賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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★物見櫓

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 フレイゼン聖王国。
 世界に存在する大国の一つで、時代の勇者エヴァンと共に魔王ヒュブリスを討ち取った、一個旅団を組織した偉大な国。
 ティー姉さんが治めている領土、コルスタンはこのフレイゼンに所属している。
 無闇な争いを好まず、他国との交易を大切にしていて、当時の国王は「賢王」と称され世界中の人々から崇められ、彼の命日には毎年盛大な祭りが行われている。
 現在は賢王の孫に当たるハンソルが統治している。
 今回、そんな王国を手中に収めようと侵略をしてきているのが軍事国家ギルガロッソ。
 魔王が滅んでから生まれた小国で、歴史も浅く、領土もまだまだ小さい。
 次代の魔王討伐に向けて強力な軍事力を手に入れる事を目的に、隣国を呑み込み、着実に力を着けている。
 ギルガロッソの帝王、ヘルムートは賢王の叔父の孫に当たり、平たく言えば元々一つだった国が別れて主力争いをしているのだ。
「賢王は本当に争いを好まない方だったからね。叔父は彼のそんな温和さに嫌気がさしたんだろう。魔王を討伐出来てしまう部隊を編成した彼がその気になれば、世界統治も夢じゃ無かったかもしれないから」
「賢王様の叔父さんは、世界征服がしたかったの?それじゃあ魔王様と同じじゃない?」
 コルスタン領土と隣国との境界線付近、物見やぐらの上で周りを観察しながら私と賢者様は会話を続ける。
 王国から立派な鎧を来た騎士達が来始めた頃、私がお願いしてここの見張りをさせてもらう事にした。
 成長した私の角はどうしても隠しきる事が出来ず、人によっては不快感を与えてしまう為、あえて人から離れるようにしている。
 賢者様が目くらましを掛けてくれると言ったけど、あまり余計な心配をかけさせたくもないし、賢者様も人混みは好きじゃないから、お互いこっちの方が気楽だ。
「魔王と同じか……。聞こえは悪いけど、否定は出来ないね。彼は魔王討伐後、世界統率を呼びかけていたから。本当に平和を求めての統率なら、同盟でも良いものね」
「同盟はいつか終わるって、ティー姉さんが言ってたよ?」
「そうだね。でも、この広い世界を一つに纏めた所でいつかは分裂するよ。現にフレイゼンだって、ギルガロッソという武力派が産まれて、今まさに衝突しているんだから」
「そっか……」
 人間は大変だ。意見が違うなら離れるだけで良い筈なのに、わざわざ戦いにいく。
 縄張りに入らなければ争う必要なんてないのに……。
「きっとギルガロッソの人達は、フレイゼンのご飯が欲しいんだね」
「え?」
 くるりとこちらに顔を向けて首をかしげる賢者様に、私は「だって」と続ける。
「カメリアがみんなといた頃、他の縄張りのコボルトと戦う時は、そこに食べ物が沢山あったからだよ。それ以外で、縄張りには近づかなかったもん。食べ物が無いと、人間も生きていけないでしよ?」
「……」
 賢者様はしばらくきょとんとした顔をして、ふっと吹き出すように笑う。
「あはは、そうだね。確かにそうだ。ギルガロッソは大した土地は持っていない放浪から始まっているから、さぞや欲しいだろうね」
「でしょー?」
「でもねカメリア。たまにはご飯から離れて物事を考えてほしいな」
「えー、お説教?」
「まあ今回は、当たらずも遠からずってところだから、多目に見てあげよう」
「ぷう、ならちゃんとほめてよ」
 最近の賢者様は少し厳しい。
 聞いた事、知らない事はちゃんと教えてくれるけど、私が正しく理解していないとこうやって意地悪をしてくる。
「ごめんごめん。発想の仕方は良かったよ」
 その後にぽんぽん、と頭を撫でてくれるのは昔から変わらないけれど。
