳いで魚になった。
すいすい泳いで、どこまでも行けそう。
ブランコで空を飛んだ時に似てる。
「僕は一度、これをやってみたかったんです、」
しおうが疲れて、ちょっと休憩、って水から出たら、あじろが竹筒をもって飛んできた。
竹を短く切ったやつに、棒がついてるへんなの。
「水鉄砲って言います、」
「みず、でっぽう、」
「この筒の中に水を入れて、押し棒を押し込むとここから水が……あ、」
あじろが棒を押したら、反対側から細い水がぴゅーって飛び出してしおうの顔にかかる。
あじろは顔を真っ赤にして焦ったけど、僕はもうやりたくて仕方なかった。
「僕も、やる。しおうに、かける、」
「何でだ、」
「あずま!僕と仲間!しおうを倒す、」
「はあ?」
しおうは、俺と仲間でいいだろ、って言ったけど、僕はしおうにかけたかったから、しおうの仲間はとやにした。僕の仲間は、あじろとあずま。
頭の上にボールをくくりつけて、水鉄砲でねらうんだよって、はぎながルールを教える。先に全部落とした方が勝ちの決まりだって。
湖で遊んだ時はね、しおうととやはあずまに水をかけられなくて負けたよ。
だから、今日も僕たちが勝つと思ったけど、プールと湖は全然違った。
僕はしおうを追いかけようとしたらすぐに転んで、水の中。一緒にあじろの足も引っかけたから、二人してプールの底に沈んで、あずまが助けた。その間にしおうととやにねらわれて、僕たちのボールはあっという間に飛んでった。
悔しくて、しろとを呼んでもう一回やったけど、やっぱり僕とあじろが転んで、しおうととやがねらい打ち。
「僕もひー様と一緒に訓練しないといけませんね…、」
「あずま、しろと、さくせん。僕とあじろが、勝つさくせん、」
「はいはい、」
四人で相談する間に、みずちと料理長がお弁当を持ってきたから、プールから出てみんなで食べる。
料理長の作ったお弁当。おやつはすいか。
僕がとったすいかだよ、って言ったら、しょんぼりしてたあじろも元気になって、むしゃむしゃ食べた。
食べながら作戦を立てたよ。
僕とあじろはすぐ転ぶから、あずまとしろとが肩車をしたらいいと思ったけど、あじろは恥ずかしいから嫌だって。
何で、って聞いたら、僕はもう肩車をする年じゃありませんって。
そうかな、って思ったけど、僕は勝ちたかった。だからお願いしたら、あじろはしぶしぶ肩車。
真っ赤な顔しながら、ぴゅーぴゅー水を打って、僕と一緒にしおうをねらい打ちした。僕はその間にとやに打たれたけど、あじろがしおうのボールもとやのボールも打って、僕たちの勝ち。
僕はもううれしくてうれしくて。
あじろに飛びついたら、またプールの底でなまこになった。
「お腹いっぱい、」
「はあ?何でプールで腹が膨れるんだ、」
「いっぱい、飲んだ、」
「はあ!?」
いっぱい遊んで動けなくなった頃には、僕のお腹はぱんぱん。
水から引き上げて僕のお腹を見たしおうは目をまん丸にして驚いた。
魚になったり、なまこになったりした時に水をいっぱい飲んだから仕方ないと思ったけど、普通は水は飲まないんだって。
本当だ、しおうのお腹はこちこちのまま。とやとあじろもお腹は膨れない。
「しおうは、僕のお腹が膨れるのが、好き。ちがう?」
「違わないけど、違うだろ。何だ、この腹、全部水か、」
「お弁当と、すいかも、」
そう言うことじゃないよ、ってしおうは呆れたけど、僕がけらけら笑ってたら、困った顔のまま笑った。
「……腹、痛くないか、」
「んーん、楽しかった!」
「なら、いいか…。次は飲まないようにな、」
「次も、ある?」
「あるよ。休暇がどれだけあると思ってるんだ。夏休み中、プールはそのままだから、練習しよう、」
「わあ、」
明日も明後日も。その先も夏休みは続いて、楽しいことをいっぱいするんだって。
今日はこんなに楽しかったのに、明日はもっと楽しいことをするって、しおうは笑う。
