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第37話 サプライズ
しおりを挟む「なぁんか、今日のリオルくんとノヴァちゃん怪しくないすか?」
「「え!?」」
深夜会議をした翌日、クヴァルダさんの言葉に2人でギクっと挙動不審になる。
ジーゼさんの提案で、新婚夫婦には内緒でとある準備を進めているのだが…案外目ざといなクヴァルダさん。
「あ、怪しいって?」
「だってやたらとコソコソしてるじゃないすか。2人して一体何して…ハッ!まさか…!」
勘付かれたのかとノヴァとドギマギする。
慌てる様子の俺達にクヴァルダさんも焦ったように言う。
「だっ、ダメっすよ!2人にはまだ早いっす!!」
「「?」」
これには本当に何を言ってるのかわからず、ノヴァと共に首を傾げた。
早い?何が??
俺達の反応にクヴァルダさんもあれ?って顔をする。
すると、そんなクヴァルダさんの背後に父さんが立った。
「…クヴァルダ」
――ビクゥッ
かなり低い声で呼ばれてクヴァルダさんも青褪める。
「にっ、義兄さん!?いや、今のは…」
「お前がそばに居ると悪影響だ。今日はもう息子達に近付くな」
「ぇえ!?そんな酷いっす!」
半泣きになるクヴァルダさんから隠すようにササっと俺達を囲う父さん。
「義兄さん許して…」と嘆く声が聞こえるが、お構いなしにその場から離れた。
ふぅ、おかげで助かった。
「ありがとう父さん」
「いや…お前達は直ぐ顔に出るからな。あまり2人だけで行動しない方が良いぞ」
え、そんなにわかりやすい?
おかしいな。
他のみんなと同じようにしてるつもりなのに。
と、今度はミナスさんから声が掛かった。
「あれ?お義兄さん2人連れてどこ行くんですか?」
――ギクゥッ
反射的に俺とノヴァが反応してしまう。
あ、うん、確かにこれはバレるかも。
しかし、自然な動きで俺達の顔を隠す父さん。
「2人とも、初めての船で昨日はあまり眠れなかったそうだ。寝不足なようだから昼寝させに部屋へな」
「あはは、確かに興奮してたもんね?2人とも可愛い♪ゆっくり休んでね~」
父さんの言葉を疑う事無く笑顔で見送ってくれるミナスさん。
何でそんなサラッと誤魔化せるの?
そのスキルすごくない?
父さんは宣言通り2階の女子部屋まで俺達を連れてきた。
「この中なら見られる事も無いだろう。ひと段落したら本当に少しは寝た方が良いぞ?明日はかなり早いからな」
「うん、ありがとう父さん」
「ありがとうございますシュルツさん」
お礼を言う俺達に頷く父さん。
それから背後の方をチラッと目で指し示した。
「…あそこの要注意人物も、近付かせないようにするから安心しろ」
あ!
クヴァルダさんが階段の方から子犬のような目でこっちを伺ってる!
