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寝物語
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「さて、そろそろ休むとしようか」
森の開けた場所を今夜の宿と決め、火を起こし、食事を済ませ一服し……。木の葉で即席の寝台をこしらえた相方にそう声を掛ける。
「うん!」
元気に返事をした少女は、そのままその寝台の上で身体を丸めた。が、すぐに顔を上げる。
「お話、聞きたい!」
「お話?」
少女が寒くないようにと、手に持っていた枝をパキッと折りながら繰り返す。
「お話って……私は大した物語は知らないよ?」
折った枝を火の中へと放り投げ、パンパンと手の汚れを払う。
少女は寝付きは悪く無いが、言い出したらなかなかに頑固だ。
きっと寝物語を話さない限り、眠りにつく事は無いだろう。
やれやれと溜め息をつきながらも、少女と向かい合った。
「それで?今日は何が聞きたいんだい?」
「賢者さまの話!」
「またそれか。君も飽きないね」
少女が要望する寝物語は限られている。
特に最近は、賢者の話がお気に入りのご様子。
「分かったよ、賢者の話だね。昔々……と言っても、五十年程前の話だ。世界は今のように平和では無く、人間と魔族が常に争いを繰り広げていた」
そうしていつものように、賢者の物語を語り始める。
その昔から、世界は人間と魔族の争いが絶え間なく続いていた。
魔族の王を人間達が打ち倒すと、世界は一時の平穏に包まれる。
そして再び魔王が誕生すれば争いが起こり、次代の勇者が立ち上がる……。
そうして世界は、終わる事のない争いの輪廻を巡っていた。
今からおよそ五十年程前、当時の魔王ヒュブリスは歴史的に見ても強大な力を有していた。
幾万もの騎士団や蛮勇達が魔王討伐へと赴くが、討ち取る事は敵わなかった。
いつ終わるとも知れない魔王との戦いに終止符を打ったのは、とある王国の一個旅団と、たった五人のチームだった。
後に勇者一行と呼ばれる五人を纏めていたリーダー、エヴァンの剣が魔王ヒュブリスの心の臓を貫き、魔王は跡形も無く消滅した。
「そうして五十年、人々は今日まで平和な時代を送れている。この長さは、今までの歴史でも群を抜いている。だから人々は、毎日勇者エヴァンに感謝の祈りを捧げるんだ」
「……賢者さまは?」
少女は小首を傾げる。
この物語に賢者の話は出てこない。
しかし少女は、この物語を『賢者さまの話』と言う。
話をしているうちに、宵の帳はすっかりと落ちている。
「うん。勇者エヴァンの仲間には、確かに賢者もいたよ。思慮深く、聡明で、魔王討伐にも大きく貢献した。そして人々は知らない」
少女の瞳に映りこんでいた人型は、いつの間にか違う物に変わっていた。
「魔王を倒し、世界を平和に導いたのは確かに勇者エヴァンだ。けど、今も平和を保てているのは彼のおかげじゃない。賢者のおかげだ」
少女に語り掛けていた人物はいつしか、かつて世界を震撼させた魔王ヒュブリスへと変貌していた。
「魔王は死の間際、勇者エヴァンに反魂の呪いを掛けた。彼が死んだ後、その死体を苗床に蘇る恐ろしい呪いだ。それを賢者が、身を挺して勇者を守ったんだ。そして賢者は、死を遠ざける旅に出た。だから彼が生きている限り、魔王が復活する事は無いんだよ。……さあ、今日の話はこれでお終いだ。ちゃんと寝るんだよ」
先程までの温和な青年の声では無く、地獄の底から響くような低い声。
目の前の人物の様変わりに恐れる事なく、少女はその大きな目を好奇心で輝かせながら質間する。
「お終い?続きは?」
「今日はお終い。続きはまたいつかね。それにこの物語は、まだ終わっていない。魔王が復活して、再び暗黒時代が来ない限りは賢者の話は沢山聞ける。だから、今日はお休み」
宥めるように、魔族の長い爪で少女を傷付けないようにそっと頭を撫でるが、彼女は少しばかり不服そうにしている。
「睡眠不足はお肌に悪いよ?それにこの顔は、あまり見られたく無いんだ。例え君でもね」
「……分かった」
おやすみ、と挨拶をして少女は身体を丸める。