「さて、と……。うん。これで一通り準備は出来たかな?」
 物見櫓の周辺をぐるりと周ってきた賢者様は、ぱんぱんと両手の汚れを叩いて払いながら頷く。
「よし。それじゃあ皆は、コルスタンに戻ってくれて構わないよ。帰りの道中、気をつけてね」
 櫓の見張りをしていたリーダーにそう話しかけると、相手は私達を見て不安そうな表情で言う。
「本当にお二人だけでここの番をするのですか?櫓とはいえ、造りは小さな砦です。とても二人で見れる物では……」
「平気さ。相手が近付いてこなければ、櫓なんてただの建物なんだから。それに私達は、二人きりの方が強いんだよ。ね?カメリア」
「うん!」
 それについては激しく同意する。
 これだけ狭い場所で、しかも他に仲間がいたとなれば動きにくくて仕方がない。
 それに、私達の事情を知らない者がいたとなれば尚更だ。
「しかしですなあ……」
 リーダーは私と賢者様を交互に見返し、渋い顔をしてなかなか頷こうとしない。
 私達じゃ頼り無いのかな?私はともかく、賢者様はティー姉さんから「先生」と呼ばれているし、セザールからはちゃんと「賢者様」と呼ばれている。
 なによりこのリーダーは、ティー姉さんからの撤退命令が書かれた令状を読んだ筈だ。
 それなのに、ここまで難色を示されるのは少し傷付く。
 すると賢者様が何かに気付いたのか、溜め息混じりに顔をしかめた。
「あー……。もしかして君、何か変な事を考えてたりするかな?若い男女が二人きりなんて、色恋にうつつを抜かす、みたいな?」
「えっ!?い、いや……そんな事は、決して……」
 明らかに動揺した彼は、両手を前に突き出して顔と一緒に左右に振る。
「安心していいよ。私とこの子はそんな関係じゃない。良きパートナーで、父娘みたいなものだ」
 おやこ……。
「それに、早く戻らないと、ティーナが君達の報告を待っているよ?」
「あ、ああ。そうですね……。では、後の警護は、お任せします」
「うん。任せなさい」
 そうしてようやくリーダーは、私達を除いた全員を連れてコルスタンへと引き上げて行った。
 何度もちらちらとこちらを振り返っていたが、多分賢者様には見えていないだろう。
 そして私の心情もそれどころではない。
「カメリアは賢者様の嫁なのに」
 不貞腐れてボソリと呟く。
 私が何度そう主張しても、賢者様はなかなか認めてくれない。
 困ったように笑って、他人には否定する。
「カメリア、十分大きくなったよ?もう大人だよ。それでも駄目なの?」
「大人とか駄目とか、そういう問題じゃないんだよ」
「じゃあどういう問題?」
「……」
 喰い気味に詰め寄ると、賢者様はやっぱり困ったような顔をして、私の頭を撫でてきた。
「カメリアの事は好きだよ。でも君の気持ちに応えられる自信が、私には無いんだ。……私が、もう少し人間だったなら、君との関係性を改めれたかもしれないけどね」
 最後にちゅ、と私の額に口付けを落として、賢者様は私に背中を向ける。
 これ以上この話はしないでくれと、その背中が語っている。
 賢者様が普通の人間と違うように、私だって普通の人間じゃない。
 同じ混ざり者だと微笑みかけてくれたのは賢者様の方なのに。
「……賢者様は、普通の人間に戻りたいの?」
 彼に届かない程小さな声で、呟く。
 それなら私は、そのお手伝いをしたいよ。アナタの望みを、願いを教えて。私が、アナタの隣に居続けられるように……。
「さあカメリア。今日からここを二人で守るんだ。これから私の言う事を、よく覚えるんだよ」
 私のおもいとは程遠く、賢者様はこちらを振り返って笑顔で言う。
「……うん。カメリアは何をすればいいの?」
 私は少しだけ寂しくなった気持ちをぎゅ、と心の奥底に押し込め、笑顔で賢者様に応える。
 今はまだ、彼の願いを叶える事は出来ない。
 なら、今出来る事を、精一杯やろう。
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