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★魂の選定
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「奴め、ほんに何をしに来たのだ……?」
遠ざかり、やがて消えて行く二つの背中を見送った後、未消化な気持ちを吐き出すように、ふぅと憂いを零す。
先程まで纏わりついていた眠気はすっかり消え去り、突然訪れた時間をどう使おうかと思案する。
今一度眠りにつく?有り得ない。契約を違ったのは人間だ。再び律儀に従う必要など無い。
久方ぶりに外に出てみるか?……いや、流石に面倒だ。魔王がいないとは言え、たかが半世紀で世界がどう変わる筈も無い。
「…………」
『暇』という物は、とんでもない害悪だ。
悠久に近い生命を持つ者にとってそれは心を蝕む大病。
心を喰われた生ける屍など、死を迎える者よりも哀れな存在と言える。
「…………」
故に女王は思案する。
いかにしてこの暇を弄ぶか。女王が女王としてある為に、何をすべきか……。
不意に、視界の端で何かが強く煌いた。
「……ほう?」
その正体に気付いた女王がくい、と指で手招きすれば、それは糸で引かれたように彼女の元へと吸い寄せられる。
強く、鮮やかな輝きを放つそれは、この空間を漂う他の炎と同じ、生き物の魂。
大人しく掌に納まるその炎は、女王が眠りに着く前には無かったが、見覚えのある魂だ。
「そうか……。勇者は逝ったのか」
慈しむように、炎を持つ親指でゆっくりと撫でる。
五十年前、忌々しい半身を討ち倒した時の勇者、エヴァン。
愚かにも女王にまで戦いを挑んだ強き者。
刃が砕け、誰もが地に伏している中、尚もこちらに向かってこようとする猛々しい闘気は今でもはっきりと覚えている。
女王は、死を恐れぬ勇者達の魂の輝きに惚れ、契約を交わし眠りについたのだ。
死後、魂を女王の管理下に置くという条件で……。
「他にもいるようだな」
見渡せば、彼の仲間であった者の魂がもう一つ、広間を浮遊しているのを見つける。
まだここに来たばかりだろうか。
他の魂よりも動きが鈍く、飾り物のようにその場から動かない。
「お前は確か……槍を振るっていた者だな?名は……そうか、ヘクタールか」
空いた片手で引き寄せれば軽々と吸い寄せられる。
勇者の魂と比べれば、輝きは弱いが、時間が経てば鮮やかな色に燃え上がりそうだ。
「ふふふ。お前達には暫く、我の周りでも照らしてもらおうか」
愉悦の笑みを零しつつ、2つの炎を眺める。
やはり世界を救ったともなれば、その輝きは群を抜く。
どれだけ見ていても飽きが来ない。
「時の勇者の魂がここに二つ。残り二つは未だ健在。後の一つは……奴の魂が染み着いていなければ、いずれ手元に置いてやるとしよう」
ふと、辺りを見渡せば眠りにつく前よりも暗くなっている気がする。
魔法使い達が去っていた方向も、宵よりも尚暗い。
「我が冥府へ送った者もあるが……随分と減ったものだ。業が浅い者の転生は早いな」
すい、と人差し指を指揮棒のように軽く振るえば、空間全体に漂う魂達が一列に並び始める。
「ふむ……」
見れば消えてしまった魂の大半は、生前植物や動物だった者達のようだった。
「ふふ……。やはり、人間の業は深いか。どれ、少し明かりを足すとするか」
腕を横に払い魂を散らし、時空から杖を呼び出し空いた地面に一つ、心音に似た響きと共に鳴らせば時空が歪む。
くるくると鍋を掻き回すように杖を動かせば、時空の歪みは渦となり何処かの映像が浮かび上がる。
人間、魔族、植物……。映し出される物は様々だが、女王はそれらの魂の選定を行う。
除外、除外……照明、玉座の近く、除外……照明、照明、通路、鑑賞用……。
次々と対象を変え、気に入った魂に印を付けていく。
印を付けられた魂は死後、この女王の城で様々な場所でその輝きを放つこととなる。
「………ん?」
久しぶりの選定に心躍らせていると、ある男が目に留まる。
「なんだ?こいつは……」
その一人の……いや、悍しい魂の形をした、人の皮を被った獣の存在は、女王の心を酷く掻き乱した。
「なんと醜い魂よ……。複数の命を繋ぎ合わせて出来上がっているのか………。人の身でありながら、その成立ちはまるで我が半身のようだな。……見ているだけで忌々しい」
自然と、眉間に寄るシワに力が籠もる。
こんな魂がいずれ自分の庭に転がり込むのだと思うと、今すぐ消し去りたい衝動に駆られる。
しかし、今ここでこれに雷を落としたとしても、冥府へ送るのを早めてしまうのみ。
女王はその男を苦々し気に見ることしか出来ない。
「女王」
ふと、闇が囁きかける。
我が眷属にして美しき魂。
肉体を持たないそれは、女王の耳元で、あるいは遥か遠くから告げる。
「その者について一つ、ご報告が……」
