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助けた亀
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「りゅ~ぐ~じょ~♪」
波打ち際で軽快なステップを踏みながら、カメリアが楽しそうに歌を歌っている。
リンドブラッド達と別れてから数日後、カメリアとの約束通り海へとやってきた私達は、誰もいない浜辺でまったりとした時間を過ごしている。
海で泳ぐにはまだ早い季節だが、カメリアは膝元近くまで海に浸かり、打ち寄せて来る波をジャンプして避けたりと、とても楽しそうだ。
そんな彼女を横目に見ながら、私は次の目的地を何処に定めようかと拾った枝で浜辺に落書きをしながら考える。
リンドブラッドにカメリアが暮らせるような場所を探す手伝いをしてもらってはいるものの、魔族と人間が共存しているような土地など、そう簡単に見つかるものでは無い。
となれば自分の足でも稼がなければならないわけで、最近行っていない箇所を模索する。
「えーっと?東の方から西に向かって来たわけだから、このまま西に進み続けるか、はたまた北か南へ方向を移すか……」
季節的にはだんだん暑くなってくるから、あまり南には行きたくないなぁ。となると北か……?
「りゅーぐーじょ!」
「うん?」
あれこれと考えていると、カメリアがバタバタと砂を蹴り上げながらやってきてそう叫ぶ。
「カメリア、りゅーぐーじょーがいい!」
「ええ?」
目を輝かせて進言する彼女に、私は明らかに嫌な顔を向ける。
どうやら海に到着するまでの間に教えた竜宮城の御伽噺が、大変気に入ってしまったようだ。
とある若者が助けた亀に連れられて行った、海の底にある華の都。
その絢爛豪華さは絵にも描けない美しさで、訪れた者は時間を忘れて歌や踊りに明け暮れる。
そんな夢のような生活を送る若者の物語。
「でもねカメリア。あれはあくまでお話であって、実際には……」
「賢者さま、本当にある、言った!」
「うん、まあ、言ったけどさ……」
海底にある都は、御伽噺だけの話では無い。
昔、実際にそこへ行った事があるので、それは断言出来る。
けれどもそこは、御伽噺の竜宮城として語られているような美しい場所とは程遠く、出来るなら二度と訪れたくない場所の一つだ。
もしかしたら竜宮城を訪れた若者は、そこに捕らわれていて、何とか脱出してきたのではないかと思う程に。
私が実際に訪れた場所の話をしても、カメリアはウソだと言って頑として聞き入れようとしない。
「カメリアも行きたい!」
「行きたいって言ったって、あそこには自分達の意志で行ったわけじゃないからなぁ……」
あの時は亀に連れられて行ったのだ。
まさに御伽噺そのものに。
「でもカメリア。帰る時に玉手箱を渡されて、開けたらうんと年を取ってしまうんだよ?」
「うー……」
それはカメリアも嫌なようでうんうんと頭を抱えるが、やがて閃いたようにぱっと明るい顔を上げる。
「賢者さま、年とらない!カメリア、おっきくなれる!」
うーん、そこを突いてくるか……。
ハーフ故か、コボルトにしては遅く、人間にしては早い成長をするカメリアが噂の煙を浴びれば、妙齢の大人になれるかもしれない。
「いや、でもなあ。私達も自分の足で行ったわけじゃないからさ。行くなら亀を探さないと……」
「カメ!」
そう叫んだかと思ったら、カメリアは勢いそのままに海へと戻り、ざぶんと海中へと潜り込む。
あ~、これは入っちゃったかな。
はぁ、と大きな溜め息を一つ吐き、海上へと姿を現したカメリアに分かりきった質問をする。
