デザイアゼロ/ラストレコード 

加賀美うつせ

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終章【失われた奇跡という名の物語】

X章ep.05『最強を超えろ』

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「まったく……飽きさせないわね、あなたは」

 美愛羽は対抗手段として虚空に浮かぶ二枚のフレームを輝かせた。『海皇結界オケアノス』『世界樹ユグドラシルシード』の同時発動。

 一粒の雫と翠緑色の種が地に落ちる。波紋を広げるように地面が透明な水面へと変化し、壬晴の足元を濡らした。

 底が見えない海の領域は壬晴を沈ませることなく直立を許すも、何かが蠢いている気配を感じさせた。

 そして、海域に沈んだ種は萌芽を見せる。

 美愛羽の眼前には彼女を護るように樹木で構築された巨人が出現した。ヨトゥンヘイムの巨人である。爛々と輝く双眸そうぼうが壬晴を捉えると緩慢な動作で歩行を始めた。

「巨人……それに、この足元の水は……」

 壬晴の疑問に応えるように、海の奥底から何かが勢いよく昇って来る。

 大飛沫をあげ、壬晴の後方に現れたのはまさしく水竜であった。透明な鱗を持つ長い胴体の蛇のような生物。この海域はあの水竜の生息区域。この領域がある限り自由自在に動き回り、壬晴へと襲いかかるのだ。

「まずはこの二体であなたの体力を削り、手数の程を見させてもらうわ。まぁ、このまま倒してしまっても構わないのだけども」

 悠然と構え、二体の使役生物にハンドシグナルの指令を送る。

 水竜は大口を開けると巨大な水弾を形成させ始めた。そして、巨人の方は体から両腕を分離させると、壬晴の両側から鉄槌の拳を振り下ろさんと浮遊させる。

「次から次へと、珍妙なものを……どれだけ技の種類があるって言うんだ?」

「私は簡単には攻略出来ないわよ。甘く見ないで頂戴ね」

 クスリ、と笑って美愛羽が人差し指を向ける。

 迫り来る水竜弾、そして巨人の剛腕。壬晴は回避を選択する。

制限全解除リミッター・フルブレイク……!」

 封印制度の解除効果により脳に指令。100%の潜在能力を解放し壬晴の動体視力や反射神経、直感に至るすべての身体機能が飛躍的な向上を見せる。

 水飛沫をあげて壬晴は韋駄天いだてんの如く疾走。迫り来る攻撃を掻い潜る。二体を相手にしつつ、美愛羽のヘヴンズ・ドアの援護射撃をも回避しなければならない。

「(だが、攻撃は見える……アブソーバフレームのおかげで継続力と効果が上昇しているんだ。これなら三体一であろうとも……)」

 海域を移動しながら水竜は壬晴の眼前に何度も現れては水弾を吐き出す。容易く避け、当たらない壬晴に水竜も自棄ヤケになりつつあったのか連続攻撃を繰り出したり、尾で薙ぎ払うなど、獲物を仕留めんと躍起になる。

 対して、巨人本体はまったく動かず、両腕を操作して壬晴を潰さんと単調な攻撃を繰り返すばかりだった。しかし、その剛腕はまるで迫る壁。壬晴の動きを制限する厄介なものであった。

 美愛羽は巨人を防壁としているうえ、水竜は行手を阻む。まずは二体を打破する必要があった。

「やるしかない……」

 水竜が口腔に水弾を溜めていた。壬晴は撃ち放たれたソレを『八咫鏡』の展開で反射させる。

 水弾は顔面に打ち当たり水竜は怯んだ様子を見せた。だが、その程度であの水竜は倒れはしない。

 次に迫り来るのは巨人の右腕。壬晴はアブソーバフレームに生命力を注ぎ、左手を差し向けた。

 剛腕の一撃と壬晴の掌底が接触した瞬間、アブソーバの力が解放。内なる生命力を波動として一気に放出し、凄まじい爆破の衝撃を与える。そして『封印制度』の異能打消し効果も備えたその攻撃により、巨人の右腕は内部から爆破されたかのように粉砕した。

「アブソーバ・エナジーブラスト」

 一撃必殺の威力を秘めた壬晴考案の超至近距離技。使いどころが難しいものだが、喰らえばひとたまりもないだろう。

 すぐさま左腕が近付く。横側から掴みかかる左腕を跳躍で回避。壬晴は腰部の『夫婦剣』を構えると両翼を広げるように腕を開き、それから渾身の投擲を放つ。

 『絶刃・勾玉手裏剣』は鈍重な巨人の首元から脇腹部位までを交差に斬り裂き、その身を地に沈ませた。

「……む」

 巨人が攻略され、美愛羽が眉根を寄せる。

 彼女はヘヴンズ・ドアの連射を壬晴に見舞うも『流転無窮』の護りにより逸らされる。

 あの風の護りは攻撃を受け止めるのでなく、受け流すのだ。互いの距離が開いている程にそれは容易く行われる。

 高い跳躍から復帰せぬままの壬晴を好機とみた水竜の顔が近付く。

 大口を開け、至近距離から水弾を撃とうとする水竜の接近に壬晴は天羽の切先を後向きにして突風を放った。

「うぉおおおお!!」

 突風の射出、その反動を利用して壬晴は水竜へと肉薄。掲げた天羽の刃を振り下ろし、水竜の口元から頭部を通って胴体を真一文字に斬り開いていく。自重落下の勢いと風圧操作により、斬撃は凄まじい切味を発揮していた。

 やがて、壬晴が地上に降り立つと同時に、真っ二つに裂かれた水竜は崩れ落ち、大きな水柱を打ち上げながら消滅するのだった。

 水竜の撃沈により『海皇結界』が解かれ、また元の緑地公園の光景へと舞い戻る。壬晴は大きく息を吐き、それから刃の先を美愛羽へと向けた。

「……さぁ、まだまだこれからだ」

 壬晴の体力はまだ本調子のままを維持している。疲弊の色はほんの僅か。美愛羽の体力は壬晴と違って欠けてもいないが、次々と主力フレームを攻略されていっている点では焦りを見せてもいい頃合いであった。

 だが、彼女は最強の名をほしいままにしている。まだ奥の手が残されている。

「ここまで喰らいつくとは思いもしなかったわ。あなたの成長を私は嬉しく思う」

 美愛羽は瞑目しながら胸の内を語る。

「あなたの本気、その想い……だからこそ、私は全力で応えないといけない」

 彼女は眼前に二枚のフレームを移動させる。それらは『月』と『太陽』のような刻印が刻まれていた。

「……それは」

 壬晴は眼を顰めた。

 美愛羽がフレーム能力を解放させて出現させたのはまるで『太陽の剣』と『月の盾』である。それらは彼女の両側に浮かび、眩い紅蓮と白銀の輝きを放っていた。

「私の秘奥義……最強の剣と最強の盾。『太陽サンライト聖譚曲オラトリオ』そして『ルナティック夜想曲セレナーデ』……これを見せたのは黙示録の獣と蓮太郎以外、他にいない」

 最強の最強兵器が降臨する。
 
「絶対破壊と絶対防御……あなたにこれを攻略できるかしら?」

 美愛羽が醸し出す凄絶な気迫に息が詰まりそうになる。

 しかし、負けるわけにはいかない。
 
「……ああ、ミアハ。僕はあなたを倒してみせる」

 その強い決意を胸に壬晴は神斬刀・天羽を構えた。
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