一応父さんの言い付けは守って距離取ってるけど。
父さんがクヴァルダさんの方へ向かうと「義兄さんごめんっすー!怒らないでほしいっすぅー!!」と抱きついて謝り、「わかったわかった」と言いながら父さんはクヴァルダさんの頭をポンポンして階段を降りていった。
確かにアレなら父さんから離れなそうだしこっちは安全そうだ。
「よぅしノヴァ!一気に作っちゃおう!」
「うん!」
安全を確認してノヴァとまた作業に取り掛かる。
集中して出来たので、俺達の担当作業は問題無く終わった。
ノヴァの仕事が一番重要だったから無事に出来て良かったよ。
ふあ…安心したらちょっと眠くなってきた。
昨日寝るの遅かったもんな。
ノヴァも少し眠そうだ。
「ノヴァ…父さんも言ってたし少し寝る?」
「うん、そうしようかな…」
「じゃあ、何かあったら起こして良いから」
「ありがとう」
ノヴァに手を振って向かいの部屋の自分のベッドに向かう。
そんなこんな有りつつ、その日の準備をそれぞれが終わらせた。
本格的な準備はクヴァルダさん達にバレないよう、日の昇らない早朝に一気に進める。
そして、セラさん発足ジーゼさん提案の計画を始動させたのだった。
「おはよー…っす?」
「え、皆んなどうしたの?」
朝、部屋から出てきたクヴァルダさんとミナスさんがキョトンとして聞く。
それもその筈。
セラさんも含め、全員で2人が出てくるのを待ち構えていたのだ。
「おはよう!とりあえずクヴァルダさんはこっち来て!」
「ミナスさんはこっちです!」
俺がクヴァルダさんを男子部屋へ誘導し、ノヴァがミナスさんを女子部屋へと連れて行く。
訳がわからない状況に疑問符を浮かべながらも抵抗せず従う2人。
「え?え?ホントに何なんすか?怖いんすけど」
部屋に入ったところで戸惑いながらクヴァルダさんが口を開く。
そんなクヴァルダさんの肩をポンと叩くリュデルさん。
「喜べ。ばあさんがのぅ、お前らの為に素晴らしい提案をしたんじゃよ」
「提案?」
「まぁ、これを見れば分かるだろう」
言いながら、父さんが俺に目を向ける。
頷いて、早速昨日ノヴァが作った力作を渡した。
「はい、クヴァルダさんコレに着替えて!」
首を傾げつつ受け取るクヴァルダさん。
そして渡されたその服を見て、クヴァルダさんは目を見開いた。
「…へ!?ちょ、待ってくださいっす!コレって…結婚式で着るやつじゃないすか!?」
「せいかーい!」
そう、ジーゼさんの提案とはクヴァルダさんとミナスさんのサプライズ結婚式だったのだ。
その為に、みんなで色々準備したのである。
まぁ挙式というか結婚パーティーって感じだけど。
「ささっ、早く着替えて着替えて!」
「そうじゃぞ!花嫁より先に準備を終わらせるんがマナーじゃ!」
「わ、わかったっすから!押さないでくださいっす!」
俺とリュデルさんに急かされ、困惑しつつも着替えてくれるクヴァルダさん。
そして着替え終わったクヴァルダさんを見て、俺は思わず歓声を上げた。
「おぉー!クヴァルダさん格好良い!!別人みたい!!」
式で着るのは、騎士服をもう少しシンプルというか清楚にした感じのモノだ。
普段作業着姿のクヴァルダさんが着ると、余計に印象が違って見える。
白い色の物が多いけれど、敢えて少しグレーにしてるのがまたクヴァルダさんに似合っているぞ!
目測で作ってたのにサイズもピッタリだ!
「ほ…褒めてくれるのは嬉しいっすけど、メッチャ小っ恥ずかしいっすよコレ…」
珍しくクヴァルダさんが滅茶苦茶硬くなってる。
まぁ心の準備も無く着せられたもんね。
「なぁに、恥ずかしがらんでもよく似合っとるぞ!いつもよりずっと男前じゃ!まぁワシには劣るがの!」
「いやじいちゃん褒める気あるんすか?」
あー…確かにリュデルさん絶対似合ってたろうな。
写真の感じだけで想像できる。
「まぁ私も緊張したし、気持ちは分かるぞ」
「あ、義兄さんもそうだったならちょっと安心したっす!」
そっか!
父さんも母さんとの結婚式で着てるのか!