「あの、カメリアさん?君は海に潜って何をしているのかな?」
「カメ見つける!助けて、りゅーぐーじょ行く」
「ははは。見つかると、いいね……」
これは長くなりそうだ。
カメリアが亀を見つけるのが先か、飽きるのが先か。
どちらにせよ、今日一日ではまず決着は着かない。
私はぐるりと辺りを見回し、野営が出来そうな場所を探す。
浜辺に落ちているゴミなどから満潮時の海水がどこまで来るかを確認し、それより上でなるべく平らで風の影響を受けない箇所を見つけ、そこに敷物を広げるべく背中から降ろした荷物の中を弄る。
「―あ!カメっ!」
「え?」
突如カメリアがそう叫び、岩陰へと走り出す。
「いやいや、こんな汚い海に亀がいるわけないでしょう」
一人愚痴るが、基本的に亀は綺麗な海に生息している生き物だ。
浜辺にゴミが散乱しているような場所にいるとは考え難い。
「ああでも、普通の亀じゃ竜宮城には行けない……」
「ぎゃああああ!!」
「何だあ?」
程なくして岩陰から野太い悲鳴が上がり、バシャバシャと激しい波音が聞こえてきた。
まさかカメリア、人を襲ってるんじゃ……。
「カメリア!」
有り得ないと思いつつも心配になり、急いで岩陰に向かう。
「カメリア!何、を……?」
服が濡れるのも構わず海へ入り、ばっと岩陰の向こう側を見ると、
「助け、助けてー!」
「賢者さま、亀!捕まえた!」
こちらを振り返って満面の笑みを見せるカメリアと、彼女に持ち上げられてひっくり返った状態で暴れている巨大な亀がそこにいた。
「うそぉ……」
訳の分からない状況を目の当たりにし、ぽかんと口を開けていると暴れる亀から飛び散る海水が当たり、とても塩辛い。
「りゅーぐーじょ、行ける?」
亀を持ち上げたまま近付いてくるカメリアの目が、今まで以上にキラキラと輝いている。
「だ、ダンナ!助けて、食われる!あいたたた!」
カメリアに担ぎ上げられている亀は、彼女の長い爪が甲羅の間から肌に食い込んでいるようでギャンギャンと泣き叫ぶ。
「あー、カメリア?とりあえずそれを下に降ろしてあげようか」
「ダメ!逃がさない」
きっと眉を吊り上げ、亀を私に取られないように一歩後ろへと後ずさる。
「誰も取らないって。それよりも早く降ろしてあげないとその亀、傷だらけで動けなくなってしまうよ?」
「え?」
途端、不安顔になり私と亀とを交互に見比べ「うう……」と渋々ながらも持ち上げている亀をゆっくりと陸に降ろす。
それにしても大きな亀だな。カメリアよりも大きいんじゃないか?……よく持ち上げられたな。
カメリアを怒らせるのは控えようと密かに決意しながら、例の亀が逃げ出したりしないよう注意を払いつつ観察する。
よほどカメリアの爪が痛かったのか、亀は手も足も引っ込めてしまって今は甲羅しか見えないが優に人が乗れる大きさはある。
「うう、酷い目にあった……」
そう泣き声を言いながら顔を出してきたのは、亀が陸に降りてから数十秒経ってからだ。
「カメ!りゅーぐーじょ、行こう!」
「うわっ!?出たぁ!」
「あっ待て!」
ひょい、と顔を覗かせたカメリアに驚いた亀が再び顔を引っ込めてしまい、カメリアが手を突っ込んで無理やり引っ張り出す。
「あだだだっ。痛い、痛いって。止めて、顔出すから止めて!」
私がカメリアを宥めて手を引っ込めさせると、亀は恐る恐る顔を出してこちらと目を合わせる。
「……あ、ども。いやその、元気なお嬢さんで」
「ああ、うん。乱暴して悪かったね。ちょっと好奇心が旺盛でね。後で言って聞かせておくよ」
