賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

文字の大きさ
23 / 62

露天商

しおりを挟む
「はあ。やれやれ、やっと休める」
 祭の賑わいでどの宿も満室状態でたらい回しにあい、三件目にしてようやく部屋を確保した私は両手いっぱいに抱えたパンを下ろして一息つく。
「賢者さま、今日はもうお出かけしないの?」
 たらふくパンを食べて満足気なカメリアは、まだまだ祭を楽しみたい様子で私を見てくる。
「いや、寝床を確保しに来ただけだからまた出掛けてもいいよ。まだパンしか味わえてないものね」
「うん。カメリア、でみせが見たいな。変なのいっぱい売ってるとこ」
 普段の彼女からそんな言葉は出てこないだろうから、これもコルスタンのメイドから聞いたのだろう。
「分かったよ。少し休憩したら商店へ行こう。何か欲しいものがあるといいね」
「お肉が食べたーい」
「まだ食べるんだ……」
 種類が豊富だったとはいえ、やはりパンだけではカメリアの心を満たす事は出来なかったようだ。
「あの、もしかして晩ごはんも……」
「食べる!」
「だよね」
 いやほんと、食べると決めたら恐ろしい胃袋だ……。まるで冬眠前の獣だ。まあ普段食べてるわけじゃないし、賞金もあるから別にいっか。
「よし、それじゃあ今日は、思う存分食べ歩きと行こうか」
「わーい!」
 ほんの少しの休憩を挟んだ私達は、カメリアが勝ち取った賞金を懐に、夕闇が近付く黄昏の街へと繰り出す。