「夏休み、って、いいね、」
「いいだろ、」
「うん、」
僕の初めての夏休み。
講義も演習もないから、代わりにひしょちに行ったり、いつもはできない遊びをやるんだよ、ってしおうが言う。
「とは言っても、日向はまだ外泊が出来ないからなあ、」
「がいはく、」
「いつもなら夏季休暇は、別荘か、羅郷(らごう)辺りに行って何週間も過ごすんだよ。けど、日向はまだ離宮じゃないと眠れないだろ、」
「学院で、寝たよ、」
「昼寝はな。夜は多分まだ無理だよ、」
「しおうの先祖に、会った時、寝た、」
「あれは数に入れるな。ほとんど気絶したようなもんだろ、」
裏庭に向かってる途中でしおうが言うから、できるよ、ってしおうを見る。けど、しおうは、何言ってんだ、って呆れた顔をした。僕はまだ、夜は隠れ家が側にないと眠れないよって。
そうだっけ。
鏡の中で真っ白に光ってる先祖に会ったのは、夜だった。
夜に出かけるのは初めてだったから覚えてるよ。船で島に行って、僕がしおうの婚約者って、先祖に教えた。その帰り道、水に浮かぶ煌玉(こうぎょく)を眺めてるうちに寝た気がしたけど。
それに、僕はもう随分長いこと、夜は隠れ家で寝てない。
「しおうがいても、ダメ?」
「怖いことがあると眠れなくなるだろ。せっかく旅行するなら、日向には目一杯楽しんでほしい、」
眠れなくなったら、僕はすぐに元気がなくなるからまだダメだって。
僕より、しおうの方が僕のことが分かるね。へんなの。
ちょっと悔しいけどうれしいもあって、僕はふくざつなきぶんだった。
そしたらしおうは、せっかくの夏休みなんだから楽しい顔しな、って僕の頬にちゅうをする。
「休暇中に外泊の練習日はするとして、夏休みは色んなことをしような、」
「ブランコ?」
「……本当に好きだな。今朝も畑の後、散々遊んだだろ、」
「まだ遊びたかった、のに、」
「ははっ、ブランコもすべり台もいくらでも遊んでいいけど、もっと特別なことを色々やるんだよ、」
「とくべつ、」
しおうは、顔をキラキラさせて、きゃんぷとか、とおのりの話をした。
外泊の練習もかねて、裏庭にテントを張ってキャンプをするんだって。学院がある間はあまり遠くに出かけられなかったけど、うんと遠くまで行って、僕が見たことがない海や山も見ようって言う。
とやの家に泊まってみるのもいいな、って笑った。
夏休みだけの特別だよ、ってしおうはうんとキラキラする。きれい。
でも僕は首を傾げた。
だって、もうとっくに特別。
夏休みになってから、僕は毎朝いぐもの畑をやってる。
にんじんの種をまいたり、伸びすぎた枝をちょんぎったり、きゅうりをもいだりしたよ。
畑の後は、あじろと虫取りをして、つかまえた生き物の研究もした。
頑張ったから、学習室の壁には、僕たちが見つけた虫の記録がいっぱい。もう少ししたら、もう一回もぐらの巣のちょうさもやろうって、あじろと決めた。
講義と演習がないから、しおうととやともいっぱい遊べる。
僕は初めて一人で仔馬に乗ったし、小さな弓を引いて矢も打った。とやが将棋を教えたから、最近は寝る前にしおうと二人で将棋もする。
休暇中はね、仕事はしないんだって。
だから、なかつのと魔法の研究はお休みになった。
僕は仕事がしたくて不満だったけど、最近はぎなが、僕の護衛の鍛錬をしさつする仕事をくれたよ。はぎなが指揮して護衛たちが訓練するのを見学したり、僕も一緒に避難訓練したりする。
もう、やることがいっぱい。
いっぱいすぎて、忙しくて、楽しくて、うんと幸せ。
僕はすぐに夏休みが大好きになって、ずっと夏休みならいいって思ったくらい。
だから、とっくに特別なんだけど。
そう言ったら、しおうは、ははは、って笑って僕をぎゅうってした。
「そうか、日向は幸せか、」
「うん、」
