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最終話 再会
しおりを挟むあの日から、2ヶ月半が経った。
季節はすっかり秋になり、樹々が赤や黄色に色付いている。
命の危機に瀕したのが嘘だったかのように、今は普通の生活に戻っていた。
無理やり有給をもぎ取ったらしい父さんや沙織さんも今まで通り会社に行っているし、母さんも家で主婦をしながら時折グラスを叩いている。
恭介さんも当時は1週間の遅れを取り戻すように怒涛の勢いでパソコンに向かい、現在は普段通りの感じに戻ったそうだ。
夏休みが終わった俺と海斗も通常通り高校に通っていた。
なんなら懲りずに新作のオンラインゲームを毎日プレイしている。
今日も一緒に遊ぶ約束をしているくらいだ。
「ちょっと、遅くなっちゃったな…」
死んだフリ婆さんを家に送り届け、自宅に帰るための川沿いの道を歩きながらポツリと独り言を落とした。
着ている制服も夏服から冬服に変わったが、夕方になると流石に肌寒くなる。
因みに学校から途中までは海斗も一緒だったのだが、俺が死んだフリ婆さんを発見した途端に逃げるように1人で帰っていった。
薄情な奴め。
「…クレハに会った時も、こんな風にもみじが舞ってたっけ」
赤色のもみじが、夕日に染まってより鮮やかに揺れる。
ヒラヒラと舞い落ちるそれを見ると、どうしても思い出してしまうのだ。
「あぁもう、ダメだダメだ」
振り払うように首を横に振る。
新作ゲームもBTOと同じ会社から出たものだったので、もしかしたら居るかもと期待したが影も形も無かった。
ゲーム中もついつい捜してしまうし、現実世界でも時折クレハを思い出して涙ぐんでしまい一体何度心配をかけた事か。
いい加減しっかりしなくては。
と、そうこう考えていたせいで足元への注意が疎かになっていたようだ。
地面の落ち葉に足を取られ、滑ってすっ転んでしまった。
「痛って!」
1人で声を上げながら転ぶと、たまたま近くを歩いていた女子高生達にクスクスと笑われる。
死ぬほど恥ずかしい。
しっかりとはいかに。
手を擦りむいた程度の怪我だが、恥ずかしすぎて顔を上げられず立ち上がれなかった。
四つん這いのような格好でその女子高生達が離れていくのを耳を澄ましてジッと待つ。
だが、離れていった足音とは別の足音が今度は後ろから近づいてきてしまった。
誰も居なくなるまで待つのは難しそうだ。
いつまでもこんな状態でいる訳にもいかないし、諦めて立ち上がるべきだろう。
と、その時だ。
後ろから来ていた人物が、俺の横まで来たところで足を止めた。
「大丈夫?」
心配そうにかけられた、優しい声。
その声は、俺がずっと聴きたいと思っていたものと一緒だった。
信じられない気持ちのまま、ゆっくりと顔を上げる。
「…!」
目に飛び込んできた、長い黒髪のポニーテール。
服装は制服だが、その顔はあの世界で出会ったクレハそのままだった。
まるで生き写しのような、顔立ちの整った少女。
ずっと…ずっと会いたいと思っていた人が目の前にいる。
現実の、この世界に。
愛しさや嬉しさや色々な気持ちが込み上げ、涙が溢れ出した。
「ちょっ、ちょっと!何で泣くのよ!?そんなに痛かった!?」
突然涙を流した俺に慌てふためく少女。
転んだ痛みで泣いたと勘違いしたようで、手を伸ばし必死に立ち上がらせようとしてくれる。
「もうっ、男が簡単に泣くんじゃないの。ほら、立って!」
あの時と全く同じ反応に、余計に涙が止まらなくなる。
えぐえぐ言いながら彼女の手を取り立ち上がった。
「ご…ごめん…。ちょっと色々あって…」
泣きながらもなんとかそう口にする俺。
俺の事を知らない様子の彼女からすれば、いきなりこんな姿を見てドン引きしてもおかしくない。
けれど彼女は呆れる事もなく、少し困ったように笑った。
「そう。何か事情があるのね?取り敢えず、私の家近くだから来て。傷の手当てもしてあげる」
優しい言葉と、まるで再現のような同じセリフにまた涙が止まらなくなりながらも頷く。
素直に了承した俺に、くすりと笑い歩き出す少女。
この縁が切れてしまわないように、自己紹介しようとついて行きながら口を開いた。
「あの…あ、ありがとう。俺、橘 温人って言います」
その言葉に、少女は歩みを止める事なく振り返りながら応えてくれる。
「私は桐山 紅葉よ。よろしくね温人君」
舞い散る美しいもみじの中、屈託なく笑う姿に涙も一気に引っ込んで心臓が跳ねた。
もうこの手が消えてしまう事はきっと無い。
この先ずっと一緒にいられると直感で感じ取る。
それが彼女…紅葉との新たな出逢いだった―――。
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