カメリアが怯える亀に飛びかかったりしないよう、首根っこを掴んで謝罪するが、当の本人は未だに興奮が冷めない様子。
「カメリア、りゅーぐーじょ行きたい!カメ、連れてって」
「いい加減に落ち着きなさい。それにこれは、亀じゃないよ。モドキガメだ」
「え?……カメ、ちがうの?」
亀ではないという言葉を聞いた途端、明らかに肩を落とす。
もし彼女に尻尾や耳がついていたらしょんぼりと垂れ下がっていることだろう。
「うん。亀によく似た魔物だよ。普通の亀は、人の言葉をこんな風に話せないからね」
「えへへ。その点、あいつらよりあっしらの方が優秀な生き物って事ですよ」
そう得意気に手足をばたつかせているモドキガメだが、私から言わせたらただ言葉が話せる亀だ。
「それより、そのお嬢さんが言っているりゅーぐーじょってのは、もしかして海底宮殿の事ですかい?」
「ん?ああ、そうなんだけど、ちょっと勘違いしててね。どんなところかちゃんと理解してないんだよ」
困ったようにモドキガメに耳打ちすると、彼の反応は予想外の物だった。
「え?何言ってるんですかダンナ。あそこ、いいところじゃないですか」
「ええ!?嘘だろう?あんな磯臭くて魚やら何やらの白骨がそこいら中に転がってる場所の何処が良い所だっていうんだい?」
「ダンナ……。それ一体いつの話してるんですか?確かに昔は海王様が無茶苦茶やって人間も襲ったりしてたから酷い有り様でしたけど、人間に魔王様がやられて、乙姫様が宮殿を治めるようになってからは、すごく綺麗になったんですよ?」
「はあ~、それは初耳だな」
私の中の海底宮殿は、先も口にした通り鯛や鮃の舞などおろか、おどろおどろしい物が浮遊しているような記憶しか残っていない為、今の話を聞いてまるで自分が御伽噺の主人公になったような衝撃だ。
「そんなに信じられないなら、行ってみます?」
「え?」
「いいの?りゅーぐーじょ!」
その言葉に飛びついたのはカメリアだ。
「ええ。乙姫様は人間にも友好的ですんで、たまに連れて行ったり……あ、ちょっ待って」
「賢者さま、早く早く!」
モドキガメが話し終わる前にカメリアが甲羅に飛び乗り、私にも乗るようにと急かす。
「えー、でもなあ……」
モドキガメの言う綺麗がどこまでを指しているのか計れず躊躇するが、恐らくカメリアは海底に到着するまで甲羅の上から離れないだろう。
「……はあ、仕方がない。分かったよ」
どうせ行く当ては無いんだ。どうにでもなれ、だよ。
決意と諦めの入り混じったため息を一つ零し、私はカメリアに続いてモドキガメの甲羅に跨がった。
波打ち際で軽快なステップを踏みながら、カメリアが楽しそうに歌を歌っている。
リンドブラッド達と別れてから数日後、カメリアとの約束通り海へとやってきた私達は、誰もいない浜辺でまったりとした時間を過ごしている。
海で泳ぐにはまだ早い季節だが、カメリアは膝元近くまで海に浸かり、打ち寄せて来る波をジャンプして避けたりと、とても楽しそうだ。
そんな彼女を横目に見ながら、私は次の目的地を何処に定めようかと拾った枝で浜辺に落書きをしながら考える。
リンドブラッドにカメリアが暮らせるような場所を探す手伝いをしてもらってはいるものの、魔族と人間が共存しているような土地など、そう簡単に見つかるものでは無い。
となれば自分の足でも稼がなければならないわけで、最近行っていない箇所を模索する。
「えーっと?東の方から西に向かって来たわけだから、このまま西に進み続けるか、はたまた北か南へ方向を移すか……」
季節的にはだんだん暑くなってくるから、あまり南には行きたくないなぁ。となると北か……?
