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★栄養剤
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「おねーちゃん、ちょっと角の具合を見せてくれる?」
新しいアリ塚に移り住んでから二週間、ケントと一緒に過ごすようになってから一ヶ月が経った頃、彼が唐突にそう言ってきた。
「え……?」
突然の質問に私の心臓はドキリと跳ね、反射的に被っていたフードを軽く握り、ぐいっと引っ張る。
何で、知ってるの?
私の角は前に大きく飛び出る形で生えていて、そのままだととても目立つ。
なので賢者様がフードに目眩ましの魔法をかけてくれて、フードを被っている間は角が見えないようになっている。
ケントには世話になっているが、彼の前でもフードを外した事はなく、角が生えている事も話していなので知らない筈。
それなのに彼は、当たり前のように角の存在を知っていて、なかなかフードを取らない私に「どうしたの?」と小首を傾げる。
「……あ、もしかして、ボクが角の事を知ってて驚いてる?ゴメンね~。実は賢者様から聞いてて、ちょっと頼まれ事をされているんだ」
何かを察したようにケントはそう言い、私はその言葉から少しだけ警戒を解く。
「……賢者様から?」
「うん。この国から脱出する為に、色々と準備をしていてね。おねーちゃんの角も、その一つなんだよ」
賢者様は私の前には一向に姿を現さないが、ケントとは幾度もやり取りをしているらしく、彼が細々とした頼まれ事をしているのをよく見かける。
「う、ん……。ケントがそう言うなら……」
最初は驚いたけど、ケントなら見られても良いか。そんな気持ちと共に、私はゆっくりとフードを頭の後ろへと滑らせた。
…………あれ?
「あ、良いカンジだね!」
視界に違和感を覚えたのと、ケントが嬉しそうな声を挙げたのは、ほぼ同時だった。
私が覚えた違和感。それは、フードを被っていなければ視界の左右に映る角が見当たらない事。
それは視線を左右に振っても変わらない。
「なんで?カメリアの角は?」
思わず両手で角を掴もうとするが、あるべき筈の場所で握っても、掴むのは空気のみ。
「え!?……あっ!」
驚きと焦りで両手で頭をぽんと叩いて、ようやく見つけた。
けどそれは、いつものような大きな平型の角ではなく、ほぼ髪の毛に隠れるほど小さな物だった。
まるで昔の自分に戻ったかのように小さく、手を離してみてもよく見ないと何処にあるのか分からないくらいだ。
「上手くいってるみたいで良かったー。でも、あともうちょっと小さくした方がいいかな」
「これ、ケントの仕業?何したの?カメリアの角、どうなっちゃったの?」
いつものようにヘラヘラと笑うケントの両肩をがっと掴み、前後に強く揺さぶり問い詰める。
「な、何って、おねーちゃんの角を小さくしてるんだよ。国から出る為の準備だって。べ、別に消えたりはしないよ~」
ガックガクと頭を大きく揺らし、多少目を回しつつもケントはそう答える。
けど私はそんな答えでは納得出来ず、更に問い詰める。
「本当に?本当に消えない?どうしたら元に戻るの?というか、いつの間にこんなに小さくしたの?何したの?」
「薬の服用を止めれば戻るよ。でも、まだ小さくした方が良いからまだ止めちゃダメだよ」
「薬?」
「うぇ……め、目が……」
ピタッと手を止めると目を回したケントがさながらゾンビのようにフラフラと辺りを彷徨い歩く。
「薬って、カメリアそんなの飲んでな……あっ!もしかしてケントが作った栄養剤のこと?」
「あ~……」
「ケント!」
未だに目を回してダウンしているケントを問い詰めると、しばらくしてようやく答える。
「う~……。そうだよ。栄養剤と一緒に入ってたんだ。おねーちゃん、ボクにも角を見せようとしてくれなかったから、知られたくないんだと思ってボクもこっそりやっちゃった。……ゴメンね?」