後で写真ないか聞いてみよう。
「それにしても、いつの間にこんな服用意したんすか?籍入れたのだって数日前っすよ?」
「あ、それ昨日ノヴァが作ったんだよ」
「この服を!?昨日!?ノヴァちゃん凄くないっすか!?」
腕利き職人に褒められるとは、ノヴァの腕前は本物のようだ。
因みに服のデザインをしたのはセラさんで、それを基に製作したのである。
「あぁ、それでリオルくん達様子おかしかったんすね!ハッ!じゃあ義兄さんが怒ったのもブラフっすか!?」
「いや、半分は本気だ」
「やっちまったっす!!自ら掘り返した…!ごめんなさいっす!!」
墓穴を掘って慌てるクヴァルダさん。
父さんはその反応を見て可笑しそうに笑ってる。
「ほれ、ここでずっと話しとらんで移動せぇ。ワシはばあさんを廊下で待つから、先に会場へ行ってて良えぞ」
リュデルさんはジーゼさんを背負わないとだもんね。
てな訳で、3人で会場となる甲板へ移動した。
「おぉっ、ちゃんとそれっぽくなってるっす!あとメッチャ良い匂い…!!」
甲板の状況を見て喜んでくれるクヴァルダさん。
早朝からみんなで飾り付けたり料理を作って並べたり、結構頑張ったと思う。
「え、このケーキも凄くないっすか?」
クヴァルダさんがそう言ったのは立派なウエディングケーキだ。
「それはセラさんが作ったんだよ」
「へえ!パティシエばりの腕前っすね!…毒は入ってないっすよね?」
「…ミナスさんも食べるから大丈夫じゃないかな?」
ちょっとだけ自信が無くて、2人でそっと父さんを見る。
苦笑いしながら大丈夫だと頷く父さん。
セラさん疑ってごめんね。
そんな感じで談笑しながら暫く時間を潰していると、セラさんとジーゼさんの声が聞こえてきた。
「お待たせしました。本日の主役を、お連れしましたよ」
「とっても素敵よぉ」
その声を受け、俺達も振り返る。
セラさんと共に出てきたジーゼさんとリュデルさんの後ろから、ゆっくりと甲板へ出てくるミナスさん。
「「「…!!」」」
俺達は思わず言葉を失った。
ウェディングドレスを纏ったミナスさんが、あまりにも美しかったからだ。
うわーっ!うわーっ!
元々美人ではあったけど、ミナスさんメチャクチャ綺麗…!!
マーメイドドレスっていうんだっけ?
体のラインがわかるような形が、途中から広がって下の方がフワリと長いスカートになってる。
ノヴァがその裾を気をつけて持ってあげていた。
髪型もアップにして纏めてて、ベールも含めてとにかくミナスさんに似合っている。
「ミナスさんすごい!すごい綺麗!!」
「ふふ、ありがとうリオルくん」
恥ずかしそうにしながらも笑うミナスさんが綺麗すぎて辛い。
あれ?
てかクヴァルダさん、自分のお嫁さんなのになんで何も言わないの?
そう思って振り返ると…クヴァルダさんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
おぉ…何気にクヴァルダさんがミナスさんに対して赤くなってるの初めて見た。
クヴァルダさんの反応を見てミナスさんまで赤くなってる。
「…正直…想像以上すぎて感動したっす…」
「やだ…もう…っ」
口元を押さえて呟くクヴァルダさんにミナスさんもどう反応したら良いかわからないようだ。
必死に自分を落ち着かせてからクヴァルダさんの格好を確認し、再び悶絶してブーケに顔を埋めプルプルしてる。
うーん、もう俺お腹いっぱいになってきた。
そんなミナスさんと違い、真顔のままセラさんはクヴァルダさんを上から下までマジマジと見た。
「…似合ってますね。チッ、服に着られてれば笑ってやったのに」
クヴァルダさんもなんだかんだでイケメンだしスタイルも悪くないから、セラさん渾身のデザインでも着こなせちゃうんだよね。
とりあえずセラさんの笑顔は見てみたかったよ。
「それじゃあ、全員揃った事じゃし乾杯するかの?」
リュデルさんが開始の流れを作ってくれる。
この良い匂いがする中で待ってるの地味に辛かったから助かるよ。
「え、コレ本当に酒じゃないっすか!良いんすか朝から?」
「まぁ今日くらいはええじゃろ。もちろん飲み過ぎはいかんがの」
因みにリュデルさん・クヴァルダさん・ミナスさん・父さんが酒組、ジーゼさん・セラさん・ノヴァ・俺がジュース組だ。
いいなぁ、俺も早く飲めるようになりたい。
早速、今回の計画代表としてセラさんがグラスを掲げる。
「では、お二人の結婚を祝しまして」
「「「「かんぱーい!!」」」」
そうしてみんなでグラスをぶつけ合い、クヴァルダさんとミナスさんの結婚パーティーを始めたのだった。
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