闇からの報告を受けるうち、女王の瞳が冷徹に染まる。
「…………あの魔法使いを呼び戻せ」
遠ざかり、やがて消えて行く二つの背中を見送った後、未消化な気持ちを吐き出すように、ふぅと憂いを零す。
先程まで纏わりついていた眠気はすっかり消え去り、突然訪れた時間をどう使おうかと思案する。
今一度眠りにつく?有り得ない。契約を違ったのは人間だ。再び律儀に従う必要など無い。
久方ぶりに外に出てみるか?……いや、流石に面倒だ。魔王がいないとは言え、たかが半世紀で世界がどう変わる筈も無い。
「…………」
『暇』という物は、とんでもない害悪だ。
悠久に近い生命を持つ者にとってそれは心を蝕む大病。
心を喰われた生ける屍など、死を迎える者よりも哀れな存在と言える。
「…………」
故に女王は思案する。
いかにしてこの暇を弄ぶか。女王が女王としてある為に、何をすべきか……。
不意に、視界の端で何かが強く煌いた。
「……ほう?」
その正体に気付いた女王がくい、と指で手招きすれば、それは糸で引かれたように彼女の元へと吸い寄せられる。
強く、鮮やかな輝きを放つそれは、この空間を漂う他の炎と同じ、生き物の魂。
大人しく掌に納まるその炎は、女王が眠りに着く前には無かったが、見覚えのある魂だ。
「そうか……。勇者は逝ったのか」
慈しむように、炎を持つ親指でゆっくりと撫でる。
五十年前、忌々しい半身を討ち倒した時の勇者、エヴァン。
愚かにも女王にまで戦いを挑んだ強き者。
刃が砕け、誰もが地に伏している中、尚もこちらに向かってこようとする猛々しい闘気は今でもはっきりと覚えている。
女王は、死を恐れぬ勇者達の魂の輝きに惚れ、契約を交わし眠りについたのだ。
死後、魂を女王の管理下に置くという条件で……。
「他にもいるようだな」
見渡せば、彼の仲間であった者の魂がもう一つ、広間を浮遊しているのを見つける。
まだここに来たばかりだろうか。
他の魂よりも動きが鈍く、飾り物のようにその場から動かない。
「お前は確か……槍を振るっていた者だな?名は……そうか、ヘクタールか」
空いた片手で引き寄せれば軽々と吸い寄せられる。
勇者の魂と比べれば、輝きは弱いが、時間が経てば鮮やかな色に燃え上がりそうだ。
「ふふふ。お前達には暫く、我の周りでも照らしてもらおうか」
愉悦の笑みを零しつつ、2つの炎を眺める。
やはり世界を救ったともなれば、その輝きは群を抜く。
どれだけ見ていても飽きが来ない。
「時の勇者の魂がここに二つ。残り二つは未だ健在。後の一つは……奴の魂が染み着いていなければ、いずれ手元に置いてやるとしよう」
ふと、辺りを見渡せば眠りにつく前よりも暗くなっている気がする。
魔法使い達が去っていた方向も、宵よりも尚暗い。
「我が冥府へ送った者もあるが……随分と減ったものだ。業が浅い者の転生は早いな」
すい、と人差し指を指揮棒のように軽く振るえば、空間全体に漂う魂達が一列に並び始める。
「ふむ……」
見れば消えてしまった魂の大半は、生前植物や動物だった者達のようだった。
「ふふ……。やはり、人間の業は深いか。どれ、少し明かりを足すとするか」
腕を横に払い魂を散らし、時空から杖を呼び出し空いた地面に一つ、心音に似た響きと共に鳴らせば時空が歪む。
くるくると鍋を掻き回すように杖を動かせば、時空の歪みは渦となり何処かの映像が浮かび上がる。
人間、魔族、植物……。映し出される物は様々だが、女王はそれらの魂の選定を行う。
除外、除外……照明、玉座の近く、除外……照明、照明、通路、鑑賞用……。
次々と対象を変え、気に入った魂に印を付けていく。
印を付けられた魂は死後、この女王の城で様々な場所でその輝きを放つこととなる。
「………ん?」
久しぶりの選定に心躍らせていると、ある男が目に留まる。
「なんだ?こいつは……」
その一人の……いや、悍しい魂の形をした、人の皮を被った獣の存在は、女王の心を酷く掻き乱した。
「なんと醜い魂よ……。複数の命を繋ぎ合わせて出来上がっているのか………。人の身でありながら、その成立ちはまるで我が半身のようだな。……見ているだけで忌々しい」
自然と、眉間に寄るシワに力が籠もる。
こんな魂がいずれ自分の庭に転がり込むのだと思うと、今すぐ消し去りたい衝動に駆られる。
しかし、今ここでこれに雷を落としたとしても、冥府へ送るのを早めてしまうのみ。
女王はその男を苦々し気に見ることしか出来ない。
「女王」
ふと、闇が囁きかける。
我が眷属にして美しき魂。
肉体を持たないそれは、女王の耳元で、あるいは遥か遠くから告げる。
「その者について一つ、ご報告が……」
闇からの報告を受けるうち、女王の瞳が冷徹に染まる。
「…………あの魔法使いを呼び戻せ」
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