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終章【失われた奇跡という名の物語】
X章ep.12『運命の戦い』
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「ルシア……!」
レイブンが叫び、血溜まりの中に倒れ伏すルシアのもとに駆け寄る。
ルシアは意識を喪失している。心臓を貫かれたのだ。あの出血量では彼女の命が危ない。
「おいおい、邪魔だよ」
だが、オメガは懐からナックル型兵装『ルイン』を取り出すと迷いなくレイブンへと空弾を射出し、彼女の身をくの字に折る。
「ぐっ、がは……っ」
腹の底から空気が漏れる。レイブンは痛みに喘ぎ、その場に蹲った。
「皆さん、あいつを止めてください!! いますぐに!!」
運営幹部らがオメガへと攻撃を仕掛ける。魔法、斬撃、銃弾、それらがオメガに怒涛の殺到を見せる。
だが、煙幕が晴れた視界の先ではオメガは無傷でいた。オメガは黒い傘状の防御幕を展開し、彼らの襲撃を無効化していたのだ。
「ぎゃあぎゃあ叫ぶなよ。うるさい連中だな」
オメガはルシアを刺した接近戦用兵装『デリーター』の刃を振るうと黒い斬撃が格子状に飛び交い、あまねく空間を斬り裂いていった。
眼に見えない速度の攻撃に運営幹部らの身がズタズタに裂かれる。
「ぐあ……っ!」
致命には至らない攻撃であったが皆が深いダメージを負うことになった。オメガにとっては小煩い蝿を払ったに過ぎない。
オメガが何者かはわからない。だが、ルシアを傷付けられたことを誰もが赦さなかった。
気力を振り絞り挑む者、果敢に立ち上がる者をオメガは弱者の抵抗とただ見下す。彼らをオメガはルインの砲撃を順番に見舞わせて黙らせた。
「運営幹部も大したことないな。こんな弱い連中がよく生き残れたものだ」
すべての幹部連中を無力化させたオメガは倒れ伏すルシアのもとに戻ると彼女の身を爪先で蹴り転がして仰向けにさせた。
彼女の衣服の隙間から覗く黒い結晶板。オメガはそれを手に取ると喜びに満ちた恍惚の表情を浮かべた。
「ははは……この女、やっぱり自分の身で六つの災厄を封じ込めてやがった。何処までも馬鹿な奴だな。こんなもん適当な人間に肩代わりさせときゃいいものを」
六芒星の印が刻まれた黒曜石のような結晶版。それは六つの災厄『戦争』『狂気』『略奪』『炎』『呪怨』『罪』を内包した禁断のアトラクトフレーム。フィニスの眷属たる力を、ルシアはその身を犠牲にして封印の負荷を受け持っていた。
それは、せめてもの罪を背負うというルシアの覚悟の表れでもあった。
オメガはその力を取り込もうと画策していたようだ。もとはフィニスから生まれた力。複製品であるオメガの力を本物へと近付けるにはこれらの力が必要となる。
「……しかし」
オメガは仰臥するルシアを見下ろす。
浅いが呼吸が辛うじてまだあった。そして彼女の手の中には皆の願いの結晶たる『新世界の鍵』が握られている。
オメガはそれを掴んで離さないルシアの未練がましさに若干の苛立ちを覚えた。
「心底くだらないな。奇跡など、ありもしないものにしがみついてそれでどうなるってんだ? お前は人々の中のそれを願って裏切られたはずだろうが。学ばない奴だな」
オメガは片足を上げ、ルシアを侮蔑も露わに踏み躙ろうとした。
だが、レイブンが両者の間に割って入り、ルシアの身を庇う。
「何をしてる?」
「やめて、この子を……傷付け、ないで」
口端から血を吐きながらレイブンは訴える。
たとえら己に向けられた愛が利用するためのものだったとしてもレイブンがルシアを想う気持ちは嘘ではない。
ルシアを傷付けることは赦せない。
「はあ?」
そんな想いなどどうでもいいと言わんばかりにオメガは踏み付ける力を強め、レイブンを痛みつけた。
「馬鹿ばかりだな。力の差もわからない。無駄だとわからない。そんな奴らがどうして世界を救うと宣える?」
ルシアを慕い此処までついてきた幹部達。傷付き立ち上がれなくとも、それでもオメガを強く見据えていた。
オメガは彼らの頑張りを嘲り笑うだけだった。ルシアを守るレイブンの頭を汚く踏み躙りながら、オメガはルインの照準を彼女らに向けた。
その発射口が黒い波動が包まれる。先の空弾とは違う。破滅の力が込められていた。
「女神は用済みだ。お前も共に逝け」
トリガーが引かれる、その間際だった。
ミシリ、とルインを握るオメガの腕があらぬ方向へと折り曲げられる。