悪びれる様子もなく答えるケントからは、本当に申し訳ないという気持ちは伝わって来ない。
「信じられない……。こんなこと、勝手にやっていい事じゃないよ。ちゃんと言ってくれれば良かったのに」
「言ったら、本当に素直にやらせてくれた?途中で飲むの、誤魔化したりしなかった?」
「そ、それは……」
正直、かなり渋ったとは思う。
栄養剤の中には物凄く苦くて舌に痺れが走るような物が混じっていて、正直飲むのが苦痛だった。
でもお世話になっているからという思いでガマンしていたけど、騙されていたとなると話が違う。
「ほら。嫌でしょ?」
「……たしかにイヤだけど……でも、賢者様の為なら頑張れるもん。むしろそっちの方がもっと頑張ってたよ」
「……本当に?」
「本当に!ウソじゃないよ」
そう力説してケントを真っ向から見据える。
何で私が弁解するような側に回っているのか、というツッコミはこの際後回しだ。
するとケントが「う~ん」と頭を抱えて唸る。
「そっかぁ。おねーちゃんがそこまであの人を大事にしているとは思わなかったよ。初めからちゃんと話しておけばよかったね。ボクが悪かったよ、ごめんなさい」
「え?あ、うん」
深々と頭を下げて謝罪するケントに拍子抜けして、私もあっさりと彼を許す。
「本当に好きなんだね、あの人のこと」
「うん、もちろん大好きだよ。世界で一番、カメリアの大切な人なんだ」
ケントの感心にも似た言葉に、私はよどみなく答える。
彼の為ならなんだって出来る。なんだって、ガマン出来る……。
「う~ん。でもさ、あの薬の味、もう少しなんとかならないかな?夜までずーっと舌に残ってるんだけど」
そう思ったのも束の間、私はそう相談を持ち掛ける。
したくないイヤな思いは、しない方が良いに決まっている。
「うーん、あれ以上はムリかな。甘みを強くすると成長効果になっちゃうから」
「そっかぁ……。あとどれくらい続けるの?」
「そうだね。今の調子なら、あと一週間もすれば丁度良い感じになるんじゃないかな」
「一週間だね?よし、頑張る!そしたら賢者様にも会えるかな?」
「たぶんね。何かしらの連絡はあると思うな」
「分かった!」
それだけの情報があれば十分だ。
それから一週間、私は泣き言一つ言わずに薬を飲み続けた。
新しいアリ塚に移り住んでから二週間、ケントと一緒に過ごすようになってから一ヶ月が経った頃、彼が唐突にそう言ってきた。
「え……?」
突然の質問に私の心臓はドキリと跳ね、反射的に被っていたフードを軽く握り、ぐいっと引っ張る。
何で、知ってるの?
私の角は前に大きく飛び出る形で生えていて、そのままだととても目立つ。
なので賢者様がフードに目眩ましの魔法をかけてくれて、フードを被っている間は角が見えないようになっている。
ケントには世話になっているが、彼の前でもフードを外した事はなく、角が生えている事も話していなので知らない筈。
それなのに彼は、当たり前のように角の存在を知っていて、なかなかフードを取らない私に「どうしたの?」と小首を傾げる。
「……あ、もしかして、ボクが角の事を知ってて驚いてる?ゴメンね~。実は賢者様から聞いてて、ちょっと頼まれ事をされているんだ」
何かを察したようにケントはそう言い、私はその言葉から少しだけ警戒を解く。
「……賢者様から?」
「うん。この国から脱出する為に、色々と準備をしていてね。おねーちゃんの角も、その一つなんだよ」
賢者様は私の前には一向に姿を現さないが、ケントとは幾度もやり取りをしているらしく、彼が細々とした頼まれ事をしているのをよく見かける。
「う、ん……。ケントがそう言うなら……」
最初は驚いたけど、ケントなら見られても良いか。そんな気持ちと共に、私はゆっくりとフードを頭の後ろへと滑らせた。
…………あれ?