「お、これは珍しい。東方の物があるじゃないか」
「おや、お客さん。それに目を付けるとはなかなかやりますね。他にもこういった物がありますよ」
「おお、すごいね!」
 カメリアの食べ歩きに付き合い、彼女のおこぼれをつまみつつ、店に並ぶ品を見ているうちに、私の方がすっかり露天商に嵌まってしまっていた。
「賢者さま、まだー?」
 一つの店で長く立ち止まっていると、手持ち無沙汰なカメリアが頬を膨らませて不平を漏らす。
「ああ、ごめんカメリア。もう少しだけ待ってくれ。この書物だけ買うからさ」
 店主がとっておきだと言って取り出した書物が本当に貴重な品だったので慌てて買い取り、懐にしまい込む。
「はい、もういいよ。さあ、次は何を食べたいんだい?」
「あっち行きたい!」
「ん?」
 彼女が指差す先は大通りの露天商から離れた場所、路地裏へと繋がる細道。
 夜、一人で歩くには明らかに危険そうな雰囲気を漂わせている道だ。
「お客さん、あっちは止めたほうがいいですよ」
 やはり危険なのか、書物を買い取った店の主も眉を潜めて私達を止める。
「止めた方がってことは、一応店はあるのかい?」
 店が無いのであれば何も無いと答える筈だから、彼の言い方的には、あの先にも何かがあるのだろう。
 そう思い尋ねてみれば、彼は少し困ったように眉根を寄せて、声量を落とし私に耳打ちする。
「面向きには普通の店なんですけど……の売買が行われてるんです」
「……へえ」
 なるほど。確かにそれは、オススメは出来ないね。
 裏物。俗に言う所の、人身売買だ。
 身寄りの無い子供達や、扱いやすい魔族なんかが商品として取り引きされている。
 法的にはなんら問題ない行為だが、道徳的に嫌悪され、裏物などと言われている。
 そんな場所に、カメリアは行こうとしているようだ。
「カメリア。あっちに美味しい食べ物は無いみたいだよ?」
 私はしゃがみこんでカメリアと目線を合わせてそう説明するが、彼女は「ううん」と首を左右に振って否定する。
「食べ物じゃない。泣いてるの」
「泣いてる?……ああ。まあ、そうかもね」
 彼女の鋭い聴覚は、商品として売られている子らの泣き声を拾っているようだ。
 カメリアは更に続ける。
「その子、おかーさんって、ずっと言ってる。お昼の乗り物乗ってた時から、ずっと」
「お昼の、乗り物?」
 はて?と首を傾げる。
 昼間に乗った乗り物といえば、この街に来る途中に出会った商人の荷馬車だ。
 彼は数台の荷馬車を率いていたが、私達が乗ったのは、彼の家族を乗せた馬車だった。
 他の荷馬車に、商品となる人がいたのだろうか?
「カメリア、その子に会いたい。だからいこっ」
「あ、こら!」
 いつも以上にはしゃいでいるカメリアは、私達の制止も聞かずに路地裏へと一人入っていってしまった。
「まったく」
「あ、あんた、急いだ方がいいよ!あんな所で子供が一人でうろついていたら人攫いに遭う!」
 後ろで焦る商人の言葉に、ぞくりと背筋に寒気が走る。
「そういうのは早く言ってくれ!」
 ちっと舌打ちをしつつ、急いでカメリアの後を追う。
「うわ」
 ほんの数秒遅れて路地裏に入ったというのに、既にカメリアの目の前には仮面を被った男が立っていて話しかけている。
「お嬢ちゃん、こんなところになんのご用かな?迷子?それとも……お仕事にきたのかな?」
 優しげに話しかけているようでその手はカメリアの腕をしっかりと掴んでいて逃げられないようにしている辺り、おそらく人攫いなのだろう。
「その子は私の連れだよ。その手を離してくれ」
 そう声をかければ長い鼻を持ったザンニを着けた男が不機嫌そうにこちらを向く。
「……ああ、親御さんかい。駄目じゃないか目を離したら。この辺は物騒だからね」
「ああ、気をつけるよ」
 私がカメリアの手を取ると、男は渋々といった様子で手を離し、自分の店前へと戻っていく。
「さあ、カメリア。だいぶ暗いし、もう宿に戻ろう」
「ダメ!向こうへ行くの」
「ちょ、カメリア……」
 大通りへ戻ろうとする私の手を、己の全体重をかけて引っ張るカメリアに負け、更に奥へと連れて行かれる。
「一体どうしたっていうんだい?」
「そこにいるの。泣いてるの」
 引きずられるようにしてたどり着いたのは、突き当たりで手広くやっている店だった。
 そこにいた店主は黒を主としたハーレクインを着けていて顔は分からないが、昼間に世話になった男によく似ていた。
「こんなところまで買い物に来るとは、よほどの物好きだな。ま、ゆっくり見ていってくれや」
「……どうも」
 気付いていない風を装ってはいるがそんな筈は無い。
 私達が身に付けている仮面は彼から買った物だ。
 見覚えのある仮面を付けていて、見覚えのある二人組に出会えば、分からない方が難しい。
「おじさん、あの子は?」
「あん?」
 唐突に質問を投げかけるカメリアに、店主は訝しげな声をあげる。
「ここに良い商品があるって聞いたんだ。とても値打ちがある物だと思うんだけど」
 ほんの少しだけカマをかけてみる。
 カメリアが発言したあの子、私が言った値打ち物で噛み合う物があるのだとしたら、すぐに出てくるだろう。
「……なんだあんた。そっちの人かい」
「そっちの人とはどういう意味かな?私はただ、噂の値打ち物を見にきただけだよ」
「そののも手に入れたのかい?」
「何を言っているのか分からないな。品は無いのかな?」
 仮面の中から唯一見える視線が、カメリアを捉えている。
 お互いにはっきりとした言葉は使っていないが、会話は成り立っていて、やがて店主が折れた。
「……いいだろう、見せてやるよ。ついて来な」
 彼が進む先には布が被せられたケージが並んでおり、その一番奥に最も背の高いケージが置いてある。
「こいつが、今回の目玉商品さ。……おっと、まちな」
 ケージを覆っている布を捲ろうとすると、店主のがっしりとした腕に掴まれる。
 ぎり、と力が籠もっていて、もう少し力を加えられたら折れてしまいそうだ。
「いいか?この先から見た物は他言無用だ」
「……」
 私は目線だけで了承し、そっと布を持ち上げた。
「あ、いた!」
「……」
 カメリアが中を覗き込んでそう叫ぶ。
 そこにいたのは、子供だった。
 両手と首が鎖で繋がれ、ボロボロのフードを被っていて詳細が不明だが、カメリアが探していたのはこの子のようだ。
「アレはただの子供じゃない。ものすごい希少品だ。近くで見たいか?」
「可能なら」
「買ってくれるんなら、見せてやるよ」
「この店は、品定めが出来ないような物を売りつけるのかい?」
「……ち、分かったよ」
 店主は舌打ちをしつつも、ケージの鍵を開けて中にいる子供を外に出してくる。
 触るな、離れろと、私達の手が届かない距離での鑑賞となったが、照明によってその子がよりよく見えた。
 フードも服もボロボロで、本人も栄養をロクにとれていないのか痩せっぽちでもはや骨だ。
 身長はカメリアと同じくらいだが、この見た目だと成長が止まっている可能性もある為、年齢は彼女より上かもしれない。
「どうしてこの子が希少品なんだい?見たところ、力仕事が出来るようには見えないけど」
 子供に近寄ろうとするカメリアを引き止めながら、あくまでも客として店主に尋ねると、彼はニヤリと笑ってその子のフードに手をかけた。
「よーく見てろ」
「……。なるほどね」
 ようやく見えた素顔は、生気を失った、少年だった。
 ボサボサの銀髪に、碧眼、青白い肌。
 そしてその耳は、長く尖っている。
 長命種エルフとの混血児、ハーフエルフだ。
 それに気付いた時、私はすぐに決断する。
「……いくらでも買い取るよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

処理中です...