賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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★お出迎え

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「カメリアさーん。ちょっといいかな?」
「……あんまりよくな~い」
 そう答えたのにも関わらず、彼は聞こえていなかったかのように続きを添える。
「まあ今回は周りに獣はいないみたいだけど、どうみても街中じゃないよね?」
「でもここコルスタンだもん。このは、コルスタンのだよ」
「そうだね。確かにコルスタン領土内だ。一番端の、だけど」
「うう、お説教は後でいいから助けて~」
 下から呆れ顔で私を見上げる賢者様に、私は泣き顔で抗議する。
 コルスタン領土内にあるティー姉さんの屋敷前に着地する予定が、何故か地点がズレて森の中に来てしまった。
 そして私は運悪くツル植物に絡まり、身動きが取れない状態でいる。
 強引に引き千切ろうとするも、動けば動く程どんどん絡まってきてけっこう苦しい。
「ああ、ダメだよ動いちゃ。今外してあげるから」
 賢者様が手に持つ大きな杖をひょいと振ると、私に絡みついていたツルが跡形もなく消え去る。
「ぅわっとと……。ありがとう、賢者様」
 地面に軟着陸した私は一息ついて、彼に礼を述べた。
「どう致しまして。それにしても、毎度毎度、どうしてこう離れてしまうんだろうねえ?魔法を教えている身としては、自信が無くなるよ」
「はは……。それはほら、人間と魔族の違い、とか?」
 適当にごまかしてみるが、賢者様は「ああ」と微妙に納得する。
「それは一理あるかもね。私もの姿だと、あまり高度な魔法は使えないからね」
「あ、ね?そうでしょう?やっぱりそうなんだよ」
「でも、座標交換ポータルは物理交換。これはどちらかと言うと、カメリアの空間把握能力が劣っているだけだよ。あと発音、ポートじゃないからね」
「うう~。賢者様のイジワル」
 肯定された途端、否定される。
 優しいのに、けっこう意地悪だ。
「まあまあ。人生は長い。ゆっくり学んでいけばいいよ」
 しょんぼりとしている私の髪の毛や角に絡みついて残っていたツルや葉っぱを払いのけ、最後に頭をぽんぽんする。
 意地悪だけど、やっぱり優しい。
 私はそれだけで笑顔になれた。
「……へへ。賢者様、大好きだよ」
「うん。私も、素直なカメリアが好きだよ」
 紫水晶の瞳が、穏やかに微笑む。
「さあ、いつまでもこんな蒸し暑い所にはいられない。ここからなら半日もあれば着くから、今度は歩いて行こうか」
「うん。……でもね、賢者様。あっちからお迎えが来てるよ」
「迎え?」
 私が指差す方を、彼も見つめる。
 視界ではまだ察知出来ないが、私の耳には、ここに到着した時から聞こえている、十数人の足音。
 その中に、覚えのある匂いが混ざっていたので、特に気にはしなかった。
「そこにいる者、止まれ!」
 荒々しい声と共に森の中から現れた、幾人もの武装した人々に、私達はあっという間に囲まれる。
「ね?」
「そうだね。物騒なお迎えだ」
 武器を向けられている中、私と賢者様はそんな場違いな会話を続ける。
 これは危機でも何でもない。
 私の知っている匂いが、すぐそこまで近付いてくる。
「隊長、こちらです」
「……あなた方は」
 一人の兵士に誘導されて現れたのは、紺色の軍服のような服装をした、一人の青年だった。
 この土地でよく顔を合わせる内の一人だ。
「やあ、セザール。久しぶりだね。熱烈な歓迎、ありがとう」
 賢者様が皮肉っぽく挨拶すると、コルスタン領主、つまりはティー姉さんの執事をしている彼、セザールは軽いため息をつき、周りに武器を収めるよう指示する。
「ご無沙汰しています。お元気そうで何より」
「君こそ。こんな辺境の土地で、何をしているんだい?散歩では無さそうだけど」
 賢者様とセザールは軽く挨拶を交わしながらお互いの状況を確認する。
「国境の警備ですよ。最近はがよく出没するので、領土内に近付かれないよう見回っているんですよ。あなた達こそ、こんなところで何をしていたんです?」
「ああ、私達は君達の所へ行こうとしていたんだけど、ちょっとした事故があってね。今から歩いて行くところだったんだ。ね、カメリア?」
 ちら、と賢者様が私を見るが、私は目を合わせずに「ソウダネー」と渇いた返事をする。
 そしてそのままセザールに質問をした。
「ねえ。なんでティー姉さんの剣を持ってるの?もらったの?」