何の予兆もなかったその攻撃は美愛羽によるものだった。彼女は『重力舞踊』のフレームを指先に挟んでいる。
「外道、その足を退けなさい」
「……まだ邪魔な奴がいたか」
オメガは美愛羽を見据える。少しは歯応えのありそうな者だと値踏みする。しかし、彼が本当に相手すべき者は他にいる。
「うぉおおお!」
壬晴がオメガへと奇襲を仕掛ける。
風の護りを纏いながら疾走。オメガの背面に刃を振り下ろす。
振り返ることなくオメガはデリーターで対処。頭部に刃を添えるだけで防ぎ、オメガは壬晴を横眼で睨む。
「また、お前か……何も出来ない無力なお前が……」
「フィニス・オルタナティブ……お前はここで倒す!」
「そう粋がるなよ、疫病神風情が……」
オメガはそう口汚く罵りながら、壬晴へとデリーターの刃を光らせた。
壬晴は神斬刀を振るい、オメガとの剣戟を展開させる。
「いまのうちに……」
壬晴がオメガの注意を惹きつけている最中、巫雨蘭は己の影から伸ばした無数の糸を紡ぎ、ルシアとレイブンを手繰り寄せた。
「あなた……」
レイブンが巫雨蘭の顔を見上げる。
「治療する。あなたも手を貸して。ルシアは死なせない」
巫雨蘭の発破にレイブンの気が引き締まる。
ルシアはまだ生きている。この子を絶対に死なせてはいけない。
二人がルシアの治療に専念出来るよう、壬晴はオメガを相手取る。
奴の力は圧倒的だったが、それでも壬晴は渾身の力を振り絞り喰いさがった。
「諦めろ、お前に何が出来る? 何も守れなかった奴が今更!」
「だとしても諦める理由にはならない!」
拮抗し合う両者の力……否、壬晴はオメガの力を上回っていた。
「……なにッ?」
天羽のスキル『羽風・流転無窮』の追い風を身に壬晴はオメガを押し返していく。
そして、壬晴の胸元に隠された端末が輝きを見せる。
「フウラ! ミアハ! ルシアを任せた!」
「お前……まさか」
壬晴の狙いをオメガは察する。
PVPエリアを展開し、この領域から己とオメガを切り離すつもりだ。
一対一の戦いへと連れ込み、壬晴がオメガを倒す。
「みぃちゃ……ミハル!」
巫雨蘭が叫ぶ。
壬晴はPVPエリアが敷かれるその間際に一度だけ巫雨蘭へと振り返った。
「……信じてる」
巫雨蘭の強い眼差しと短い言葉。それだけで壬晴は彼女が伝えたいすべてを理解した。
「ああ、必ず勝つよ」
PVPエリア展開。
最終決戦が幕開く……壬晴VSオメガ、世界の趨勢を賭けた最後の戦い。
レイブンが叫び、血溜まりの中に倒れ伏すルシアのもとに駆け寄る。
ルシアは意識を喪失している。心臓を貫かれたのだ。あの出血量では彼女の命が危ない。
「おいおい、邪魔だよ」
だが、オメガは懐からナックル型兵装『ルイン』を取り出すと迷いなくレイブンへと空弾を射出し、彼女の身をくの字に折る。
「ぐっ、がは……っ」
腹の底から空気が漏れる。レイブンは痛みに喘ぎ、その場に蹲った。
「皆さん、あいつを止めてください!! いますぐに!!」
運営幹部らがオメガへと攻撃を仕掛ける。魔法、斬撃、銃弾、それらがオメガに怒涛の殺到を見せる。
だが、煙幕が晴れた視界の先ではオメガは無傷でいた。オメガは黒い傘状の防御幕を展開し、彼らの襲撃を無効化していたのだ。
「ぎゃあぎゃあ叫ぶなよ。うるさい連中だな」
オメガはルシアを刺した接近戦用兵装『デリーター』の刃を振るうと黒い斬撃が格子状に飛び交い、あまねく空間を斬り裂いていった。
眼に見えない速度の攻撃に運営幹部らの身がズタズタに裂かれる。
「ぐあ……っ!」
致命には至らない攻撃であったが皆が深いダメージを負うことになった。オメガにとっては小煩い蝿を払ったに過ぎない。
オメガが何者かはわからない。だが、ルシアを傷付けられたことを誰もが赦さなかった。
気力を振り絞り挑む者、果敢に立ち上がる者をオメガは弱者の抵抗とただ見下す。彼らをオメガはルインの砲撃を順番に見舞わせて黙らせた。
「運営幹部も大したことないな。こんな弱い連中がよく生き残れたものだ」
すべての幹部連中を無力化させたオメガは倒れ伏すルシアのもとに戻ると彼女の身を爪先で蹴り転がして仰向けにさせた。
彼女の衣服の隙間から覗く黒い結晶板。オメガはそれを手に取ると喜びに満ちた恍惚の表情を浮かべた。
「ははは……この女、やっぱり自分の身で六つの災厄を封じ込めてやがった。何処までも馬鹿な奴だな。こんなもん適当な人間に肩代わりさせときゃいいものを」
六芒星の印が刻まれた黒曜石のような結晶版。それは六つの災厄『戦争』『狂気』『略奪』『炎』『呪怨』『罪』を内包した禁断のアトラクトフレーム。フィニスの眷属たる力を、ルシアはその身を犠牲にして封印の負荷を受け持っていた。