「あ、良いカンジだね!」
視界に違和感を覚えたのと、ケントが嬉しそうな声を挙げたのは、ほぼ同時だった。
私が覚えた違和感。それは、フードを被っていなければ視界の左右に映る角が見当たらない事。
それは視線を左右に振っても変わらない。
「なんで?カメリアの角は?」
思わず両手で角を掴もうとするが、あるべき筈の場所で握っても、掴むのは空気のみ。
「え!?……あっ!」
驚きと焦りで両手で頭をぽんと叩いて、ようやく見つけた。
けどそれは、いつものような大きな平型の角ではなく、ほぼ髪の毛に隠れるほど小さな物だった。
まるで昔の自分に戻ったかのように小さく、手を離してみてもよく見ないと何処にあるのか分からないくらいだ。
「上手くいってるみたいで良かったー。でも、あともうちょっと小さくした方がいいかな」
「これ、ケントの仕業?何したの?カメリアの角、どうなっちゃったの?」
いつものようにヘラヘラと笑うケントの両肩をがっと掴み、前後に強く揺さぶり問い詰める。
「な、何って、おねーちゃんの角を小さくしてるんだよ。国から出る為の準備だって。べ、別に消えたりはしないよ~」
ガックガクと頭を大きく揺らし、多少目を回しつつもケントはそう答える。
けど私はそんな答えでは納得出来ず、更に問い詰める。
「本当に?本当に消えない?どうしたら元に戻るの?というか、いつの間にこんなに小さくしたの?何したの?」
「薬の服用を止めれば戻るよ。でも、まだ小さくした方が良いからまだ止めちゃダメだよ」
「薬?」
「うぇ……め、目が……」
ピタッと手を止めると目を回したケントがさながらゾンビのようにフラフラと辺りを彷徨い歩く。
「薬って、カメリアそんなの飲んでな……あっ!もしかしてケントが作った栄養剤のこと?」
「あ~……」
「ケント!」
未だに目を回してダウンしているケントを問い詰めると、しばらくしてようやく答える。
「う~……。そうだよ。栄養剤と一緒に入ってたんだ。おねーちゃん、ボクにも角を見せようとしてくれなかったから、知られたくないんだと思ってボクもこっそりやっちゃった。……ゴメンね?」
悪びれる様子もなく答えるケントからは、本当に申し訳ないという気持ちは伝わって来ない。
「信じられない……。こんなこと、勝手にやっていい事じゃないよ。ちゃんと言ってくれれば良かったのに」
「言ったら、本当に素直にやらせてくれた?途中で飲むの、誤魔化したりしなかった?」
「そ、それは……」
正直、かなり渋ったとは思う。
栄養剤の中には物凄く苦くて舌に痺れが走るような物が混じっていて、正直飲むのが苦痛だった。
でもお世話になっているからという思いでガマンしていたけど、騙されていたとなると話が違う。
「ほら。嫌でしょ?」
「……たしかにイヤだけど……でも、賢者様の為なら頑張れるもん。むしろそっちの方がもっと頑張ってたよ」
「……本当に?」
「本当に!ウソじゃないよ」
そう力説してケントを真っ向から見据える。
何で私が弁解するような側に回っているのか、というツッコミはこの際後回しだ。
するとケントが「う~ん」と頭を抱えて唸る。
「そっかぁ。おねーちゃんがそこまであの人を大事にしているとは思わなかったよ。初めからちゃんと話しておけばよかったね。ボクが悪かったよ、ごめんなさい」
「え?あ、うん」
深々と頭を下げて謝罪するケントに拍子抜けして、私もあっさりと彼を許す。
「本当に好きなんだね、あの人のこと」
「うん、もちろん大好きだよ。世界で一番、カメリアの大切な人なんだ」
ケントの感心にも似た言葉に、私はよどみなく答える。
彼の為ならなんだって出来る。なんだって、ガマン出来る……。
「う~ん。でもさ、あの薬の味、もう少しなんとかならないかな?夜までずーっと舌に残ってるんだけど」
そう思ったのも束の間、私はそう相談を持ち掛ける。
したくないイヤな思いは、しない方が良いに決まっている。
「うーん、あれ以上はムリかな。甘みを強くすると成長効果になっちゃうから」
「そっかぁ……。あとどれくらい続けるの?」
「そうだね。今の調子なら、あと一週間もすれば丁度良い感じになるんじゃないかな」
「一週間だね?よし、頑張る!そしたら賢者様にも会えるかな?」
「たぶんね。何かしらの連絡はあると思うな」
「分かった!」
それだけの情報があれば十分だ。
それから一週間、私は泣き言一つ言わずに薬を飲み続けた。
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当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
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