 彼が腰に携帯している、装飾が美しいサーベルは見た事がある。
 ティー姉さんの執務室に飾られている、彼女の儀礼用の剣だ。
 武器として使う物では無いが、見た目がとても綺麗だったので、何度も欲しいと駄々を捏ねていたのでよく覚えている。
 セザールはそのサーベルを少しだけホルダーから引き抜いた。
「……これは今でもお嬢様の物ですよ。今回の任務に出向くに当たって、私に領主としての権限を与えてくださったんです」
「セザールが領主様になったの?」
「違うよカメリア。本当にセザールが領主になったわけじゃない。本人の変わりをしているだけだよ。ティーナの剣を持っている間、セザールの言葉はティーナの言葉。彼の命令は、ティーナの命令と同じくらい強い物になるんだ。剣を返せば、それもお終い」
 賢者様の言葉で何となく理解する。
「そっかぁ。良かった、セザールがそれ、もらったわけじゃなくて」
「私が戴くと、何か問題でも?」
「だってそれ、カメリアにはくれなかったんだもん。なのに、セザールにあげるのはズルいじゃない?」
「……これはコルスタン家の軍刀です。貴女が所持していても、ただのガラクタです」
「それでもいーの。カメリアは、それがキレイだったから欲しかったの」
 ついでに奪ってやろうとサーベルをグイグイ引っ張るが、「止めなさい」と賢者様に首根っこをひっ掴まれて阻止される。
「セザール。この子に、堅い言葉を説いても無駄だよ」
「はあ。そうでしたね、忘れていました」
「ぷう、失礼な」
 そう軽く抗議してみるが、もはや私の言葉は聞こえていないように無視されてしまう。
「ところで、見回りはまだ続くのかい?このままコルスタンへ向かっても、問題ないかな?」
「でしたら一緒に参りましょう。巡回もここで終わりますので。私から直接、お嬢様にお取次します」
「それはどうもありがとう」
「ねえセザール。今夜はごちそー?」
 私は目を輝かせてそう尋ねる。
 コルスタン家では、毎日のように美味しい食事が並ぶので、思い出しただけでもヨダレが出そうだ。いや、出ている。
 それを見ていたセザールは若干顔を引きつらせる。
「……今から戻っても、夕餉の支度には間に合いませんよ」
「そっかぁ」
 残念だが、それは仕方がない。明日に期待しよう。
 私にとっては、毎日三食あるだけで十分だ。
「隊長、周辺の巡回、終了しました。特に異常はありません」
 周囲の偵察に行っていた一人が戻ってきてセザールにそう報告すると、彼も一つ軽く頷く。
「分かった。みなご苦労。物見と交代し、偵察部隊は引き上げよう」
 セザールがそう指示を出せば、周りの配下は切れの良い返事をしそれぞれ動く。
「……物見なんて作ったのか」
「半年程前ですよ。先程もお伝えした通り、最近は外の動きが活発なので」
「そうか。また近々の情報でも仕入れないといけないかな」
「公務の後でしたらご説明出来ますが、今は大旦那様も滞在しておりますので、お二人で語り合ってはいかがでしょう?」
「へえ?ジェルマンが戻ってきているのか。それは楽しみだね」
「ねえねえセザール。ティー姉さんは?ティー姉さん元気?」
 二人がまた難しそうな話を始めようとしていたので、私は間に割り込み、セザールの服をグイグイと乱暴に引っ張った。
「ちょ、止めてください。……お嬢様なら、今は体調が優れないので休んでおられます。ですから屋敷ではくれぐれもお静かに……」
「ティー姉さん病気なの?大丈夫?いつ治るの?」
「別に病気ではありませんから、落ち着いてください」
 取り乱す私を諭すように、賢者様が「カメリア」と私の肩にポンと手を置く。
 それでも不安が晴れない私は、セザールの次の言葉を早く聞かせて欲しいと目で訴える。
 セザールは何故か口ごもり、しばらく目を泳がせた後、そっぽを向いてようやくその理由を話した。
「実はその……二人目を、授かりまして」
「ふたりめ?」
「ああ、なんだ。それはおめでたいね」
 意味が分からない私を置いて賢者様はセザールを祝福する。
「え、賢者様。ふたりめって?良い病気なの?」
「はは。病気じゃないよ。ティーナに、二人目の赤ちゃんが出来たんだ」
「え?」
 ふたりめの、赤ちゃん?ティー姉さんに?
「わあ、すごいすごーい。赤ちゃんすごい!いつ会えるの?」
「予定では、今月中ではないかと言われています。……そろそろ戻りましょう。お話は帰りの道中にでも」
 恥ずかしいのか、耳まで赤く染めたセザールによって話は一旦打ち切られ、私達はコルスタンの屋敷へと揃って向かうこととなった。
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