それは、せめてもの罪を背負うというルシアの覚悟の表れでもあった。
オメガはその力を取り込もうと画策していたようだ。もとはフィニスから生まれた力。複製品であるオメガの力を本物へと近付けるにはこれらの力が必要となる。
「……しかし」
オメガは仰臥するルシアを見下ろす。
浅いが呼吸が辛うじてまだあった。そして彼女の手の中には皆の願いの結晶たる『新世界の鍵』が握られている。
オメガはそれを掴んで離さないルシアの未練がましさに若干の苛立ちを覚えた。
「心底くだらないな。奇跡など、ありもしないものにしがみついてそれでどうなるってんだ? お前は人々の中のそれを願って裏切られたはずだろうが。学ばない奴だな」
オメガは片足を上げ、ルシアを侮蔑も露わに踏み躙ろうとした。
だが、レイブンが両者の間に割って入り、ルシアの身を庇う。
「何をしてる?」
「やめて、この子を……傷付け、ないで」
口端から血を吐きながらレイブンは訴える。
たとえら己に向けられた愛が利用するためのものだったとしてもレイブンがルシアを想う気持ちは嘘ではない。
ルシアを傷付けることは赦せない。
「はあ?」
そんな想いなどどうでもいいと言わんばかりにオメガは踏み付ける力を強め、レイブンを痛みつけた。
「馬鹿ばかりだな。力の差もわからない。無駄だとわからない。そんな奴らがどうして世界を救うと宣える?」
ルシアを慕い此処までついてきた幹部達。傷付き立ち上がれなくとも、それでもオメガを強く見据えていた。
オメガは彼らの頑張りを嘲り笑うだけだった。ルシアを守るレイブンの頭を汚く踏み躙りながら、オメガはルインの照準を彼女らに向けた。
その発射口が黒い波動が包まれる。先の空弾とは違う。破滅の力が込められていた。
「女神は用済みだ。お前も共に逝け」
トリガーが引かれる、その間際だった。
ミシリ、とルインを握るオメガの腕があらぬ方向へと折り曲げられる。
何の予兆もなかったその攻撃は美愛羽によるものだった。彼女は『重力舞踊』のフレームを指先に挟んでいる。
「外道、その足を退けなさい」
「……まだ邪魔な奴がいたか」
オメガは美愛羽を見据える。少しは歯応えのありそうな者だと値踏みする。しかし、彼が本当に相手すべき者は他にいる。
「うぉおおお!」
壬晴がオメガへと奇襲を仕掛ける。
風の護りを纏いながら疾走。オメガの背面に刃を振り下ろす。
振り返ることなくオメガはデリーターで対処。頭部に刃を添えるだけで防ぎ、オメガは壬晴を横眼で睨む。
「また、お前か……何も出来ない無力なお前が……」
「フィニス・オルタナティブ……お前はここで倒す!」
「そう粋がるなよ、疫病神風情が……」
オメガはそう口汚く罵りながら、壬晴へとデリーターの刃を光らせた。
壬晴は神斬刀を振るい、オメガとの剣戟を展開させる。
「いまのうちに……」
壬晴がオメガの注意を惹きつけている最中、巫雨蘭は己の影から伸ばした無数の糸を紡ぎ、ルシアとレイブンを手繰り寄せた。
「あなた……」
レイブンが巫雨蘭の顔を見上げる。
「治療する。あなたも手を貸して。ルシアは死なせない」
巫雨蘭の発破にレイブンの気が引き締まる。
ルシアはまだ生きている。この子を絶対に死なせてはいけない。
二人がルシアの治療に専念出来るよう、壬晴はオメガを相手取る。
奴の力は圧倒的だったが、それでも壬晴は渾身の力を振り絞り喰いさがった。
「諦めろ、お前に何が出来る? 何も守れなかった奴が今更!」
「だとしても諦める理由にはならない!」
拮抗し合う両者の力……否、壬晴はオメガの力を上回っていた。
「……なにッ?」
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そして、壬晴の胸元に隠された端末が輝きを見せる。
「フウラ! ミアハ! ルシアを任せた!」
「お前……まさか」
壬晴の狙いをオメガは察する。
PVPエリアを展開し、この領域から己とオメガを切り離すつもりだ。
一対一の戦いへと連れ込み、壬晴がオメガを倒す。
「みぃちゃ……ミハル!」
巫雨蘭が叫ぶ。
壬晴はPVPエリアが敷かれるその間際に一度だけ巫雨蘭へと振り返った。
「……信じてる」
巫雨蘭の強い眼差しと短い言葉。それだけで壬晴は彼女が伝えたいすべてを理解した。
「ああ、必ず勝つよ」
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