「りゅーぐーじょ!」
「うん?」
あれこれと考えていると、カメリアがバタバタと砂を蹴り上げながらやってきてそう叫ぶ。
「カメリア、りゅーぐーじょーがいい!」
「ええ?」
目を輝かせて進言する彼女に、私は明らかに嫌な顔を向ける。
どうやら海に到着するまでの間に教えた竜宮城の御伽噺が、大変気に入ってしまったようだ。
とある若者が助けた亀に連れられて行った、海の底にある華の都。
その絢爛豪華さは絵にも描けない美しさで、訪れた者は時間を忘れて歌や踊りに明け暮れる。
そんな夢のような生活を送る若者の物語。
「でもねカメリア。あれはあくまでお話であって、実際には……」
「賢者さま、本当にある、言った!」
「うん、まあ、言ったけどさ……」
海底にある都は、御伽噺だけの話では無い。
昔、実際にそこへ行った事があるので、それは断言出来る。
けれどもそこは、御伽噺の竜宮城として語られているような美しい場所とは程遠く、出来るなら二度と訪れたくない場所の一つだ。
もしかしたら竜宮城を訪れた若者は、そこに捕らわれていて、何とか脱出してきたのではないかと思う程に。
私が実際に訪れた場所の話をしても、カメリアはウソだと言って頑として聞き入れようとしない。
「カメリアも行きたい!」
「行きたいって言ったって、あそこには自分達の意志で行ったわけじゃないからなぁ……」
あの時は亀に連れられて行ったのだ。
まさに御伽噺そのものに。
「でもカメリア。帰る時に玉手箱を渡されて、開けたらうんと年を取ってしまうんだよ?」
「うー……」
それはカメリアも嫌なようでうんうんと頭を抱えるが、やがて閃いたようにぱっと明るい顔を上げる。
「賢者さま、年とらない!カメリア、おっきくなれる!」
うーん、そこを突いてくるか……。
ハーフ故か、コボルトにしては遅く、人間にしては早い成長をするカメリアが噂の煙を浴びれば、妙齢の大人になれるかもしれない。
「いや、でもなあ。私達も自分の足で行ったわけじゃないからさ。行くなら亀を探さないと……」
「カメ!」
そう叫んだかと思ったら、カメリアは勢いそのままに海へと戻り、ざぶんと海中へと潜り込む。
あ~、これは入っちゃったかな。
はぁ、と大きな溜め息を一つ吐き、海上へと姿を現したカメリアに分かりきった質問をする。
「あの、カメリアさん?君は海に潜って何をしているのかな?」
「カメ見つける!助けて、りゅーぐーじょ行く」
「ははは。見つかると、いいね……」
これは長くなりそうだ。
カメリアが亀を見つけるのが先か、飽きるのが先か。
どちらにせよ、今日一日ではまず決着は着かない。
私はぐるりと辺りを見回し、野営が出来そうな場所を探す。
浜辺に落ちているゴミなどから満潮時の海水がどこまで来るかを確認し、それより上でなるべく平らで風の影響を受けない箇所を見つけ、そこに敷物を広げるべく背中から降ろした荷物の中を弄る。
「―あ!カメっ!」
「え?」
突如カメリアがそう叫び、岩陰へと走り出す。
「いやいや、こんな汚い海に亀がいるわけないでしょう」
一人愚痴るが、基本的に亀は綺麗な海に生息している生き物だ。
浜辺にゴミが散乱しているような場所にいるとは考え難い。
「ああでも、普通の亀じゃ竜宮城には行けない……」
「ぎゃああああ!!」
「何だあ?」
程なくして岩陰から野太い悲鳴が上がり、バシャバシャと激しい波音が聞こえてきた。
まさかカメリア、人を襲ってるんじゃ……。
「カメリア!」
有り得ないと思いつつも心配になり、急いで岩陰に向かう。
「カメリア!何、を……?」
服が濡れるのも構わず海へ入り、ばっと岩陰の向こう側を見ると、
「助け、助けてー!」
「賢者さま、亀!捕まえた!」
こちらを振り返って満面の笑みを見せるカメリアと、彼女に持ち上げられてひっくり返った状態で暴れている巨大な亀がそこにいた。
「うそぉ……」
訳の分からない状況を目の当たりにし、ぽかんと口を開けていると暴れる亀から飛び散る海水が当たり、とても塩辛い。
「りゅーぐーじょ、行ける?」
亀を持ち上げたまま近付いてくるカメリアの目が、今まで以上にキラキラと輝いている。
「だ、ダンナ!助けて、食われる!あいたたた!」
カメリアに担ぎ上げられている亀は、彼女の長い爪が甲羅の間から肌に食い込んでいるようでギャンギャンと泣き叫ぶ。
