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神獣国③
しおりを挟む朝方、アレクシスが迎えに来ると僕等を見るなり一瞬、にやけ顔を見せたように感じた。
今日から修行が始まる。
僕はアレクシスに魔法術を、セオは王国軍大佐ルートヴィヒに魔法剣の修行をつけて貰うことになった。
魔法術の修行は王都より西方にあるムラナト高原で行われた。アレクシスの転移魔法で瞬く間に瞬間移動できた。
「まずはどのくらいの実力か見たいので、火魔法、光魔法それぞれ見せてください。……あぁ、魔法で結界を張ってあるので威力強めでもかまいませんよ」
柔和な表情でアレクシスは言う。
言われた通り火球と光の矢を威力強めに放った。
「はぁ……、そうですね。ルカさん、あなたの魔力はこの国では普通……、中の中です。そして無駄が多い!発動スピード、発動精度。すべてにおいて未熟です」
アレクシスは態度を一変し、僕を叱責する。
ルカは猫耳をしょげて、尻尾は下を向く。いい人だと思っていたのに、こんなに厳しいとは……。不貞腐れた様子をみたアレクシスは。
「国の極秘事項だとは思いますが……、戦を見据えた修行をと申し使っております。今の状態では敗戦確実。聖者のあなたがネルザンドの要になると伺っております。今後の修行は厳しいものとなりますが宜しいですか?」
そうだ、この国には強くなるために来たんだ。ネルザンドを守るために、セオとこれからも平和に生きていけるように──
「はい、宜しくお願いします」
それからの修行は、想像を絶する過酷さだった。一日中ポーションを飲みながら火球や光の矢を100本以上打たされたり、慣れてきたら山奥に連れていかされミノタウロスと戦わされたりもした。
攻撃魔法の特訓が終わるとアレクシスが言う。
「ルカ様の戦闘での役割は主に支援です」
え!?今まで訓練した攻撃魔法は??ぽかんと開口したまま唖然とする僕を横目に続ける。
「攻撃魔法は基本です。踏まえた上で先ずは座学で戦のいろはを学んでから支援魔法を習得しましょう」
王城の一室で戦術や戦略について学んでから、高原で支援魔法を教わった。
アレクシスの魔法で火鼠の軍隊を自軍、敵軍各100匹ずつ出してもらって訓練を行った。火鼠は前頭に炎を宿し、火魔法が使える魔物だ。小さいながら巧みに火魔法を使い戦闘を展開していく。
ねずみを見ると、本能的に猫爪で攻撃したくなる性分を何とか抑える。
防御魔法、補助魔法(ステータスの上昇、敵には減少する)回復・治癒魔法をねずみ達の様子をみながら調整していく頭を使う作業だ。
尻尾を動かすのも忘れるほど集中して、脳疲労を感じる。
だいぶ作業にも慣れて来たころ、アレクシスから朗報が。
「今日はセオドール様の演習も近くで行われているそうです、お邪魔にならない範囲で見学されますか?」
「はい!」
間髪入れずに覇気のある声で即答する。ルカの瞳は煌めき、ボブテイルは外見にそぐわないほど左右する。
セオとは互いとも疲労困憊で夜の営みの余力すらない。ここ数週間、おはよう、おやすみのキスと肩枕くらいしか触れ合っていない、セオが足りていないのだ。
アレクシスは虹色の髪を耳に掛け直し、何かを遠くに飛ばしてるような仕草をする。魔法……念話だ!大佐と念話で話しているようだった。
「確認が取れました、移動します」そう告げると、アレクシスは呪文を唱えて二人は魔法陣に包まれる。
転移先は同じ高原でも見晴らしの良い丘
だった。パステルカラーの樹々と王都が一望できる場所で、ピンクは桜のようにも見えた。
メルヘンチックを感じる間もなく、凄まじい音に顔を向ける。セオの魔法剣の斬撃音だった。
猫獣人は比較的魔力が少ない人種だ、その中でも皇族は魔力が強い者が多い、代々皇帝は神獣の側妃を取り子を成してきたのが起因している。
セオは幼い頃から闇魔法が使えたようだ。その魔力を剣技に込めたのが魔法剣だ。
セオ達がいる場所から正面は危険なので左側から見学した。
「ズドドドドドドーーンッ」
剣先から青白い炎が大きな竜の貌を成して解き放たれる。
結界越しでも、凄まじい迫力が伝わる。
何より真剣で集中しているセオは、美しく、ほんっっとーーにカッコイイ!!