「お休み。良い夢を」
私もそう挨拶を返し、彼女が寝付くまで側で見守る。
そして独りになった時、漆黒の夜空を見上げて呟いた。
「さあ、明日からまたのんびりと生きないとね。魔王が復活しないように」
森の開けた場所を今夜の宿と決め、火を起こし、食事を済ませ一服し……。木の葉で即席の寝台をこしらえた相方にそう声を掛ける。
「うん!」
元気に返事をした少女は、そのままその寝台の上で身体を丸めた。が、すぐに顔を上げる。
「お話、聞きたい!」
「お話?」
少女が寒くないようにと、手に持っていた枝をパキッと折りながら繰り返す。
「お話って……私は大した物語は知らないよ?」
折った枝を火の中へと放り投げ、パンパンと手の汚れを払う。
少女は寝付きは悪く無いが、言い出したらなかなかに頑固だ。
きっと寝物語を話さない限り、眠りにつく事は無いだろう。
やれやれと溜め息をつきながらも、少女と向かい合った。
「それで?今日は何が聞きたいんだい?」
「賢者さまの話!」
「またそれか。君も飽きないね」
少女が要望する寝物語は限られている。
特に最近は、賢者の話がお気に入りのご様子。
「分かったよ、賢者の話だね。昔々……と言っても、五十年程前の話だ。世界は今のように平和では無く、人間と魔族が常に争いを繰り広げていた」
そうしていつものように、賢者の物語を語り始める。
その昔から、世界は人間と魔族の争いが絶え間なく続いていた。
魔族の王を人間達が打ち倒すと、世界は一時の平穏に包まれる。
そして再び魔王が誕生すれば争いが起こり、次代の勇者が立ち上がる……。
そうして世界は、終わる事のない争いの輪廻を巡っていた。
今からおよそ五十年程前、当時の魔王ヒュブリスは歴史的に見ても強大な力を有していた。
幾万もの騎士団や蛮勇達が魔王討伐へと赴くが、討ち取る事は敵わなかった。
いつ終わるとも知れない魔王との戦いに終止符を打ったのは、とある王国の一個旅団と、たった五人のチームだった。
後に勇者一行と呼ばれる五人を纏めていたリーダー、エヴァンの剣が魔王ヒュブリスの心の臓を貫き、魔王は跡形も無く消滅した。
「そうして五十年、人々は今日まで平和な時代を送れている。この長さは、今までの歴史でも群を抜いている。だから人々は、毎日勇者エヴァンに感謝の祈りを捧げるんだ」
「……賢者さまは?」
少女は小首を傾げる。
この物語に賢者の話は出てこない。
しかし少女は、この物語を『賢者さまの話』と言う。
話をしているうちに、宵の帳はすっかりと落ちている。
「うん。勇者エヴァンの仲間には、確かに賢者もいたよ。思慮深く、聡明で、魔王討伐にも大きく貢献した。そして人々は知らない」
少女の瞳に映りこんでいた人型は、いつの間にか違う物に変わっていた。
「魔王を倒し、世界を平和に導いたのは確かに勇者エヴァンだ。けど、今も平和を保てているのは彼のおかげじゃない。賢者のおかげだ」
少女に語り掛けていた人物はいつしか、かつて世界を震撼させた魔王ヒュブリスへと変貌していた。
「魔王は死の間際、勇者エヴァンに反魂の呪いを掛けた。彼が死んだ後、その死体を苗床に蘇る恐ろしい呪いだ。それを賢者が、身を挺して勇者を守ったんだ。そして賢者は、死を遠ざける旅に出た。だから彼が生きている限り、魔王が復活する事は無いんだよ。……さあ、今日の話はこれでお終いだ。ちゃんと寝るんだよ」
先程までの温和な青年の声では無く、地獄の底から響くような低い声。
目の前の人物の様変わりに恐れる事なく、少女はその大きな目を好奇心で輝かせながら質間する。
「お終い?続きは?」
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「……分かった」
おやすみ、と挨拶をして少女は身体を丸める。
「お休み。良い夢を」
私もそう挨拶を返し、彼女が寝付くまで側で見守る。
そして独りになった時、漆黒の夜空を見上げて呟いた。
「さあ、明日からまたのんびりと生きないとね。魔王が復活しないように」
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