「あー、カメリア?とりあえずそれを下に降ろしてあげようか」
「ダメ!逃がさない」
きっと眉を吊り上げ、亀を私に取られないように一歩後ろへと後ずさる。
「誰も取らないって。それよりも早く降ろしてあげないとその亀、傷だらけで動けなくなってしまうよ?」
「え?」
途端、不安顔になり私と亀とを交互に見比べ「うう……」と渋々ながらも持ち上げている亀をゆっくりと陸に降ろす。
それにしても大きな亀だな。カメリアよりも大きいんじゃないか?……よく持ち上げられたな。
カメリアを怒らせるのは控えようと密かに決意しながら、例の亀が逃げ出したりしないよう注意を払いつつ観察する。
よほどカメリアの爪が痛かったのか、亀は手も足も引っ込めてしまって今は甲羅しか見えないが優に人が乗れる大きさはある。
「うう、酷い目にあった……」
そう泣き声を言いながら顔を出してきたのは、亀が陸に降りてから数十秒経ってからだ。
「カメ!りゅーぐーじょ、行こう!」
「うわっ!?出たぁ!」
「あっ待て!」
ひょい、と顔を覗かせたカメリアに驚いた亀が再び顔を引っ込めてしまい、カメリアが手を突っ込んで無理やり引っ張り出す。
「あだだだっ。痛い、痛いって。止めて、顔出すから止めて!」
私がカメリアを宥めて手を引っ込めさせると、亀は恐る恐る顔を出してこちらと目を合わせる。
「……あ、ども。いやその、元気なお嬢さんで」
「ああ、うん。乱暴して悪かったね。ちょっと好奇心が旺盛でね。後で言って聞かせておくよ」
カメリアが怯える亀に飛びかかったりしないよう、首根っこを掴んで謝罪するが、当の本人は未だに興奮が冷めない様子。
「カメリア、りゅーぐーじょ行きたい!カメ、連れてって」
「いい加減に落ち着きなさい。それにこれは、亀じゃないよ。モドキガメだ」
「え?……カメ、ちがうの?」
亀ではないという言葉を聞いた途端、明らかに肩を落とす。
もし彼女に尻尾や耳がついていたらしょんぼりと垂れ下がっていることだろう。
「うん。亀によく似た魔物だよ。普通の亀は、人の言葉をこんな風に話せないからね」
「えへへ。その点、あいつらよりあっしらの方が優秀な生き物って事ですよ」
そう得意気に手足をばたつかせているモドキガメだが、私から言わせたらただ言葉が話せる亀だ。
「それより、そのお嬢さんが言っているりゅーぐーじょってのは、もしかして海底宮殿の事ですかい?」
「ん?ああ、そうなんだけど、ちょっと勘違いしててね。どんなところかちゃんと理解してないんだよ」
困ったようにモドキガメに耳打ちすると、彼の反応は予想外の物だった。
「え?何言ってるんですかダンナ。あそこ、いいところじゃないですか」
「ええ!?嘘だろう?あんな磯臭くて魚やら何やらの白骨がそこいら中に転がってる場所の何処が良い所だっていうんだい?」
「ダンナ……。それ一体いつの話してるんですか?確かに昔は海王様が無茶苦茶やって人間も襲ったりしてたから酷い有り様でしたけど、人間に魔王様がやられて、乙姫様が宮殿を治めるようになってからは、すごく綺麗になったんですよ?」
「はあ~、それは初耳だな」
私の中の海底宮殿は、先も口にした通り鯛や鮃の舞などおろか、おどろおどろしい物が浮遊しているような記憶しか残っていない為、今の話を聞いてまるで自分が御伽噺の主人公になったような衝撃だ。
「そんなに信じられないなら、行ってみます?」
「え?」
「いいの?りゅーぐーじょ!」
その言葉に飛びついたのはカメリアだ。
「ええ。乙姫様は人間にも友好的ですんで、たまに連れて行ったり……あ、ちょっ待って」
「賢者さま、早く早く!」
モドキガメが話し終わる前にカメリアが甲羅に飛び乗り、私にも乗るようにと急かす。
「えー、でもなあ……」
モドキガメの言う綺麗がどこまでを指しているのか計れず躊躇するが、恐らくカメリアは海底に到着するまで甲羅の上から離れないだろう。
「……はあ、仕方がない。分かったよ」
どうせ行く当ては無いんだ。どうにでもなれ、だよ。
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なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
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