何回惚れ直せばいいのだろう…………。口元に掌を覆い、わなわなする。
はぁぁーー、と何度も長い溜息を漏らす。ほんの少しの時間だったがセオ不足を補えた。
⭐︎
ファシャール国での滞在もあと数日という頃、僕はアレクシスに神の間に案内された。ここは名のある者、勇者、賢者、聖者等しか入ることができない神聖な場所だと説明された。
中には、約五万体の獣神の御本尊像が安置されている。信仰する神の像を見つけ出し、その神に認められれば、加護を授けて下さるかもしれないそうだ。
入り口の扉には古代遺跡のような紋様が描かれている、アレクシスに連れられてきた神官が呪文を唱えると、重厚感のあるその大きな扉はゆっくりと開く。
「賢者アレシュ様!貴方もこれから先は立ち入り禁止です、終わるまでこの水晶の中でお待ちください」アレクシスが制すと、僕の体から金色の光が水晶へ吸い込まれる。
〈胡散臭い、狐には気をつけろよー〉賢者様の捨て台詞が脳内に響く。
アレクシスが賢者様の存在に気づいていたことに驚嘆した。
中に入ると大きな螺旋階段があり、それは天に衝くかと思う程、高く連なっていた。神聖な空間に息をするのを忘れるほど見入る。
長い階段を登り始めると、魔導灯が足元を照らし通り過ぎると消えていった。
中盤まで登って下を見ると、灯りが消えた空間に飲み込まれそうな錯覚を覚える。
途中、足を休めながらもやっとの思いで最上へ辿り着く。
乱れた息を整えながら見渡すと、蓮の花に模した魔導灯が柔らかに照らす、五万体の御本尊像が見事にずらりと円状に並んでいる。
よぉし!と両頬をパチンと叩き、猫耳はピンと立ち気合いをいれる。
この中から猫神様を探し出すんだな。一体、一体、慎重に眺める。
一体、いかにも猫らしく澄ましている像があるも鼻先は尖っているし……。どう見ても狐だ。賢者様はこれに騙されたのか?
十周くらい回っただろうか……、目も疲れたし、足もくたくたになって床に座り込む。
あー、猫型になって今すぐ丸くなりたい。
すべては本能のままに!と国のモットーを都合よく口にしながら丸くなる。
毛繕いをしながらぼんやり眺めていると、一体と目が合ったような気がした。
よくよく見ると、前世で映画で観たヨーダみたいな像だった。
人型に戻ってしばらく熟考する。ヨーダに猫耳が生えている……。
…………………………。
「スフィンクス種だ!」響き渡るような声音。
「よくわかりましたね。よっぽどの猫好きかな……ふふふ。我は猫神パステト」
像が動き出して僕の元まで、ゆっくりとやってくる。その姿は神々しく、優しい声だった。
僕は膝をつき最敬礼をする。
見上げると目頭が熱くなり、目元が潤んでしまう。
「パステト様、お会い出来て光栄です」
「見てましたよ、ルカ。過去も今までの全てを。聖者として認め加護を授けましょう。ネルザンドを頼みましたよ」
「はい」
大きな金色の光は蓮の貌を成して、ルカを包み込んだ──
気がついたら、螺旋階段の一番下に戻っていた。
そうして僕は猫神様の加護を受けた。何よりも、デフォルトが今までの狐姿から三毛猫に戻れたことが嬉しかった。
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