「でも序の口だよ。日向が無理って音を上げるくらい楽しいことをやるんだから、覚悟してな、」
「もっと、とくべつ?」
「そ。今の特別が、当たり前になるくらい、」
にかって、しおうが笑う。
ちょうど裏庭に出たから、太陽の光がしおうを照らして、太陽の神様になったみたいにきれいだった。
音を上げるくらいの特別がどんなのか僕はわからないけど、しおうはとっくに僕の夏休みを特別にしてるから、きっと本当にもっと特別にする。
今より特別。
ブランコや畑や虫取りや将棋より、もっと。
そう思ったら、お腹の中がふわふわになって、ワクワクした。
それでね、今日も特別。
裏庭に行くから、ブランコで遊ぶかな、って思ったけど違う。
あじろととやの声が聞こえて見たら、裏庭の端っこに穴ぼこ。
穴ぼこの中に木の箱が入ってて、水がちゃぷちゃぷ揺れてた。
「お風呂、」
「プールな。あの中に入って遊ぶの。水着来ただろ。濡れてもいいやつ、」
「みずぎ、」
そういえば、そらが言ってた。
今日のは濡れても重くならないから、いっぱい遊べるよって。
半分のズボンとぴったりの長袖を着るから、暑いのに何でって思ったけど、みずぎっていう特別な服だって。
「僕だけ、ちがう、」
しおうも、とやも、あじろも半分のズボンだけで、後は何も着ないのに、僕だけ長袖。
何で、って聞いたら、僕は皮膚が弱いのと、体温調節がへただからだって。
湖に入った時、僕だけ凍えただろ、ってしおうは言う。
「あとな、お前の体を晒すのは色々と支障があるの。昨日も印をつけたろ、」
「そうだった、」
「見せていいのは俺だけだからな。絶対脱ぐなよ、」
「わかった、」
印は見せない約束。仕方ない。
僕はやぱりちょっと不満だったけど、後から来たはぎなとあずまとかんべが、僕と同じ長袖の水着を着てたから、いいことにした。おそろい。
プールは冷たくて、最初はびっくりしたよ。
しおうが僕を抱っこしてプールに入ったけど、あんまりびっくりして、しおうの肩に登って頭にしがみついたくらい。
みんなが笑って大丈夫だよって言うからゆっくり入ったら、最初は冷たくてぷるぷる震えたけど、だんだん平気になった。
平気になったら、後は特別楽しい時間。
水の中が歩くのが難しいって、僕は初めてわかった。
だから、魚は泳ぐ。人間も練習したら泳げるようになるんだよ、ってとやがお手本を見せた。すいすいって、歩くよりうんと早く進んでいくから僕はびっくり。
見てたらできる気がして僕もやってみたけど、ばちゃばちゃやってる間に僕のお腹はプールの底にくっついてた。
「何で、そんな上手に沈むかな!」
「ぶはっ、僕、なまこになった!魚、じゃなくて、なまこ!」
「溺れた、って言うんだよ、それは、」
僕を引き上げたしおうは真っ青。
まだ早かったか、とか言うけど、僕が楽しくて笑ってたらため息つきながら僕をおんぶして、離れるなよ、って言う。
それから、僕は、しおうと魚になった。
ざぶんって水の中に入ったら、急に音が小さくなって静かになる。
あじろの声もとやの声も、分厚い壁の向こうに行ったみたいに小さくなって、水の中でしおうと僕の二人だけ。
最初は何にも見えなかったけど、慣れてきたら、プールの底がゆらゆら揺れてるのが見えて、ぼんやりみとれた。
何だろう。
ゆらゆら、キラキラ動くから、何か生き物がいるのかなって思ったけど、何回も見るうちに、水のゆらゆらと太陽のキラキラだって、僕はわかったよ。
「もっかい、」
「気に入った?」
「うん、」
ざばあ、ってあがったら、しおうはお風呂上りみたいな頭でにこにこ笑う。きれい。
僕がおねだりしたら、しおうは何回も僕をおぶったまま泳いで魚になった。
すいすい泳いで、どこまでも行けそう。
ブランコで空を飛んだ時に似てる。
「僕は一度、これをやってみたかったんです、」
しおうが疲れて、ちょっと休憩、って水から出たら、あじろが竹筒をもって飛んできた。
竹を短く切ったやつに、棒がついてるへんなの。
「水鉄砲って言います、」
「みず、でっぽう、」
「この筒の中に水を入れて、押し棒を押し込むとここから水が……あ、」
あじろが棒を押したら、反対側から細い水がぴゅーって飛び出してしおうの顔にかかる。
あじろは顔を真っ赤にして焦ったけど、僕はもうやりたくて仕方なかった。
「僕も、やる。しおうに、かける、」
「何でだ、」
「あずま!僕と仲間!しおうを倒す、」
「はあ?」
しおうは、俺と仲間でいいだろ、って言ったけど、僕はしおうにかけたかったから、しおうの仲間はとやにした。僕の仲間は、あじろとあずま。
頭の上にボールをくくりつけて、水鉄砲でねらうんだよって、はぎながルールを教える。先に全部落とした方が勝ちの決まりだって。
湖で遊んだ時はね、しおうととやはあずまに水をかけられなくて負けたよ。
だから、今日も僕たちが勝つと思ったけど、プールと湖は全然違った。
僕はしおうを追いかけようとしたらすぐに転んで、水の中。一緒にあじろの足も引っかけたから、二人してプールの底に沈んで、あずまが助けた。その間にしおうととやにねらわれて、僕たちのボールはあっという間に飛んでった。
悔しくて、しろとを呼んでもう一回やったけど、やっぱり僕とあじろが転んで、しおうととやがねらい打ち。
「僕もひー様と一緒に訓練しないといけませんね…、」
「あずま、しろと、さくせん。僕とあじろが、勝つさくせん、」
「はいはい、」
四人で相談する間に、みずちと料理長がお弁当を持ってきたから、プールから出てみんなで食べる。
料理長の作ったお弁当。おやつはすいか。
僕がとったすいかだよ、って言ったら、しょんぼりしてたあじろも元気になって、むしゃむしゃ食べた。
食べながら作戦を立てたよ。
僕とあじろはすぐ転ぶから、あずまとしろとが肩車をしたらいいと思ったけど、あじろは恥ずかしいから嫌だって。
何で、って聞いたら、僕はもう肩車をする年じゃありませんって。
そうかな、って思ったけど、僕は勝ちたかった。だからお願いしたら、あじろはしぶしぶ肩車。
真っ赤な顔しながら、ぴゅーぴゅー水を打って、僕と一緒にしおうをねらい打ちした。僕はその間にとやに打たれたけど、あじろがしおうのボールもとやのボールも打って、僕たちの勝ち。
僕はもううれしくてうれしくて。
あじろに飛びついたら、またプールの底でなまこになった。
「お腹いっぱい、」
「はあ?何でプールで腹が膨れるんだ、」
「いっぱい、飲んだ、」
「はあ!?」
いっぱい遊んで動けなくなった頃には、僕のお腹はぱんぱん。
水から引き上げて僕のお腹を見たしおうは目をまん丸にして驚いた。
魚になったり、なまこになったりした時に水をいっぱい飲んだから仕方ないと思ったけど、普通は水は飲まないんだって。
本当だ、しおうのお腹はこちこちのまま。とやとあじろもお腹は膨れない。
「しおうは、僕のお腹が膨れるのが、好き。ちがう?」
「違わないけど、違うだろ。何だ、この腹、全部水か、」
「お弁当と、すいかも、」
そう言うことじゃないよ、ってしおうは呆れたけど、僕がけらけら笑ってたら、困った顔のまま笑った。
「……腹、痛くないか、」
「んーん、楽しかった!」
「なら、いいか…。次は飲まないようにな、」
「次も、ある?」
「あるよ。休暇がどれだけあると思ってるんだ。夏休み中、プールはそのままだから、練習しよう、」
「わあ、」
明日も明後日も。その先も夏休みは続いて、楽しいことをいっぱいするんだって。
今日はこんなに楽しかったのに、明日はもっと楽しいことをするって、しおうは笑う。
「夏休み、って、いいね、」
「いいだろ、」
「うん、」
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